こちらもお待ちかね、「夜明け前」水口洋介さんの書評
同じ労働関係ブログの「夜明け前の独り言」で有名な労働弁護士の水口洋介さんに、拙著を書評していただきました。
http://analyticalsociaboy.txt-nifty.com/yoakemaeka/2009/09/post-04bb.html
拙著のロジックを丁寧に追いながら、次のような「疑問」を提示しておられます。
>戦後日本社会で形成された「日本型雇用システム」は変容しました。一方では、「左右」を問わず「労使」を問わず、「終身雇用、年功序列賃金、企業内組合の『日本型雇用システム』が良い」という人々がいます。他方で、社畜を作り出した「日本型雇用システム」を克服したいと考え、「同一価値労働同一賃金の原則」に基づいた「新しい公正な雇用システムの構築」を主張する人々もいます。著者は、後者の論者として、八代尚宏教授だけでなく、後藤道夫教授や木下武男教授も発想は同じだと位置づけているようです。
著者は、上記のどちらでもなく、EUの労働規制を念頭におきながら、現実を踏まえた実施可能な制度を模索すべきだとしています。そして、派遣労働を禁止しても、派遣労働者は現状の不安定で低賃金の有期労働契約になるだけだと指摘し、有期労働契約の規制こそが必要だと提案します。もっともです。
有期労働者に均等待遇原則を適用することは大いに賛同できますが、しかし、雇用保障の部分は現状の規制よりも後退させて雇用終了(解雇・雇止めを含めて)については金銭的調整で処理しようことは賛同できません。
何故、金銭調整でなければならないのでしょうか。有期労働に雇用保障をすると、経営者は労働者を有期であってさえ雇わなくなるという「経済学」の影響でしょうか。それとも、均等待遇原則の導入のひきかえに、金銭調整を導入しないと経営者が譲歩しない現実論なのでしょうか。この点は著者には明確に理由が書かれていないように思います。
この疑問は、現在の判例法理(判例集に載った事例に適用された法理)を前提に考えるとまことにもっともです。ここで私があえて(労働側には評判が悪いであろうことが明かな)金銭解決を打ち出しているのは、金銭解決はだめで職場復帰という判例法理は、有期雇用の雇い止めについては事実上絵に描いた餅に等しい状態になっており、それにこだわって「現状の規制よりも後退」などというのは、圧倒的に多くの有期労働者にとっては、ほとんど無意味なものになってしまうという判断があります。ここは、裁判になって解雇権濫用の類推適用というアクロバティックな細道を何とかくぐり抜けた少数事例から考えるか、そうでない圧倒的大多数の事例から考えるかの違いではないかと思います。
その上で、やや戦略的な面では、経営法曹会議が有期雇用の雇い止めに金銭解決を、という提言をしており、これは「使える」、少なくとも現状の圧倒的大部分の有期労働者にとってはより有利な方向への変更に「使える」という判断から、ああいう政策提言になっているわけです。
ここは、正直言って、裁判の場で労働者の権利をいかに守るかという立場からものを考える労働弁護士である水口さんとは、どうしてもずれが生じてしまうところなのかな、とも思っています。
>そういえば、厚労省に有期労働契約の研究会が昨年立ち上がりました。そして、民主党政権になりました。有期労働契約が労働法制(労働契約法の改正)の問題として、近い将来、浮上してくるかもしれません。
政治的なアジェンダがこれからどうなるかはわかりませんが、派遣事業の禁止・規制の問題がひとしきり騒ぎになったあとは間違いなく有期労働の在り方が重要課題になっていくでしょう。私としては、そこに、経営側も呑める現実的な有期労働者保護政策をきちんとはめ込んでいくことが重要だと思っています。
ついでに言えば、これは民間よりも公共部門の非常勤職員の問題への解決の糸口として、かなりの意味を持ちうるのではないかとも思っています。
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