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2009年11月28日 (土)

「権力」概念のない経済学の解雇問題への一帰結

筒井淳也さんの「社会学者の研究メモ」というブログに、「なぜ経済学には権力という概念がないか」という興味深いエントリが載っています。

http://d.hatena.ne.jp/jtsutsui/20091128/1259396867

>権力格差(ある人が別の人よりも強い権力を持っている)というのは、特定の人に意思決定権が多く与えられている、ということ。そしてある人が意思決定をしなければならない場合というのは、結果の不確実性がある場合です。もし不確実性がなければ、上司と部下の判断は常に一致するので、そもそも意思決定をする必要はありません。だから新古典派経済学の経済主体は、合理的選択をするだけで意思決定(判断)をするわけではありません。

>で、たいていの場合決定の結果は(思考コストを無限に負担できない以上)不確実ですから、誰かが「エイ、これでいっちゃえ」と決断をする必要があります。もし意思決定権がグループの成員に均等に配分されている場合、話し合いで決着をつける必要がありますが、大きな組織だと決定コストが膨大になるのでたいていはヒエラルキーにして、意思決定権を不均等に分配することになります。そして意思決定権は能力に応じて配分されるのが効率的になります。

>これが要するに権力ですが、規範的モデルでは権力配分は効率的であり、(レントがないとすれば)上司の意思決定に不満を持つ理由がなくなります。なので権力を問題にする必要もなくなります。多くの場合、「あの人には権力がある」というときは、能力を超えた決定権が与えられている場合、あるいは適切な判断が何かを審査する手続きをせずに決定をする権限が与えられている場合を指していると思います。つまり何らかの「不適切さ」(不公平、非効率等)が含意されています。

ここで筒井さんが述べておられることは一般的なことですが、これを具体的な雇用関係に当てはめて考えると、労働者を解雇することが合理的であるかどうかの意思決定が使用者に与えられていることの「権力」性を認識することができるかどうかという問題になるでしょう。

「こいつは無能である」という判断に不確実性がなく、その合理性はすべての人に明らかであるという完全情報を前提にすれば、すべての個別解雇は誰も異論を挟む余地のない合理的なものとなりますが、いうまでもなくそういうことはないわけです。「権力」概念のない経済学が、「権力」現象そのものである個別解雇をまともに取り扱うことができない(というより、解雇というのはすべて整理解雇のことだと思いこんでいる)のは当然のことかも知れません。

それに対して、経営状況が悪化して誰かを解雇しないと会社がやっていけないというのは、もちろん不確実性がなくなるわけではないにしても、かなりの程度客観的に判断できることですので、「権力」概念のない経済学でも取り扱うことができますし、整理解雇4要件の合理性を論ずることもできるのでしょう。

(参考)

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2009/01/wedge-2092.html(WEDGE大竹論文の問題点)

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2009/05/post-2595.html(終身雇用という幻想を捨てよ)

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2009/01/post-ba7f.html(労働者を気分次第で簡単に解雇するような経営者はいる)

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2009/05/post-b14a.html(3法則氏が、遂に解雇権濫用法理と整理解雇4要件の違いに目覚めた!)

ついでに、上のエントリでも引用した大変興味深い判決について:

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2007/05/post_586b.html(ベンチャー社長セクハラ事件)

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