フォト
2023年9月
          1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
無料ブログはココログ

« 昔の社会主義者と今の新自由主義的な人たち | トップページ | 経営法曹会議で »

2009年7月 1日 (水)

平成21年版労働経済白書

本日、平成21年版労働経済白書が閣議配布され、厚生労働省のHPにもアップされました。

http://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/roudou/09/index.html

石水白書も早いもので今年で4年目です。昨年は同日発表された経済財政白書との見事な衝突ぶりが話題を呼びましたが、今年はどうでしょうか。

今回の白書の要約を要約版の最後の「まとめ」からピックアップしておくと、まず次のようなマクロ経済的認識を示した上で、

>我が国経済は、2002年以来、長期の景気回復を続けてきたが、2007年に景気の踊り場的な状況を迎え、2008年秋にはアメリカを中心とした世界的な金融不安の高まりとともに世界規模の経済減速が始まると、景気回復の牽引力を外需に依存していたが故に、他の国々にもまして大きな経済収縮に直面することとなった。
今回の景気後退局面の深刻化は、二つの局面が重なり合うことから生じている。まず第一は、2007年央から始まった大きな消費者物価の上昇である。物価の上昇は、実質でみた所得を目減りさせ、消費を抑制する。2002年からの景気回復過程は、輸出の増加をてこにして始まったものであったが、その成長の成果を、勤労者家計の所得向上につなげ、消費をはじめとした内需の拡大へとバトンタッチしていくことが課題とされてきた。しかし、その課題を実現する前に、実質賃金は低下に転じることとなった。
これに加え、さらに事態を深刻化させたのが第二の局面である。すなわち、すでにサブプライム住宅ローン問題として懸念されてきたアメリカ中心の金融不安の高まりが、2008年秋には、世界的な金融不安へと拡大し、世界規模の経済減速を引き起こした。我が国経済の唯一の成長牽引力として残されていた外需の拡大という経路が断たれるとともに、それに依存していたが故に、我が国の経済収縮は、他の国々にまして深刻なものとなった。
このように、今回の景気後退は、2007年秋以降と、2008年秋以降の二つの局面からなっているが、その底流には、景気回復そのものの弱さがあった。経済成長の成果を勤労者生活へと行きわたらせることができず、内需の停滞を招くとともに、外需の縮小が、そのまま我が国経済の収縮へと直結した。
雇用の安定を基盤に仕事の働きがいを通じて経済・産業活動を活性化させるとともに、経済活動の成果を適切に分配し、豊かで安心できる勤労者生活を実現することのできる雇用システムを構築していくことが重要である。このような優れた雇用システムは、我が国社会の活力を養い、経済の健全な成長を生み出し、持続性をもった経済と社会の発展を実現することができる。
我が国社会は、雇用の安定を基盤とした長期雇用システムのもとで、豊かな勤労者生活を実現していくために、①大きな経済収縮のもとにあっても政労使の一体的な取組により雇用の安定を確保し、長期雇用システムの基盤を守ること、②職業能力の向上に支えられたすそ野の広い所得の拡大を実現すること、③産業・雇用構造の高度化に裏付けられた内需の着実な成長を目指すこと、といった課題に取り組むことが求められている。

以下のような「石水節」が続きます。本文ではこれがもっと詳しく書かれていますので、是非リンク先もご覧ください。

>(雇用安定機能と人材育成機能を備えた雇用システムの意義と今後の展望)
バブル崩壊以降の我が国社会は、景気後退が長引いたこともあり、総じて自国の経済・社会慣行に自信を失っており、長期雇用や年功賃金など我が国企業に定着していた雇用慣行についても、見直すべきだとする意見が強まった。長期雇用については、雇用安定機能と人材育成機能を備えていることから、それそのものを否定する意見は多くはなかったが、長期雇用のもとにある正規労働者を絞り込むとともに、その職業能力開発も、労働者の自己責任を重んじるものへと切り替えるべきと考える傾向が強まった。さらに、賃金制度についても、個々の労働者の業績や成果を明確に賃金へと反映させるべきとの考えが強まり、大企業を中心に業績・成果主義的な賃金制度を導入する傾向が強まった。しかし、このような対応はまた、様々な課題を生み出してきた。
今後の雇用システムを展望する場合、長期雇用と年功賃金の関係を改めて考察しておく必要があろう。高度経済成長期にみられた年功賃金は、年齢、勤続年数に応じて賃金を引き上げる年齢賃金に近いものであったが、高度経済成長から安定成長に移行するに伴い、年齢や勤続年数を同じくした集団に同一の賃金・処遇を適用することは難しくなった。集団主義的な労働関係に見直しがなされ、そこで導入されたものが職能資格制度であった。長期雇用慣行を堅持する中で、労働者の職務遂行能力をじっくりと評価判断し、能力評価システムを強化することによって、長期雇用のもとで労働関係を個別化する方向を目指したのである。しかし、労働者の潜在的能力を把握し、じっくりと育てることは、決して容易なことではない。1990年代に人件費抑制の要請が特に強まると、即効性があるようにみえた業績・成果主義を導入する企業が増加した。ところが、近年では、業績・成果主義を納得性のあるものとして運用するために、評価基準を明確化したり、評価者の研修などに取り組まなくてはならないという課題が明らかになるにつれ、長期雇用のもとでじっくりと職務遂行能力の向上に取り組むことの意義が再認識されるとともに、組織・チームの成果を賃金に反映させることも大切であるというように、人事担当者の認識も変化してきた。
賃金制度においても、職務遂行能力の評価を重視する傾向が出てきているが、そうした対応が賃金制度の年功的運用につながることのないよう、人事考課による昇進、昇格の厳格化を図る方向が模索され始めている。今後は、一人ひとりの職務遂行能力の向上を通じて、組織・チームのバランスのとれた成長・発展を実現していくとともに、人事考課を重視し、その組織・チームの果たすべき使命を的確に導きうる優れたリーダーを育て、選抜していくことが、我が国企業の人事・処遇制度において中心的な関心事になっていくものと考えられる。

