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2009年3月 4日 (水)

人財力分野の成長戦略

昨日、経済財政諮問会議において成長戦略の3つの分野が議論されました。

http://www.keizai-shimon.go.jp/minutes/2009/0303/interview.html

健康長寿、人財力、コンテンツという三題噺だそうですが、このうち人財力は本ブログの所轄範囲ですので、有識者議員提出資料を覗いてみましょう。

http://www.keizai-shimon.go.jp/minutes/2009/0303/item6.pdf

>戦後我が国は、人的資源の活用により「ものづくり立国」として発展し、世界をリードしてきた。しかし、近年、団塊世代技術者の一斉退職や十分な教育訓練機会に恵まれない非正規労働者の増加等の事態に直面し、技術力・国際競争力が低下しかねないとの懸念が生じている。我が国が「底力」を発揮するためには、日本経済の将来にとって戦略的に重要である分野を支えるための「人財力」、技術力を高める観点から、非正規労働者を含め、若手・中堅を中心とした人材育成の強化や、新しいフロンティアを生み出す研究基盤の整備に官民あげて取り組むべきである。

まことに適切な問題意識といえましょう。

まず最初の論点は「企業等における人材育成の強化、特に非正規労働者の能力開発を社会全体で支援していく取組を強力に進めるべきではないか」です。

>人材育成で重要な役割を担っている企業による教育訓練は、90年代に減 少した後最近は増加傾向にあるものの、中小企業の教育訓練投資水準は依 然として低く、また、正規労働者と非正規労働者との間に大きな格差がみ られる。

そこで、具体的な推進方策として、

・企業の人材育成支援(人材投資促進税制の活用、中小企業支援)
・ジョブカード制度(現在2000社以上が参加表明)を活用した、非正規労働者を対象とする企業内実習の機会拡大
・離職者に対する生活費支援付きの職業訓練システムや非正規労働者等を対象とする教育訓練施策の抜本的拡充
※イギリスのトランポリン型支援=「若者ニューディール・プログラム」の成果
※フランスの派遣労働者訓練基金を参考として検討
・優良な派遣事業者の訓練主体としての活用(派遣事業者が持つ人材育成システムの機能を訓練主体として活用すべき)

前半は今までもいわれてきたことですが、後ろの方の派遣事業を訓練主体として活用する、というのは政府関係の文書としては目新しいですね。

実は、これは私が『世界』3月号に書いた派遣の論文の最後のところで紹介したものです。まだ4月号が出ていないので全文は公開できませんが、最後の節だけ引用しておきますね。

>もう一つ、忘れてはならないのが派遣労働者の能力開発である。日本では特に高度成長期以来、企業内部のオンザジョブトレーニングによって正社員の教育訓練を行ってきたため、そこからこぼれ落ちる人々に対する公的職業訓練システムはかなり貧弱である。しかも、昨年末の雇用・能力開発機構の廃止決定に見られるように、公的職業訓練の必要性に対する政治家やマスコミの意識もきわめて低い。しかしながら、企業内教育訓練から排除されている非正規労働者がこれだけ増加する中で、公的職業訓練機関の抜本的拡充が不可欠である。
 ただし、派遣労働者の場合、派遣の合間の期間が生じうることから、これを教育訓練に充てることが合理的であるので、上記で提案した登録型派遣労働者待機期間給付の支給と併せて、派遣業界の共同出資により教育訓練施設を設け、訓練を行うというやり方も考えられる。言うまでもなくこういった費用は派遣労働者にではなく、派遣先に転嫁されなければならない。フランスでは中央労働協約により、派遣会社が義務的に賃金の2.15%分を拠出して派遣労働者職業訓練基金等を設立し、職業訓練を行っている。これは1972年のマンパワー社との協約に由来するという。

2つめの論点は「世界最先端の研究を支えるハード・ソフト両面にわたる研究体制の刷新を進める必要があるのではないか」ですが、これはパス。文科省と経産省あたりにお任せします。

