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« リストラされた100人貧困の証言 | トップページ | 公的扶助とワークシェア? »

2009年3月12日 (木)

この発言は人事コンサルタント失格でしょう

城繁幸氏が、Voice誌に「労働組合は社員の敵」という記事を書いています。

http://news.goo.ne.jp/article/php/business/php-20090310-04.html

その中には、一面の真理も書かれていることは確かです。特に、

>「派遣さんがかわいそうだから派遣なんてなくしてしまえ」というのはきわめて頭の悪い対症療法

というのは私も主張しているところですし、

>では抜本的な原因療法とは何か。それは、正社員と非正規雇用労働者のダブルスタンダードを解消すること

というのも、中長期的な観点からは間違いではありません。

しかし、次のような発言を軽々しくするというのは、人事コンサルタントを名乗っている立場としてはあまりにも問題でしょう。これが他分野の人が一知半解で放言しているというのならまだ許せますが、人事労務の専門家というのであれば、きちんと実証していただく必要があります。

>そもそも日本の正規雇用は、「解雇権濫用法理」と「労働条件の不利益変更の制限」によって事実上いかなる解雇も賃下げも不可能

現在、都道府県労働局には年間100万件の労働相談が寄せられていますが、その多くは解雇、労働条件の不利益変更等です。非正規の雇い止めも多いですが、正規の解雇も山のようにあります。裁判所まで訴えるといういささか特別なケースに、結果的に裁判所が適用した規範だけで日本の正規雇用の実態を考えてはいけません。そんなもの年間1000件程度です。その背後には、山のようなはした金による解決があり、その背後にはさらに多くの泣き寝入りが埋もれています。そのあたりの感覚がない人間が、軽々しく日本の労働法制の実態を語るのは、正直言って怒りを感じます。

まさか、自分の在職していた富士通だけが日本の正規雇用だと考えているのではないでしょうが。

ついでながら、「年齢給から職務給へ」というのも、中長期的課題としてはそれなりに理解できるところですが(短兵急にやろうとすると社会的に大変なことになります)、どうもこの人事コンサルタント氏は、職務給の意味がよく分かっていないようです。その証拠に、

>具体的には、まず正社員の労働条件に関する規制を外し、非正規雇用側の代表を交えるか、あるいは立法によって“同一労働同一賃金”の実現を促すのだ。これによって両者の中間点に適正な労働相場が形成され、特権的な年齢給から職務給へとシフトする。欧州において同一労働同一賃金が実現できたのは、賃金体系が職務給であったためで、日本において同じことを可能とするためには、まず賃金体系の見直しが必須である。

じつは日本においても同様のことを何十年も前から普通に実現している職業は存在する。プロ野球がそうで、労働組合選手会は最低賃金や減額幅の上限といった大枠は交渉するものの、個別の賃金交渉については横並び一律のような基準は求めず、個々の選手と球団に一任している

職務給というのは、ヒトではなく椅子に値段が付いている賃金制度です。誰がその仕事をしようが、同じ仕事なら同じ賃金ということであって、まさに同一労働なら「横並び一律」こそが職務給の神髄です。個々の労働者ごとに賃金が異なるというのとは原理的に正反対の思想です。職務給にプロ野球を持ち出すところでアウトでしょう。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2008/03/post_73ad.html(そういう二項対立ではないのです)

これは、金融論の専門家であって労働問題には全くの素人である深尾光洋氏だから。許される・・・というわけにはいきませんが、まあしゃあないな、とあきらめがつく話なのです。それにしても、日経BIZPLUSでこういう妄言を吐かれては大変迷惑であることには変わりありませんが。

こんな一番基本のキがひっくり返っている人が人事コンサルタントなんですかねえ、と、悲しくなってしまうのですが。

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コメント

えーと。はした金で受け入れたり、泣き寝入りしている人がただ単純に悪いだけですよね。
訴えればいいのに。勝てるのに(笑)
城さんはあなたのようなせまっ苦しい議論をしているのではないのです。そこが理解できないとどうしようもないでしょうな。

