デンマークの労働事情とデンマークモデル
日本にはデンマークの労働問題、労使関係の専門家がいません。
先に紹介した厚生労働省の有期労働研究会でも、ほかの諸国はそれぞれの国の労働の専門家が出てきて説明しているわけですが、デンマークだけは大使館の人で、資料はEUのものでしたね。まあ、(経験上)大使館の人でも自分の国の労働事情がきちんと判っている人もいれば判ってない人もいるわけで、なかなかむずかしいところです。
日本にデンマークの専門家がいないのかと云えばそんなことはなくて、福祉関係ではデンマークというのはそれなりに人気のある国のようなんですが、例えば最近出たばかりのこの本にしても、アンデルセンの童話をモチーフにして、デンマークの福祉と教育がいかに手厚いかを縷々書き連ねてくれるのですが、それらと密接不可分なはずの労働についてはほとんど記述がなくて、とりわけ、今、世界的にデンマークというのはアメリカ並みに首切り自由な国だと宣伝されていて、だから(それ以外のことは全部切り落として)そこだけデンマークの真似をしようという議論がやたらにされているという状況など全然関知しないかの如く、「世界一幸福」なお話しだけで終わってしまうんですね。
こういう知的断絶状況というのはやはり大変問題があるといわざるを得ません。その隙間に、一般の日本人がデンマークの労働事情を知らないのをいいことに好き勝手なことをほざく変なのがうようよ入り込んでくるわけですから。
先日、OECDの『ベイビー&ボス』総合報告書の翻訳を出された熊倉瑞恵さんもデンマークの福祉が専門ですが、その辺のギャップを埋めていただきたいなと思っています。
今のところなかなか日本語で書かれたいいものがないのですが、これなんかはどうでしょうか。ちょっと古いですが、2003年に当時日本労働研究機構欧州事務所にいた林雅彦さんが書かれたレポートです。
http://www.jil.go.jp/mm/kaigai/pdf/20030314.pdf
特に労使関係に関するところは、フレクシキュリティを論ずる上では必読だと思います。
>デンマークの労使関係の歴史は極めて古い。1800 年代後半、すでに強力な労働組合、使用者組織が結成されていたことにより、非常に早くから、全国労使協約による葛藤の少ない労働市場を有する福祉国家の構築に成功したといえよう。
デンマークの労使関係の特質として、①労使及び政府の三者の協力体制が確立していること、②使用者団体及び労働組合が共に強力な組織で構成されていること、③基本的労働基準にかかわる部分まで労使協約により公権力の介入なく決定されるシステムとなっていること、の三点が挙げられる。
①と③の関係について説明を加えれば、労働分野における課題は、労使及び政府の三者の協力により解決されることを原則としつつ、労使が独自に問題を解決できる限りにおいては、基本的に政府は労働条件に関しては法律による規制をしない点にある。むしろ、法律の形で規制が及ぶ分野は、財政支出が絡む問題(職業紹介、職業訓練、失業保険制度等)、及びごく一部の労働基準に係る部分(労働環境分野)に概ね限定されているといえる。ただし、これらの分野についても、労使協定が及ぶことは言うまでもない。
また、法律により労働分野に規制などが及ぶ場合においても、法案の国会審議・採決に先立ち労使両者のヒアリングにかけられ、三者の協力体制を重視する。
労働組合の組織率が際立って高いことも、デンマークの労使関係における一つの特徴といえる。被用者の労働組合組織率は約75%となっており、先進国の中でも際立って高い水準といえる。
前述のとおり、労使協約は、基本的労働条件をはじめ、労働分野の大部分について最低限の水準を定めるものとして特に重要である。政府の介入なしに、労使で賃金、労働時間を始めとするあらゆる労働条件を決定するため、通常労働法に係る分野についても最も重要な「法源」としての役割を担っており、その点他の欧州諸国とは際立った違いを示しているといえる。
ただし、協約に署名する当事者たる労使団体がそれぞれすべての使用者及び被用者を組織しているわけではないので、労使協約の内容が未組織者に対してどのように適用させるかが問題となる。そこで、使用者団体に未加入の使用者に対しても原則として「任意の労使協約」を締結し、当該分野における労使協約に準じることが義務として課されている。
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