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2009年3月26日 (木)

国民の税金を使ってクリームスキミングをするのか

労務屋さんの「吐息の日々」が、先日の政労使合意に関する日経と毎日の社説を取り上げていまして、それ自体については、私の考えもありますが(そのうち新聞紙面にも出るでしょう)、ここでは、日経社説の余計な一言に関する労務屋さんのコメントにコメントしておきたいと思います。

http://d.hatena.ne.jp/roumuya/20090325

日経の社説は

>だが、ハローワークが行っている職業紹介事業を民間企業に委ねるのは長年の懸案だ。とかく役所仕事に陥りがちな職員に緊張感を持たせようと、08年には官民併存を可能にする市場化テスト法案が国会に提出されたが成立しなかった。

 職業訓練や紹介業務は民間のノウハウが生きる分野だ。「雇用の危機」を理由にした、役所の勢力拡大につながってはならない。

というもので、これに対する労務屋さんのコメントは、

>さて、この社説、後半部分の大半は「ハローワークへの期待があまりに強調されている」ことに対する批判に費やされています。ずいぶんな熱の入りようですが、もともと公共職業安定所については市場化テストのみならず、地方分権のほうでも縮小が検討されていて、日経としてみればそうした流れに逆行することは看過しがたいということでしょうか。まあ、現在の雇用失業情勢を考えれば、いますぐにハローワークを縮小するというのは無謀でしょうが、いっぽうで中期的にみれば、それなりに民間のほうが効率的な部分もあるでしょうし、政府が行うにしてもその仕事をする人が必ずしも全部公務員でなければならないということもないでしょうし、最悪の状態にあわせた規模を常時維持しなければならないということもないわけで、市場化テストも地方分権もいまはポストポーンしておいて、雇用情勢が安定した段階でまたそのあり方を考え直せばいいのではないでしょうか。

ただ、現状の雇用失業情勢はといえば、業種でいえば製造業が、雇用形態でいえば非正規労働がとりわけ問題になっているのが実情なわけです。仮に社説のいうように一般論として「職業訓練や紹介業務は民間のノウハウが生きる分野」であるとしても、製造業の非正規労働が民間のノウハウが生きる分野かどうかには疑問もあります。このあたり、経団連と連合でどういう調整があったのかはわかりませんが、経団連は当然人材ビジネス業界の利益も代表しているでしょうから、合意がこうしたものになったということは、人材ビジネス業界もこれにはあまり関心を示さなかったことの反映ではないでしょうか。私はhamachan先生のように民間がクリームスキミングをすることには別に抵抗はなく、むしろそれが当然ではないかと思っていますし、民間がやるところは民間にやらせて、民間がやらない部分を公的部門がやるというのが自然ではないかと考えていますが、それにしても今回はどちらかというと民間がやらない部門が主体ではないかという感じがして、まあ建前としては日経の言わんとすることもわからないではないですが、ここまで力む場面でもないのではないかと。

全体の趣旨はまったくその通りだと思うのですが、一点、「クリームスキミング」という言葉を具体的にいかなる行動に適用して用いているかについて、若干私と食い違いがあるようです。

わたしは、職業紹介事業それ自体について、事業運営の適切さの確保さえきちんとされれば、事業経営自体への規制はないのが原則だと考えています。その結果、民間紹介事業者が自分たちの得意分野だけで紹介事業を行い、やりにくい分野をハロワに任せるという結果になるのは当然のことであって、何ら非難されるべきことではないでしょう。

私は民間が民間の得意分野のクリームを自助努力で掬うことをクリームスキミングと呼んで批判しているわけではないのです。

本ブログで何回か書いてきたように、市場化テストなるものは、国が国の責任において行わなければならない無料のユニバーサルサービスとしての職業紹介を、国のカネ(国民の税金)で民間企業にやらせろという話なんですね。

もちろん、無料のユニバーサルサービスを国のカネでやるにしても、それを身分が保障された国家公務員がやらなければならない理由はありませんから、国の委託を受けた民間企業がやるということも十分あり得ます。それを批判しているわけでもない。

しかしながら、そういう無料のユニバーサルサービスを国のカネでやらせろという話の中に「得意分野でやらせていただきたい」はないでしょう、という話なのです。

実のところ、私は無料のユニバーサルサービスとしてのハロワの現場の運営を、就職困難者の支援活動などをやっている民間団体やNPOなどに委託していくという方向は十分ありだと思っていますし、それこそ「とかく役所仕事に陥りがちな職員に緊張感を持たせ」ることにもなりうると思っていますが、はじめからおいしいところだけやりたいといってる企業に国民の税金をプレゼントするというのは納得を得られないのではないでしょうか。

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コメント

新聞の社説って中学生が書いてもいいんですね。
>職業紹介や紹介業務は民間のノウハウが生きる分野だ。
→「民間」って、ひとくくりで。。。。。民間職業紹介事業者の業態やビジネスモデルを30秒でも勉強したことがあるのでしょうか、この記事を書いた中学生は。官が連戦戦勝したモデル事業の検証を30秒でもしたのでしょうか。そもそも「ハローワークへの期待があまりに強調されていることがけしからん」と断言する根拠は何でしょうか。この記事を書いた中学生の思考の出発点が、「労働者にとって一番いい方法は何か」ではなく、「官は悪・民は善」であるから、彼のなかでは自分の提言の論拠など示す必要もないわけです。

