世代間移転の本筋は労働を通じて
第一生命経済研究所の熊野英生さんが「贈与税減税と遺産マネー~遺産動機を持つ相続マネーは相対的に大きくない~」というレポートを公表していますが、ちかごろ異様にはやりつつある「年寄りのこどもへの贈与に減税して景気回復だァ」という議論に疑問を呈しています。
http://group.dai-ichi-life.co.jp/dlri/kuma/pdf/k_0904e.pdf
この手の議論は、日本は相続税が高すぎるから年寄りはカネを握りしめて離さないんだ、という金持ち目線の前提に立っているわけですが、本当にそうかというと、
>高齢者マネーが家計金融資産残高の約6割(840兆円程度)を占めていることが知られているが、その中で能動的な遺産動機を持っている高齢者マネーの規模はそれほど大きくはないという印象である。それに対して、相続税を支払っている人の保有資産は、国税庁の統計などを利用すると、229兆円とより巨大な規模だと推定される。この数字でみても、遺産動機を持っている高齢者マネー10.1兆円と比べて大きな乖離がある。
>そこで、ここで生じたギャップ※※の理由を考えると、遺産として課税された金融資産は、必ずしも遺産動機によって蓄積されたものではなく、遺産動機を持っているマネーはその部分集合であると考えられる。高齢者マネーの中で金融資産をメインに遺産動機を持っている割合はそれほど大きくなく、むしろ「老後の不安」や「将来への備え」といった別の理由によって蓄えられている可能性が高い(前掲図表1)。
>結局、高齢者マネーは、遺産動機よりも、老後の生活資金に備えた資金や病気や不時の災害への備えという部分の方が圧倒的に大きく、そうした不安を抱えたまま結果的に相続対象※※※になってしまっている部分が多いのではないだろうか。
で、贈与税減税でどれほど高齢者マネーが動くかというと、「限界的に今回の贈与税軽減措置で誘導できるマネーの総量はそれほど大きくはない」と熊野氏は見ます。
そもそも、
>ここ十数年来、「家計金融資産に占める高齢者マネーを動かすことで、景気刺激に有効活用しよう」というアイデアはさかんに主張されてきた。しかし、そうしたアイデアは金融ビッグバンをはじめとして成功してこなかった。
>筆者からみれば、「高齢者マネーを動かす」ということの本筋は、高齢者が消費を増やすことで、その資金が若年世代の勤労所得に変換されることだと考える。例えば、介護ビジネスを通じて、サービスを受ける高齢者がケアをしてくれる若者に相応の対価を支払えば、それは好ましいかたちでのマネーの世代間移転となるはずだ。
このへん異議なし。
>ところが、介護ビジネスに関しては、介護報酬が2000年の制度開始以来、数度にわたり引き下げられたこともあって、現場を若者が敬遠するようになってきている。残念ながら、介護・福祉分野での勤労を通じてマネーの世代間移転を進めることは、簡単なことではない。これこそ、紛れもなく正常な世代間移転が進むチャネルが機能障害を起こしているということであろう(ここにきて、経済対策の中でようやく介護報酬は引き上げられることが決定された)。
要するに、高齢者が率先して高品質・高価格の財・サービスに消費しないから、結果的に勤労所得も制約されるという図式である。筆者は、医療・福祉・介護ビジネスを通じて若者の賃金が上がっていくメカニズムを強めることが最善の策であると考える。
同じく異議なし。まさに、この小見出しの言葉をそのまま使わせてもらえば、「世代間移転の本筋は労働を通じて」行われるべきなのです。若者の労働の対価として高齢者の資産が使われることが本筋でしょう。
>一方、なぜ、高齢者が消費を増やさないかというと、多様な将来不安が解消されずに、予備的動機が強く働くからだと説明できる。巨大なる高齢者マネーは、高齢期を迎えた人々が自分の将来生活がうまく描き切れないことの「結果」なのである。従って、この状況は「結果」であるからこそ、容易に変化させることはできないであろう。
ではどうしたら、その「不安」を解消できるのか、という疑問に対し、熊野氏の答えはいささか奇妙なものですが、
>逆説的な見解を述べると、子供から親への援助ができるようになることが、それに資すると考えられる。
これは正直、本質的ではないような気が・・・。
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