人材立国をめざした成長戦略 by 生産性本部
日本生産性本部がさる12月28日付で、「人材立国をめざした成長戦略」という緊急提言を発表しています。内容は、昨日の政府の成長戦略と響き合うものになっています。
http://activity.jpc-net.jp/detail/lrw/activity000956/attached2.pdf
>わが国の今日の混迷は、国全体の進むべき道筋を失ったことにある。われわれが取り組むのは、単なる景気の「回復」にとどまらず、経済社会を「再生」させるという観点に立った思い切った政策への中長期の取り組みでなければならない。そのなかで重要なことは「再生」を担うべく人材立国を志向することである。
具体的には
>● 中期的な政策ビジョンの速やかな策定と実行
● 競争力ある人材の育成のために「教育」と「雇用」の政策融合
● 人材立国を進めるための「労使の対話」の促進
を提言しています。
ここでは本ブログの土俵である2番目と3番目の項目を見ておきます。
2.競争力ある人材の育成のために「教育」と「雇用」の政策融合を
わが国の人材投資にかかる公的予算は、主要先進国に比べ低い。人材立国を実現するためにいま必要なのは、わが国の国際競争力を高めるための人づくりである。教育予算の拡充を図るなど、グローバル化時代に対応した真の競争力を持った人材育成を国全体の課題として進める必要がある。しかし、現状をみると、学校教育は必ずしも経済社会の変化に対応しているとは言えず、産業界のニーズも十分に反映していない。また学校教育から産業社会への円滑な橋渡しがなされないことは、若者の就労問題を生んだ。このため、わが国の人づくりにあたっては、教育政策と雇用政策の結合が大きな鍵を握る。このとき、自らのキャリアは、ひとり一人の主体的な取り組みによって切り拓かれることを
個々人が自覚するとともに、産官学の連携により、そのための環境整備を進めることが必要である。
教育予算の拡充が必要なのはいうまでもありませんが、それが職業レリバンスのない儘で金を付けろというわけにはいきません。教育政策と雇用政策の結合が大事です。
● 国家的な人材育成の行動計画を作成するにあたっては、行政体制の検討も含め、学校教育と職業能力開発との融合を図ることが重要となる。この行動計画においては、成長戦略の反映のもとに、育成すべき人材像、目標とする人数、具体的な方法やスケジュールなどを示す必要がある。その際、欧州において始まっている職業資格をベースとした新しい労働市場の形成の動き3を参考とすべきである。
このへんが、田中萬年さんがいうeducationとは教育にあらずして能力開発なり、という議論とつながってきますし、昨日の政府の成長戦略に出てきた日本版NVQの思想的根拠ともなります。
ちなみにここの注3は:
3 EUにおいては、新しい労働市場の形成をめざし、次のような職業教育訓練を核とする政策な
どが進められている。
・継続的な適応能力・雇用可能性を保証する総合的な生涯学習(訓練)
・急速な職場環境変化に対処し失業期間を減らし新しい仕事への移行を円滑にする職業訓練
・欧州共通の資格制度の普及による横断的な職業教育訓練の展開 等
● 「教育」と「雇用」が結合するためには、小中学校の段階から学校における勤労観の育成や職業教育機能の強化を行う必要がある。あわせて学校だけでなく専門学校などをふくめた官民の職業訓練機関との一体化を図るべきである(「日本版コミュニティカレッジ」として整備)。その際、教育プログラムの開発・実施や指導者の育成は、産業労使・教育機関をはじめ幅広く地域関係者などの参加によって取り組むことが重要である。
職業教育は小学校中学校から。そして、職業能力開発という観点から訓練校、専門学校、大学も含めて再編整備が必要になるでしょう。
● 職業に関する教育訓練機会の地域間格差を解消しなければならない。そのことは、地方における活力を再生する道でもある。このため、誰もが生涯を通じて様々な教育を受けることができるよう、Eラーニングを活用した講座を全都道府県において整備することが求められる。
● グローバルな競争力のある人材の育成は急務である。そのため、諸外国との人材交流を促すとともに、海外における人材育成やグローバルな競争力のある人材の育成をすすめていくべきである。具体的には、プログラムや教育ツールの開発を進め、育成事業を積極的に実施する。そのために、「グローバル人材育成センター」(仮称)のもと、官民の協力により統一的な視点から、人材育成事業の実施体制を検討すべきである。
次の「労使対話」も喫緊の課題です。
3.人材立国を進めるための「労使の対話」の促進を
わが国が人材立国を推進するうえで、生産性運動3原則(雇用の安定、労使の協力・協議、成果の公正分配)を共通の基盤とする、労使の積極的な対話が重要である。今日の雇用情勢をふまえれば、雇用の安定は労使の最重要課題である。また、それにくわえて、少子高齢社会のもとで、ダイバーシティの視点にも立って、ワーク・ライフ・バランスの実現、非正社員の雇用問題、働く女性の活躍推進、高齢者雇用の一層の推進など、人材に関わる多くの諸課題について、労使が総合的に取り組むことを求める。そのためにも、労使関係の重要性を認識し、国・産業・企業・地域とあらゆるレベルにおいて、労使対話が進められることを期待する。
● 今次春闘においては、生産性運動3原則をふまえ、雇用の安定はもとより、賃金等の労働条件全般について、徹底した労使の議論を期待する。さらに、労使の交渉・協議の場を、賃金などの労働条件に限らず幅広く企業の経営労務や従業員の働き方を総点検する機会と位置づける必要がある。特に、新卒採用内定者が減少していることに鑑み、近年の経験に照らして将来への禍根を残すことのないよう、新卒一括採用の見直しなどにより採用機会の増大にむけた努力を求めたい。さらに、人材立国を志向するうえで、雇用機会を確保することが前提となることから、若年者・高年齢者の就労促進はもとより、
さらなる雇用情勢の悪化に備えた、ワークシェアリングの検討を労使に求める。
● ワーク・ライフ・バランス推進の数値目標(「仕事と生活の調和推進のための行動指針」(2007 年12 月)に示されている)の達成状況について、労使による活発な議論を求める。その際、労使は人材育成・能力開発の推進を共通目標と捉え、就業形態を問わずすべての従業員に対する教育訓練やキャリア形成支援の現状を点検すべきである。さらに、ダイバーシティの実現をめざし、諸外国に比べ取り組みが遅れている働く女性の育成・活用・登用の現状についても労使が点検を行い、その効果的な取り組みを進めるべきである。
● 働く者のメンタルヘルスが大きな問題となっている。この状況に歯止めをかけなければ、生産性の向上やワーク・ライフ・バランスの実現にとって、大きな障害となる。労使は、企業組織・職場の健康度を点検し、問題解決にむけた早急な取り組みを強化する必要がある。
● 人材立国の旗印のもとに、働き方や就業形態の違いを超え、あらゆる人材が、わが国の成長戦略に参加し、能力発揮できる条件整備が重要となる。そのために、労使による働き方の点検は、企業や企業グループ内における非正社員を含めたすべての働く者を対象としなければならない。さらに、正社員、非正社員の区分を超え、公正処遇や労使のコミュニケーションのあり方を含めた新しい人事管理の方向性についても、労使は議論すべきである。
まさに堂々たる正論です。
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