本論からはずれますが、新聞が売れないのは、それが紙媒体であるからという理由だけでないでしょう。その記事や社説が、実は床屋談義と変わらないレベルだったと、多くの人が気づいたから。一記者の薄っぺらい思いつきで書いた社説などは、例えば本ブログの管理者様や読者のような人達が、あっというまに裸にしてしまう。

>職業紹介や紹介業務は民間のノウハウが生きる分野だ。
派遣だと受け手側の業者があまりにも経験豊富で高スキル所持者希望といった都合ばかり上げる状況に閉口して、ある派遣関係者が某所で「だったら貴方達がちゃんと育成も含めやるべきだろうに」と苦言を呈したのを思い出します。
あと新聞会社の方達がどんな社会経験を積んだのかはわかりかねますが、厳しい言い方として上から目線で皆まで書くのはさすがに下々の民草に対して失礼でしょと思う訳です。
新聞紙面すべてが堕落したとは言わないのですが、少なくとも今雇用の問題で文字通り血反吐吐いて怨嗟を胸に秘めつつも、それでもだ希望捨てずに生きる事を模索する人達が多い中で、本当にそうした人達のための雇用行政に提言するなら、もっと血と涙の匂いがする文書書いてくれと思う訳です。
新聞社内で何かしら事情があるせよ、今やるべきは真に仕事という社会と関わる機会を失った人達を救済するを置き忘れて枝葉の話に収支するのは、血の通った人間としてかなりどうかと思うのですが。

既に、2年間に渡って行われた官民競争のモデル事業のことに全く触れないのは、いくらなんでも低レベル過ぎる社説ですね。

自分達の思惑に基づいた結論ありきで、事実をまるっきり無視している訳ですから。

事実に基づけば、何の付帯条件もなく、
>職業訓練や紹介業務は民間のノウハウが生きる分野
などというのは、妄言に過ぎない訳ですから。

職業紹介、だけなら、民間委託とかNPOとかもあり、かもしれませんけれど、ただ、public employment serviceについて、世界の趨勢って、ワンストップ化、ではありませんか?給付業務、それに、仕事の紹介だけでなく、職業訓練の紹介やそれへの導入もするとしたら、そして、その訓練が公費の施設、あるいはこれも何らかの給付つき、というようなことも大いにあり得るとすると、少なくとも一箇所のハロワの業務全体をまるごと民間とかNPOとかいうわけにはゆかないのでは?

ぶらり庵さんのおっしゃる通り、この社説を書いた記者さんにはおそらく、「雇用戦略」の視点が全く無いのでしょう。

ご意見ありがとうございました。なにかとバタバタしておりまして気付くのが遅れてしまい、申し訳ありませんでした。とりあえず私の意見の大筋にはお墨付きをいただいたようで一安心です。
そこでご指摘のクリームスキミングの件ですが、納税者の立場からしてみればしかるべく行政サービスが提供されるのであれば、それが公務員の給与になっても民間企業の売上になってもそれなりに納得はすると思います。ですから、今回市場化テストの対象になった「無料のユニバーサルサービスとしての職業紹介」が、全体を一体として運営する必要があるとか、あるいは民間に得意分野だけをやらせることで全体の効率が低下し、全体では国が一体で運営したほうが効率的だ、ということであれば民間の出て行く余地はないでしょう。逆に一部だけでも民間にやらせたほうが効率的だというのであれば、納税者としてはそれで納得するのではないだろうかと、まあそれだけの話です。

ハローワーク職員です。労務屋さんとhamachanさんの話が未だ噛み合ってない気がします。それはおそらく、労務屋さんがハローワークの実際の現場について、具体的なイメージを持たれてないからでしょう。一般論、抽象論では、お二人は同じことを言っておられます。民間でできることは民間へ。それだけの話。税金を使ったとして、その事業の実施主体が民間事業者であっても、国民にとってよりよいサービスを提供できれば、それはそれでよいし、クリームスキミングとは言わない。公務員である私自身もそう思います。では、ユニバーサルサービスとしてのハローワークにおける職業紹介の実際の現場はどうなっているのでしょうか。窓口に来る求職者のレベルは、それこそ凄まじい「玉石混淆」です。求職者だけでなく、求人についても「玉石混淆」。民間の紹介事業者は、職種ごとに細分化された労働市場をマーケットとして求職者と求人者を絞りこみ、選別しているわけです。もちろんそれは悪いことではなく、民間事業者の健全な営利追求。問題なのは、このたびの市場化テストで、民間事業者が、<ユニバーサルサービスの事業体としてのハローワークに来る「玉石混淆」の求職者のなかから、「玉」の部分だけを取り出してこちらに回せ、そういう仕組みを俺たちのために整えろ。>と言ったことなのです。これはいくらなんでも無茶苦茶です。そして不可能な話です。膨大な量と種類の求職者と求人者について、この人は民間、この会社は民間、この人は官、この会社は官、とどうやって選別するのでしょうか。理念としても、物理的にも、ユニバーサルサービスの限界を超えた話です。労務屋さんが、コメント欄で、「一部だけでも民間にやらせた方が」という表現をしておられます。では、具体的に「一部」って何を指すのでしょうか。モデル事業がことごとく失敗したのは、現場の複雑性や困難性を理解せずに、まさに一般論や抽象的理念で強引にことを押し進めた結果です。

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