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連合総研『雇用ニューディール研究委員会報告書』

連合総研から標記報告書が発刊されたということですが、現時点ではまだ報告書自体はアップされていないようなので、『DIO』10月号の記事からその内容を見ていきたいと思います。

http://rengo-soken.or.jp/newdeal_dio242.pdf

この研究委員会は、「「現下の経済不況の構造的特色を明らかにするとともに、国民・住民の生活と雇用の安心・安定を確保するために緊急に必要な雇用対策、社会保障策の具体的内容ならびに今後中長期的に必要な雇用創出策、社会保障強化策、新産業育成策などの『ニューディール政策』を検討」することを目的に設立された」ということで、そのメンバーは次の通りです。

主    査:神野 直彦 関西学院大学教授
委    員:埋橋 孝文 同志社大学教授
   〃  :禿 あや美 跡見学園女子大学准教授
   〃  :駒村 康平 慶応大学教授
   〃  :小峰 隆夫 法政大学教授
   〃  :玄田 有史 東京大学教授
   〃  :久本 憲夫 京都大学教授
委    員:水町勇一郎 東京大学准教授
   〃  :宮本 太郎 北海道大学教授
   〃  :薦田 隆成 連合総研所長

まず、「雇用対策・ニューディールの原則」として、

>第一の基準は、普遍性の原則、つまりユニバーサルの原則である。つまり、デザインされる雇用対策は、すべての社会の構成員を排除することなく適用されなければならない。もちろん、正社員だけではなくすべての雇用される者が包括される。相違のある対応も適用についてはユニバーサルで、かつ相違のある対応が平等な処遇に結びつく限りにおいて認められる。

 第二の基準は、体系性の原則である。個々の対策がパッチワーク的に打たれるのではなく、相互に関連づけられ、有機的に体系づけられなければならない。しかも、雇用保障と生活保障も相互に関連づけられた対策でなければならない。

 第三の基準は、包括性の原則である。つまり、サービス給付を重視し、現金給付による保障から現金給付とサービス給付をセットで保障する包括的保障が提供されなければ
ならないという原則である。

 新しい職務に就くため職業訓練に従事している者には、その生活を保障する職業訓練手当という現金給付と、職業訓練サービスをセットで給付して雇用を保障する。もちろん、こうした現金給付もサービス給付もユニバーサルに提供されなければならない。しかも、雇用保障とともに生活保障が関連づけられて体系化されている必要がある。

 こうした3つの基準の背後には、すべての社会の構成員が掛け替えのない存在であるという相互確認を前提にしている。そうした相互確認を前提にすれば、雇用保障についても、社会の共同責任となるはずである。

 そうだとすれば、こうした「雇用ニューディール」の立案、執行、評価のプロセスに雇用形態にかかわりなく、すべての働く者に参加が保障されなければならない。しかも、そうした参加には労働組合が基軸的な役割を演じなければならないのである。”と指摘している。

すべてについて異議なしであります。

「新しい雇用・社会政策の具体的提言」として、①全ての人々の生活を保障する雇用保険、社会保障制度への改革および最低賃金引き上げの提言、②積極的労働市場政策の推進と非正規雇用労働者の格差是正の提言、③雇用創出策、新産業・社会的事業の振興策の積極的な推進を提言しています。

>(1)全ての人々の生活を保障する雇用保険、社会保障制度への改革と最賃の引き上げ

 現在の雇用保険や社会保障制度においては一部の人々が適用除外となる事例が生じている。これを改め、全ての人々がこれら制度の対象者となる(普遍性の原則)制度に改定し、また雇用保険と社会保険の連携をはかって(体系性の原理)、雇用不安と生活不安の解決をはかる必要がある。加えて、人々に安心を与える生活保障とするには、金銭給付にとどまらずに人々の社会参加を支援する社会的サービス給付を伴うことが重要になっている(包括性の原理)。

そして、この3つの原則を進める具体的対策として、以下の対策を進める必要がある。

 ①全ての雇用者の雇用保険加入と受給資格の付与

 ②全ての子供に対し、児童手当と保育サービスをセットとした育児支援給付、および介護サービスの普遍的給付などの社会的サービスの普遍的支給の実施

 ③全ての人々をカバーした医療保険への改革

 ④最低保障年金付きの年金制度への改革

 ⑤全ての人々に最低生活所得を保障する生活保護制度への改革

 そして、これらの制度・政策の改革では、派遣、契約などの非正規雇用労働者および無就業者についてもそれぞれの制度の対象者とし、それらの人々の就労など社会参加に対する積極的な支援サービスが伴われなければならない。そのためには、育児・保育サービスの抜本強化や介護サービスの普遍化を進めることが極めて重要になっていると報告書は指摘している。

