国立国会図書館『レファレンス』10月号の「労働者派遣法改正問題」
国立国会図書館は毎月『レファレンス』という雑誌を刊行し、現下の重要課題について冷静な議論の素材を提供しています。
その10月号に、岡村美保子さんの「労働者派遣法改正問題」が掲載されておりまして、この問題を考える上で大変有用です。
http://www.ndl.go.jp/jp/data/publication/refer/200910_705/070506.pdf
わたくしの論考もいくつも引用されているのですが、それに限らず、歴史的にも国際的にもよく目配りされたいい論文です。
と、岡村さんを褒めるのももちろんですが、実はこれを読んでいて、目を疑う記述に出くわしました。
派遣法制定過程についての記述のところですが(124ページ)、
>高梨教授は、ビルメンテナンスとファイリングという2つの「不熟練労働」を入れてしまったところからポジティブリストの論理破綻が始まったと述懐している(27) 。
高梨昌「派遣法立法時の原点からの乖離―現行法でも活用の余地はある」『都市問題』Vol.100. No.3, 2009.3,pp.25-26.
今更それはないんじゃないんでしょうか。
ファイリングという虚構の『業務』の名の下にそれまで圧倒的に多くの「事務処理請負業」がやってきた一般事務女性の派遣事業を認めるというのが、その時の暗黙の了解だったのではないですか。もしそうでなければ、当初の常用型限定ではなく登録型を認めるという方針の実質的意義が失われてしまったはずだと思いますが。
マンパワーやテンポラリーやその他たくさんの一般事務派遣業者を救うために常用型限定ではなく登録型を認めたのに、ファイリングという名目で一般事務を容認しなければ、結局彼らは救われなくなってしまうわけですから。
少なくとも、「専門技術的業務」の敷居の高さを、女性事務職については常識レベルよりもかなり下げないことには、そのころの派遣業者の多くが廃業に追い込まれていたのではないかと思います。そこまで「専門職」という概念に殉じるつもりがあったとは思えないのですが。
いま手元にその『都市問題』という雑誌がないので、どういう文脈で高梨先生が言われているのかよく分からないのですが、上の引用を正面から受け取るとすると、そもそもポジティブリスト方式は、事務派遣を対象にしようとしていた一番当初の時点から「論理破綻」していたといわざるを得ないように思われます。
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