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2009年8月23日 (日)

Yahoo掲示板ルート134さんの書評

Yahoo掲示板で、ルート134さんが拙著『新しい労働社会』について丁寧な書評をしていただいています。

http://messages.yahoo.co.jp/bbs?action=m&board=1835561&tid=l5edegia4nb8badfa4ka4da4a4a4f&sid=1835561&mid=7144

各章ごとにご意見を頂戴していますので、簡単にコメントしておきたいと思います。

>序章は、我が国の雇用構造を概観した記述です。
 概ね納得できますが、我が国の雇用構造の特徴が、我が国の就業が原則として「人に職をつける」ということに原因すること、及び我が国の労働組合のほとんどが企業別労働組合になったことは、二村一夫氏や野村正實氏が指摘されるように、我が国はヨーロッパと異なり同業組合(いわゆるギルド)がほとんどなく、産業(職種)別の労働組合につながらなかったことにも言及していただきたかったと思います。

ご指摘はまったくその通りですが、序章はそれ自体は政策論を論じた部分ではなくその前提になる部分ですので、政策を簡述した新書本という本書の性格上、歴史記述にあまり踏み込む余裕はなかったとご理解いただければ。

まあ、ご指摘の点をはっきり書いておけば、日本の労働組合をギルドだと決めつけた一知半解氏がその誤りを摘されて逆上した件の構造がくっきり浮かび上がったのでしょうが、そこだけ書くわけにもいきませんしね。

日本の労務管理の歴史的展開については、わたくしのホームページに自分なりにまとめたものがありますので、ご参考にしていただければと思います。

http://homepage3.nifty.com/hamachan/hrm.html

>第1章は、正規従業員の働き過ぎの問題について論じられています。
 いわゆる「名ばかり管理職」や「ホワイトカラー・エグゼンプション」についても、報道されているような残業代云々という問題ではなく、過大な労働時間から労働者をどうやって守るかという視点で論じられています。
 また、我が国では経営悪化や業務縮小による整理解雇には厳しい規制があるのに、労働者の個人的な事情による解雇については規制がないことの指摘もあります。
 目を引くのは、終業から次の始業までの時間である休息時間を連続11時間とする規制が提案されていることです。休息時間の確保規制については、電機労連(現:電機連合)の元中央執行役員、グローバル産業雇用総合研究所所長である小林良暢氏も、『なぜ雇用格差はなくならないのか』(日本経済新聞出版社)で指摘されています。濱口氏の問題意識は小林氏と共通しているようです。

小林良暢さんとは様々な点で問題意識が共通していると思っております。この休息時間の問題については、わたくし、小林さんに加えて、旧労働省出身で関東学園大学にいかれた田中清定さんも以前からその導入を主張しておられます。

>第2章では、いわゆる派遣労働者など非正規従業員の問題について論じています。いわゆる偽装請負問題については、戦前の工場法で定められた使用者責任や建設業に関する労働基準法第87条で定められた元請の労災保険料支払責任を、製造請負に関する規制のない現状と対比しています。
 派遣労働については、労働組合の労働者供給事業や臨時日雇型有料職業紹介事業と比較して論じています。
 私は、登録型派遣禁止や製造業派遣禁止に対する濱口氏の批判には、異議があります。なぜ直接の有期雇用に限定してはならないのかという説明がないからです。
 しかし、有期労働の規制や、有期労働者にも勤続期間に比例した待遇を義務付ける期間比例原則の導入には、私も賛同いたします。

派遣の問題は各方面から異論を頂戴しているところですが、「派遣が悪いから派遣を規制さえすればよい」という思考停止の恐ろしさを、政治家もマスコミ諸氏ももう少し意識してほしいという思いは変わらないところです。非正規の均等待遇については、そろそろ連合も本格的な動きが始まりますので、わたくしの提起も意味を持ってくるのではないかと思っています。

>第3章では、勤労貧困者(いわゆるワーキング・プア)問題から入り、生活給や職業教育訓練について言及されています。
 生活給の問題については、わが国で非正規従業員が増え、生活給の前提条件である内部労働市場から外部労働市場の時代に移っていることを考えると、生活給主義の維持は難しくなるでしょう。
 職業訓練については、濱口氏はヨーロッパの複線型教育制度を念頭に入れ、外部労働市場に対応することを考えていらっしゃるようです。しかし、産業構造の変化や雇用の流動化を進めようとすると、特定の職業教育を受けた人は却って不利になるのではないかという懸念が残ります。現にヨーロッパは我が国よりも失業率が高いのは、専門の職業教育による就職の硬直化と無関係ではないと思います。
 また、我が国の最低賃金がヨーロッパに比べて著しく低い現状が変わらない限り、職業訓練の効果は薄いという問題が残ります。

教育システムと職業教育の問題は、すでにcharisさんの書評でも取り上げられたように、重要な問題です。新書本という性格上あまり詳しく書いておりませんが、あくまでも「即戦力」というよりは長い職業人生に有用な基礎的職業教育という観点が必要なのだと思います。

>第4章では、労働条件の変更における労働者の代表組織の在り方について論じています。濱口氏は、現実の労働組合が正規従業員だけの組合である現実を認めたうえで非正規労働者を含めた労働者代表機関をどうするかについて、企業別組合に可能性を見出しているようです。しかし、私は、労働組合とは全く別の、設置義務及び議決権のある労働者代表組織を設けるべきでしょう。労働組合の設立は任意であり、複数の組合が乱立している場合、特定の労働組合が労働者を代表しているとは言えないからです。

これも、金子良事さんが全く別の視点から異論を唱えておられるように、まさにコントロバーシャルな点です。わたくしの議論は、本ブログでも書いたように、現実を踏まえてあえて矛盾する議論を提起しているところに特徴があります。

この点を簡潔に説明したエントリがこれです。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2009/08/post-ea62.html(迷跡目録さんの書評)

>濱口氏は労働法制の歴史と制度趣旨をきちんと踏まえたうえで労働問題を論じており、この本はお勧めできる本です。

このご評価は、まさにわたくしにとって我が意を得たりというべきものです。ありがとうございます。

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コメント

 皆さん、今日は。国道134号鎌倉です。

 濱口さん、私の書評をとりあげて下さり、ありがとうございます。光栄です。

>ご指摘はまったくその通りですが、序章はそれ自体は政策論を論じた部分ではなくその前提になる部分ですので、政策を簡述した新書本という本書の性格上、歴史記述にあまり踏み込む余裕はなかったとご理解いただければ。

 濱口さんの御事情について、承りました。
 我が国で産業別労働組合が育たなかった件につきましては、野村正實氏が1998年に岩波新書から出された『雇用不安』の83頁に書かれています。私は野村氏の岩波新書の記述を基に書いてまいりました。

>このご評価は、まさにわたくしにとって我が意を得たりというべきものです。ありがとうございます。

 どういたしまして。こちらこそ、大変勉強になりました。
 労働問題について高い次元の議論がなされることを期待いたします。

国道134号鎌倉様、わざわざ拙ブログにいらしていただき、ありがとうございます。

こういう質の高い書評をしていただける方々が多いことが、「労働問題について高い次元の議論がなされることを期待」する上で、もっとも力強い援軍です。

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