いつも読ませて頂いています。城さんとほぼ同世代の企業人事担当者ですが、彼のレベルが通常の企業人事のレベルと思われると辛いです。ある職務がある職務より高い給料であると人に説明することの難しさを経験せずに語っているのでしょう。私は彼の肩書きが元人事から人事コンサルタントに変わってほっとしています。したがって彼の肩書きへの攻撃は控えめにお願いします。

彼の見ている富士通の労働組合が常軌を逸して
いるという側面はあると思います。

彼なりの正義感ではあるのでしょうが、日本の労働
組合や連合といったものは、富士通の労組ほど
腐敗していないのではないでしょうか。仮にそれが
真実だとしたら、連合を支持母体とする民主党に
本当に政権を本当に預けていいのかという大きな
話になると思います。

城氏の発言がますます過激になっています。
彼も彼自身が金を稼ぎメシを食っていかなければならない立場ですから、やむを得ないんでしょうな。

そうでないと、メシが食えない(仮に彼が常識的な発言を掲載しても誰も読まないでしょう。学者でもないし、ただの元富士通社員ですから)ですから。

どこかにもいましたよね、パフォーマンスと過激な発言だけが目立つ人。

>どこかにもいましたよね、パフォーマンスと過激な発言だけが目立つ人。

誰なのかちょっと気になります
もしかして3法則の人ですか?

雇用問題における既得権益の議論において、なぜか使用者の既得権益について何も言わない人が多く、不思議に思っています。
戦後の労働法制ができて60年過ぎたというのに、労働基準法も知らない、守らない使用者が多く、実際には解雇規制関係なしに首を切ったり、身勝手な理由で賃下げしたりが当然のように行われています。
つまり、現状で雇用の決定に最大の既得権益を持つものは、正規労働者でも労組でもなく使用者です。城氏はそこらへんに気づかないのか意図的に触れないのか。
コメントの人の中に、訴えないのが悪い、という人がいるのにびっくりしました。善悪で言うなら違法な首切りをする方が「悪い」のであって、泣き寝入りをしたからと言って「悪者」呼ばわりはできません。誰に対しての「悪」なのでしょう。

>正規の解雇も山のようにあります。裁判所まで
>訴えるといういささか特別なケースに、結果的に
>裁判所が適用した規範だけで日本の正規雇用の
>実態を考えてはいけません。そんなもの
>年間1000件程度です。その背後には、
>山のようなはした金による解決があり、
>その背後にはさらに多くの泣き寝入りが
>埋もれています。

これは氷山の一角でしょう。
城には語るべきことがもっとあるはずです。
http://dome.ruru.ne.jp/mlt/mlthp/index.html

パフォーマンスと過激な発言だけが目立つ人は、3法則の人以外にも、たぁーくさんおられます。
ただ、こういう人たちってマスコミ受け、大衆受けする(視聴率が取れる、部数が伸びる、アクセスが伸びる)ので、余計にタチが悪いですね。
メディアはもっと地味な人の声を拾えよと、そう思う。

私がオイオイと思った部分
「経営者とは階級でも何でもない元サラリーマンにすぎず、実態としてもサラリーマンに近い人が主流だ(これはこれで問題ではあるが)。こういう人は、労働者を搾取しても1円の取り分にもならないし、そもそもそういうインセンティブはもっていない。」

なぜかここだけ性善説。

>職務給の意味がよく分かっていないようです。その証拠に、
それは「単語を誤解している」というだけですよね。

主張そのものが間違っているという主張は、これとはまた別に必要です。

まともな学問分野では、キーとなる概念の意味をまったく理解しておらず、まったく別の意味に取り違えているような場合、主張の是非を論ずる以前であるというのが通常の反応であろうと思われます。

そうですね、たとえば、「機会費用」という概念を「俺は彼女と会う機会を得るためにこれだけたくさんの費用を使ったんだ」という風に理解しているヒトが、どこかで「それは機会費用がかかりすぎるからやめた方がいい」ともっともらしい顔でつぶやいたとき、その主張の是非を論じたいですか?

