地方の若者の就業行動と移行過程
労働政策研究・研修機構の誇るスター研究者といえば小杉礼子さんにとどめを刺すわけですが、彼女の研究グループの最新の研究成果がアップされました。
http://www.jil.go.jp/institute/reports/2009/0108.htm
執筆メンバーは
浅川 和幸 北海道大学大学院教育学研究院,教育社会発展論分野 准教授
小杉 礼子 労働政策研究・研修機構 統括研究員
堀 有喜衣 労働政策研究・研修機構 副主任研究員
平山 正巳 雇用・能力開発機構長野センター
上野 隆幸 松本大学総合経営学部 准教授
です。
>本報告書は、当機構の5年にわたるプロジェクト研究「新たな経済社会における能力開発・キャリア形成支援のあり方に関する研究」のサブテーマである「キャリア形成弱者の実態と支援に関する調査研究」の2年目の成果にあたります。
「キャリア形成弱者の実態と支援に関する調査研究」においては、キャリア形成をするうえで困難を抱えている(抱える可能性がある)人々は誰であるのか、そこにはどんな課題があり、どのような支援が求められるのかという観点から研究を進めています。
こうした問題意識から、平成19年度には労働政策研究報告書No.97『「日本的高卒就職システム」の変容と模索』をとりまとめ、発表したところです。
平成20年度では、地方の若者層の教育から職業への移行に着目し、北海道(札幌・釧路)、長野(長野市・諏訪地域)を事例として、過去の東京都の調査を活用しながら調査研究を取りまとめました。
本研究では特定の地域を事例として取り上げてはいますが、各地域の事例研究にとどまるものではありません。事例は様々な指標をもとに慎重に選ばれたモデルケースです。日本に住む様々な地域の人々が、本報告書で示した事例のどれかに自らの地域をなぞらえることができることを意図しています。
350ページに達する膨大な報告書ですが、読み始めたらやめられない面白さ、そして読後のじわりと広がってくる問題意識。まさに小杉グループの研究の醍醐味が味わえます。
私は先に読ませていただいて、大変感動して、次のようなコメントをしました。本ブログの読者の皆様がどうお感じになるか、興味があります。
>とかく全国一律ないし東京基準で語られがちな若者の教育から職業への移行過程について、北海道と長野県という産業構造において対照的な両典型を東京と比較することにより、その違いを浮かび上がらせている
>それぞれの地域につき、フリーターを含めた職業キャリアの展開過程の分析を中心に据えつつ、マクロな産業構造の違い、教育システムの違いから、若者の意識や社会関係のあり方まで広く目配りされている
>若者の雇用問題が日本の中で多様であり、とりわけ産業構造や教育システムのあり方が若者の就業行動に大きな影響を及ぼしていることを、大変説得的に実証。この発見は、労働政策にとどまらず広範な分野に対してきわめて有益な意義を有している
>若者の教育から職業への移行対策において、地域特性を踏まえた形で政策展開すべきことが明らかとなり、これまでの政策論議の水準を大きく超える複眼的な若者政策の樹立に貢献するもの
>短期的には、「地域雇用開発」一本槍の地域雇用政策の見直しの必要性、すなわち地域移動支援による雇用機会確保の必要性が明らかになった
>中長期的には、地域の教育・職業能力開発体制の再編成の必要性が明らかになった
>近年読んだ中でもっとも鮮烈な印象を与えた研究報告である。
本人の学歴や親の豊かさが正社員になるか非正規になるかをかなり左右する東京を中心において、大卒者でも非正規になりやすい北海道の若者と、高卒者でも正社員になりやすい長野県の若者の対照性を見事に浮き彫りにしている
ある種の読者はここから「脱工業化の社会的帰結」を読み取るかも知れない。古くさいまでに「モダン」な長野県の若者と、経済的基盤を欠いたまま「ポストモダン」化した北海道の若者の姿の対比は、労働政策を超えた議論の素材に値する。
分量が大変多いのでそのままでは難しいが、狭い労働政策関係のサークルを超えた知識社会の共有財産として提示することも考えられてよい。
ちなみに、来る6月6日にJILPTと日本学術会議の共催で「若者問題への接近」というフォーラムが開催されますが、
http://www.jil.go.jp/event/ro_forum/info/20090606.htm
小杉さんはそのパネリストとして「地域の労働市場と職業教育」を報告されるようです。
ほかは、
第一部 問題提起・報告
「自立の困難な若者に関する研究の動向」
- 太郎丸 博
- 京都大学大学院文学研究科准教授
「地域の労働市場と職業教育」
- 小杉 礼子
- JILPT統括研究員
「家族と福祉から排除される若者」
- 岩田 正美
- 日本女子大学人間社会学部教授
「自立の困難な若者の実態と包括的支援政策」
- 宮本 みち子
- 放送大学教養学部教授
~休憩~
第二部 パネルディスカッション
パネリスト
- 太郎丸 博
- 京都大学大学院文学研究科准教授/日本学術会議特任連携会員
- 小杉 礼子
- JILPT統括研究員/日本学術会議連携会員
- 岩田 正美
- 日本女子大学人間社会学部教授/日本学術会議連携会員
- 宮本 みち子
- 放送大学教養学部教授/日本学術会議連携会員
コメンテーター
- 金井 淑子
- 横浜国立大学教育人間科学部教授/日本学術会議連携会員
- 渡邊 秀樹
- 慶應義塾大学文学部人文社会学科教授/日本学術会議連携会員
- 大津 和夫
- 読売新聞東京本社編集局社会保障部記者
コーディネーター
- 直井 道子
- 東京学芸大学総合教育科学系教授/日本学術会議連携会員
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