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2010年1月14日 (木)

吉岡吉典『ILOの創設と日本の労働行政』

L31047 昨年末(12月5日)に大月書店から刊行された吉岡吉典『ILOの創設と日本の労働行政』は、約100年前の外交文書を駆使して日本の労働法政策誕生当時の政策過程を描き出した歴史研究として大変興味深い作品です。

著者の吉岡氏は日本共産党の国会議員だった方ですが、そういう立場からの歪みは(まったくないわけではないですが)あまり感じられません。真摯な歴史研究書として、読まれる値打ちのある本だと思います。

なぜ日本の労働行政は世界水準から立ち遅れているのか?―ILO創設当時の外交文書を駆使して、その原点を探る。

序章 ILOの到達点と日本の現状
第1章 資本主義初期の労働者階級の状態
第2章 闘争でかちとった諸権利
第3章 労働保護法制の発展
第4章 パリ講和会議の労働問題審議と日本
第5章 国際基準の例外化に全力をあげた日本代表
第6章 労働代表委員選出をめぐって
第7章 労働運動の高揚とILO総会
第8章 第1回国際労働総会と八時間労働制
第9章 日本適用除外をめぐる論議
第10章 ILO条約批准にみる日本政府の立場

実を言いますと、このILO創設当時の日本政府(特に農商務省)の対応が内務省社会局という労働行政機関の創設の原動力になっていくということもあり、下記拙著『労働法政策』でもかなり詳しく説明しておりますし、第1回ILO総会に日本の労働者代表として出席した桝本卯平氏が、わたくしの知人の縁者であったりしたりして、個人的にも関心の高い分野ではあります。

>(1) 内務省社会局の成立*2

 1922年11月、従来各省に分属していた労働行政事務は内務省に外局として新設された社会局に統合された。この原因は国際労働問題が与えた衝撃に対して農商務省が適応できなかったことにある。一つはILO総会が採択した条約案に対して、農商務省が全然これを国内法に取り入れないという方針をとったことであり、もう一つはILO総会に派遣する労働者代表問題であった。
 これは条約上代表的な労働組合と協議の上選出することになっていたが、農商務省は労働組合など悪党か謀反人くらいに考え、こんな者を送るのはもってのほかとして、第1回総会には工場、鉱山の代表者と協議して労働者代表(桝本卯平*3)を選定した。これは総会の資格審査で手ひどい非難を受けた。第2回総会は海員に関するものであったため逓信省に一任し、逓信省は海員団体と協議して代表を選出したが、第3回総会では日本の労働者代表(松本圭一)が総会で自らの資格の否認を求めるという事態になった。第4回総会では農商務省はこの問題を外務省に押しつけるに至り、国際労働問題の主管官庁がないということを暴露した。河合栄治郎はこの問題をめぐって上層部と対立し、1919年「官を辞するに当たって」を朝日新聞に発表して農商務省を辞職した。わずか3年の官僚生活である。
 結局農商務省は国際労働問題を嫌ってこの問題をほっぽり出したと解釈され、農商務省は労働問題に熱意がないという印象を与えた。当時の水野内相は、労働問題のような大きな問題の所管が各省に分かれ、権限を奪い合ったり押しつけ合ったりしているのは遺憾なりとして、内務省に労働問題を統一的に管轄する社会局を新設するという案を提出し、農商務省も労働問題を忌避した実績から反論できず、容易に閣議決定に至ったという

一点だけ、当時の歴史叙述とは関係のない点ですが、労働委員会の委員に連合だけが選ばれ全労連が選ばれないのは「戦前の官選思想の名残り」だと述べている点(208ページ以下)はちょっと筋が違うような。民間部門の労働組合のどれが代表的かという問題であって、その点に組合間に意見の相違があるのは当然ですが、100年前の「官選」になぞらえる話ではないでしょう。現に、国立病院が独立行政法人化され、人事院勧告の対象から中労委裁定の対象になるとともに、全労連に属する全医労の代表が中労委の委員になっています。吉岡氏が本書の原稿を書かれたのは2001年までということなので、その後加筆されなかったのだろうと思いますが。

102033 ちなみに、最近中公新書から『河合栄治郎』の伝記が出ています。ILO問題をめぐって、農商務省に入ったばかりの若手官僚だった河合栄治郎が辞表を叩き付けるあたりも描かれております。

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コメント

初めまして。吉岡議員の著書のご紹介に感謝申し上げます。
私は、ご紹介いただいた書の刊行委員の一人で、吉岡議員の政策担当秘書を努めておりました染谷 正圀と申します。
本書は、「刊行にあたって」でも弁明しましたように、吉岡議員がそのILOと日本の労働行政の研究の成果の上に立って展開すべき最終章「改良闘争の意義とILO」を欠いたまま敢えて世に問うたものです。そして、全労と全労連の問題は、全労連代表と面会した労相が吉岡議員が参議院労社委員長を努めていた際の舛添氏をもって鏑矢とした一事をとっても、これがすぐれて政治的な問題であるかを示していると思います。

労働行政の起源について、とても参考になりました。
感謝申し上げます。

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