キヤノンの一眼レフで不良事故が多発する理由、製造請負依存の死角
東洋経済オンラインに「キヤノンの一眼レフで不良事故が多発する理由、製造請負依存の死角」という大変興味深い記事が載っています。
http://www.toyokeizai.net/business/strategy/detail/AC/523d7307d7465dc8c5293f541b6a0e3c/
本日報告するはずだった「偽装請負」問題を、問題の本質にさかのぼって考えるのではなく、表層的な議論でばかり済ませてきたことの一つの帰結がここに見られます。
>「他社の工場からキヤノンに来て感じたのはクリーンルームの汚さ。驚くほど、とは言わないが、前の工場と比べるとギャップを感じる」
>なぜ、こんな非常識が放置されているのか。それはクリーンルームの内部が、キヤノンにとって“治外法権”になっているためだ。
請負契約は業務委託元の会社(キヤノン)が現場の請負会社に所属している作業者に直接指示、命令を行えない業務契約だ。仮に直接の指示を行えば偽装請負となり、労働者派遣法違反となる。そのため、キヤノン社員は、作業者を統括する請負会社の管理者に指示を出し、そこから現場の作業者に指示が流れることになる。
>事件は安岐事業所のカメラ組み立て工程で発生した。請負会社の作業者が火気厳禁の作業場でライターを使用したところ、揮発性の溶剤に引火。火は一気に燃え広がった。
>この事件に関しキヤノンは「ボヤがあったことは認識している。請負会社の管理、指導が甘かったために起きた事件だ。ただ、こうしたことが起こったからといって、契約上キヤノン側がボディチェックを行ったり、持ち物検査をすることはできない。請負会社の自主的な管理に任せるほかはない」(広報部)と、業務請負契約に構造的に生じる管理の限界を認めている。
わたしはかつて、偽装請負問題が燃えさかっていた一昨年の秋、『世界』誌に載せた論文で、このキヤノンの社長であり、日本経団連の会長でもある御手洗冨士夫氏が経済財政諮問会議で発言した言葉を引いて、問題の攻め方が間違っていると説いたのですが、その声に耳を傾ける向きはほとんどありませんでした。
http://homepage3.nifty.com/hamachan/bigbang.html(『世界』11月号「労働ビッグバンを解読する」)
>まずは、経済財政諮問会議で日本経団連の御手洗会長が「受け入れた先で指揮命令してはいけないというが、仕事を教えてはいけないというのは請負法制に無理がある」と発言し、偽装請負を正当化するものとバッシングを受けた問題から考えよう。なぜ偽装請負が悪くて労働者派遣なら良いのだろうか。派遣も請負も不安定な間接雇用であるという点では変わらない。偽装請負はけしからんから適正な派遣にせよと主張することで、労働者本人にいかなるメリットがあるのだろうか。彼らの常用雇用化を主張するのであれば首尾一貫するが、それを義務づける根拠規定はない。確かに「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準を定める告示」を前提とすると、うかつに接触して「指示」したととられないように、請負労働者との接触は控えた方が賢明ということになる。ところが2005年の労働安全衛生法改正によって、こと安全衛生に関する事項については積極的に接触することが望ましいということになっている。同じ職場に働く労働者として、仕事に関わることそれ以外のこと含めて、関係を深めていきたいと考えるのは自然なことである。
そもそも戦前の工場法は、労働者派遣事業の前身たる労務供給請負であってもそれ以外の事業請負であっても、すべて工場主に使用者責任を負わせていた*4。派遣でない請負であれば使用者責任がないなどというのは、戦後労働者供給事業を全面禁止したために生じた事態である。そのために、御手洗会長が指摘するような「矛盾」が生じている。この「矛盾」は、しかしながら、本来労働法規制によって規制されるべき請負がなんら規制されていないという事実から生じていることを見落としてはなるまい。御手洗会長は「請負法制に無理がある」というが、むしろ請負法制が存在しないことが「無理」なのである。請負労働の問題は偽装請負を非難して労働者派遣に放り込めば解決するわけではない。むしろ戦前のように請負であっても受入れ事業者に使用者責任を負わせることによってのみ解決することができるはずである。
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