 また、現況の生活の先行き不安の高まりや勤労貧困者(ワーキングプア)の増大には、日本における低賃金層の存在が影響を与えている。この生活困窮問題を改善するため、「最賃法」2008年改正の「生活保護との整合性も考慮する」という決定基準を重視し、全ての地域において法定最低賃金を生活保護単身者生活扶助額水準以上に引き上げることを報告書は提起している。

(2)積極的労働市場政策の推進、非正規雇用格差の是正の提言

 第二に強化すべき政策として、就職支援(アクティベーション)策、労働時間短縮の積極的な実施による雇用維持・創出および均等待遇ルールによる非正規雇用労働者の格差の是正の対策を報告書は提起している。

 日本における高度成長期以降の雇用対策では企業活動の活性化が前提とされ、景気対策によって雇用回復を図るとの考え方が基調とされてきた。これに対して、報告書は、この危機の時代にはむしろ雇用対策によって社会の活性化をはかる必要があること、したがって「社会改革」を促す積極的な雇用対策を行うことが必要だと論じている。そして、その具体策として以下の対策の実施を提言している。

 ①全ての職業紹介所に責任ある相当数の就職支援員を配置する

 ②職業訓練付き失業扶助制度を創設し、公的職業訓練サービス給付を希望者全てに提供するよう抜本拡充する

 ③休業日数の増、時間外労働削減によるワークシェアリングを推進する

 ④所定労働時間を短縮して雇用の維持・創出をはかる

 ⑤雇用保険二事業・雇用調整助成金制度を全ての労働者、全ての事業所に適用して雇用維持をはかる

 また、現況の失業増大や生活の不安の高まりには、非正規雇用労働者の不安定な雇用・労働条件、社会・労働保険の未適用などの問題が大きく影響している。この問題を解決するため、①均等待遇ルールの社会的確立などにより非正規雇用労働者の雇用・労働条件格差を是正すること、および②「準正規雇用」区分の創設による非正規雇用の雇用格差の改善をはかることを報告書は強調している。

ここまでが狭い意味での雇用社会政策事項ですね。拙著で述べたこととも大幅に重なります。

3つめはむしろ広い意味での産業政策になりますが、特に④の職業教育の重視は今後の教育政策の根幹となるべきものでしょう。

(3)雇用創出策、新産業・社会的事業の振興策の積極的な推進

 現在の高い失業率、雇用不安、生活不安を解消していくには、政府自らが雇用創出、持続可能な社会保障制度改革、雇用を生み出す産業への振興策の実施など、以下の新しい社会的事業を積極的に進める必要があると報告書は提言している。

①医療・介護・保育の労働環境改善策と人材育成事業の実施

 医療、介護、保育サービス事業では雇用が着実に増えている。しかし、これら産業・事業では離職・転職者も多く、深刻な人手不足も指摘されている。政府は、医療、介護、保育事業のそれぞれについて、その人材不足を生み出す長労働時間、低賃金、損害責任の厳しさなどの改善策を早急に実施し、これら産業における雇用増を実現する。

②環境保全・省エネに関わる技術開発人材の育成、環境事業の振興

 政府は、民間企業や生活部門が進めている環境保全、省エネ促進などの環境保全に対する振興策を強化する。また環境関連の事業・研究技術者などの人材育成、環境教育を進める。交通分野における低炭素交通機関の振興策を強める。農業、林業、さらに再生エネルギーの生産に貢献している産業の振興を強め、地域における環境保全、再生エネルギー技術の育成・振興をはかる。

③就労支援など社会的支援サービス事業の拡充と非営利・社会目的の社会的事業体(NPO・ソーシアルエンタープライズ)の振興

 政府および地方自治体は、人々の生活改善ニーズを受けとめ、家族、住居、子育て、介護・医療など生活諸分野において、これら社会的支援サービス事業を積極的に推進する。またこれら事業に関わる人材の育成事業を進める。その際には、これら社会的支援サービス提供目的の非営利団体、社会的福祉団体などに対して、その事業化や事業拡大について積極的に助成し、非営利事業による社会支援サービス提供の条件を整える。

④職業教育、生涯教育など教育体制の強化と教育事業での地域雇用創出

 政府は、職業専門教育、一般教育での職業教育を抜本的に強化する職業教育の計画的推進を行う。また職業教育を担う人材育成を大規模に実施し、これら職業教育に関わる分野における雇用、職業の増大をめざす。また、生涯教育に対する人々のニーズに応え、若年・青年期のみでなく、生涯のあらゆる段階で教育が受けられる生涯教育制度を整備し、その人材育成・確保をはかる。

⑤地域における就業・雇用創出事業に対する政府支援の強化

 地域における就業・雇用減に歯止めをかけるため、政府、自治体は「地域事業興し」や地域産業構造の6次産業化による雇用創出、また地域人材育成事業を強化する。

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