高度成長前夜の大工場労働者と労働市場
東京大学社会科学研究所のリサーチペーパーとして、菅山真次さんの「「高度成長前夜の大工場労働者と労働市場―「京浜工業地帯調査(従業員個人調査)」(1951年)の再分析―」」がアップされています。
http://ssjda.iss.u-tokyo.ac.jp/rps/RPS043.pdf
これは、兵藤・氏原の日本型雇用システムの成立を第1次大戦後の1920年代に求める考え方に対し、その大衆レベルへの普及期を1950年代とする説を、その氏原ら当時の社研グループが実施した調査の再分析によって示そうとする力作です。
兵藤・氏原理論も、大衆的普及期が戦後であることを否定しているわけではないのですが、本論文の注目点は、50年代初めという時点で、熟練工はなお職種別労働市場の中にいたのに対し、プロセスワーカーはすでに企業の内部労働市場の中にあったことを明確に示した点でしょう。
>このような分析結果は,スタンダードな労働経済学の理論が想定するところとぴったり一致している.一般に,銘柄が明確で,個々人の仕事の範囲がはっきりと定義される職種では,外部労働市場の力が発揮されやすく,労働者のキャリアは複数の企業にまたがって横断的に形成されるのが通例である.それに対して,巨大な設備や組織と協業する性格が強い職種では,内部昇進制が発達しやすく,労働者のキャリアは一企業の内部に封鎖化される傾向をもつ.
この内部労働市場が職種を超えて広がっていくのが50年代であり、若者が学校卒業とともに就職するのが当たり前になっていく時期でもあるという意味では、日本がジョブ社会としての性格を最終的に失い、メンバーシップ社会に純化していった時代であったと言うこともできるかも知れません。
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