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« アメリカ政府に批判されるかよ! | トップページ | 水町勇一郎先生の「非正規問題の本質はどこにあるのか?」 »

2009年3月 1日 (日)

年功賃金制と生活費構造

舟橋尚道氏の『転換期の賃金問題』(日本評論社)は、いまから40年近く前に出された本ですが、その論の射程はなお現代に十分届いています。

小池和男氏、高梨昌氏らの「年功賃金=独占段階一般論」への批判が中心的論点ですが、この点についてはすでに遠藤公嗣氏の詳細なフォローがされていますので、いまさら紹介するまでもありませんが、今回再読して次の一節(p165)が未だに日本の賃金構造と社会システムの関係を的確に捉えた記述として有効であることを再認識しました。

>制約条件の第二は、我が国の場合に特殊な生活費構造である。すなわち、国民生活研究所の行った調査によって我が国の生活費構造の特質を一言で言えば、いわゆる年功的生活費構造であるといってよい。なぜならば我が国の場合、20歳代で住宅問題を解決することは困難であり、家族員数が増加するにつれて狭い借間生活から抜け出すために、年齢が高まるにつれて住宅費が増加してくる。次に中高年齢層になると、子どもが高等教育課程に進み、教育関係の出費がかさみ、次いで子どもの結婚期を迎えると結婚式その他の費用負担が多額に上ってくる。・・・

>例えば住宅問題について言えば、我が国における社会的資本の決定的立ち後れが、国民の住宅費負担を大きくしており、さらに教育費の問題にしても、学生の3分の2が私学に委ねられているという状況のもとで、負担はすべて国民の方に転嫁されている。・・・従って、我が国においてもし職務給が実現して、賃金がフラットな形になった場合には、現在の生活費構造上の矛盾が大きく露呈することは間違いないであろう。逆に言えば、我が国の社会の制度的条件に根ざした生活費構造が、職務給の導入を制約する大きな条件となっており、その意味においては社会資本の立ち後れ、すなわち住宅政策、教育政策、その他の社会保障が改善されない限りは、賃金の近代化にも限界があると考えて良いのである。

本ブログで以前取り上げた湯浅誠氏の指摘と40年の時を隔てて響き合っていることが分かります。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2008/11/post-ed5e.html(湯浅誠氏のまっとうな議論)

>>――非正規労働者の生活の厳しさが指摘されて久しい。

 非正規労働者の賃金は30代で290万円くらいで頭打ちになり、40~50代になっても増えない。一方、正社員の賃金は、40~50代で急激に伸び、退職手前で落ちるというカーブになっている。

 日本では教育費をすべて、家計が持たなければいけない。子どもが育つに従って家計の支出は増えるという高コスト生活になっている。そのため、収入もそういうカーブを描かない限り、結婚もできないし子どもも産めないということになる。

 対してヨーロッパは、19世紀以来の福祉国家型の社会を目指すなかで、低コスト社会をつくってきた。だから、ヨーロッパでは賃金カーブは40~50代になってもフラット。なのに、なぜ生活できるのかというと、学費がタダであるとか社会保障で家計がカバーされているから。

――日本もヨーロッパ型の福祉国家を目指すべきということか。

 そうではなく、まずは賃金と社会保障をセットで考える必要がある。今は、経営者は賃金は上げられない、国は社会保障の財源がないというどっちつかずの状態。

 だが、両者でうまく 日本型 のすり合わせを模索しながら、少しずつでも賃金が上昇していき、今より多少は低コストの社会をつくっていくしかない。

「すり合わせ」という漸進的感覚が適切です。

>――正社員の給料を下げ、非正規の給料に振り向けろという意見がある。

 そんなところに解決策があるとは思えない。生計の賃金依存度がきわめて高く、そのなかで子どもの教育費を支払いながら高コスト社会を生きているという点では、正社員も非常に厳しい環境にいる。

 彼らは子どもにただまともな教育を受けさせたいだけで、高い賃金でゆとりのある暮らしをしているという実感など、一般の正社員レベルではないだろう。

 ろくに仕事をしていない40~50代の賃金を下げろというが、そんなことをすれば彼らの子どもは進学できなくなる。結婚できない貧困と、子どもがいることによる余裕のなさは、裏腹の関係になっている。

――中間のサラリーマン層も納得できる解決策はあるか。

 賃金や雇用に手をつけるのなら、先に言ったように、同時に学費を無料にするなど社会保障も変えていかないと無理だろう。

ここで、その学費を無料にすべき「まともな教育」の職業レリバンスはあるのか?という何回も出てくる問題が顔を出すわけです。職業的自立のための教育訓練であれば、まさに公共投資として社会的移転の対象とする合理性がありますが、快楽のための消費財であればそれは難しい。シグナリング効果が欲しいのだとすると、もっと社会的コストの少ないやり方があるのではないかという話になる。しかし、それは何回も触れてきたように、大学教師の労働市場に多大な影響を与えます。

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コメント

http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20110519-OYT1T01041.htm


子育て・教育、金かかり過ぎ…ためらう日本

 内閣府は19日、「少子化社会に関する国際意識調査」の結果を発表した。

 それによると、日本では子育て費用や働く環境などへの不安から、すでに子どもを持つ人が2人目以降の子どもを持つことをためらう傾向が強いことがわかった。

 調査は昨年10~12月、日本、米国、韓国、フランス、スウェーデンの5か国で、20~49歳までの男女計1000人ずつを対象に実施された。

 今よりも子どもを増やさないと答えた人の割合は、日本は47・5%で、スウェーデン(7・4%)、米国(13・5%)などを大きく上回った。

 理由は男女とも「子育てや教育にお金がかかりすぎる」が最多で、男性の44・6%、女性の39・5%に達し、「自分や配偶者が高齢」「働きながら子育てできる職場環境がない」などが続いた。

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