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2009年11月 1日 (日)

労基法上の「労働者性」と労組法上の「労働者性」

まさか、本ブログの読者のなかにネット界のゴキブリ「ふま」ごときの愚言に惑わされる方が居られるとは思いませんが、念のために、ごく簡単に労働法における「労働者性」についての現状を説明します。労働法を勉強した方にとっては今更の話なので、スルーしていただいてかまいません。

「労働者性」とは、要するにある働いている人にある労働法規を適用すべきかどうかという判断基準です。

その労働法規が労働基準法その他の労働保護法規である場合については、現在の法適用状況はほぼ明確です。

旧労働省に設置された労働基準法研究会がまとめた報告書が行政の判断基準として用いられ、裁判所もほぼこれをそのまま認めています。

ですから、先日紹介した障害者の小規模作業所が工場のライン請負に進出して、当該工場の雇用労働者と並んで同じ作業をしている状況は、労働基準法の適用という観点からするとどうひっくり返っても「労働者性」があるといわざるを得ないはずで、訴えがあれば監督署はそのように指導監督するはずですし、裁判所もその判断を認めるはずです。

最低賃金法上に障害者の特例措置の規定はあっても、労働基準法上に障害者であることを理由にした労基法の適用除外規定というのは存在しない以上、それ以外の判断はあり得ないはずです。(政治的判断で、あえてその処分をしないということはありえますが)

それに対して、現在裁判所で大きな問題になっているのは労組法上の「労働者性」です。

ここで、まず、労基法と労組法における「労働者」の定義規定を見ておきましょう。両者は規定ぶりが違うのです。

労働基準法:

(定義)
第九条  この法律で「労働者」とは、職業の種類を問わず、事業又は事務所(以下「事業」という。)に使用される者で、賃金を支払われる者をいう。

労働組合法:

(労働者)
第三条  この法律で「労働者」とは、職業の種類を問わず、賃金、給料その他これに準ずる収入によつて生活する者をいう。

労働基準法を直接施行する行政機関は労働基準監督署であり、そこの判断基準(上記労働基準法研究会報告)がそのまま裁判所の認めるところとなっているので、そちらについてはあまり問題はないのですが(といっても具体例ではいろいろと問題がありますが)、

労働組合法を直接施行する行政機関は労働委員会であり、そこが「うちの法律でいう『労働者』ってのは、労基法上の労働者よりも広くって、「職業の種類を問わず、賃金、給料その他これに準ずる収入によつて生活する者」なんだから、偽装自営業だけじゃなく、実質的にも自営業的な面を持つ人々も入るんだ」と考えて、広め広めに解釈して、救済命令を出した事件について、裁判所がひっくり返しているというのがいまの事態なのです。

裁判所の言い分は、労基法と労組法とで「労働者」の範囲が違うなんて馬鹿なことがあるか、労働者はどの法律でも一緒のはずだ、という立場なんですね。だから、労基法研究会報告が労基法の適用基準として作成した細かな基準を労組法上の適用基準としてそのままもって来て、それに当てはまらないじゃないか、というわけです。もともと、その人々が労働組合を作って団体交渉を要求することができるか、という観点ではなくて、労働基準監督官が「オイコラ」とやるべきかという観点で作られた基準なのですが、そのあたりには裁判官はあまり敏感ではありません。

労働委員会側にとっては、労基法における労基法研究会報告のような明確な判断基準を定式化したものがあるわけではないというのが弱みといえば弱みなのでしょう。

労働法の世界ではバイブルとされる菅野和夫先生の『労働法』第8版では、この問題について次のように記述されていますが(480ページ)、

>私自身は、労組法上の「労働者」か否かに関する・・・判断を「使用従属関係」の有無という枠組みで行うことには疑問がある。労組法の定義規定(3条)の立法過程を調べると、同規定は、「給料生活者」である限りは広く労組法上の労働者性を認めようとする趣旨で、「賃金、給料その他これに準ずる収入によって生活する者」のみを基準とするように起草されたことが判明するのであって、同規定のこの明示の基準(要件)のほかに「使用従属関係」の存在という要件を加えることは立法過程にそぐわない。この立法趣旨からは、労組法上の「労働者」性はあくまで「賃金、給料その他これに準ずる収入によって生活する者」という基準に則して判断されるべきである。その場合「賃金、給料」は、労働契約上労働者が労務の対価として受けるものであることは明らかであり、この基準は、結局、労働契約下における労務供給者およびこの者と同程度に団体交渉の保護を及ぼす必要性と適切性が認められる同種労務供給契約下にある者(これが「その他これに準ずる収入によって生活する者」にあたる)を意味する、と解すべきである。

残念ながら、現時点では地裁でも高裁でも、この文章を熟読玩味した裁判官に出会えていないという現状のようです。

一方、労基法上はどうひっくりかえっても労働基準監督官が出張ってくるべき人々ではないプロ野球選手について、東京都労委が労働組合として認めたことについては、例のストライキ問題の時に事実上裁判所でも認められてみたいな形になっているのも、厳密に考えるとよく分からないところではあります。

以上、労働法の授業をまじめに聞いていた人にとっては今更の話でしたが、少しはお役に立てた人がいれば幸いです。

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コメント

社会保険と労働保険の「労働者」の違い(法人に使用される事業主という概念の有無)も、法適用の現場では難儀する事もあるようですけど、ご紹介の労基法と労組法の「労働者」の違いも、実務の現場では難儀な事になりそうな話ですね。

厚労行政は法律による微妙な定義・解釈の違いが(旧省レベルのみならず内局レベルでも)結構あるので、同じ厚労省だからと言って、迂闊に考えると拙いという事なのでしょうか。

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