3つめの論点は「人材育成を強化するため、理数・英語教育、キャリア・職業教育の充実、世界をリードする大学としての機能強化を推進すべきではないか」です。これを教育関係者だけに任せていると、話があらぬ方向にたゆたうていくので、ちゃんと実業方面から手綱を締めてかからないといけないわけですが、推進方策は、

・小学校の理科、算数、英語の教育の強化のための人材確保(含む外国人)
・退職したものづくり技術者(実務家教員)、社会人、大学院修了者の活用
・スーパーサイエンスハイスクールの拡充、英語教科書・授業の充実
・専門高校・大学と産業界の連携による職業教育、キャリア教育の充実
・国立大学運営費交付金や私立大学助成金の成果に応じた配分
・海外の有力大学等との複数学位制の拡大、優秀な外国人研究者の招聘・定着に向けた研究環境の国際化の推進、優遇ビザ制度の創設
・日本国内への「頭脳循環」のための海外在住研究者データベースの整備

前にも「金融立国論批判」の文脈で大瀧雅之氏を引いて述べたことですが、理科系の人だけに理科系の知識が必要なんじゃないんですね。文科系で知ったかぶりするお馬鹿さんを撲滅するためにも、理科系教育はみんなに必要なんだと思うのです。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2008/02/post_54bc.html(大瀧雅之氏の金融立国論批判)

>特に、近頃ブログ界に流行るインチキ連中への痛罵とも言うべき次の一節が拳々服膺すべき内容を含んでいるように思われました。

>・・・そうした中、まことに単純で杜撰な想定に基づく経産計算から導出された証券価格やリスク評価を盲信し金融経営の中心に据えることは、経営の怠慢に他ならず、背筋に寒いものを感じる。筆者が文科系学生の数学・理科教育が何にもまして重要と考えるのは、こうしたプリミティブな「数学信仰」そして同じコインの裏側であるファナティシズム・ショーヴィニズムを抑止し、広く穏やかな視野で論理的な思考を涵養せねばならないと考えるからである。彼らが数理科学の「免許皆伝」となることは残念ながらまったく期待できないが、組織・企業の要として活躍するには、そうした合理精神が今ほど強く要求されているときはない。

>筆者の理想とする銀行員像は、物理・化学を初めとした理科に造詣が深く、企業の技術屋さんとも膝を交えて楽しく仕事の話ができる活力溢れた若人である。新技術の真価を理解するためには、大学初年級程度の理科知識は最低限必要と考えるからである。そうした金融機関の構成員一人一人の誠実な努力こそが、日本の将来の知的ポテンシャルを高め、技術・ノウハウでの知識立国を可能にすると、筆者は信じている

付け加えるべきことはありません。エセ科学を的確に判別できる合理精神は、分かってないくせに高等数学を駆使したケーザイ理論(と称するもの)を振り回して人を罵る神経(極めて高い確率でファナティシズムと共生)とは対極にあるわけです

4つめの論点は「博士課程修了者が十分に活用されていない問題について、大学や産業界等の関係者で、原因の分析とともに解消策を検討すべきではないか」です。

ここで推進方策としてあげられているのが、

・大学や産業界等関係者の間の人材養成・活用に関する情報交換・協議の強化による産業界等社会のニーズと大学院教育のマッチング
・社会のニーズも踏まえた、博士課程入学定員・教育内容・組織の見直し
・博士号取得者の企業への就職促進(日本は米国と比較して半分程度、より長期のインターンシップ、産学連携の一環として就職に結びつけるトライアル雇用の積極的な取組支援、研究テーマと事業との関連の議論を促すなど定期的なジョブカフェの開催支援、大学における就職情報窓口一本化、データベース整備等)
・初等中等教育における理数教育を支援する外部人材としての活用

であることからもわかるように、問題意識は理科系の博士にあります。産業界が活用すべきであり、また活用できるはずの、最先端の科学技術を身につけた彼らを活用しないのはまさにもったいない話です。それにひきかえ(以下略)

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2009/03/post-2f36.html(知ったかぶりより懺悔が先)

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