道幸哲也『ワークルールの基礎』
道幸哲也先生から、『ワークルールの基礎-しっかりわかる労働法』(旬報社)をお送りいただきました。いつもお心に留めていただきありがとうございます。
http://www.junposha.com/catalog/product_info.php/products_id/560
さて、道幸先生は、大内伸哉先生と並び、一般向けの労働法の本をたくさん出されている双璧ですが、本書は帯の文句に「労働力ではなく生身の人間として働き続けるために必要な法的知識を身につける」というように、学部学生から実際に職場で働き始めた若者が主な読者層のようです。
前に出された『15歳のワークルール』のシニア版で『20歳のワークルール』といったところでしょうか。全然関係ないけど、こないだ本屋に行ったら『二十歳の原点』が復刊されてましたね。懐かしいなあ、とか言うようになったら立派な中高年です。
閑話休題。内容は:
パート1 法的な世界・考え方
1章 なぜ法律は身近なものにならないのか
-労働法が前提としている人間像・社会像を知る
2章 労働法の研究の仕方
-判例研究のコツを知る
3章 この気持ち分かって欲しい
-労働相談の仕方を知る
パ-ト2 働き始める
4章 労働条件はどのように決まっているか
-賃金観や解雇についてのトラブルの解決基準を知る
5章 労働者でなければ私はなに
-労働契約上の労働者概念を知る
6章 だれが使用者か
-企業組織再編と労働者派遣を知る
7章 採用内定を出したのがマズイと思ったら
-採用内定、試験の法律問題を知る
パ-ト3 働き方
8章 イヤな配転命令を拒否できるか
-業務命令権の根拠と制約法理を知る
9章 私用メ-ルを見るなんて
-職場におけるプライヴァシー権を知る
10章 二次会のトラブルまで会社の責任か
-職場におけるいじめ、セクハラの法理を知る
11章 弁償しろなんてひどい
-使用者からの損害賠償を制約する法理を知る
12章 過労死は絶対イヤだ
-労働災害、安全配慮義務の法理を知る
パ-ト4 労働条件の確保
13章 賃金は仕事のどの部分に対し支払われているか
-労務提供と賃金に関する法理を知る
14章 自分のことを知って欲しい
-人事考課の法理を知る
15章 退職金を支払わないことはできるか
-賃金、退職金の法理を知る
16章 いつからいつまでが労働時間か
-労働時間の法理を知る
17章 突然の残業でドライブにいけないなんて
-時間外労働義務の法理を知る
18章 研修中は年休をとれないの
-年次有給休暇の法理を知る
パ-ト5 労働条件の変更
19章 労働条件の一方的不利益変更は許されるか
-就業規則の法理を知る
20章 組合を信頼したのに
-公正代表義務の法理を考える
パ-ト6 雇用の終了
21章 「やめます」「やめてやる」「やめさせてください」の違いは
-退職をめぐる法理を知る
22章 こうなったら転職だ
-就業避止義務の法理を知る
23章 突然の解雇とは理不尽だ
-解雇過程をめぐる法理を知る
24章 病気で退職させるなんて
-私傷病を理由とする解雇、休職の法理を知る
25章 余剰人員とはあんまりだ
-整理解雇の法理を知る
26章 雇用期間に意味があるの
-短期契約更新拒否の法理を知る
パ-ト7 労働組合の役割
27章 組合員であることを保障する
-不利益取扱い禁止の法理を知る
28章 組合を通じて労働条件を決める
-団交・労働協約の法理を知る
29章 労働委員会はどんなところ
-不当労働行為の調査・審問手続を知る
30章 労働組合に未来があるのか
-労働組合法の今後を考える
といったところですが、各章の冒頭におかれた設例ならぬボヤキみたいな相談例(?)が面白いです。自分だったらどう答えるだろうかと思いながら読んでみてください。
最初の第1章;
>どうしても法律家は好きになれません。会議での議論も揚げ足取りが多く、理屈のための理屈としか思えません。相手の論理が弱いと見るとバンバン攻撃してきます。私のようにいい人は法律家に向きません。労働法なんて勉強する必要もわかりません。
第7章;
>採用面接では真面目な学生だと思ったのに、その後の折衝では驚くほど時間にルーズだとわかりました。どうしたら内定を取り消すことができますか。そういえば、試用研修の期間中にまったく仕事ができず、漢字も読めないものもいました。大学ではどのような教育をしているのですか。
第10章;
>女性が多い職場なので労務管理に苦労しています。同僚がさっぱり飲み会に誘ってくれないのはいじめだとか、逆に、会社の飲み会で上司にデュエットを強要されたことがセクハラだとかの苦情が出ています。自分たちで自主的に解決できないんですかね。
第11章;
>人は誰でも間違いがあります。居酒屋でバイトをしていたときに誤って皿を落としたら、それを弁償しろと言われました。額は3000円で大したことはありませんが、疲れて落としたときにも弁償しなければならないのですか。タクシー運転手をしている友達も、客の乗り逃げ分の弁償を求められています。もう働くのがいやになりました。退職させたいので会社はこのような嫌がらせをしているのでしょうか。
第14章;
>あいつがA査定なのになぜオレがB査定なのか。会社は成果主義を強調しているけれど、あの課長だったらどんなずさんな評価するかはわかったもんじゃない。営業職ならば成果はそれなりに客観的だろうが、事務職ならばまったくはっきりしない。ゴルフもしないし、アフターファイブのつきあいが悪いからかも知れない。そんなに成果、成果というのなら役員や課長も成果を上げて欲しい。
第20章;
>会社がヤバイことはうすうす感じていましたそれでも組合があるので安心していましたが、その組合が基本給を下げるという労働協約を締結しました。一律1割の減額で、僕の賃金も1割下がります。50歳以上の組合員の賃金を3割下げるという案の方がよかったと思います。僕は50歳までこの会社にいるつもりもありません。
第21章;
>私はある会社で営業課長をしていますが、最近の若いサラリーマンは、何を考えているのかわかりません。あまりにやる気を見せないので、部下のAに、「お前に箱の仕事向いていないのではないか。自分にあった仕事に再チャレンジした方がいいのでは」といったところ、翌日から出社してきません。うわさでは、不当に解雇されたとして訴訟を準備しているとのことです。親切なアドヴァイスのつもりだったんですけど。
最後の第30章はなかなか重いです。この30章だけでも本屋で立ち読みでもしてみてください。
>労働条件の切り下げ、仕事のアウトソーシング化、さらに近いうちに企業分割があるといううわささえあります。ところが、我が社の企業別組合はこれといった抗議行動や交渉をする気配さえありません。「組合費を返せ」といいたいぐらいです。このような労働組合に未来があるのでしょうか。
集団的労使関係システムに対するイメージという点で、わたしは道幸先生の発想に共感するところが大きいのですが、そこは人によって様々なのでしょう。
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