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2009年11月 1日 (日)

「労働者性」問題と「三者間労務供給」問題の区別が付かない人々

事態はかなり深刻だということが判ってきました。

ネット界のゴキブリ(@稲葉先生)こと「ふま」が労働法の基本も判らぬ愚か者であることは周知のこととはいえ、それが意気揚々と持ち出す実例が、世間の労働法リテラシーのあまりの欠如ぶりを如実に示すものであったからです。

http://www.wam.go.jp/ca30/shuroshien/detail/c02/200906_02/200906_02.html

これが、その工場のライン作業を請け負っている社会福祉法人を紹介しているHPなのですが、

>仕事内容は、まず、美容室向けのシャンプー、トリートメントなどラインに流れてくる製品に、しっかりとロット番号が打たれているか、押しても液もれしないかどうかを検品します。検品の結果、製品に問題がなければ、ラベルを貼り、商品をクリアケースに入れて梱包し箱に詰め、パレット上に積んでいきます。その箱をダンボールに入れて積んでいきます。取材当日は、これら一連の工程を専門職員1名とパート社員2名と利用者6名の計9名が役割を分担し黙々と仕事を進めていました。
 「びいはいぶ」が取引先の工場に出向いて作業を行なうのは、「本当の働く力は、本物の働く場所での体験の中でしか育たない」(奥西利江施設長)と考えているからです。奥西さんの言う“働く力”とは作業能力を指すのではなく、仕事を続けていく体力や社会人としての立ち居振る舞い、マナーやあいさつ、援助の求め方まで含めた総合的な力のことです。

いや、もちろん、障害者のみなさんがこういう形で就労に参加することはとてもいいことです。労働者としてね。

ところが、こういう風に働いていても、障害者たちは授産施設と全く同様、「利用者」という位置づけのようです。

>取材で訪れた日も、工場のラインでパート職員と利用者が一緒に作業をするのはもちろん、一緒に休憩をとり、楽しそうに会話しながら食事を取っていました。専門職員との関係とは異なり、共に働くパート職員との関係は、社会との関わり合いそのものです。「びいはいぶ」では、こうした社会との自然な関わり合いによって、利用者の意識に変化をもたらし、“社会性”や奥西さんの言う“本当の働く力”を育んでいくのです。

>「施設内で働いていた時と比べ、利用者のみなさんが休まなくなったことが何より大きな変化です」。こう語るのは「びいはいぶ」のサービス管理責任者の民田絵都子さんです。利用者たちは企業の現場に出向いて働くことによって「自分が頼りにされている」と実感することができ、仕事に対する責任感が芽生えるようです。

障害者たちを「労働者」と見る観点は全くないようです。

で、問題は、なぜ彼らはかくも天真爛漫に、障害者たちが労働者ではないと思っていられるのでしょうか。

その秘密は次の一文にあります。

>現在の活動スタイルは、法律上の制約があるためミルボンの社員から仕事上の指示を受けたり、一緒に働いたりすることはありません。

はあ?

「法律上の制約」って何?

もしかして、派遣先からの指揮命令が問題になる「偽装請負」ととんでもない勘違いをしていませんか?

三者間労務供給関係における「労働者派遣」と「請負」の区別から生ずる「偽装請負」の問題と、

労働法、とりわけて労働基準法の適用となるか否かが問題となる「労働者性」問題における「雇用」と「請負」の区別から生ずる「偽装請負」の問題が、脳内混線していませんか?

行った先の工場の従業員から指示を受けるかどうかというのは、派遣・請負問題における「偽装請負」問題においては、きわめて重要なメルクマールですが(私は拙著で述べたようにこのことにはいささか疑問を持っていますが、それはともかく)、「雇用」か「請負」かという「偽装請負」問題においては、何の意味もありません。そんなこと一生懸命気を配っても、「労働者性」問題には何の役にも立ちません。

と、いうことが、この人々には全く判っていない!

そして、真に恐るべきことは、これは単にこの社会福祉法人が勝手に思いついてやっていることではなく、地方自治体の障害者福祉部局に相談して、「こうやれば大丈夫だよ」といわれたからやっているのでしょうから、障害者福祉行政の人間にも、上記二つの全く異なる「偽装請負」概念が脳内混線していて、区別できていないらしいということが窺われるわけです。

これだけでも相当の脱力感ですが、それだけではありません。もっと恐ろしい日本の行政機構の真相がさらに浮かび上がってきます。

このHP、本件を立派な美談として紹介しているこのHP、「WAM NET」といって、

http://www.wam.go.jp/

福祉医療機構という厚生労働省の立派な独立行政法人の福祉・保険・医療の総合情報サイトではありませんか。

ことここに立ち至って、まともな労働法研究者はことごとくいいしれぬ脱力感をおぼえるでありましょう。

旧厚生系と旧労働系の「二つの文化」の間のかくも大きな断層に、今更ながらため息が漏れます。

念のため、一言。「素人じゃ、どっちが正しいか、判断できません。」ではない。医師の労働時間問題について、医政局はじめとする医療界がことごとく「医療法の宿直なんだから宿日直だ」といっても、彼らに労働基準法の解釈権限はこれっぽっちもありません(奈良県の中の方はそう思っていなかったようですが)。障害者福祉行政が総力を挙げて何を言っても、現実に働いている人の労働者性の判断基準に対して、一切解釈権限はありません。労働法とはそういうものです。

最低賃金法には障害者の特例があるが労働基準法には障害者の適用除外規定はないということの本質的意味をよく噛みしめていただきたいのですが、彼らの生産性水準に応じた最低賃金以下の支払いをすることは認められても、たとえば上の事例で、同じ工場内で働いていた工場従業員と「利用者」と称する障害者が同じ事故にあって怪我をした場合に、前者は労働災害になるけれども、後者は私傷病になるというのは、認められないということなわけですよ。

障害者の雇用の場の拡大のために最低賃金など何らかの特例措置をするということは、労働者性を前提としていろいろありえます。しかし、雇用拡大という政策目的のために、労働者であるものを労働者でないと扱うということは、労働基準法のどこをどうひっくり返しても不可能です。労働法とはそういうものです。

(追記)

実をいうと、上記二つの「偽装請負」問題の脳内混線は、かなり広く見られる現象のようです。

拙著に懇切な書評をいただいたこともある「企業法務マンサバイバル」ブログにおいて、

http://blog.livedoor.jp/businesslaw/archives/51881755.html(急増する個人請負の労働問題―告示37号は「労働者性判断基準」ではありません)

>そもそも告示37号というものは、派遣と請負の区分について言及した「だけ」のものであって、これを基準に個人請負の労働者性を判断するのは間違いであると。

と、基本中の基本の当たり前の話を、改めて語られてみたりすると、世間の労働法リテラシーというものの水準に、改めてぞっとする思いを抱かざるを得ません。

そして、おそらくは多くのマスコミ人や政治家の方々も、これと同水準の「偽装請負」脳内混線状態のまま、未だに放置プレイされているのではないか・・・と。

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コメント

本当に怖いですね。
私は世間に多いに叩かれた派遣会社に所属していたものですが、
よっぽど派遣会社の管理側のほうが、上記をよく理解して働いていると実感しました。
偽装請負の問題が変に世間で理解されているのでしょうか。
せめて民間企業でない法人さんには100%理解の上で
対処していただきたいです。

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