『ノンエリート青年の社会空間 働くこと、生きること、「大人になる」ということ』
中西新太郎・高山智樹編『ノンエリート青年の社会空間 働くこと、生きること、「大人になる」ということ』(大月書店)をお送りいただきました。ありがとうございます。
>寄る辺なき社会のなかに、新たな〈自立〉の形を模索する
引っ越し屋や自転車メッセンジャー、請負労働者、フリーター…。標準的ライフコースから外れた青年たちが、不安定な雇用と生活環境のもとで、なお「何とかやっていける」空間を自ら築こうとする姿を、綿密なフィールドワークにより描き出す。労働・生活・文化にわたる実証的研究を通じ、若者/青年研究をさらに深化する試み。
ということで、以下のような内容です。第1章から第5章までのフィールドワーク記録が読み応えがあります。
序章 漂流者から航海者へ
――ノンエリート青年の〈労働―生活〉経験を読み直す(中西新太郎・横浜市立大学教授)
第1章 専門学校生の進学・学び・卒後
――ノンエリート青年のキャリア形成ルートとしての意義と課題(植上一希・福岡大学講師)
第2章 自転車メッセンジャーの労働と文化
――四人の「ノンエリート青年」のライフヒストリーより(神野賢二・一橋大学大学院博士課程)
第3章 若者が埋め込まれる労働のかたち
――「生活者」としてのアイデンティティの獲得とその困難(山根清宏・東京都立大学大学院博士課程)
第4章 請負労働の実態と請負労働者像
――孤立化と地域ネットワーク(戸室健作・山形大学講師)
第5章 大都市の周縁で生きていく
――高卒若年女性たちの五年間(杉田真衣・金沢大学准教授)
終章 「ノンエリート青年」という視角とその射程 (高山智樹・一橋大学大学院博士課程)
この中ではやはり、当JILPTの内藤研究員も学生時代にやっていた自転車メッセンジャーの話(神野さん)が興味深いものです。東野、西川、南田、北山(いずれも仮名)という4人のメッセンジャーまでの遍歴、メッセンジャー文化の魅力と将来不安などがみごとに描き出されていて、感動的でした。
バイク便文化との違いを語る東野さんのこの言葉は、労働史的な深みが感じられます。
>一番違うのは、横のつながり。例えば、俺たち(東野さんと調査者)も違う会社じゃん。例えばバイク便で、こうやって違う会社で話すことは、まずないね。まぁ、・・・前の会社が一緒だったからとか、そういうのはあるけど、例えばイベントで知り合ったとか、そういうのは全然ない。コミュニティっていうの?こういうの。それが、まるっきり違う。たとえば俺たち、メッセンジャーバッグ背負って、海外に行くじゃん。そうすれば、海外のメッセンジャーが仲間として受け入れてくれる。たとえば世界戦の時にいきなり泊めてくれたりとか。世界戦じゃなくても、『お前日本人か?メッセンジャーなのか?』って言って泊めてくれる。それはもう、バイク便とは全然違うよ。だってほら、メッセンジャーだったら、違う会社でも、町で会ったら『おう』って手を挙げたりするでしょ。そのへんが、俺がメッセンジャーに惹かれた理由だね。一番。そう、横のつながり。ほかの会社のやつも受け入れるっていうか。あんまり排他的じゃないんだよね。
とはいえ、その東野さんも将来については、
>まぁ俺も歳といえば歳だけど(35歳)、50,60になって続けられるもんでもないから、そのへんどうしようかって言われると・・・・・またバイクにいくかもしれないし、ほかのことするかもしれないし、でもさしあたっては、借金があるわけじゃないから、ワーキングプアだろうがなんだろうが、働いてさえいればなんとか食えるから。いちばん怖いのは、突然の病気とかは怖いけど、保険とか・・・入院保険とかは入っているから。うん。まぁ、そうだな。不安といえば不安だけど、基本的には性格が楽観的だから。悲観的には・・・悲観的になったら何もうまくいかないから・・・。
労働基準局の通達は出されていますが、現実にはメッセンジャーは個人請負契約者(自営業者)として扱われているため、労働者としての労働社会保険に入っておらず、まさに怪我と病気は自分持ちの世界であるわけです。
こういう労働世界を、そんなメッセンジャーなんて妙な仕事は禁止しろ、といえば済むわけのものではないし、一つの価値ある労働文化として評価しつつ、それがまっとうな生活を持続可能な形で保障できるようにするにはどうしたらいいのか、という方向にものごとを考えていくべきなのでしょう。
山根さんの引越労働者の話も引き込まれます。たまたま最近、今から半世紀くらい前に日通がまとめた当時の引越労働者の実態調査みたいな報告を読む機会があって、それと比べながら読むとまた興味深いものがありました。
戸室さんの工場の請負労働体験記も、職場を超えたネットワークの姿が描かれる一方で、自ら経験した「暴力が横行する職場」の実態も描き出されていて、なかなか渋い味わいです。
本書の著者たちは、中西さんを除けばすべて1970年代生まれ、つまりすべて30代なのですが、まさに同世代者による同時代的研究というべきなのでしょう。
(参考)
http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2007/07/post_6ae7.html(ソクハイユニオン)
http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2007/09/post_57e9.html(バイク便ライダーは労働者!)
http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2008/11/post-5512.html(バイク便:労働者としての地位確認など求め初提訴)
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