中失業時代のセーフティネットと雇用
連合総研の『DIO』5月号、いろいろと興味深い記事が載っていますが、ここで紹介したいのは久本憲夫先生の標題の講演。
http://rengo-soken.or.jp/dio/pdf/dio238.pdf
その中でもいくつも面白い論点があるのですが、まずは「準正規雇用」から、
> 正社員と非正社員の雇用格差の問題、派遣切り、偽装請負などは、マスコミで議論されて批判を受けました。批判はもっともですが、それで問題は解決するわけではない。一方で、非正社員の雇用を犠牲にして正社員の雇用が守られているので、正社員の雇用をもう少し不安定化したほうがいいという議論も、時々耳にします。でも、私は違うと思います。特に、雇用不安が高まっている中で、正社員の雇用を不安定にすることは、不安感を煽り、あまり賢くないと思っています。
私は基本的にずっと前から「正社員の多様化」ということを主張しています。正社員がどのように多様化するかということを考えなければならない。この10年来起こってきたのは、雇用形態の多様化ではなくて、非正規雇用の多様化です。非正規雇用の種類がものすごく増えました。でも、正規雇用の多様化は進まず、むしろ均一化、画一化したと思います。
現状では単に安定雇用とだけ言っていてもなかなか理解してもらえない。そこで、「準正規雇用」という構想を考える必要があると思っています。通常の「期限の定めのない雇用」と「有期雇用」と並んで、もうひとつの雇用区分をつくる必要があるとの考えです。これだけ正規雇用と非正規雇用ということを言われ続けると、中間的なものを作ることを社会が求めているのではないか。
準正規雇用とは、仕事が継続して存在している場合には雇用は継続する。しかし、仕事がなくなった場合は、企業はそれ以上の雇用責任は持たないということです。これも「期限の定めのない雇用」ですが、一般の「期限の定めのない雇用」よりは不安定です。不自然な有期雇用の活用を制限する意味があります。どういうことかと言うと、現状では3年、5年とかある一定の期間雇用を続けると、期限の定めのない雇用にしなくてはならない。その結果、仕事はあるのに雇用を切るということが起きています。仕事があるのに雇用は切られる。これは非常に不自然なことです。この不自然な有期雇用を制限する必要があるのではないか、ということです。
これは法律というよりも実践の問題かもしれない。期限の定めのない雇用を2段階に分けるわけであり、それを前提にして、「社会的に正当ではない解雇は無効」という原則は維持できるわけです。
これは、仕事がなくなってさえも雇用を維持しなければならないという「超安定雇用」だけが正規雇用だと考えれば、それに比べれば「準正規雇用」ということになるのかもしれませんが、本来からすれば、仕事がなくなればクビになるのは当たり前だが、仕事があるのに勝手に首を切られることはない、というのは「準」などつかない立派な正規雇用なんですね。
その仕事がなくなればクビになって不思議ではない普通の正規雇用の人について、政府のお金で景気が回復するまでの間賃金を払い続けるというのが、雇用調整助成金であり、ドイツの短縮労働であり、フランスの部分失業であるわけです。
世の中には、ここのところが分からずに、仕事があるのに使用者の好き勝手にクビ切りできるようにすることが絶対の正義だと信じ込んでいる人々がいるわけですな。
なかなか皮肉な話なのが、
>しかし、今、雇用が増えている分野、医療や福祉は、基本的に対人サービスで労働生産性が低い。労働生産性が低い部門で雇用が増えていて、労働生産性の高い部門で雇用が減少しているという事態です。生産性の高い部門から低い部門への再訓練をどう考えるべきかという点が、重要な論点です。労働者を労働生産性の高い部分から低い部分へ移すということは、結構苦しい話だと思っています。従来は労働生産性が低い部門から高い部門へということでしたので話は簡単でしたが、生産性が高くて国際競争力のある部門が雇用を吸収してくれないというジレンマが問題をすごく複雑化してます。
「サービス業の生産性向上」などとどういう意味があるのか分からないようなことに血道を上げるより、労働生産性が低いがゆえに労働集約的であるがゆえに労働力を吸収してくれる分野が、ちゃんと労働力を吸収してくれるようにそれなりの賃金水準を確保するために価値生産性を高めるためには、どこをどういう風に仕組めばいいのか、という、より本質的な問題に取り組んでいただきたい、と切に念じるところです。
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