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2009年7月24日 (金)

今年の経済財政白書

昨年は「日本人はもっとリスクとれ!ゴラァ」と叱咤したとたんに、サブプライム危機がどっと押し寄せるという皮肉な展開となった経済財政白書ですが、今年はどうだったのでしょうか。

本日の閣議に、平成21年度年次経済財政報告、通称「経済財政白書」が提出されました。

産経新聞の記事をみると、

http://sankei.jp.msn.com/economy/business/090724/biz0907241059009-n1.htm【経済財政白書】格差拡大「非正規雇用の増加が主因」

>林芳正経済財政担当相は24日の閣議に、平成21年度の年次経済財政報告(経済財政白書)を提出した。白書は非正規労働者の増加によって「賃金、家計所得の格差の拡大傾向が続いている」と指摘し、格差の拡大傾向を明確に認めた。白書はその原因を「非正規労働者の増加」としており、高齢者だけでなく、若年層にも効率的に所得を再分配する制度が必要と結論づけている。

 白書を作成した内閣府は、所得格差を示す代表的な指標である「ジニ係数」を分析した。その結果、雇用者のジニ係数は昭和62年以降は一貫して上昇。直近のデータがある平成19年も高水準で推移していた。

 さらに白書は昨秋以降の世界的な景気後退に伴い「『派遣切り』などの形で雇用調整が行われた」と非正規労働者の雇い止め問題を指摘。実際に5月の完全失業率は5・2%と急速に悪化しており、内閣府は「仮に20~21年のジニ係数を推計すれば格差はかなり拡大しているだろう」(幹部)と失業者の増加が格差の拡大を加速させることに懸念を示している。

 こうした状況を受け、格差拡大の要因についても「非正規雇用の増加が主因」と言い切った。1~3月の非正規労働者は全雇用者の3分の1を占めている現状を踏まえ、「正規と非正規との間には生涯所得で約2.5倍の格差がある」とのデータをあげ所得格差を問題視している。

 さらに、非正規雇用が増加した背景として初めて、高齢化以外に「労働法制の改正」を原因にあげた。麻生政権はこれまで「小泉構造改革」で生じた“ほころび”の修復を掲げてきたが、白書の表現ぶりは「行き過ぎた規制緩和が格差拡大を助長した側面もある」と暗に認めた形だ。

 来月の衆院選では自民、民主両党とも「格差の固定化」を防ぐため、低所得者に配慮した「給付付き税額控除」などの施策をマニフェスト(政権公約)に盛り込む方針で、今回の白書は格差をめぐる議論の根拠にもなりそうだ。

 一方、白書は今回の景気後退について「過去にない『速さ』『深さ』で、『長さ』も過去の平均に達した可能性がある」と指摘。「(2007年までの)米国の景気拡大はバブルの要素を含み、わが国の収支改善も制約される」として日本の景気がピーク時の水準に戻ることは難しいとの見方を示した。その上で個人消費を中心とする内需と輸出など外需の「双発エンジン」で回復する姿が望ましいと結論づけている。

内閣府のHPには、まだ白書の全文はアップされていませんが、説明資料というのが3つのPDFファイルに分けてアップされています。

http://www5.cao.go.jp/keizai3/whitepaper.html

第1章が「急速な景気後退に陥った日本経済」、第2章が「金融危機と日本経済」で、まあ私にあれこれコメントする資格はあまりないでしょうから、第3章の「雇用・社会保障と家計行動」だけ見ていきますと、

http://www5.cao.go.jp/keizai3/2009/0724wp-keizai/setsumei03.pdf

まず、第1節の労働市場の構造変化と家計行動のうち、「非正規雇用化が進んだ労働市場」として、

>•非正規雇用者はすう勢的に増加し、その比率は3分の1に上昇した。2002年から2007年にかけて、製造業などで、正社員を削減し、派遣社員を増加させる動きが目立った。

•派遣社員等の非正規雇用者は失職のリスクが高いなど大きなリスクに直面している。

•2000年以降、失業給付受給者の伸びが失業者数の伸びを下回るなど、セーフティネットのあり方につき注意を要する点も見られる。

と、適切なことをいっているように見えます。

次に「雇用形態の変化と家計」で、

>•非正規化の動きは、先進国で共通の動きであるが、雇用保護規制が厳しいと、非正規雇用への依存が高まる傾向にある。もっとも、我が国は雇用保護規制の度合いは緩めであるが、非正規化が進んでいる。

•雇用保護規制が厳しい国では、平均失業期間が長期化する傾向がある。

•我が国のデータによると、世帯主が非正規雇用者の場合、家計貯蓄率が相対的に高くなる傾向がある。

ここは、原文で何をどういっているか要チェックですが、「我が国は雇用保護規制の度合いは緩めであるが、非正規化が進んでいる」というのは、なかなか重要な点ではないかと思います。解雇規制が厳しいから非正規が増えるんや、解雇自由にすればみんなハッピーや、という単純なロジックでスパスパ切れるわけではないと、内閣府さんも認めざるを得ないようです。

次の「雇用形態の変化と雇用調整」では、

>•非正規雇用比率が高まるほど、雇用調整速度は速くなり、解雇規制が強いほど、雇用調整速度は遅くなる傾向が見られる。

•多くの国で、非正規雇用の増加や雇用保護規制の緩和により、経済にショックが生じたときの雇用調整が速まっている。我が国の雇用調整速度は国際比較の観点からは依然低い。各国で雇用調整が進む中、GDPの減少率との対比で失業率の動きを評価すると、我が国はドイツ等よりは調整が早いが、アメリカ等と比べ遅いようである。

