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2009年8月 8日 (土)

荒木尚志『労働法』

L14407 荒木尚志先生から大著『労働法』(有斐閣)をお送りいただきました。

http://www.yuhikaku.co.jp/books/detail/9784641144071

>労働契約法等の労働立法の展開と労働関係の特質を踏まえた新体系による待望の書。最先端の学説状況と裁判例の的確な分析に基づき安定した解釈論を提示するとともに,今後の労働法政策をも展望。体系の骨格部分と展開的議論の2段階叙述とし,幅広い読者に応える

構成上の特徴は、下の目次にあるように、個別的労働関係法を労働保護法と労働契約法に二分していることです。また、最近の菅野名著や水町先生の本のように紛争処理を第4分野としてあえて立てることなく、個別紛争処理は労働契約法に、労働争議と不当労働行為は集団的労働関係法に入れている点も、私にはむしろ適切と思われました。

第1部 労働法総論
  第1章 労働法の形成と展開
  第2章 労働関係の特色・労働法の体系・労働条件規制システム
第2部 個別的労働関係法
  第3章 個別的労働関係法総論
 第1編 労働保護法
  第4章 労働者の人権保障(労働憲章)
  第5章 雇用平等,ワーク・ライフ・バランス法制
  第6章 賃 金
  第7章 労働時間
  第8章 年次有給休暇
  第9章 安全衛生・労働災害
 第2編 労働契約法
  第10章 労働契約の基本原理
  第11章 雇用保障(労働契約終了の法規制)と雇用システム
  第12章 労働関係の成立・開始
  第13章 就業規則と労働条件設定・変更
  第14章 人 事
  第15章 企業組織変動と労働関係
  第16章 懲 戒
  第17章 非典型雇用
  第18章 個別的労働紛争処理システム
第3部 集団的労働関係法
  第19章 労働組合
  第20章 団体交渉
  第21章 労働協約
  第22章 団体行動
  第23章 不当労働行為
第4部 労働市場法
  第24章 労働市場法総論
  第25章 労働市場法各論
  第26章 雇用システムの変化と雇用・労働政策の課題

全体としてまさに大家の風格を漂わせる筆致で論述が進んでいきますが、一カ所、荒木先生の素顔がちらりと顔を出しているところがあります。「第7章 労働時間」の「第5節 労働時間の概念と算定」の「Ⅲ 労基法上の労働時間概念」です。荒木先生の上品な記述をあえて下品に翻訳すると、

>コラァ、最高裁判例の指揮命令下一元説はまちがっとるぞ、俺の相補的二要件説をもういっぺん勉強し直せ!

という気分がにじみ出る記述になっております。詳しくは本書162頁から165頁をどうぞ。

ちなみに、指揮命令一元説の矛盾は、先日来本ブログで取り上げている奈良病院事件の「宅直」の労働時間性の問題でいよいよ露呈してきたと私は考えています。

荒木先生の雇用システム論は、第11章(雇用終了法制)の冒頭と、第14章(人事)の冒頭、第17章(非典型雇用)の冒頭で少しずつ論じられたあと、最後の第26章でやや突っ込んだ議論がされています。その最後の節「多様化した労働者と雇用システム」の最後のパラグラフを紹介しておきます。

>労働者の多様化に対応して労働法規制の在り方も多様化していくこととなる。しかし、これが法規制の単なる複雑化をもたらすのでは問題である。労働者が労働の現場で自己の権利を明確に認識し、その履行を確認でき、実効性が確保される、そのような仕組みの再構築が要請されている。そしてどのような雇用モデルを選択してもそれがディーセント・ワークであり、公正さの確保された働き方であることを労働法は保障しなければならない。伝統的な手法が不要になったのではなく、伝統的手法だけでは多様化し複雑化した労働関係の全般についてディーセント・ワークを確保できなくなっていることに対処する必要がある。しかし、この問題に正面から取り組もうとすると、事態は使用者と労働者の利害の対立といった単純な図式でとらえきれるものではなく、株主と使用者(経営者)の対立、正規従業員と非正規従業員の対立、労働者の性別や世代間の対立、そして国境を超えた企業間、労働者間の利害対立など、きわめて多様かつ輻輳した関係者の利害調整問題をはらんだ困難な作業を必要とするものである。その意味で、労働法の任務は、かつてよりはるかに広範に、複雑に、そしてまた困難になっている。しかし、こうした困難な課題に新時代の労働法は取り組まざるを得ないし、これと真摯に向き合うことによって初めて、働くことに人々が幸せを実感時間できる社会を実現することも可能となろう

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コメント

>幸せを時間できる
「実感」ですね。
「時間できる」にも意味を感じますが。

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