呉学殊さんのコミュニティユニオン研究
JILPTのHPに、呉学殊さんの『労働紛争発生メカニズムと解決プロセス―コミュニティ・ユニオン(九州地方)の事例―』がアップされました。
http://www.jil.go.jp/institute/reports/2009/0111.htm
>近年、個別労働紛争が増加しています。以前から個別労働紛争の解決に取り組んできたのが企業の外に組織されている労働組合であり、その代表といえるのが「コミュニティ・ユニオン」(地域社会に根をもった労働組合として、パートでも派遣でも、外国人でも、だれでも1人でもメンバーになれる労働組合)です。
本調査研究では、個別労働紛争の解決・予防において、コミュニティ・ユニオンがどのような役割を果たしているのかを明らかにするために、九州地方の3つのコミュニティ・ユニオンと組合員に対するヒアリング調査(19事例)を実施しました。
この結果、紛争の予防・解決におけるコミュニティ・ユニオンの存在意義として下記のような知見が明らかになりました。
(1)コミュニティ・ユニオンは、紛争に巻き込まれた労働者の慰め役を担っている。
紛争を抱えている労働者は、どうすればいいのか分からず、自分の主張が認められないことに対する焦燥感や虚脱感を持っている。その時に、親身になって相談に応じるユニオンの存在そのものに対して、多くの労働者は「ありがたい」「救われた」との感謝の意を表し、紛争当事者は沈着に紛争解決に向かうことができる。このような機能を担う機関は他にはなかなか見当たらない。もちろん、解決能力は高い。
(2)コミュニティ・ユニオンは、労働者の尊厳を取り戻し、紛争当該労働者が再び仕事に戻り、頑張ろうとする蘇生力を与えている。
労働者は自分の主張がユニオンにより認められ、納得のいく形で紛争が解決すれば、意欲を持って次の仕事に取り組んでいくことができる。
(3)コミュニティ・ユニオンは団交の際に紛争の発生につながった会社の人事・労務管理・コミュニケーションの問題を指摘する。
会社が指摘を前向きにとらえることが出来れば、人事・労務管理・コミュニケーションの改善、紛争の予防にもつながるだけではなく、労働者の労働意欲を高めることにもつながる。
(4)どの企業・組織も少なからぬ労働紛争の種をもっている。
企業は、企業内労働紛争をもっぱら抑え込むべき回避の対象とみなさず、働き甲斐のあるよりよい職場環境を作るきっかけと前向きにとらえてもいいのではないか。コミュニティ・ユニオンは、企業の外から、そのような機会を提供しているといえる。
呉さんの研究については、本ブログでもいままで、
http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2008/10/post-d597.html(働く者の尊厳を取り戻す労働組合活動)
http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2008/11/post-657b.html(個別労働紛争相談は成長産業?)
などで紹介してきましたが、その決定版ということになります。
わたしは実は、コミュニティユニオンの個別紛争解決における活躍ぶりはたいしたものであるという認識とともに、それはそもそも労働組合法が予定する労働組合の機能とはいささか違うのではないかという考えもあります。
その点については、最近の『POSSE』第4号のインタビューの中でもちらりと触れていますし、
>ですがそれは横から突っついているだけです。私の労使関係のイメージは割と古典的で、現場レベル、職場レベルでものごとを規制できなかったらしょうがないというものです。そこで現に働いている人たちがそこのルールを作っていくべきだと思っています。
来週発売される『新しい労働社会-雇用システムの再構築へ』(岩波新書)の第4章のテーマでもあります。
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