学生をかえせ(笑)
sociologbookさんのブログに、標記のエントリがありまして、本ブログではすでにいやというくらい論じ尽くされた話題ですが、
http://sociologbook.net/log/200905.html#eid404
>いよいよ4回生は就活たけなわで、なかなかゼミも全員揃わない。一生がかかっていると言ってはいいすぎだが、まあ少なくとも今後数年の生活はかかっているので、みんなとにかく頑張れよ。3回生の特に女子のなかにはもう就活にびびって病んでいる気の早い奴がいて、毎年まいとし学生も大変だな。
ところで、ゼミに全員揃わない、ということについて、むかしから、企業の人事担当者さんたちが大学教育をどう思っているんだろう、と不思議に思っている。できれば説明会とか面接は土日か夜間にやってほしいんだけど、と思っていて、そしてそれはそれほどわがままな主張ではないと思っているのだが。平日の昼間にされると、学生はゼミや講義を休まざるをえないのだ。これはいったい、どうなってるのか。会社のひとたちはどう思ってるんだろうか。
どう思ってる、って、そんなの決まっているわけで。
>このあたりから考えると、別に大学教育なんか何やっててもよい、もっといえば、しなくてもよい、ということになる。世間に名の通った偏差値の高い大学の卒業資格さえ得ていれば、その中でスポーツしかやっていなくてもよい。教育は企業がやるから。
ほんとうにそうか、と思う。企業が教育機能までぜんぶやってくれるなら、全員高卒でよいだろう。
正確に言うと、大学に入学できた高卒ね。
>大学で何も教えてないかというと、まったくそんなことはない。当たり前の話だが、大学で教えているのは、特定の学問の「まねごとのまねごと」ぐらいのレベルのもんで、東大や京大なら別なんだろうが、普通の大学の経済学部で経済を学んだからといって就職したあとに直接それが何かの役に立つとかいうことはない。
大学で何を教えているかというと、ある種の「性向」「ハビトゥス」である。社会に出たあるいは会社に入ったときにすぐに役に立つ知識は、あたりまえだがほとんどがその会社のローカルな文脈でしか役に立たないので、社会に出たあるいは会社に入ったときにしか得ることができない。かわりに大学は、学生たちに、情報の集め方や分析の仕方、まとめ方、プレゼンのやり方なんかを公式のカリキュラムのなかで教えてるし、非公式のカリキュラム(ようするに「空気」みたいなものだな)によって、人との付き合いかたや、コミュニケーションのとりかた、あるいは「テスト前になるととつぜん友だちになる」みたいな、「人の利用のしかた」(笑)まで教えているのだ。
こういう知識やスキル以前の「態度」みたいなものは、いうまでもないが、それ自体として教えこむことはできないので、社会学部なり経済学部なりの具体的なディシプリンの学習を通じて一般的なハビトゥスを身につけることになる。特定のスポーツをせずに「一般的なスポーツマンなるもの」になれるかどうかを考えればわかるだろう。
大学は大学なりにがんばってやってます。
ははあ、教えている学問の内容は役に立たないけれど、「人間力」を身につけさせています、と。あるいは「官能」とでも言いましょうか。
それこそ、それが経済学である必要もなければ社会学である必要もないのであれば、仰るような「人間力」がある学生を採用するために、ゼミや講義を休まざるを得なくなったからと言って、「どう思ってる」も糞もないわけでしょう。
ゼミや講義を休むことが致命的であると説得するためには、それが「人間力」や「官能」のための手段ではなく、その具体的なディシプリンに意味があると説得しないといけないでしょう。
ま、しかし現在の状況下において、大学の先生としてはこういうものの言い方しかしようがないのもまた確かなのでしょうね。
このあたり、最近も小塩隆士氏が「戦後日本における人材育成:失敗の構図と改革の方向」という論文の中で論じておられます。
http://www.murc.jp/report/quarterly/200902/03.pdf
本ブログにおけるレリバンス論の経緯は、
http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2006/04/post_c7cd.html(哲学・文学の職業レリバンス)
http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2006/04/post_bf04.html(職業レリバンス再論)
http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2006/04/post_722a.html(なおも職業レリバンス)
http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2006/04/post_c586.html(専門高校のレリバンス)
http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2006/05/post_8cb0.html(大学教育の職業レリバンス)
http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2008/03/vs_3880.html(爆問学問 本田由紀 vs 太田光)
« フランスも若者が仕事につけるようにもっとやるべきだ | トップページ | ぼやき »
>現在の状況下において、大学の先生としてはこういうものの言い方しかしようがない
いや、それはないでしょう。公式の場では無理でも、自分のゼミの学生には、「シグナリング機能が主なんで、ゼミはほどほどでいいから、就活ちゃんとやってこい」という趣旨のことを述べるのは、まだまだ容易かと…。
投稿: はあー? | 2009年5月25日 (月) 02時28分