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2009年10月30日 (金)

相対的貧困率は出発点にすぎない

さる10月20日のエントリで紹介したOECD方式の相対的貧困率ですが、ここでは、相対的貧困率だけで何か政策を論じられるなんて思ってはいけないよ、という話を。

もう7年以上も前になりますが、すでに廃刊になった『総合社会保障』という雑誌に「ニュー・ヨーロッパへの新展開--変貌するヨーロッパの雇用・社会政策」という連載をしていたことがありますが、そのときに、EUでは貧困から社会的排除に問題意識が変わりつつあると言うことを紹介し、その一環で、「貧困と社会的排除の指標」の開発にむけていろいろと取り組みがされていることも紹介しました。

http://homepage3.nifty.com/hamachan/shahoshinpo6.html

このときに紹介したアトキンスン報告では、つぎのような包括的な指標によって、人々がどれだけ社会に統合されているかを測ろうとしていました。

(1)経済的貧困:世帯所得で算出

◎所得の中央値の50%ないし60%(貧困線)以下の所得の者の比率(低所得者比率)
○所得中央値の40%及び70%以下の所得の者の比率、及び特定時点における所得中央値の絶対額の60%以下の者の比率
○単身世帯と標準世帯(2親2子)における貧困線の実質価値(購買力)
○過去3年のうち少なくとも2年貧困線以下にあった低所得者の比率(持続的貧困比率)、及び、過去3年間ずっと貧困線以下にあった低所得者の比率(慢性的貧困比率)
○貧困線との貧困格差の平均値と中央値
◎所得五分位階級で最下層に対する最上層の所得の比率(S80/S20)
○所得十分位階級で最下層に対する最上層の所得の比率(S90/S10)及びジニ係数
●非貨幣的な価値剥奪の指標

(2)教育水準

◎18歳~24歳層のうち中学校教育だけでそれ以上の教育訓練を受けていない者の比率
○18歳~64歳層のうち中学校以下の教育しか受けていない者の比率
●親の教育水準や教育費用に焦点を当てて教育へのアクセスの格差の指標

(3)雇用労働

◎失業率及び長期失業率(1年以上)
◎失業世帯人口の比率
○就職意欲喪失者の比率及び18歳~59歳(64歳)層のうち非就業者の比率(フルタイム教育を受けている者を除く)
○貧困線以下にある失業世帯人口の比率
○昨年今年と労働者であって貧困線以下にある者の比率(ワーキング・プア)及び時間当たり賃金が中央値の3分の2以下である者の比率(低賃金労働者)

(4)保健医療

◎65歳に達しないで死亡した者の比率、又は、自分の健康状態を悪い又は大変悪いとする15歳以上の者の所得五分位階級の最下層及び最上層における比率
○経済的理由又は待機のため過去12ヶ月間に医療を受けられなかった者の比率

(5)住居

◎特定の住居アメニティがないか、特定の住居欠陥がある世帯の者の比率
○過密状態の住居に居住する者の比率
○過去12ヶ月中に家賃又はローンの支払いが遅滞している世帯の者の比率
●環境の悪い住居に住んでいる者の指標
●ホームレスや不安定住居の定義と指標(欧州委員会は緊急に取り組むこと)

(6)その他

○緊急時にまとまった金を用意できない世帯の者の比率
●労働市場で必要な技能を反映した読み書き能力と計数能力の指標
●公私の不可欠なサービスへのアクセスの指標
●インターネットへのアクセスを含む社会参加の指標

貧困というのはお金があるかないかというだけの話ではないということを、このように具体的な指標の形で示そうとする意欲が、日本の政策構想の中にあるかどうかが、実のところは問題なんだと思うわけです。

私がこの紹介論文を書いたのは7年以上前ですが、日本はようやく、そのときに『それだけじゃダメだ』というレベルに到達したわけですから、なかなか先は長いというべきかも知れません。

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コメント

政府は、全人口の貧困率と子供の貧困率しか公表していません。
OECDのデータでは、年齢階層別や母子世帯のデータもあります。
貧困率だけでなく、貧困ギャップも出ています。
このデータはOECDが計算したのではなく、厚生労働省の研究所が計算したのだと思いますから、公表する気になれば出せるはすです。
元になった国民生活基礎調査のデータには、世帯業態別や世帯構成、世帯種別のデータもあります。
これらによる貧困率の違いも出せるはずです。
詳細の公表を求めていく必要がありますね。

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