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2009年8月13日 (木)

従業員の能力は陳腐化・・・してますよ、半世紀前から

日経BizPlusの丸尾拓養氏の連載、今回は「従業員の能力は陳腐化しないのか」というのですが、

http://bizplus.nikkei.co.jp/genre/jinji/rensai/maruo2.cfm?p=1

>勤続年数を経るに応じて経験を積み、その経験は仕事に活かされます。しかし、これは、経験が「物を言う」仕事であり、かつ経験に基づく能力が陳腐化しないことを前提としています。事業における技術変革や職場におけるIT化にもかかわらず、従業員が積み上げてきた能力は評価されなければならないものなのでしょうか。

それは、もう半世紀前から議論されてきている日本労務管理史上古典的テーマなんですが。

>高価なパソコンを独占しているにもかかわらずワープロソフトすら使いこなせない管理職を見て、若年労働者は疑問を抱き始めます。「この部長は本当に能力があるのだろうか」「パソコンも使いこなせない課長よりも自分の方が仕事ができるのではないか」と、毎日のように悩みます。社内のイントラネットやインターネットなどの技術が進み、電子メールで情報が流通するようになると、むしろ若年労働者の方が「情報強者」となります。 

 ここに勤続年数が長い者が能力も高いという「幻想」は、簡単に崩れていきます。社内に知り合いが多いとか、昔の取引先とのつながりで仕事をとってくるといった「能力」は、その正体を露呈し、かつ評価されなくなります。「オープン」「透明」「公正」さらには「コンプライアンス」といった標語の下で、能力についても客観的に評定され、それが処遇に結びつくようになります。

半世紀前に「職務給」が日本の労務屋さんと組合屋さんの最大の争点として議論されていたのも、まさに(当時はITじゃないですが)技術革新の中で、とりわけ若年労働者から年功賃金に疑問が提起されてきたからであって。

今からほぼ半世紀前に書かれた昭和同人会『我が国賃金構造の史的考察』の序論に曰く、

>技術革新が進行するにつれて、企業側が需要する労働力の質的内容は従来のものとはだいぶ違ったものになってきている。すなわち、従来の永年勤続者の習熟型技能が陳腐化し、むしろ新しい学校卒業者の知識と適応力が需要されてきた。しかも若年層の労働市場が逼迫してくるにつれ、その賃金水準も漸次高めざるを得なくなってきている。また若年層の労働者意識が高まってきており、その面からも、従前のような低賃金で雇用されて年齢、勤続の増加に伴って高賃金へ移行していく年功序列的な賃金体系に不満を抱くようになってきたといわれる。要するに年功序列型あるいは生活給的賃金体系の基盤をなしていた旧来の年功的技能秩序は、技術革新の進行につれて漸次崩壊せざるを得なくなってきており、その解決策の一環として職務給の問題へと志向するようになったものといえる。

こうして、1960年代は政府と経営側が同一労働同一賃金原則に基づく職務給を掲げ、労働側が中高年の賃下げにつながるとそれに反発するという構図が続いていたのですが、実はその背後で企業の人事労務の現場から職務給への反発が吹き出していき、それが「職能給」という形をとったあと、石油ショック後はむしろ日本型雇用慣行が全面的に正当性を受容されるようになっていくというのがこの間の経緯ですから、丸尾氏のお話は、すごいデジャビュの世界でもあるわけです。

その辺のいきさつをごく簡明に伝えるというのも、拙著の一つの目的ではあります。

(ついでに)

金子良事さんの言うように、拙著序章は既存の議論のまとめに過ぎないのですが、できれば、同じく既存の議論のまとめ的な晴山さんの本とかじゃなくて、原典である昭和同人会の上の本とか、孫田良平さんの本とかを示して、「お前の言っていることは、労働省の大先輩が言ってることを要約しているに過ぎない」といって欲しかったですね。

ついでに言うと、金子美雄、孫田良平といった官庁賃金屋の議論とともに、田中博秀さんの日本的雇用論が私の議論のベースです。それは読む人が読めばすぐ判ることですが。

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コメント

若い世代で、金子美雄、孫田良平、田中博秀さんの著書を読む人はいないでしょう。私の世代でも少ないと思いますので。最近の研究書などより、こうした本を読むべきですね。

さらに昭和同人会はほとんどが知らないでしょう。私の大学院時代でも古本で高価でしたので、今はさらに入手が難しいかもしれませんが。

わざわざコメントいただき恐縮です。

確かにそうでしょうね。私の世代でも絶滅危惧種です。
そもそも存在を知っている人が絶滅危惧種かもしれません。

『我が国賃金構造の史的考察』とか『年功賃金の歩みと未来』は賃金の歴史に興味のある人は今でも読んでいると思います。

ただ、この二冊は原史料的なものも含まれているものの、議論自体のオリジナリティはそんなにないと考えてます。ただ、にもかかわらず、明治期についての丹生谷さんの解釈(能力給説)が年功賃金論の枠組みを引っ張った藤田若雄説(生活給説)と対立的なところがマニアには面白いでしょうか。また、資料という点に引きつけていうと、このグループの最大の学術的貢献は労働運動史料委員会『日本労働運動史料第10巻統計編』ですね。

金子美雄先生の書かれたもののうち、活字になったもので面白いのは、戦時期に書かれたパンフレット。口述も含めれば『賃金』に入ってるものですね。学術的なものはほとんど書かれてません。読むなら、賃金のインタビューです。孫田先生については学術的な意味でも「戦時労働論への疑問」が最高だと思います(濱口先生とは最初お会いしたとき、お話しましたが)。ただ、孫田論文の面白さは要約できるような部分ではなく、今回のように細部の話だと思ってます。あの論文自体、孫田先生の識見を要約しているようなものです。

というわけで、当該議論は、晴山さんの本では核ですが、孫田先生の議論などでは必ずしも(少なくともその魅力の)核ではない、という認識です。田中さんのものは不勉強で読んでません。すみません。

問題はこうした著作が歴史研究者にしか読まれない点です。
金子さんの周辺の研究者が読んでいるのは当然ですが。

こんばんは。金子美雄さんの本は今でも売っているのでしょうか?

現在はすべて新刊では売られておらず、中古本となるようです。

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