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2009年10月 5日 (月)

建設業におけるメンバーシップ型とジョブ型

拙著『新しい労働社会』を書評していただいたGelsyさんが、わたくしのメンバーシップ型、ジョブ型というコンセプトを応用して、建設業の雇用構造について考察しておられます。

http://d.hatena.ne.jp/Gelsy/20091004/1254609019ゼネコンがザ・メンバーシップ型雇用である件 )

http://d.hatena.ne.jp/Gelsy/20091005/1254670703(建設業全体で見るとメンバーシップ型とジョブ型の二層構造である件 )

>前回、濱口桂一郎氏の「新しい労働社会―雇用システムの再構築へ」について書いたんですが、ご本人から感想をいただきました。ありがとうございます。しかし、岩波新書の著者から直接感想文に返事もらえる時代ってすげーな!お礼にもう一回載せときます。

という前口上から始まって、

>さて、この本の中で示されている「メンバーシップ型雇用」と「ジョブ型雇用」というのは、日本の建設業界を語る上で避けては通れない概念だと思うんです。なぜなら、建設会社の内部に土木・建築の施工部門のみならず、設計部門や研究部門などを抱え込む「ゼネコン」という企業形態は、メンバーシップ型雇用という日本に特徴的な雇用システムがあって初めて成立するものであるように感じるからです。

>メンバーシップ型雇用というのは、大工さんの徒弟制度の発展型であり、その最大の利点は社員教育にあるといえます。ジョブ型雇用システムのアメリカ建設業界では、例えば積算→購買→現場監督→監理、と渡り歩くことは、少なからず転職することを意味しますが、日本だったらゼネコンの中でおおよそ全部可能です。建設技術に限って言えば、ジョブ型よりも日本のメンバーシップ型ゼネコンの方が、効率的に、かつ生活にリスクを生じさせることなく習得できる環境にあると言え、現に日本の建設技術が非常に高いレベルにあることは、これを裏付けていると思います。

ところが一方、

>ここで無視できないのは、多重下請構造の存在です。建設業では、多重下請は違法でも脱法でもなく、建設業法第2条で公然と謳われたものです。建設業法はその名の通り、建設業にしか適用されません。受注状況がめまぐるしく変わる建設業において、ゼネコンがメンバーシップ型雇用を維持できるのは、「特例的に」多重下請構造が認められているからであり、一方で下請となる専門業者の多くはメンバーシップ型ではなく、ジョブ型雇用であり、ジョブを求めて複数のゼネコンと取引しているのが普通です。つまり、ゼネコンだけを見れば典型的なメンバーシップ型雇用ですが、一方、建設業全体を見るとメンバーシップ型とジョブ型が層を成す、特殊な2層の産業構造を持つといえるのです。

>なぜ、建設業においてこのような、チートと言える様な産業構造が許されているのかというと、一つには先述の通り受注状況が変化するという特徴が勘案されたという面もあるとは思いますが、最も大きいのは、不況のときに雇用の受け皿となる使命を負わされている、否、いたからであり、国は財政政策として自ら発注者となって建設工事を起こすつもりであったからです。国はただ漠然とそのような使命を期待していたわけではなく、建設業法のほか、労働安全衛生法など、システムの整備を行っており、たとえば、現場の労災保険はゼネコンのお金で入りますし、足場や手すりなどの安全設備もゼネコンの社員である統括安全衛生責任者の責任で設置しなければなりません。つまり、急に襲ってくる不況時に、労働者が建設業になだれ込んだとしても、それが十分であるかという議論はさておき、労働者保護が図られるように予めシステムを用意していたわけです。

そこまで建設業とそれ以外の産業をきれいに分けて論じられるかはいささか問題もあるように思われます。むしろ、高度成長以前には製造業でも臨時工や社外工という存在が大きな問題であったわけで、メンバーシップ型とジョブ型が成人男子の労働市場としても別れていたのだと思います。しかし、高度成長期に建設業以外ではジョブ型の中心は主婦パートと学生アルバイトに移行し、ジョブ型労働者は社会問題としての注目点ではなくなってしまった点が大きいのではないでしょうか。そこが拙著の強調点でもあったわけですが、建設業ではそうではなかった、つまり多重下請構造の中で、成人男子労働力の吸収機構としてジョブ型労働者が建設労働力の中心であり続け、それに対する対策が建設労働対策の中心であり続けたという点が違いなのではないかと感じました。

いずれにしても、Gelsyさんは、

>そこで、正社員のメンバーシップはそのまま、経営者の「これはまずい」の声に押されて、規制緩和の錦の御旗の下、ジョブ型雇用の下請構造を持つことが建設業以外にも認められるようになった。つまり、最初に中途半端に真似してしまったメンバーシップ型雇用を、完全に建設業の真似、すなわちメンバーシップ型とジョブ型の2層構造へと移行させようとした。これが、派遣労働者やフリーターといった非正規労働者の増加に対する私の解釈です。

しかし、上で見てきたように、建設業は特殊な産業構造をとるために、雇用の受け皿となることや、労働者保護の仕組みを守ることなど、さまざまな代償を払っていました。しかし、こうした代償を払っていない「規制緩和」には、法的に不備な面が多々あるように感じます。不安定な「受注産業」という特徴をさらにプラスしたIT産業は、その中でも厳しいクソ労働環境となることは必然といえます。

国が雇用を生み出すことについては、そう簡単にいいアイディアが浮かぶとは思えませんが、非正規労働者のいるすべての産業に税金を注ぎ込むことが不可能であるのは明らかです。今できることは、少なくとも建設業や労働安全衛生法で建設業に求められているような労働者保護政策を、建設業以外の非正規労働者の雇用者にも求めることでしょう。でなければ、法のバランスが取れません。

こうして見ていく中で、他産業が建設業の轍を踏んでいくものだとすれば、他産業においても建設業と同じく、ジョブ型雇用システム層において、技能の求められる仕事の割合が増すのではないでしょうか。専門的技能の身に付かない、応用性の低い単純作業について、ジョブ型雇用システムで雇用を行うことについては、慎重であるべきでしょう。

と論じていかれます。必ずしもすべての認識に同意するわけではないのですが、建設業界からみたマクロ的な構造図として、大変示唆的であり、参考になります。

振り返ってみれば、労働者派遣法制定にあたって重要な役割を果たされた高梨昌先生は、建設業の雇用構造を研究され、労務下請のようなその特殊な在り方を摘出していました。そして、その問題意識から派遣請負などの法的整備の必要性を説かれるようになったと回顧しておられます。現在ではほとんどそのつながりは意識されていませんが、建設業の雇用システムは日本の雇用システムの研究への鍵であるというべきなのかもしれません。

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