(雇用の安定を基盤とした安心できる勤労者生活の実現に向けて)
雇用の安定を基盤に仕事の働きがいを通じて経済・産業活動を活性化させるとともに、経済活動の成果を適切に分配し、豊かで安心できる勤労者生活を実現することのできる雇用システムを構築していくことが重要である。このような優れた雇用システムは、我が国社会の活力を養い、経済の健全な成長を生み出し、持続性をもった経済と社会の発展を実現することができる。
我が国社会は、雇用の安定を基盤とした長期雇用システムのもとで、豊かな勤労者生活を実現していくために、次の課題に取り組むことが求められている。
まず、第一に、大きな経済収縮のもとにあっても政労使の一体的な取組により雇用の安定を確保し、長期雇用システムの基盤を守ることである。次の景気回復とそのもとでの着実な経済成長を期し、優れた技術・技能を有する人材を組織の中に確保しておくことは、企業経営としても経済活動としても合理的なことである。また、こうした雇用維持の努力からくる雇用の安定は、所得と消費の崩落を防ぎ、人々の心理的不安を払拭することによって、経済の底支え機能を発揮する。このような取組の一つとしてワークシェアリングを進める労使の対応を社会的に支援していくことが求められる。非正規労働者も含めた雇用維持に向けワークシェアリングの取組を強化するとともに、セーフティネットの整備による職業紹介、職業訓練等、再就職の促進に向けた対応が重要である。
また、第二に、職業能力の向上に支えられたすそ野の広い所得の拡大を実現することである。今後の経済成長に向けた中長期的課題は、所得増加と格差縮小を通じたすそ野の広い消費の拡大であり、将来の成長に期待できる環境から生まれる企業の投資活動の活発化であり、交易条件の改善によって国内の実質所得の目減りを防ぎ、国内経済活動に盤石の備えを持つことである。これらの取組にあたり、最も重視しなくてはならないのが、すそ野の広い技術・技能の蓄積と人材育成である。より多くの人々に支えられた労働生産性の向上は、人々の所得を底上げ、消費を力強くし、企業の将来予測を改善させ、さらに交易条件を改善させる方向へと作用する。このような視点から我が国社会は、長期雇用システムのもとで、雇用の安定と人材育成を推し進めるとともに、不安定就業者の正規雇用化を通じて、雇用安定機能と人材育成機能を備える雇用システムのさらなる拡張を図っていくことが大切である。組織の活性化をもたらすことができる人事・処遇制度のもとで長期雇用システムを積極的に充実・拡張・発展させていく労使の取組が期待されるところである。今後、雇用システムの中での非正規労働の位置づけは検討課題であり、近年、増加を続けてきた派遣労働についても、製造業派遣、登録型派遣のあり方を中心に検討を深める必要がある。
さらに、第三に、産業・雇用構造の高度化に裏付けられた内需の着実な成長を目指すことである。我が国の今後の成長の鍵を握る労働生産性の向上は、労使の信頼関係に基盤を持つ長期雇用システムが基本となるが、同時に、高い生産力を担う新たな産業分野を展望し、高度な産業・雇用構造を実現することで、社会全体として、労働生産性の向上と質の高い雇用の創出に努めていくことが必要である。このような取組が、人々の将来の成長に対する確信を高め、高い生産力に裏付けられた力強い内需の成長を導くことができる。新たな産業・雇用構造を展望し、それを担う人材の育成を計画的に進めるとともに、新たな産業・雇用分野を創出するため総合的な支援施策を展開していくことが求められる。将来の成長分野で質の高い雇用創出を行うことで高い生産力と内需の拡大を生み出していくことが今後の課題として重要である。
これらの課題に積極的に取り組むことにより、新たな経済成長を目指す我が国社会の姿が次第に浮かび上がってくることとなろう。

なお、白書執筆責任者の石水喜夫氏が自らの思想を存分に披瀝した近著については、半月前のエントリで紹介しておりますので、こちらもご参考に。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2009/06/post-6b3c.html(ポスト構造改革の経済思想)

« 昔の社会主義者と今の新自由主義的な人たち | トップページ | 経営法曹会議で »

コメント

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 平成21年版労働経済白書:

« 昔の社会主義者と今の新自由主義的な人たち | トップページ | 経営法曹会議で »