第2節の「賃金・所得格差と再分配効果」の、まず「賃金・所得格差の現状」では、

>•賃金、家計所得(再分配前)の格差の拡大傾向は続いている。

•賃金格差の拡大には、非正規化が寄与したと見られるが、家計所得に関しては、引き続き高齢化等の人口動態要因が格差拡大方向に寄与している。

といいつつも、

次の「景気後退と所得格差」では、

>• 所得格差拡大や相対的貧困率に対し、失業の増加は大きな影響を与える。失業を加味した所得格差を見ると、景気回復局面で格差は縮小した。

•長期失業はキャリアの中断により中長期的な賃金格差の拡大につながる。景気回復こそが最大の格差対策であると考えられる。

と、正しいことを言っていますね。

さらに、「税・社会保障による所得再分配」では、

>• 所得再分配が格差縮小に果たす役割は高まっている。税については再分配機能が低下しているが、高齢化の影響から社会保障による再分配は見かけ上、高まっている。

• 再分配の様子をやや詳しく見ると、高齢者以外の年齢層では再分配後もほとんど格差は変わらない。再分配効果が低下する中で、公的年金中心の現行の再分配制度は現役世代の格差是正という観点からは限界がある。

と、きわめて適切な指摘に踏み込んでいます。そういうことをもっと前から書いていればよかったんですけどねえ。

第3節の「不確実性、社会保障制度と家計行動」では、まず「家計を取り巻く不確実性と貯蓄」で、

>• 家計の貯蓄動機を尋ねると、「病気などへの備え」「老後の生活資金」と答えるものが多い。

• 我が国のマクロ貯蓄率はすう勢的に低下してきた。これは高齢化の影響が大きく効いており、その要因を除くと2000年以降緩やかな上昇傾向となっている。実際、30歳代、40歳代に着目すると、貯蓄率は上昇傾向にある。

• 雇用環境の不透明さが貯蓄率の上昇に寄与している可能性がある。

と、(昨年の経済財政白書みたいに「リスクとれぇ」といわれても)そうリスクをとれない状況にあることを指摘しているようです。

次の「社会保障制度の現状と国民の意識」では、

>• 国民経済に占める社会保障給付の割合は、高齢化等のため一貫して増大してきている。これは先進国共通であり、各国で給付の抑制等を通じて制度の持続可能性を高めるための改革が進められている。

• 我が国の世論調査によれば、現在の社会保障制度に対する国民の満足度は必ずしも高くない。一方、欧州における年金への信頼に関する世論調査を見ると、北欧諸国など信頼感の高い国もあるが、ドイツ、フランスなどは信頼していない者が非常に多くなっている。

うーむ、これはどういう趣旨なんでしょうか。

最後の「社会保障制度と家計貯蓄」で、

>• 年金に対する信頼感が高い国ほど、高齢化要因を調整した貯蓄率が低い傾向がある。

• 一方、我が国のデータからは、老後の生活不安や年金に対する不安が、老後の必要貯蓄額を引き上げるという関係が確認できる。また、医療費の負担増への不安が強い家計は、消費を抑制気味になるという結果も得られている。

• 社会保障制度に対する国民の信頼感を高めていくことが、過剰な貯蓄を削減し、個人消費の下支えに資すると期待される。

年金への信頼感を高めましょう、ということ?

最後のむすびの中から、この第3章に対応するところを引っ張り出すと、

>最後に、雇用の保護、所得再分配による格差是正が重要だ、という主張はどうか。賃金、家計所得の格差は、非正規化や高齢化等から緩やかな拡大傾向が続いてきた。しかし、やや詳しく分析すれば、以下のような見方も可能である。

第一に、失業は、賃金として受け取る所得がゼロであることを意味する。景気後退によって失業が増加すれば、それを加味した賃金格差は拡大、貧困率は上昇する。したがって、「景気回復は最大の格差対策」である、ということができる。また、就業形態の多様化は、需給のマッチングが効果的に行われる場合、失業を低下させる要因ともなる。

第二に、特に失業期間の長期化は、人的資本の損耗をもたらし、中長期的な賃金格差の拡大につながることである。それゆえ、失業者に対するセーフティネットの拡充とともに、訓練や就業への誘因を高める仕組みが求められる。また、一般に、雇用保護規制の厳しい国ほど、平均失業期間が長くなる傾向が示唆された。我が国は先進国の中では必ずしも厳しいというわけではないが、規制のあり方を考える際には重要な視点である。

第三に、所得再分配による格差改善効果は、年々、高まってきている。だがこれは、高齢化によって現役世代から高齢者への購買力の移転が増えたことによる。このことは、社会保障に対する国民の信頼感を高めることにはつながらなかった。現役世代がこうした信頼感を持てるようになれば、老後の必要貯蓄額を引下げ、消費の下支えにも資すると考えられる。

大きな所得変動リスクを抱えている非正規雇用者へのセーフティネットの充実などを含め、上記の諸課題の克服に取り組むことで、安心社会に立脚した景気回復の姿を展望することがきよう。

なかなか読み解くのが難しい文章ですね。言いたい本音を無理にねじ曲げたような跡がいくつも見られます。おそらく、与謝野大臣の「安心社会」路線に沿って書かなければならないという組織論的制約と、昨年の白書に見られるような執筆担当者のネオリベラルな本音とが絡み合って、こういうやや意味不明的な感じの漂う文章になったのではないかと推察されます(間違っていたらごめんなさい)。

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