ラスカルさんの拙著短評について
twitterで、kuma_asset(ラスカル)さんが拙著に対する端的な短評を書き残しておられるので、採録。
http://twitter.com/kuma_asset/status/3780370608
>濱口本について。表題にもなっている「(日本的)雇用システム」の定義と輪郭が、やや曖昧かつ画一的印象。
それは、もともと外国からの留学生向けの啓蒙的講義のためのメモですし、拙著もそこが中心のつもりではなく、あくまで政策論の書物の序論として最後につけた部分なので。本格的に論じたら序章だけで一冊の本になってしまいますが、それでは新書としてこの時期に出す意味がない。
http://twitter.com/kuma_asset/status/3780372052
>あと、最後の「啓蒙専制主義」と産業民主主義との対比し、前者を批判する姿勢。(リフレ派含む)経済系の議論では、啓蒙、専門知重視が頻繁に語られるが、このあたりが、この人の手続き(システム)重視の姿勢と対立する中心軸か。
これはきわめて重要なところ。
昨日の読売の記事で一番力説した点とも通じるところですが、市場主義者とマルクス主義者に共通する「俺様は真理を知っている。汝愚昧の輩は真理の前に跪け」という思想が、実は一番恐ろしい。「神の真理よりもこの世の利害」というのが、未だ生煮えのステークホルダー民主主義論の中核です。
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>「神の真理よりもこの世の利害」というのが、未だ生煮えのステークホルダー民主主義論の中核です。
素晴らしい。激しく共感します。
投稿: きはむ | 2009年9月20日 (日) 17時01分
「市場主義者とマルクス主義者に共通する「俺様は真理を知っている。汝愚昧の輩は真理の前に跪け」という思想が、実は一番恐ろしい」というのはまことに同感なのですが、「神の真理よりもこの世の利害」というのは、労働者の自己決定をどこまで認めるのかという難しい論点を含んでいますね。
たとえば、「お互いにこのまま働きたい、働いてほしいのに、派遣期間の上限が近づいてきたから泣き別れ、ということがあちこちで起きている。職場で働く派遣労働者やその上司、同僚にとっては、「直接雇用が本来」という建前よりも、日々の仕事と雇用、賃金のほうがはるかに大切なのに。」といったような草の根のデモクラシー?に対して、ステークホルダー民主主義がどのような解答を与えていくかというのは、なかなかの難問のように思えます。
私自身も労使自治を重視し、労働政策決定における三者構成原則を堅持する立場ですので、この困難な課題に何らかの寄与をなしたいものだと思ってはおります…なにができるというわけではありませんが。
投稿: 労務屋@保守おやじ | 2009年9月21日 (月) 16時53分
本書の中でも既に(非正規雇用者の問題との関係で)触れられていますが、代表者性の確保という点がこの「ステークホルダー民主主義」のもっとも難しいところで、「生煮え」の所以たるところだろうと思います。公労使だけでも難しいのに、消費者代表とか考えたらさらに難しくなる。現在の審議会でも、「消費者代表」とか選ばれる経緯なんて結構いい加減なんじゃないでしょうか。
また、(労務屋さんご指摘の点とも関係するかも知れませんが、)自己決定が可能な「私的領域」を確保しつつ、社会のルールは利害関係者の代表による討議で決定されるようなシステムを考えた時、「領域」の区分をどこにつけるか、という問題もでてきそうです。労働問題に関する審議会には、これまでの長い経験がありますが、その仕組みを社会のあらゆるところに拡大するとすれば、これまで以上にいろんな軋轢が出てきそうな感じがしました。
投稿: ラスカル | 2009年9月22日 (火) 00時46分
きはむさん、労務屋さん、ラスカルさんにコメントいただきました。
おそらく二つの異なる次元の話があって、第一の派遣労働者など非正規労働者については、産業民主主義という代表性の在り方自体は明確であって、問題は派遣労働者や非正規労働者を適切に代表する仕組みが現実には実現していない点に問題があるのに対して、産業民主主義を超える「生煮え」のステークホルダー民主主義になると、労使というような利害構造自体が必ずしも明確ではなく、消費者代表という概念自体に問題がはらまれているということではないかと思います。
前者については、読売の土曜日の記事で述べたように、
http://blog.goo.ne.jp/y21h31i51/e/f42b7773a82f903314b43abb446b7fd6">http://blog.goo.ne.jp/y21h31i51/e/f42b7773a82f903314b43abb446b7fd6
>派遣法見直しで難しいのは、派遣で働く人たちの利害を代弁できる労働組合が、全く無いわけではないものの、ほとんど存在しないことだ。
連合もその声を根っこから吸い上げているとは言い難い。
見直しに際しては、収拾がつかなくなるかもしれないが、いろいろな関係者を集めた円卓会議をつくり、一から議論し直した方がいい。
ということになるのでしょう。
後者については、EUでも「ソーシャルダイアローグからシビルダイアローグへ」という議論はありますが、一体誰に誰を代表する権利があるのかという肝心のところは曖昧な印象です。
投稿: hamachan | 2009年9月22日 (火) 09時19分