あるいは、「不当労働行為」という概念を「労働組合とかいうふざけた輩が使用者を不当に脅迫して賃上げをゆすり取ること」という風に理解しているヒトが、「いかなる不当労働行為も許されない!」などとまじめな顔で語ったら、その主張の是非を論じる値打ちがあると思いますか。

これをどうでもいい単語を覚えているかいないかという風に理解されるというのであれば、まあ私もその主張の是非を論ずる気はしませんが。

>その背後にはさらに多くの泣き寝入りが埋もれています。

確かにこういうケースも考えれば、城氏の物言い
は粗雑と思う。

http://www.47news.jp/CN/200809/CN2008091701000845.html
新銀行東京の元行員が提訴 集団いじめで自殺未遂

>正社員の労働条件に関する規制

これは専ら「バブル崩壊の帳尻合わせ」という事情が大きかったのではないかと。

http://www.officej1.com/bubble/jigoku-1houki.htm
現代の徳政令 債権放棄 一覧
http://kenken5553.cocolog-nifty.com/my_log/2004/03/100.html
March 24, 2004  100万人を破滅させた大銀行の犯罪

これの責任は、決して小泉政権の構造改革がどうたらではない。
(時系列からして合わない)
経営部も労働組合もグルになって甘い汁を吸ってきたのかもしれないが、
彼らは加害者であると同時に被害者という、難しい問題。

法律論として

>そもそも日本の正規雇用は、「解雇権濫用法理」と「労働条件の不利益変更の制限」によって事実上いかなる解雇も賃下げも不可能

は完璧に正論です。実社会では全然守られてませんけど、少なくとも富士通では過労死問題などがあってから完璧に残業代等は支払われているようです。
問題は法律論と現実をどのように埋めるだと思います。単なる批判ではなく建設的な議論を望みます。

akiさんがどういうバックグラウンドの方かは存じ上げないのですが、少なくとも「法律論として」であれば、上の一節は「完璧に間違い」です。

「法律論として」ではですよ。

法律論というのは、解雇権濫用法理というのは、解雇権が存在し、それは原則として行使することが可能であることを他のあらゆる議論に優先する大前提とした上で、それが一定の場合において「権利の濫用」に該当して無効になる「ことがありうる」というロジックであり、いかなる意味でもその逆ではないという論理のことです。それが大企業分野ではかなり広く認められているという「実態」を、「法律論として」ではなく「いかなる解雇も事実上不可能」というのは、それを「多くの解雇は事実上困難」と言い換えるのであれば、「法律論ではない」ことを前提にすれば、そういってもいいということなのです(もっとも、日本の裁判所は企業秩序論に親和的ですので、会社のいうことを聞かない奴の解雇にはそれほど厳格ではありません)。

しかし、ちょっと中小零細企業に行けば、そのような実態などほとんど存在せず、例えば今手元にある資料から手当たり次第に拾っただけでも、

>明日から来なくていい
>もう来るな
>求める人材と違う。今日限りで
>休みが多いので今月末でやめて欲しい
>おまえは懲戒解雇だ

なんてのが山のようにあります。権利濫用法理以前の民法の随意雇用原則が中小零細部門では結構生きているんですね。

一方、労働条件の不利益変更についていえば、法律論というのは、民法の原則では一方的不利益変更はできないということです。

しかし、まさに解雇権濫用法理とロジカルには同じレベルで、法理の実態としては就業規則の合理的変更法理というのが確立していて、論理的には不利益変更はできないのが原則といいながら、現実にはできるのが原則となっています。このあたりの論理的な関係は、労働問題の専門家でもわかってなかったり、わざとわからないふりをしたりしている傾向もありますが、筋論を通せばそういうことです。

いや、こういう議論はすべて「法律論として」はそうだという話なので、実態論だけで議論しようというのであれば、あえてそこまでいう必要があるとは必ずしもいえません。まあ、おそらくそこまでの厳密な「法律論」を意識しておられなかったのでしょうが。

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