希望の社会保障改革
旬報社から出版された駒村康平+菊池馨実 編『希望の社会保障改革』は必読の書です。以上。
といっただけではあまりにもぶっきらぼうなので、旬報社のHPからコピペしながら紹介しますね。
http://www.junposha.com/catalog/product_info.php/products_id/506
本書は、『世界』の昨年12月号に掲載された「新しい社会保障像の構想」を総論として冒頭におき、そのあとにこの研究会のメンバーの各分野ごとの論文を載せた形になっています。
現在、バブル崩壊後に日本経済を立て直すために採用されたいわゆる「構造改革」により、雇用システムは不安定になっている。また、小さい政府路線により、社会保障制度も脆弱なものとなっている。こうした状況で、2008年後半に発生したアメリカ発の金融危機が実体経済に深刻な影響を与えつつあり、多くの国民を不安に陥れつつある。戦後、今日ほど社会保障制度の立て直しが求められている時期はない。」
「こうした混迷の時代にあってこそ、いわば原点に立ち返って、新たに社会保障の理念を構築し直し、既成の枠組みにとらわれることなく、中長期的視点に立った社会保障像を描くことが求められているように思われる。しかも、「社会保障の持続可能性」をたんに財政面からとらえるだけでなく、社会保障制度を支える社会的ないし市民的基盤の再構築という側面からとらえることも重要である。このことは、社会保障に限定されない「社会」のあり方そのものへのビジョンをもつということでもある。
『世界』誌に載ったときの本ブログのエントリはこれです。
http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2008/11/post-2f7e.html
編者以外の執筆者は以下の通り:
石崎 浩(読売新聞社)
今井博久(国立保健医療科学院)
齋藤純一(早稲田大学)
関ふ佐子(横浜国立大学)
西村 淳(厚生労働省)
沼尾波子(日本大学)
原田啓一郎(駒澤大学)
福田素生(埼玉県立大学)
本田達郎(医療経済研究機構)
山田篤裕(慶應義塾大学)
いろんな意味で、私と問題意識を共有する人々です。あえていえば私が労働サイドからものを考えるのに対し、このかたがたは厚生サイドからものを考えるということでしょうが、今日その両者がきわめて密接に入り交じってきていることは、本書の論述を読んでもよくわかるところです。
かなり細かい目次が載っていますのでそのまま引用しますね。
提言 新しい社会保障
Ⅰ 総論
1 社会保障の目的と理念
2 社会保障制度の基本的な考え方
3 社会保障の基盤整備
4 社会保障の財源政策
Ⅱ 社会保障制度の各論
1 定義・構成
2 所得保障制度
3 就労支援制度―労働政策(人的能力開発、労働市場・雇用関連制度の整備)
4 医療保障制度―医療費保障、医療提供体制
5 介護保障制度
6 子育ち・子育てを支援する制度
7 住宅保障制度―住宅手当、住宅サービス保障
Ⅲ 改革に向けての議論の進め方
1 議論の目標
2 議論の現状
3 望ましい議論の進め方
第1章 新しい社会保障の理念―プロテクションからプロモーションへ…………齋藤純一
1 貧困と社会統合
2 社会統合と制度への信頼
3 プロテクションからプロモーションへ
4 自律を支援する社会保障
第2章 社会的排除の克服に向けて…………西村 淳
1 自立と社会への参加
2 社会的排除克服のための施策―就労・生活・所得支援の一体的提供
3 社会的排除克服のための人的資源と体制の整備
4 ポジティブな社会保障へ
5 社会的包摂の理念と社会モデル
6 社会連帯の再構築と社会保険
第3章 分権型社会保障制度の構築…………沼尾波子
1 社会保障制度における国と地方
2 現行制度にみる国と地方の役割分担
3 社会保障財源の確保
4 分権型社会保障制度の確立に向けて
第4章 所得保障政策に関する提言…………駒村康平
1 所得保障制度の現状と課題
2 所得保障制度見直しの視点
3 具体的な政策提言
4 望ましい所得保障イメージ
第5章 雇用政策への提言………山田篤裕
1 雇用が直面している現状について
