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2009年6月13日 (土)

労働者供給事業の歩みと課題・展望

労働者供給事業関連労働組合協議会(労供労組協)のホームページに、去る5月24日に行われた社会政策学会のテーマ別分科会の資料がアップされています。

http://www.union-net.or.jp/roukyo/top.html

こちらは、日本労働法学会と違って、ちゃんと実施されたんですねえ。

これはスペシャル版で、第5分科会では総論編として、労供労組協議長としての伊藤彰信氏と、連合非正規労働センターの龍井葉二氏が、労働組合の労働者供給事業全体について論じ、続く第9分科会では全日本港湾労働組合中央執行委員長としての伊藤彰信氏と、企業組合スタッフフォーラム代表執行役の齊藤壽氏が、それぞれ事業を行う立場から報告しています。

龍井さんの資料はレジュメですが、他の3つはそのまま読める文章形式ですので、これだけで労働組合の労働者供給事業についてかなりの知識を得ることができるでしょう。

伊藤氏の総論は労供事業の歴史が主ですが、最後のところで「労働者供給事業法(仮称)の構想」を提起しています。

http://www.union-net.or.jp/roukyo/syakaiseisaku_gakkai/ayumi_kadai_tenbou.pdf

>労供労組協は、2009 年3 月に開催した第26 回総会において、労働者供給事業法(仮称)の制定運動をすすめる方針を確認した。労働者供給事業法(仮称)といってもその内容はまったく決まっていない。

派遣労働が大きな社会問題になっているとき、労組労供こそが問題の解決方法でなければならないという信念だけである。登録型派遣を禁止する、あるいは労働者派遣法を廃止することによって、派遣労働者381 万人は正規労働者になれるのだろうか。むしろ、非正規労働者の権利を確立し、その団結を促すことが必要である。米国のオバマ大統領が議会に提出している従業員自由選択法(カードチェックによって過半数の支持を集めれば、労働組合が結成でき、交渉権を獲得する)をはじめとする労働政策をみると、1930 年代のニューディール政策のように労働組合を育成することが社会の底支えとなり、個人消費を拡大することになり経済回復に寄与するという政策のように思える。労組労供は、封建的な身分制度を打破して、労働者の団結により自主的、民主的な就労体制を望んだものである。そもそも、職安法44 条で禁止されていたもの(労働者供給、労働者派遣、在籍出向)は、労働組合にしかできない。

労働組合がおこなう労働者供給事業に関する労働者供給事業法を制定して、労働者保護を図ることが必要である。

>労働者派遣法を廃止するとともに労働者供給事業法(仮称)を制定して、派遣労働者の団結を促すことが、派遣労働者の労働条件を改善し、福祉の向上に寄与すると考え、きわめて乱暴ではあるが問題提起した次第である。労組労供に多くの方が関心を持っていただき、労組労供の発展に協力していただくことを願うものである。

ちなみに、この中で私の本ブログにおける

>登録型派遣と労組労供と臨時日雇型紹介はビジネスモデルとしては同じものだから、無理に派遣元がフルに使用者だからいいんだという派遣に押し込めたり、無理に派遣先がフルに使用者だからいいんだという紹介に押し込めたりするより、全部素直に労供事業であるという原点に戻って、それにふさわしい規制のあり方を考えていくべきではないか。

という記述を引用していただいています。

龍井さんのは簡単なレジュメなので、どういう風にお話しされたのかはわかりませんが、次のチャート式に示された認識は適切だと思います。

http://www.union-net.or.jp/roukyo/syakaiseisaku_gakkai/comment.pdf

>(1)労働市場と労働組合
・渡り職人が主流 職種別組合
(←ギルドの不在)
子飼い社員の育成 企業別組合

臨時工の誕生 企業別組合の対象外

(2)正規と非正規
・正社員「長期雇用を前提にした処遇を受ける者」(昇給、賞与、退職金など)
非正規「それ以外の者」(パート労働法通達)
・非正規の増大+正規の非正規化

