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2010年1月10日 (日)

資本主義を進化させよう by デビッド・ジェームズ・ブルナー 

東大の政策ビジョン研究センターのHPに、ハーバードBSのデビッド・ジェームズ・ブルナーさんの標題のようなコラムが載っています。一知半解おじさんたちの戯言を聞き飽きた方に一読をお薦めします。

http://pari.u-tokyo.ac.jp/column/column20.html(資本主義を進化させよう) 

ブルナーさんの立場は明確で、

>マイケル・ムーアに言わせると資本主義自体が悪いのだが、私はまだ資本主義の可能性を感じている。

>進化の方向性は明確だ。まず、企業と社会の長期的な発展を妨害する短期志向の投機家の力を抑えなければ新しい産業が育たない。次に、よりバランスの取れている企業の評価基準を導入しなければならない。

まずは、「投機家を企業の経営に介入させない」という点から、

>競馬場に投機家がいても問題はないが、投機家が企業の経営に介入すると経済の発展が止まる。事業を発展させていくためには、5年、10年かけて有能な従業員を育て、取引先との信頼関係を築き、顧客を喜ばせ、知を蓄積しなければならない。設備投資もしなければならない。短期志向の投機家はこのような地味な仕事には関心がなく、ただ単に手っ取り早く儲かりたいだけだ。投機家が企業の主要株主になると、企業の資金を自社株買いや特別配当で吸い取る。企業に借金をさせ、そして借り入れた資金をそのまま特別配当で吸い取る場合さえある。アメリカの長寿企業のシモンズ・ベディングは株主に資金を吸い取られ過ぎた末に今年破産したのだ。企業にとって株主は大切な存在ではあるが、短期志向の株主と長期志向の株主で区別する必要がある。短期志向の株主は企業の発展に貢献をしない。むしろ一種の寄生虫だ

投機家が企業の経営を狂わせないように、配当権と発言権を株式の保有期間につなげればよい。株式を3年間持っていないと配当がもらえない。5年間持っていないと株主総会で投票できない。こうした制度を作れば、短期志向の投機家は自ら株式市場から去って行くだろう。規制を導入した直後には株価が下がるかも知れない。でも長期的に考えると、投機家のいない株式市場が健全だ。企業の経営者は日々の株式市場の値動きに左右されず、将来の成長の基盤を作るための地味な仕事に集中できる。そして投機家がいなくなる結果、株式市場の動きが鎮める。また、こうした規制ができたら、海外の企業も日本で上場して資金調達をするようになるだろう。日本は、ロンドンとニューヨークのように投機資金の都ではなく、長期投資資金の大国になればよいのではなかろうか。

もう一つは人間ドックになぞらえた「企業ドック」という発想、

>人間ドックのときに、「あなたの給料はいくらですか」と聞かれただけで診断が終わったら驚くだろう。当然ながら、個人の健康は給料だけでは測れない。マンションの面積でも当然測れない。個人の健康を評価するためには複数の指標を見て、バランスが取れているかどうか見極めなければならない。企業も同じだ。利益が出ていれば出ているほど健全だとは限らない。シモンズ・ベッディングが破産するまで、投資ファンドは約7.5億ドルの利益を得た。2009年に従業員の4人に1人が首になった。

企業ドックはどう実施すればよいのだろうか。財務諸表以外の指標が必要だ。公益資本主義の研究では、持続可能性・公平性・改良改善性という3つの軸を提案した。高い利益を出しても、持続しない企業は社会の発展に貢献しない。また、企業は全ての関係者のために新しい価値を創出するために存在するから、シモンズ・ベッディングの株主のように一部の関係者だけが全ての価値を吸い取ることが健全ではない。企業が公平性を欠けていると信頼関係が崩壊し、関係者の熱心な協力が得られなくなり、発展が止まる。21世紀の優良企業は利益だけでなく、持続可能性・公平性・改良改善性を実現しなければならない。

こういう発想がまっとうだと考えるか、投機家資本主義が正しいと考えるかは、究極的には価値観の問題ですから、歴史的に検証することは出来ても、理論的に証明することは出来ない性格のものなのでしょう。

ただ、投機家資本主義だけが絶対正義と喚いて、それに従わない者を火あぶりの刑に処したがる連中の声ばかりが声高に響き渡るというのが不健全であることだけは間違いないと思います。

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コメント

>企業は全ての関係者のために新しい価値を創出するために存在する

という点については甚く同意なのですが、そのための対策案が某三原則氏レベルに頭の悪いものが多いのがちょっと・・・

配当権や発言権の保有期間での制限のような非現実的(※)な規制ではなく、保有期間によって売却益にかかる税率を変えたり(フランスで導入済)、利害関係者向けの発言権の強い種類株式の発行要件を緩和(アメリカで導入済)する方が現実的です。

※既にある企業の株式を保有して一定期間のたつ投資家が、新たにその企業の株式の保有を検討している投資家よりも長期志向であるとは限らず、却って長期志向の投資家(長期志向の提携を目指す企業などを含む)が新規に投資を増やすことを阻害する危険があること

※配当権については、そもそも配当金自体が株価に反映される(その年の配当の基準日の翌日は配当額分株価が下がることが多い)ので、制限を行っても株価が下がるだけで、投機家の行動にあまり影響があるとは考えにくいこと

また、企業の持続可能性が高いにこしたことはないですが、既に社会的な使命を失った企業について、使命を失った後も長く続いた方がいいのか、もしくはパッパと倒産させて経営陣・従業員に新しい産業に移ってもらって活躍してもらう方がいいのかは微妙な気がします。

もっとも日本の企業の場合、その企業・その業界でしか通用しない技術・技能に偏っているので、比較的標準化の進んでいる欧米諸国より、存続の価値が高い(というか倒産で失われるものがより大きい)と思われますが。

>東大の政策ビジョン研究センターのHPに、ハーバードBSのデビッド・ジェームズ・ブルナーさんの標題のようなコラムが載っています。

初めてコメントを差し上げます.ブログを大変興味深く拝見しています.デビッド・ジェームズ・ブルナーさんのコラムのご紹介有り難うございました.自由,つまり自らの意思で決定することは大変大切なことと思いますが,それは人間が成長していくのに必要であるからと思います.1月9日のブログにありましたが,ホリエモン氏が規制を取り払えというのは,私欲のために自由という言葉を利用しているのですね.

投機家は先物市場にいっぱいいます
そこには、配当金なんてありません。値段の上下で儲けてるのです。
彼らはそもそも、配当金とか議決権とかに興味ないでしょ

むしろ、経営陣に圧力かけてるのは投機筋ではなくて
今期の利回り達成に四苦八苦してる
年金とか生保とかの機関投資家ではないんですか?

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