職場の法律は小説よりも奇なり・・・別の意味でも
小嶌典明先生の「職場の法律は小説よりも奇なり」(講談社)は、なかなか面白い本です。
http://shop.kodansha.jp/bc2_bc/search_view.jsp?b=2153173
ご存じの通り、小嶌先生はこの十年以上にわたって、規制改革会議等で労働法の規制緩和の先頭に立ってきた方ですので、本ブログの読者にもさまざまなご意見があろうかと思いますが、本書で指摘されているいくつかの点については、私と意見が一致するところが結構あります。ただ、その意見の一致の仕方がなかなか複雑なんですけどね。
そうですね。たとえば、本書の標題にもなっている「ウソのような本当の話-事実(法律)は小説よりも奇なり」の中の、「仕事をしない仮眠時間も労働時間」という節は、労働法を勉強した方なら誰でも知っている大星ビル管理事件判決を批判したもので、実のところその点には私は同感するところが大きいのです。特に最近のマンション管理人に関する判決には、そういう感が強いです。
ところが、この中で労規則23条による宿日直の許可基準が厳しすぎるからいけないというような記述があり、大阪大学で労務管理に当たられた経験から、
>実際にも、国立大学は、2004年4月の法人化(非公務員化)に当たって、医学部等の付属病院における当直医の勤務について、所轄労働基準監督署長の許可を得ることができず、超過勤務手当や夜勤手当を支給することまではできないとの判断から、その多くを交替制勤務に切り替えざるを得なかった。
と、いままでの国立大学時代のいい加減な労務管理の方が正しかったというようなことを言われていて、これはいささか・・・と。こういうことをうかつに言われると、正しい指摘をされているところまでいささか・・・と思われてしまうのではないかと心配になります。
この説の最後のところで、EU労働時間指令について、医師の待機時間の扱いが問題になっていることが指摘されていて、それは結構なのですが、そこで労働時間に含めるべきか除くべきかが問題になっているのは、あくまでも待機時間のうちの不活動時間であって、実際に運ばれてきた患者の相手をしている時間が労働時間であることは、すべての関係者が当然と考えているわけですが、日本の救急医療の現場においては、夜通し患者の相手をし続けても、それらは全部「当直」という名のもとに労働時間に勘定されないという世にも不思議な事態になっているんですね。この辺、本ブログで何回も取り上げてきたことですが。
ある意味では、こっちの方がよっぽど「小説よりも奇」であるようにも思われますが、小嶌先生はそちらの「奇」にはあまり関心をお持ちでないように見受けられます。
まあ、逆の立場の人は、マンション管理人が眠っていても労働時間だというのは当たり前で、あまり「奇」だと感じないようで、そこはうまくできているのかも知れませんが。
日本の労働法(法令及び判例)には、確かに「小説よりも奇」なところがあるのは確かですが、その「奇」の指摘自体があまり特定の立場から一方のみを取り上げると、いささかバランスを失するところがあるかと思います。
これは、サービス残業の問題にしても、派遣と請負の区別の問題にしてもそうで、実のところ、ある意味では小嶌先生の指摘に同感するところが結構あるのですが、そこにその裏面の問題としての長時間労働による健康被害とか、請負といえば労働法規制からまったく排除されてしまうこと自体の問題(私の言う「請負法制に問題がありすぎる」件)にはまったく言及されないというところで、残念ながら肝心の労働者の目から見た説得性に問題が生じてしまうように思うのです。
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体裁含めちょっとお洒落な感じを醸し出す“THEORY BOOKSシリーズ”の仮面をかぶっているものの、中身はとってもハードな法律書です。
職場の法律は小説より奇なり
徹頭徹尾の現行労働法批判
就業規則が持つ法律なみの効力があまりに強力すぎる点、
試用期....... [続きを読む]
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