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2009年9月22日 (火)

99年改正前には戻れない-専門職ってなあに?

先週毎日新聞に載ったこの記事の持つ意味が本当に分かっている人はどれくらいいるでしょうか。

http://mainichi.jp/select/wadai/news/20090913k0000m040110000c.html(派遣:大阪労働局が日生指導、「専門」実態は「一般事務」)

>派遣期限(最長3年)のない専門業務を行うとして派遣された労働者が一般事務が中心の業務に就いていたとして、生保大手の「日本生命保険」(本店・大阪市)が、大阪労働局から労働者派遣法に基づく是正指導を受けていたことが分かった。同社は「指導を真摯(しんし)に受け止めたい」とした上で、「労働者個別の問題。会社全体としては適正に労働者派遣を受けている」としている。

 派遣は本来、臨時的・一時的な労働とされており、労働者派遣法40条の2は、受け入れ期間を最長3年に制限している。しかし政令で定める専門業務はこの制限から除外すると規定。労働局は、専門業務以外の一般業務が就業時間の10%を超えていると判断した場合、違反があったとして是正指導している。また派遣期限を免れるため、専門業務の派遣を装う「業務偽装」の横行も指摘されている。

 関係者によると、同社の派遣労働者は子会社など3社から派遣され、ほぼ全員が「ファイリング」や「OA機器操作」など専門業務に就くとされる。今回、是正の対象となったのは本店で働く数人。「OA機器操作」など専門業務を行うとして派遣された。数人は約4年~1年勤務したが、今年3月ごろ「実態は一般的な事務作業」として大阪労働局に申告。労働局の立ち入り調査の結果、業務の中心が一般的な事務と裏付けられたため、4月中旬、是正指導した。

 日本生命広報室は「是正指導を受けたのは事実。一部の派遣労働者については業務内容を調査している」としている。

漫然と読み過ごしてはいけません。これは、日本で派遣法ができてから99年改正まで、ある意味では現在に至るまでずっと続いてきた核心的虚構をあっさり「嘘でした」とあからさまにしてしまったことなのです。

この点については、拙著『新しい労働社会』の第2章で、次のようにその経緯を解説しています。

> その無理が特に露呈していたのが「ファイリング」なる専門業務です。当時の産業分類にも職業分類にも、ファイリング業務なるものは見当たりませんし、当時の事務系職場において、ファイリング業務が専門的な知識経験を要する業務として特定の専門職員によって遂行されていたという実態にもありませんでした。実態から言えば、既に事務処理請負業として行われていた労働者派遣事業のかなりの部分が、当時オフィスレディといわれていた事務系職場の女性労働者の行う「一般事務」であったにも関わらず、それでは上記の対象業務限定の理屈付けに合致しないので、現実社会に存在しない「ファイリング」なる独立の業務を法令上創出したのだと理解するのが、もっとも事実に即しているように思われます。
 派遣法制定に尽力したマン・フライデー社長の竹内義信氏はその近著『派遣前夜』の中で、ファイリング業務について「図書館のファイリングシステムを例に出し、縦横斜めから求める本を探し出すためのシステムを構築するのは大変な能力を必要とするし、これは会社に於けるファイリングシステムも同じだと説いた」結果、対象業務に追加され、「法律が制定された後、このファイリングが思わぬ方向に展開した。幅広く捉えられ、このことによって派遣事業の発展に大きく寄与する結果になった」と回想しています。
 もっとも、男女差別の横行する当時の日本では、彼女らは日本的雇用慣行の外側の存在であり、OLが派遣になっても男性正社員に常用代替の恐れはないということであったのかも知れません。しかも、OL代替の事務派遣労働者はOL並の処遇を受けていました。上記竹内著は、「話が賃金のことに及ぶとその支給額の高さに「ホー」という声が漏れたのを覚えている。一般事務の賃金が、アルバイトの2.5倍であり、正社員雇用で働いている一般の事務員の給料と比較してもやや高いものであった」と自慢げに語っています。派遣の古き良き時代といえますが、それは専門職ゆえではなく、男女別雇用管理のゆえであったのです。
 この「無理」は、その後事務系職場でOA機器が一般的に使われるようになって徐々に解消していきました。派遣法制定当時には「事務用機器操作」はかなり専門職的色彩が強かったのですが、次第にワープロや表計算、プレゼンテーション等のコンピュータソフトを使いこなすことが一般事務の基本スキルとなっていったからです。こうして、かつては「ファイリング」という架空の専門職を称していたものが、今では実際に行っている「事務用機器操作」を名乗って派遣されるようになりました。ただし、24年前と同様にそれが「専門職」の名に値する業務であるかどうかは別の話です。

これがはじめから意図されたものであったことは、そもそも派遣法がすでに事務処理請負業という名称で行われていた一般事務の派遣事業を合法化するためのものであることから明らかであって、マンパワーにしろテンポラリーにしろ、別に図書館のファイリングシステムみたいなことをやってたわけじゃない。一般事務の派遣ができないのなら、彼らがそんな派遣法に賛成するはずがない。

はじめから「ファイリング」とか「事務用機器操作」という専門業務でございといいながら一般事務であることは関係者一同了解してやっていたわけです。

その虚構の上に85年から99年まで14年間にわたって派遣法を運営するという時代が過ぎて、ようやくネガティブリストによって、違法なことをやっている状態ではなくなったわけです。

99年にネガティブリストにしたのが諸悪の根源だ、99年改正前に戻せば幸福な時代に戻ることができるなどというのが幻想であることはおわかりでしょう。

このあたり、政治家もマスコミ関係者も、いや下手をすると労使関係者や学者までも、よく分からずに「登録型派遣は専門職限定にすべき」」などと口走っているのではないか、と危惧されてなりません。

いや、判って言ってるのならいいですよ(良くはないけど)。でも、専門職限定しても、今まで通り「ファイリング」やら「事務用機器操作」という架空の看板を掲げて一般事務の登録型派遣が続けられると思いこんでそういっているのであれば、それはもはや不可能になりつつあるということです。

上の毎日の小さな記事は、そういう意味を持った記事として読まれなければなりません。

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