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2009年9月12日 (土)

きはむさんの拙著に対するコメント

きはむさんの「on the ground」で、拙著への「書評ということではないが」「備忘がてら思うところを書き留めておきたい」ということで、「ステークホルダー民主主義の射程」というエントリを書かれています。

http://d.hatena.ne.jp/kihamu/20090905/p1

実は、わたくし自身、「ステークホルダー民主主義」という必ずしも世の中に普及しているとは言えない表現をあえて拙著で用いる際、きはむさんからなにがしかのコメントがあるだろう、と思っておりました。

日本でこの表現を用いた例はあまりなく、労働法学者の毛塚勝利先生が早稲田のCOE関係の本に書かれた(すみません、いま手元になくて、題名が思い出せないのですが)論文で使われたこの表現は、また少し違ったニュアンスで使われています。

政治思想研究者であるきはむさんからすると、拙著における「ステークホルダー民主主義」という言葉の持ち出され方が、

>いわば産業民主主義の現代版として扱われている印象を受ける。それは決して間違いではないのだが、果たしてそのような解釈だけで十分かと言われれば、気安く是とは答えにくい面がある

と感じられるのは無理からぬものがあると思いますし、

>産業民主主義的な解釈に引きずられると、どうしても労働の現場に議論の対象が限定されてしまい、包括的な社会構成原理たり得るはずのstakeholder democracyの可能性が縮減されてしまいかねない

と苦情を呈したくなるであろうということも、実は書きながら考えておりました。

もちろん、拙著はそもそも「新しい労働社会」の在り方を構想しようというものですから、その外側のステークホルダーまで勘定に入れていないよ、というのは一つの答え方ですが、それにしても(これは岩波書店がつけた腰巻の台詞だとはいえ)「問われているのは民主主義の本分だ」とまで啖呵を切っているのですから、産業民主主義に限られない総合的なステークホルダーの民主主義はどうしてくれるんだ、という問いは不可避とも言えます。

その辺は、正直言って、あまり明確にできていません。たぶん、勘のいい人は気がついていると思いますが、最後の経済財政諮問会議のところで、

>むしろこういったマクロな政策決定の場に利害関係者の代表を送り出すことによってステークホルダー民主主義を確立していく方向こそが目指されるべきではないでしょうか。

 たとえば、現在経済財政諮問会議には民間議員として経済界の代表二人と経済学者二人のみが参加していますが、これはステークホルダーの均衡という観点からは大変いびつです。これに加えて、労働者代表と消費者代表を一人づつ参加させ、その間の真剣な議論を通じて日本の社会経済政策を立案していくことが考えられます

と、労働者代表と並んで突然消費者代表が飛び出してくるところに、産業民主主義とそれより広いステークホルダー民主主義のずれが露呈しているわけです。この小さな裂け目を追求していくと、「民主主義の本分」をめぐる大きな議論にもつながっていくのでしょう。

きはむさんは、また、

>濱口さんがベーシック・インカムの考え方に否定的なことは、やはり産業民主主義的なstakeholder democracy解釈と無関係ではないのかな、という気はする。

と、鋭く指摘されています。これもまた、第4章の議論を超えて、第3章の議論の構造にも関わる重要なご指摘だと思います。

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コメント

小生意気な拙エントリを採り上げて頂いてありがとうございます。御高著は大変興味深く、繰り返し読んで勉強させて頂くつもりです。

ご紹介の論文はおそらく、毛塚勝利「企業統治と労使関係システム――ステークホルダー民主主義論からの労使関係の再構築」石田眞・大塚直編『叢書 企業社会の変容と法創造 6 労働と環境』(日本評論社、2008年)、でしょうか。これはチェックできていませんでしたので、助かりました。ありがとうございます。

はい、それです。

「小生意気」どころか、大変鋭いところをついた書評をいただき感謝しています。
これからも引き続き、手厳しくお願いします。

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