政権交代と労働運動 by 宮本太郎
さて、雇用ニューディール以外の『DIO』10月号の記事ですが、わたくしの問題意識からすると、やはり宮本太郎先生の「政権交代と労働運動」が面白かったです。
http://rengo-soken.or.jp/dio/pdf/dio242.pdf
特にその最後の一節の、
>次に、政策決定のための制度について考えてみよう。政権移行期の現在、メディアは民主党が官邸主導の政策過程のための設置する国家戦略局(室)のスタートに注目をしている。また民主党は、各省庁に対して総計100人規模の国会議員を送り込んで、官僚主導体制を転換していくことも約束している。ここでも官僚との対決が前面に出ている。
しかし、思い返してみると、各省庁はこれまでの「支配の連鎖」をとおしてであれ、様々なかたちで民間の利益を汲み上げてきた。農業団体、医師会、建設業団体などの団体は、各々が担当省庁、担当部局と強くむすびついてきたし、審議会や私的諮問機関も活用された。かつて政治学では、このように族議員を介しつつ官僚制をとおして民意が集約されていく仕組みを、「日本型多元主義」と呼んでいた。
これに対して、政治家が官僚制を抑え込んでいくことが民主主義の成熟とみなされるのは、政治家が官僚制よりも、民意を広く、かつ歪めることなく集約していくことが期待されるからである。したがって、そのような新しい民意集約の回路がつくりだされなければならない。
近年のメディアでは、労働組合などの中間団体が民主主義にとって不純物であるかのように論じられることが多い。しかしそれは間違いである。中間団体がすべて溶解してしまって、有権者が巨大なひとかたまりのマグマのようになって流動化するというのは、民主主義のあるべきかたちではない。人々がそれぞれの抱える利益を確認し、反省し、そしてアピールする場としての中間団体は、民主主義に不可欠の構成要素である。
大事なことは、労働組合などが、透明度の高い政策形成のプロセスのなかで、堂々と討論に参加し発言していく場を得ていくことである。こうした回路の形成によって、政治家の民意集約能力が高まってこそ、新政権は「日本型多元主義」に置き換わる政治主導の民主主義を打ち出せる。後者の点では、連合総研でも新しい政策形成過程についての研究プロジェクトが立ち上がると聞いている。まさに時宜を得た研究主題といえよう。同時に、労働組合を含めた中間団体が、閉じた「利益集団」ではなく、開かれたアソシエーションとして、自ら多様な利益をまとめあげていく能力も問われる。この点で連合は、非正規労働者との連帯などをすすめ、利益集約能力を高めてきている。
政権交代は、このように労働運動にとって新しい課題を提示すると同時に、労働運動が市民社会のなかで地歩を得て強化されていく、新しい条件も提供していくのではないであろうか。
拙著『新しい労働社会』第4章の最後でおぼつかなげに述べた「ステークホルダー民主主義」を明晰に語っていただいていると思います。
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