2 問題の背景
3 政策的視点
4 望ましい就労支援・労働政策
第6章 医療提供体制の進むべき方向…………今井博久
1 医療の普遍平等性
2 医療供給体制の基本構造の改革
3 新しい医療提供体制を築くために
第7章 市民参加による医療費保障制度…………福田素生
1 市民参加による開かれた医療費保障制度に向けて
2 医療費保障制度の現状と課題
3 医療費保障制度の改革
第8章 普遍的介護保障システムの確立…………関ふ佐子
1 普遍化が必要な背景
2 シンプルで普遍的な介護保障
3 改革の前提条件
第9章 児童家庭福祉から家族政策、子育ち支援へ…………福田素生
1 日本に家族政策を
2 育児支援策の現状と課題
3 家族政策、子育ち支援策の確立と実効ある具体策の推進
第10章 社会保障における住宅保障………… 本田達郎
1 住宅保障の重要性
2 住宅保障の現状
3 今後の住宅保障を考えるに当たって
4 社会保障における住宅保障の将来像
第11章 求められる超党派での合意形成―公的年金改革を中心として…………石崎 浩
1 先送りが不安を生む
2 繰り返された先送り
3 官僚主導
4 インクリメンタリズムの傾向
5 医療、介護でも問題先送り
6 消費税の議論も進まず
7 対立型政策決定の問題点
8 超党派合意が望ましい
第12章 新たな持続可能性の視点―社会保障を支える市民的・社会的基盤の再構築…………菊池馨実
1 社会保障改革の視点
2 社会保障制度審議会五〇年勧告
3 社会保障制度審議会九五年勧告
4 社保制審後の提言
5 社会保障国民会議
6 新たな議論の場を
どれも興味深い論点がいっぱいですが、とくに、第5章「雇用政策への提言」の最後のところで、ベーシックインカム論に反論しているところがおもしろかったです(p115~116)。
>本提言のような雇用の保障・再分配によってではなく、広く全ての市民に基礎的所得保障を行うベーシック・インカムを導入することによって、人は自由に労働市場に参入・退出できるようになるという見方もある。・・・むしろベーシック・インカム導入により、あらゆる労働保護規制を撤廃でき、労働市場を完全競争市場にできるという見方もあり、我々は、実質的に低いベーシック・インカムで労働保護規制撤廃につながることを恐れている。
>しかし、ベーシック・インカムに対するもっとも強い違和感は、ベーシック・インカムにより、人々は「真に自由」になり、「やりたい仕事」をするようになるという理想的な労働観、すなわち、自分自身の適性や「やりたい仕事」を人々ははじめから知っているという前提である。しかし、逆にベーシック・インカムにより、人は、さまざまな職業を経験する機会がなくなるのではないか。さまざまな職業との出会いと挫折、技能の蓄積・修練に伴うさまざまな試練の意義について、ベーシック・インカムを支持する論者は、楽観的な労働者像をもっているのではないか。むしろ我々は、ディーセントな労働の保障により、人々が社会と関わり、さまざまな経験をすることにより、社会連帯が強くなると考えている。
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コメント
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初めまして。先生の筋の通ったご意見、とても勉強になります。ありがとうございます。
ご紹介の「希望の社会保障改革」購入しました。理解力がすっかり落ちてしまいましたが、しっかり学びたいと思いますので、今後ともご指導お願い致します。
投稿: いーちゃん | 2009年3月 4日 (水) 09時11分
いつも勉強させていただいております。
社会保障を勉強しておりますのですぐ読もうと思います。
編者である菊池氏の「社会保障の法理念」で示された年金の二階建て部分への国家による不当介入論や、故倉田聡氏が主張された社会連帯論への菊池氏の批判、また社会福祉主体への民間参入への積極的な評価が、本書の「小さな政府批判」とどのようにつながるか、興味が尽きません。
投稿: にゃんたろう | 2009年6月26日 (金) 01時34分