岩波『自由への問い』
本ブログで前に紹介した『自由への問い』の案内が岩波のHPに載っています。
http://www.iwanami.co.jp/moreinfo/028351+/top.html
>編集にあたって
日本の社会は近年の格差と貧困の拡大に敏感に反応しています.規制緩和などの思想に沿った自由の解釈は,相互の自由を可能にしてきたのではなく,自由のかたよったあり方をうみだしてきたのではないか.自己責任や自立を過度に強調する自由の主張は,社会の問題を個人の問題として受けとめさせることにより,一人ひとりの生に重すぎる負荷をかけてきたのではないか.
本シリーズは,自由をキー・コンセプトとして現代社会の問題状況を具体的に明らかにするとともに,私たちが自由を相互に享受することを可能にする規範や制度のあり方を探求する試みです.もちろん,自由という概念はきわめて論争的な概念であり,多様な解釈を避けられません.このシリーズも,自由の一義的な考え方を示そうとするものではありません.そのうえで,社会統合,社会保障,公共性,コミュニケーション,教育,労働,家族,生という八つの問題領域において,どのような規範や制度が誰のどんな自由を可能にし,逆に誰のどんな自由を制約し奪っているのかを具体的に問い返しながら,同化や排除のない,より公正な自由はどのように考えられるべきかを構想するものです.
各論考が,読者の皆様ご自身による「自由への問い」に少しでも資することを願います.
2009年8月
編集委員一同
総目次も載っています。
http://www.iwanami.co.jp/moreinfo/028351+/top2.html
このうち、本ブログと関係があるのはいうまでもなくまず第6巻の『労働』(責任編集:佐藤俊樹)ですが、
>労働と自由は近代社会を支える最も基幹的な仕組みだが,二つをどう接続するかは曖昧にされてきた.働くことと自由の複雑なからまりあいを,制度と現場の両面から照らし出す.
I 【対論】
働くことの自由と制度 佐藤俊樹・広田照幸
II 【考察】「働くこと」と自由
働くことと自由――異質なものの異質な接続 佐藤俊樹(東京大学)
「会社からの自由」の両義性 高原基彰(日本学術振興会特別研究員)
正社員体制の制度論 濱口桂一郎(労働政策研究・研修機構)
III 【問題状況】労働と自由の歴史的編制
仕事と価値と運動と――1830年代における「労働」の誕生 宇城輝人(福井県立大学)
労働における自由とジェンダー 金野美奈子(神戸大学)
就職空間の成立 福井康貴(東京大学大学院博士課程)
IV 【構想】現代的な労働の現場から
コンビニエンスストアの自律と管理 居郷至伸(横浜国立大学)
ケア労働の組織――今後のあり方を考える 三井さよ(法政大学)
社会に「出る」/「出ない」――学校と社会の間で 貴戸理恵(関西学院大学)
ですが、同じくらい重要なのが第2巻の『社会保障』(責任編集:宮本太郎)です。
>新自由主義の諸政策のもと,社会保障と信頼の衰退は社会に不安とリスクを増大させた.監視や安全保障によるセキュリティ強化ではなく,自由のための新たな社会保障へ.
I 【対論】
セキュリティの構造転換へ 宮本太郎・齋藤純一
II 【考察】社会保障理念の再構築
生活保障としての安全保障へ 山口二郎(北海道大学)
福祉・自由・連帯 川本隆史(東京大学)
社会保障の法理念としての「自由」 菊池馨実(早稲田大学)
III 【問題状況】矛盾はどこに,いかにあるか
自由と生存を引き換えにするな 雨宮処凛(作家)
最低保障改革の動向と自由――包摂の名による排除 布川日佐史(静岡大学)
財政は信頼をつくり出せるか 井手英策(慶應義塾大学)
IV 【構想】自由のための社会保障制度
ベーシック・インカム,自由,政治的実行可能性 田村哲樹(名古屋大学)
「二つの自由」への福祉国家改革 宮本太郎(北海道大学)
このラインナップはすごい。これは楽しみです。ちなみに、『日本の論点2010』に「ベーシックインカムの落とし穴」について書きましたので、出たら見ていただけるとうれしいです。
あと、第5巻の『教育』(責任編集:広田照幸)も興味をそそるものがいくつかあります。
>教育には子ども,親,教師,行政,地域,市場等々,数多くのアクターが関わる.変動する社会のなか,誰にとってのどのような自由が考慮,議論されねばならないのかを探る.
I 【対論】
せめぎあう「教える」「学ぶ」「育てる」 広田照幸・佐藤俊樹
II 【考察】市場・選択・教育
教育の公共性と準市場――多様な個人のために機会を創造すること 卯月由佳(ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス)
教育・子育てにおける選択の自由の地位 田原宏人(札幌大学)
III 【問題状況】対立・葛藤する教育の自由
自由を/自由に育てる――「教育の私事化」と公共性の隘路 宮寺晃夫(筑波学院大学)
教師の教育の自由と親・地域・行政 大桃敏行(東北大学)
教師の〈教育の自由〉と子どもの思想・良心の自由 西原博史(早稲田大学)
IV 【構想】教育の自由の条件
〈シティズンシップ/教育〉の欲望を組みかえる
――参加・社会保障・確率論的自由 仁平典宏(法政大学)
社会変動の中の「教育における自由」 広田照幸(日本大学)
そして、最後の第8巻『生』(責任編集:加藤秀一)、
>生きることと自由の関係とはどのようなものであり,生き方の自由とは何を意味するのか.「生存」「生き方」「生命」という三つのテーマから,自由とは何かを逆照射する.
I 【対論】
生存・生き方・生命 加藤秀一・岡野八代
II 【考察】人間的生と自由
「自由」がなぜ問題か 彦 坂 諦(作家)
自由と暴力,あるいは〈関係の暴力性〉をめぐって 藤 野 寛(一橋大学)
III 【問題状況】生と死のあいだで
生む/生まない自由と生まれる/生まれない自由 ――新(リベラル)優生学をめぐって 加藤秀一(明治学院大学)
「生存の自由」をなしくずしにするものとたたかうために 杉田俊介(ヘルパー,ライター)
「性」をめぐる自由 石 田 仁(横浜市立大学他非常勤講師)
「死にゆく過程と生の意味 奥山敏雄(筑波大学)
IV 【構想】自由な生とは
自由か幸福か,あるいは別の考え方か 大屋雄裕(名古屋大学)
自由な生と自由な社会 立岩真也(立命館大学)
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