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EU派遣業界の労使対話戦略

最近、派遣業界の方々とお話しする機会が多いのですが、一つ思うのは、派遣業界がもっぱら規制緩和論者、市場原理主義者と思われているような人々ばかりとつきあい、その流れの勢いに乗ることで事業の拡大を図ることに急で、労働者保護を真剣に考える人々と真摯な対話の努力をすることを怠ってきたことが、今現在のこの状況を招く遠因になっているのではないかということです。

風向きが変われば、今まで役に立ってきたイデオローグは却って派遣業界の極悪さの証明にしかなりません。そういう人々が数年前までと同じ調子で居丈高に「派遣を禁止すれば企業が海外に逃げ出すぞ」と言えば言うほど、「なるほど、派遣業というのは低賃金と劣悪な労働条件でやっている業界だったんだな」という印象を強め、派遣業界に対する攻撃の正当性を強める一方になるでしょう。

派遣労働が労働者にとっても有意義な労働市場メカニズムであることをきちんと伝えるために必要なのは、何よりも労働者側に立って物事を考える人々を味方に惹き付けることであったはずですが、そういう戦略が欠落していたことは、そういう必要性を感じられない時代がつい数年前まで続いていたとはいえ、やはり反省すべき点であると思われます。

派遣業界の発展のために何がなされるべきであったのかを考えるヒントは、日本と同じようにかつては派遣事業の禁止から出発して、今では労働市場メカニズムとして確立するに至っているヨーロッパの派遣業界の活動に求めるべきでしょう。

http://www.euro-ciett.org/index.php?id=94

欧州派遣事業協会(EuroCiett)のHPの労使対話に関するページです。ここには、欧州のサービス関係の大労組であるUNI-Europaとの間で2000年、2007年、2008年と公表された共同宣言が載っています。派遣事業者と派遣で働く労働者の組合という派遣労使が明確に方向性を指し示すからこそ、それが全産業の労使にも影響を与えうるし、ひいては政策決定の方向をも動かすことができるのです。

EUの派遣業界は明確な労使対話戦略を選んできました。日本の派遣業界はその道を選ぼうとはしませんでした。あえて厳しい言い方をすれば、現在の苦境は自分で作り出したといえないこともありません。

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EUの労働法政策」カテゴリの記事

コメント

派遣業界に身をおいてきた身分の者でございます。
派遣会社の経営者の意見は、いち従業員のわたくしにはわかりませんが、
現場の従業員達は、派遣というシステムに対して
「よい」「わるい」という相反する倫理的葛藤の中で
働いていたように思えます。
考えた抜いた上で
「人身売買」と思った人は辞め、
「それでも社会は必要としてる」と思った人間は残った・・・、
というのが私のこの業界に働く人間に対してのの印象でした。
(もちろんなにも考えていない人もいますが)

確かに濱口先生のおっしゃるとおりの面はあるかと思います。

しかし派遣に携わった、多くの管理側の人間も今回の所謂リーマンショックで多大な人数がリストラされております。
不況期の2000年前半に唯一といっていいほど好景気だった人材派遣でしたので、この時期に他業種からリストラにあった方々が多くこの業界に入ってまいりました。
また、就職先が決まらなかった多くの新卒社員や中途採用の人材も入ってまいりました。

経営者が「労働組合」を作られることを阻止しようと考えている場合、オーナー会社に雇われているいち従業員のできることといえば、生活のためだまるしかありません。

濱口先生のおっしゃることはよく理解できますが、
どうにもやりきれない気持ちになります。

現場で、陰ながら派遣労働者を守って生きていた従業員も少なくはなかったです。

「人間」を扱う業界ですので、それこそ24時間営業です。

ですが派遣のシステムは個人が戦うにはあまりにも大きな「壁」であり、いち従業員は壁にぶつかるエッグにしかなりえなかったと、思います。

しかもそれで銭金を得て生活していますので、何を言っても偽善にしかなりえませんので。


投稿: ゆげゆげ | 2009年11月19日 (木) 00時18分

濱口先生様

最近トラバ連発致しまして申し訳ありません。
今回の記事は非常に感銘を受けました。
この業界はいままで自らの首を絞めてきたと思います。
再生か崩壊か…これからの生き残りに尽力致します。
これからも宜しくお願い致します。

投稿: さる | 2009年11月19日 (木) 16時32分

 派遣労働者として働いている身としては自業自得だろうと派遣会社が潰れては困るわけで、これを切っ掛けに上手く労使対話戦略へと方向転換できればいいなあと思います。
 実際に働いてみると準大手レベルの派遣会社でも社会保険の説明をせずに加入できなかったこともありましたし、社会保険をきっちり加入させて、有給や保養施設、キャリアアップやスキルアップのためのセミナーまで用意しているきちんとした派遣会社は大手の極一握りだったりしますし、派遣会社なんて潰してしまえと感情的になる人がいるのも分かるんですけれども。

 個人的には労働者側に労働法や派遣法、社会保険の仕組み、労働者の権利やそれを守るための仕組みといった物の知識が不足しているのも原因の一端のように思います。
 そういう知識がなければ今自分が置かれている労働環境が法的に問題あるのかないのか、改善をするためにはどうしたらいいのかといったこともわからないでしょうから。
 そういう意味では学校は企業が求める人材の育成よりも労働者として自らを守れるような知識を習得できる教育をすべきなんじゃないかなと思います。

投稿: 康芳英 | 2009年11月19日 (木) 20時36分

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拝読している濱口桂一郎氏のEU労働法制雑記帳に派遣業界への苦言がエントリーされていた。 EU派遣業界の労使対話戦略 http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2009/11/post-59b7.html まさにその通りで御座います。 派遣法が規制緩和されていく中で、業... [続きを読む]

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