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2009年5月 1日 (金)

終身雇用という幻想を捨てよ

Img_report01 財団法人総合研究開発機構(NIRA)から「終身雇用という幻想を捨てよ-産業構造変化に合った雇用システムに転換を」と題する研究報告書をお送りいただきました。

http://www.nira.or.jp/outgoing/report/entry/n090427_334.html

中身はすべてこのリンク先にPDFファイルで掲載されています。

総論
終身雇用という幻想を捨てよ
―産業構造変化に合った雇用システムに転換を
柳川範之
   
各論
今次雇用危機の構造と政策対応
―産業構造転換が求める雇用シフトと「同一価値労働同一賃金」実現に向けた労働市場改革を
山田 久

労働ルールの再構築と新システムへの移行プロセス
―雇用契約の多様化と新制度導入過程の明示的な検討が必要
安藤至大

非正社員の企業内教育訓練と今後の人材育成
―企業横断的な能力開発を実現するためのシステム構築を
原ひろみ

社会設計としての労働移動を考える
―デンマークを事例に  
辻 明子

資料
《再録》 対談 雇用危機と制度再設計の視点   
山田 久、柳川範之

なかなか刺激的な論考ですので、いくつか紹介しておきます。

エグゼクティブサマリーから、まず柳川氏の総論ですが、

>急速な景気の悪化により、雇用問題が大きな政策課題となっているが、日本の労働市場が抱えているのは、より大きな構造的問題である。実は、終身雇用を実現できた企業は、ごく一時期のごく一部の企業にすぎない。終身雇用制を維持し、それを社会全体に拡大させていくことで、雇用と生活の安定が作り出せるという考えは幻想にすぎない。
経済環境の変化は激しく、世界的に産業構造の急速な変化が起きている。そのような中で、終身雇用をあたかも制度のように広く企業に要求することは不可能である。さまざまな政策も終身雇用が維持できないことを前提に考えるべきだ。逆説的ではあるが、わが国の雇用を守るために今、求められているのは、終身雇用制度という社会システムの幻想からの決別であり、総合的な雇用システムの転換である。
これからの雇用政策は、いかに解雇を減らすかではなく、いかに解雇された労働者を新しい職場につかせるか、産業構造の変化に合った能力をいかに身につけさせるかに重点を置くべきだ。より良い転職を促し、転職をよりポジティブに考える仕組みづくりも必要である。そのためには、雇用政策を、わが国の長期的産業構造をどのような方向に持っていくのか、限られた資源や人材を活用して、いかにわが国を成長させていくのかという産業政策や成長戦略と密接に関連付けて考えていくべきである。
産業政策を考える際にも、今後は雇用政策にウエイトをおき、良い人材をいかに育てるかという視点が必要だ。具体的に政府が積極的に関与すべきポイントは、第一に、介護、農業など規制や障壁が存在する産業に対する規制改革、第二に、環境や医療など国家の成長戦略的分野に対する産業政策と雇用政策のセットでの実施である。そして、新しい環境に適した、より良い能力を身につけるための人材育成・教育訓練システムを、産業政策的視点で大胆に導入していくことも重要である。

本文では、例のデンマークのフレクシキュリティモデル(ゴールデントライアングル)が出てきます。念のためいっておくと、「終身雇用という幻想を捨てよ」といいながら、同時に「長期雇用は重要だ」とも述べています。ただ、そのタイトルの節の記述は、少なくとも労働法学的にはいささか見当外れといわざるを得ません。

