だから、日々紹介はもともと労供なんですって
首領様、将軍様じゃない方の『労働新聞』の最新号(7月27日号)に、「有料職業紹介 常用を「日々紹介」と偽る――栃木労働局が職安法違反で指導」という記事が載っています。
http://www.rodo.co.jp/periodical/news/7202737.php
>ホテルに配ぜん人を「日々紹介」していた有料職業紹介事業者3社が、栃木労働局(安藤俊一局長)から職業安定法違反で是正指導を受けていたことが関係者の話で分かった。同3社は紹介状の発行など書面上の手続きがないにもかかわらず、数年にわたり日々紹介を実施し、求人受付手数料などを徴収し続けていた。賃金が間接払いだったため、労働者供給事業に当たる疑いもある。
これを見て、私の主張をご存じの方はニヤリとしたと思います。だって、そもそも看護婦家政婦とか、マネキンとか配膳人といった臨時日雇型の有料職業紹介事業というのは、ビジネスモデルとしては労働者供給事業、登録型派遣事業とまったく変わりのないものを、法形式の上でだけ職業紹介という形にしたものだからです。そうした理由は大変簡単で、占領下で労供を認めるなどまかりならんという時代だったから、有料紹介ということでくぐり抜けたから。
形を整えるために、毎日紹介して毎日雇い入れてます、それ故に毎日紹介手数料を払ってくださいね、という風に(就業の実態とはかけ離れた形で)やってきた、こなければならなかったものを、怠けたことを咎められたということなのでしょうが、そもそもビジネスモデルの本質と異なった法形式をいつまで続けなければならないのか、という問題の建て方もあるはずですね。
世の中には、派遣はけしからん、労供なんてもってのほか、と息巻く方々はたくさんおいでなのですが、それとまったく同じビジネスモデルが表面だけ違う法形式を身に纏うと、とたんに無関心になるようで、臨時日雇型紹介事業を同じぐらいけしからんという人は見かけたことはありません。これも不思議なことではあります。
(参考)
http://homepage3.nifty.com/hamachan/gakkaihoukoku.html
>もう一つ、実態として極めて登録型派遣に近いのが、家政婦、マネキン、配膳人といった臨時日雇い型の有料職業紹介事業です。これらにおいても、求職者は有料職業紹介所に登録し、臨時日雇い的に求人があるつど就労し、終わるとまた登録状態に戻って、次の紹介を待ちます。ところが、こちらは職業紹介という法的構成を取っているため、就労のつど紹介先が雇い入れてフルに使用者になります。実態が登録型派遣と同様であるのに、法的構成は全く逆の方向を向いているのです。これは、占領下の政策に原因があります。
もともと、これらの職種は戦前は労務供給事業で行われていました。ただし、港湾荷役や建設作業のような労働ボス支配ではなく、同職組合的な性格が強かったと思われます。ところが、これらも職業安定法の労働者供給事業全面禁止のあおりを受けて、弊害はないにもかかわらず禁止されてしまいました。一部には、労務供給業者が労働組合になって供給事業を行うケースもありました(看護婦の労働組合の労働者供給事業など)が、労働組合でなくてもこの事業を認めるために、逆に職業紹介事業という法的仮構をとったのです。
しかしながら、これも事業の実態に必ずしもそぐわない法的構成を押しつけたという点では、登録型派遣と似たところがあります。この関係で興味深い裁判例として、日本土地改良・日本エアロビクスセンター・東横配膳人紹介所事件(東京地裁昭62.1.30労判498-77)があります。配膳人紹介所から「紹介」されて就労していた労働者が就労先の事故で死亡したことについて、紹介所の安全配慮義務違反を理由に損害賠償を求めた事案で、「被告東横は・・・雇用関係の成立を斡旋したに過ぎないものといわざるをえず、亡茂及び被告滝本と被告東横の間に雇用契約が成立し、あるいはその間に実質的に見て雇用関係と同視しうるような支配関係が存在したものと認めることはできない」とその請求を退けました。これは法律の規定からして当然でしょうが、むしろこういう訴えを起こしたくなるような実態が「紹介所」と「紹介」労働者の間に存在していたことを物語っています。それはまさに労働組合の労働者供給事業や登録型派遣の場合と同様のメンバーシップ関係であったと思われます。
最近の浜野マネキン紹介所事件(東京地裁平20.9.9労経速2025)は、「紹介所」といいながら、紹介所がマネキンを雇用して店舗に派遣したという事案です。こちらは、実態の姿に即した形で法律関係を形成していたようで、それを前提にして解雇予告手当の支払いを求めた原告に対して、就労停止の告知は解雇予告に当たらないとしてその請求は認めず、その代わりに紹介所の責めに帰すべき事由により就労できなかったことを理由として賃金の支払い請求を認めています。結論はともあれ、マネキンの紹介もマネキンの派遣も、法律構成上はまったく異なるものでありながら、社会的実態としては何ら変わりのないものであるということが明らかです。その社会的実態とは労働者供給事業に他なりません。
以上をまとめると、弊害のない労働者供給事業であるから認めるのだという打ち出しができない中で、社会実態として労働者供給であるものを、あるものについては供給事業者との間の唯一の雇用関係の存在を根拠として正当化し(登録型派遣)、あるものについては供給先との間の唯一の雇用関係の存在を根拠として正当化する(臨時日雇い型紹介)という法的仮構をとったといえるのではないでしょうか。
今では派遣事業もフルに認められているのですから、毎日紹介状を発行するのがめんどくさいのだったら、浜野マネキン紹介所のように端的に派遣にすればよかったんでしょうけど。
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