新たな組織と運動論
・労働市場への影響力 → 労組労供事業の可能性
・技能の形成 (職種限定・職種拡大)

(3)「居場所」としての労働組合
・「労働条件の維持・向上」→相互承認できる場の必要性
労働の対価から労働そのものの価値へ
→企業雇用に限定されない労働の場

伊藤氏の全港湾の方は、もちろん港湾労働が主ですが、私にとって興味深かったのは、介護家政職の供給事業の話です。

http://www.union-net.or.jp/roukyo/syakaiseisaku_gakkai/zenkouwan_roukyo.pdf

>全港湾がなぜ介護家政職の労働者を組織しているか、不思議に思う人がいるので、そのいきさつを述べてみたい。現在の全港湾介護家政職支部の中心組織である田園調布分会の前身は、田園調布派出看護婦家政婦労働組合であり、結成は1949 年である。47 名の看護婦、家政婦が労働組合を結成し、病院や家庭で働いていた。

当時の状況を石谷閑子組合長(故人)に聞いたことがある。田園調布に看護婦家政婦派出婦会があって約500 人ほどが働いていた。業界一の規模であった。寄宿舎は50 人ほど寝泊りができるようになっていた。労働ボスがいて、賃金の2~3割をピンはねしていた。ある日、内務省の役人とGHQ が寄宿舎に来て「職安法という法律ができ人を働かせて搾取することは許されなくなった。仕事の紹介は役所がタダでやる」と説明した。しかし、仕事の依頼はボスのところに来るので、大森の職安までいって紹介書類をつくって依頼先にいく。ピンはねはなくなったが、職安の委託をうけたボスの寄宿舎に寝泊りしていた。1 泊300 円以上取ることは禁止されていたが、ボスは1 泊600 円も取っていたので廃業させられた。労働組合をつくって自分達で労働者供給事業を行うことにした。許可申請をしたが、職安は有料職業紹介の許可を取るようにといって許可しない。国会議員に働きかけて、1950 年にやっと許可がおりた。

はじめは一般同盟に加盟していたんですが、同盟が派遣法に賛成したので全港湾に移ったということのようです。

いずれにしても、まさにボス的労供であったものが戦後手数料規制のある有料職業紹介事業と、組合費でまかなう労組労供という形になったということですね。

最後のスタッフフォーラムは、労供労組が出資してスタッフフォーラムという企業組合を作り、そこが派遣法による派遣事業を行うという仕組みです。

http://www.union-net.or.jp/roukyo/syakaiseisaku_gakkai/staff-forum.pdf

労働組合が派遣事業を行うというのはどういうことか、というと。

>① 派遣契約内容の開示
非営利については労働者供給事業から受け継ぐ精神を強調したものであり、実際に非営利で行うということではないが、勤労者の労働の対価である賃金から中間的に経費を抜取る行為は中間搾取に至り易いことから、これを開示することはある意味当然であるといえる。このことからマージン率を含め契約内容はすべて派遣先企業と派遣スタッフに開示することとし、そして実践することを掲げる。
また、必要最小限の経費での運営により賃金率の最大限化や社会労働保険の付保を完全に履行することとする。

② 健全な発展への寄与
冒頭のような悪質とも言える人材派遣事業者が蔓延ることを創設当時に危惧していたことは既に述べたが、労働者派遣事業そのものが側面に労働を商品にしてしまう要素を孕んでいる事業であるため、殊に健全性には配慮を持つべきである。
スタッフフォーラムは、適正な賃金・労働条件の形成において、一つの理想的な姿を身を以って実践しようとするものであり、これを普及させることが延いては労働者派遣事業の健全な発展に寄与するものと確信する。

このほかにも興味深い指摘がいろいろとなされており、ぜひリンク先を読まれるようおすすめします。

固定的な労働組合像だけにとらわれずに物事を考える必要性が感じられることとでしょう。

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