>(5)長期雇用は重要だ

ただし、あえて強調しておかなければならないのは、それが直ちに全ての雇用の短期化、スポット化を意味するわけではない、という点である。雇用の流動化を議論する際にはしばしば、それによって短期契約ばかりになってしまえば、長期的視野にたった投資や技能習得が不可能になる、といった主張がなされる。しかし、現実はそうではない。当然、長期的な雇用継続が望ましい企業はそのような選択をするだろうし、簡単には解雇をしないことを会社の方針とする企業も少なくないだろう。また働き続けたい従業員はその会社に必要な能力を身につけようと努力しようとするだろう。その意味では日本型の雇用は今後も続くだろうと考えられる。
しかし、それは制度とは別次元の問題である。結果として雇用が維持されるのと、雇用維持が強制されるのとでは、意味するところがまったく異なる。この点は誤解のないようにする必要がある。
もちろん、現実には終身雇用するという明示的な契約が交わされるわけではない。
正規社員に対して期限の定めのない契約が交わされ、それが解雇規制によって実質的に終身雇用が維持される形になっている。その解雇規制は当初は解雇権濫用の法理という形で判例によって積み重ねられてきたものが、2003 年の法律改正によって明文の規定になっている。この点からすれば、雇用を強制する、解雇規制がそもそも終身で雇用すべきだというスタンスになっている、つまり終身雇用を制度として維持すべきだとなっている点に問題の本質があるといえる。

解雇権濫用法理それ自体に、「そもそも終身で雇用すべきだ」などというスタンスはありません。こういう勘違いは、経済学者には非常によく見られますが、困ったものです。これでは、アメリカ以外のすべての国、北欧諸国も含めて、不当な解雇を制限している国はすべて終身雇用を法律で強制していることになります。そんな馬鹿な話はありません。

文中、大竹文雄先生の例の『WEDGE』論文を引いて、

>その意味では、解雇規制が定着するきっかけがオイルショックであった4 というのは極めて示唆的である。オイルショックは今から振り返れば高度成長期の終わりをつげるものであったのだが、当時はそこまでの認識はなく、このショックが終れば、やがてまた高い成長が実現できるのではないかと思われていた。そうであればこそ、解雇され終身雇用の枠からはみ出してしまうのは、ショックによる一時的な現象であり、それを認めないようにする法的措置もありうるという考え方が生じた。しかし、実際は維持できなかった。そして、解雇規制だけが残った。

と述べているのは象徴的です。

このもとの大竹論文については、本ブログで

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2009/01/wedge-2092.html(WEDGE大竹論文の問題点)

と説明し、大竹先生も

http://ohtake.cocolog-nifty.com/ohtake/2009/01/wedge-228c.html(WEDGE論説の解雇規制に関する説明)

と説明しているのですが、それを見ないと、50年代に確立した解雇権濫用法理自体と、70年代に石油ショックの中で確立した整理解雇法理がごっちゃになってしまうでしょうね。

そういう困ったところもありますが、「トランポリン型のセーフティネットを」というのは適切な政策方向ですし、「人材教育システムの構築」ということで「高校、高専、大学の活用」とか、「企業を巻き込んだコミュニティカレッジ」とかの提案は極めて重要なポイントだと思います。

山田久氏のはあちこちでよく書かれているので(視点・論点にも出てましたし)パス。次の安藤至大氏のが、やはり一言必要なんですが、

>また、長期的な労働ルールの再構成では、①長期雇用至上主義からの脱却を前提とし、②長期契約と3 年までの期限付き契約の二択に縛られない雇用契約の多様化を実現させ、③企業に労働者の保護を安易に負担させるのではなく、国家が自らの責任として所得再配分政策を強化することなどを提言する。

雇用政策としては、1970年代半ばから1990年代半ばまで、できるだけ長期雇用を維持することが望ましいという政策思想に立脚してさまざまな政策が実施されてきたことは事実ですが、法的な雇用契約ルールの議論にうかつにそれを持ち込むと話が混乱します。

期間の定めのない雇用は必ずしも「長期雇用至上主義」ではありません。スウェーデンの労働法は不当解雇をかなり厳しく規制し、有期雇用についてもその雇い止めを厳しく規制していますが、労働市場は非常に流動的で、決して長期雇用至上主義ではありません。

(追記)

3法則氏が同じ報告書を取り上げているようですが、例によって(自分を棚に上げて)他人の解雇を好き勝手にできるようにしろというところにばかり夢中になっているようです。

ちなみに、ご自分の解雇騒ぎについては、下記参照。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2009/01/post-ba7f.html(労働者を気分次第で簡単に解雇するような経営者はいる)

>なお、この小倉弁護士のエントリのリンク先には、真偽不明の「俺は不当解雇されかけた!」という誰ぞやのエントリがありますが、切込隊長ブログにおける会津泉氏によると「事実無根で悪意に満ちた誹謗と中傷ばかり」だそうで、その後なんの音沙汰もないことから判断すると、おそらくそうなのであろうと想像されますが、それにしても、当該人物が解雇自由を唱えるというのは精神病理学上興味深い症例であるように思われます。

ちなみに、労働相談においては、労働者の言い分ばかり聞くのではなく、ちゃんと会社側の言い分も聞いた上で判断しなければならないのはいうまでもありません。世の中には事実無根のでっち上げで会社と喧嘩しては辞め、また次の会社で同じことをやらかし・・・という札付きの労働者もいないわけではないのです。このあたりは、現場の労働相談員の方々が一番よく理解しておられるところでしょう。

http://blog.goo.ne.jp/ikedanobuo/e/84e1469c85ff818b60d17175b66f78a9公文俊平という偽善者

>MIAUなどのネット規制法案に反対する共同声明に、公文俊平が署名している。彼は、いったいどの面さげて「インターネットの言論の自由」を語っているのか。4年前、メーリングリストでの発言を理由にして3人の研究員を「解雇する」と通告し、訴訟を起されて結局、解雇を撤回し、給与を支払わされて恥をかいたことを忘れたのか。

http://benli.cocolog-nifty.com/la_causette/2009/01/post-ba7f.html(労働者を気分次第で簡単に解雇するような経営者はいる)

>実際,池田先生自身「不当解雇」を受けた経験がおありなわけですから,経営者の気の向くままに解雇することが許されるようになったらどうなるか,分からないわけではないと思うのですが。

自分には(事実をでっち上げてでも)「不当解雇は許されない!」で、他人には「どんな不当解雇でも自由にやれるようにしろ」というダブスタが、何の矛盾もなく併存できるという精神構造は、大変興味深いものがあります。

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コメント

要するに「終身雇用が問題だ」という表現がミスリーデイングであって、正確には「定年制の問題」。

“無料求人誌”は雇用創出する社会インフラ
◆求人誌を支えてきたのは派遣業界
ここ数年、派遣業界を支えてきた「無料求人誌」が、そしてその「ラック(棚)」消えています。この度の雇用崩壊で、最もその影響が顕著に現れているのが求人誌です。とくに無料求人誌は、主な鉄道駅やコンビニから街中から、場所によってはそのラックごとすべて消えつつあります。求人が減少するのは雇用崩壊の勢で仕方がない話ですが、こうした現象は、求人誌がいかに派遣業界に支えられ発展成長してきたかという証です。
◆今こそ問われる「求人誌の真価」
 求人業界はこれまで景気上昇と共に発展成長してきましたが、少し業績が悪化したことを事由に、業界が構築したこの「社会インフラ」を崩壊させてしまう責任をどのようにするつもりでしょうか。果たして、それは一企業にとって都合が良い時だけの一時的な社会インフラだったのでしょうか。世界同時不況の直撃を受けた今こそ、雇用創出のために「無料求人誌」の真価が、そして会社存在のあり方が問われるべきです。
全文は下記ブログより
◆人事総務部ブログ&リンク集
 http://www.xn--3kq4dp1l5y0dq7t.jp/

> 期間の定めのない雇用は必ずしも「長期雇用至上主義」ではありません

こう言うのを読むと、ますます

定年制を「片面的有期雇用」の中に適切に位置づけることができず、無期雇用として位置づけていることが日本の労働法政策の混乱を招いているなあ

それから、紛らわしい名前であちこちにコメントするのはやめてください。私は基本的にコメントはスパムや嫌がらせ的なものを除き原則として公開することにしていますが、場合によっては異なる対応をすることがあり得ます。

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