RIETI労働市場制度改革
鶴光太郎、樋口美雄、水町勇一郎編著『労働市場制度改革-日本の働き方をいかに変えるか』(日本評論社)を贈呈いただきました。有り難うございます。
http://www.nippyo.co.jp/book/4478.html
本書は、表紙の右上に「RIETI」のロゴがあることからもわかるように、経済産業研究所が開催してきた労働市場制度改革研究会のシンポジウムの報告をもとにした本です。
鶴氏が、そのシンポのご案内として書いたこの文章が、本書の「はじめに」の4つのポイントとしてそのまま使われていますので、それをリンクしておきます。
http://www.rieti.go.jp/jp/columns/a01_0234.html
>そのねらいは、まず、第一に、日本の労働市場制度(labor market institutions)の新たな「かたち」、その改革の方向性、考え方を提示することである。ここで、我々が目指しているのは「労働市場制度改革」であり、通常使われる「労働市場改革」ではないことに注意が必要である。「労働市場改革」という言葉の中には、「労働市場をより効率的にし、市場メカニズムを働かせるために必要な改革」というニュアンスがある。一方で「労働市場をモノが取引される通常の市場と同じ次元で考えてもらっては困る」という意見も根強い。我々のアプローチは、むしろ、どのような市場であれ市場がうまく機能するためにはそれを土台から支えるインフラストラクチャーとしての制度が重要であり、その制度も民が自発的に形成する私的秩序(ソフトな制度)と官が法律・規制などで強制する公的秩序(ハードな制度)のインタラクション、連携が重要であるとの「比較制度分析」の基本認識に立脚している。
第二は、「労働市場制度」の新たな「かたち」を考えるため、法学、経済学、経営学など多面的、学際的な立場から、理論・実証的な研究が組織されていることである。今回のシンポジウムのスピーカーは労働法学者5名、経済学者7名、経営学者1名となっており、それぞれのセッションでは基本的に法学者と経済・経営学者が組み合わさって発表を行うこととなっている。個々の労働者の権利や公正性に着目する法学者と市場全体や資源配分の「効率性」を重視する経済学者。また、既存の制度を出発点に改革を考える法学者と経済学的な最適状態を到達点に改革を考える経済学者。双方とも立場は異なるが、制度に着目するということで両者の間に接点が生まれ、コラボレーションが可能となっている。労働者、雇用形態の多様化、格差問題の深刻化といった難しい問題を扱うためにはこうした複眼的な見方が不可欠となっているのである。
第三は、「労働市場制度」全般に目を向けながらも、それぞれの構成要素の相互関係や制度補完性に目配りし、特に、縦割り・垣根を越えた見地から包括的な労働法制のあり方について考察することである。この問題は改革の中身だけでなく、改革を生み出していく政策決定プロセスまでも見直すことにも繋がる。たとえば、非正規雇用についても、その形態によりパートタイム労働法や労働者派遣法などに分かれており、共通ルールの設定が重要な課題となっている。このように、「木を見て森を見ず」ではなく「広角レンズ」の視点で制度改革を考えていく必要がある。
第四は、諸外国の経験や分析から学ぶことである。もちろん、労働市場は国毎に制度や歴史的背景も異なり多様である。しかし、そうした差異を考慮に入れても政策や改革を考える際に諸外国の経験から学ぶことは大きい。日本の場合、何かとアメリカの例が引かれることが多いがむしろ労働市場や雇用システムに関してはヨーロッパの経験が参考になる。たとえば、正規雇用、非正規雇用の格差問題、労働市場の二極化も有期契約労働の規制緩和が進展したスペインやフランスでは既に90年代から大きな問題となっている。また、ヨーロッパがアメリカと比べて企業家精神やイノベーションで遅れをとっているのはむしろ労働市場に問題があり、解雇規制が強すぎることが企業のリスク・テイキングを抑制しているからだという認識も強まってきている。このようなヨーロッパでの経験や分析の日本への政策インプリケーションは大きいといえよう。
どんな方々がどんなことを書かれているのかというと、
第1部 問題提起
第1章 日本の労働市場制度改革:問題意識と処方箋のパースペクティブ/鶴 光太郎
第2章 労働市場改革の課題/八代尚宏
第3章 労働法学は労働市場制度改革とどう向き合ってきたか/諏訪康雄
第2部 働き方・働き手の多様化と求められる労働市場制度改革
第4章 労働市場改革と労働法制/小嶌典明
第5章 エイジ・フリーの法政策/森戸英幸
第3部 正規雇用を巡る問題:解雇規制と長時間労働への経済学的接近
第6章 雇用保護は生産性を下げるのか/奥平寛子・滝澤美帆・鶴 光太郎
第7章 長時間労働の経済分析/大竹文雄・奥平寛子
第4部 労使間コミュニケーション円滑化を目指した労働市場制度改革
第8章 労働法改革の基盤と方向性:欧米の議論と日本/水町勇一郎
第9章 紛争解決制度と労使コミュニケーション:解雇規制の視点から/神林 龍
第5部 企業の中からみた労働市場制度改革
第10章 今、公平性をどう考えるか:組織内公正性の視点から/守島基博
第11章 企業組織の変容と労働法学の課題/島田陽一
終 章 法と経済学の視点から見た労働市場制度改革/樋口美雄
総じて、私の問題意識と響き合うところが多いのは確かなのですが(異論ももちろん山のようにありますが)、最近の私の関心からすると、鶴氏のいう「インサイダー重視型からマクロ配慮型へ」というその「マクロ配慮」が労働市場に限られているという意味でミクロに過ぎるのではないかという感想が湧くところです。
つまり、労働法学者と労働経済学者と経営学者「だけ」では十分マクロ配慮になっていないのではないか、労働市場改革の問題は、社会保障制度、教育政策、住宅政策等々、その広がりを追いかけないといけないのではないか、というふうに感じるようになったもので。
まあ、それはいささかあと知恵的な難癖の嫌いがありますが、一つの提起として大変面白いものになっていることは間違いありません。
ちなみに、今週木曜日(4月2日)に、この一環で「労働時間改革:日本の働き方をいかに変えるか」というシンポジウムを開くようです。
http://www.rieti.go.jp/jp/events/09040201/info.html
その第3部が「世界経済危機の下での雇用・労働政策のあり方」というパネルディスカッションで、その出演者が
モデレーター
樋口 美雄 (慶應義塾大学商学部教授)
パネリスト(五十音順)
大竹 文雄 (大阪大学社会経済研究所教授)
小川 誠 (厚生労働省職業安定局雇用政策課長)
長谷川 裕子 (日本労働組合総連合会 (連合) 総合労働局長)
輪島 忍 (社団法人日本経済団体連合会労政第二本部労働基準グループ長)
です。どう噛み合いどう噛み合わないのかが興味深いところです・・・、ね。
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>労働法学者と労働経済学者と経営学者「だけ」では十分マクロ配慮になっていないのではないか、労働市場改革の問題は、社会保障制度、教育政策、住宅政策等々、その広がりを追いかけないといけないのではないか
EUの「社会政策」は、それを全部入れていますね。「フレクシキュリティ」も、住宅は入っていないですが、労働市場政策・社会保障政策・教育政策のゴールデン・トライアングルですよね、たしか。
「社会政策」には、最後にこれを支える行財政の話が(所得再分配なども含め)入ると思います。言葉としてはありますし、それこそ、学会も(社会政策学会)あるのに、日本に「社会政策」の考え方っていまだにきちんと入っていない感じがします。
投稿: ぶらり庵 | 2009年3月31日 (火) 22時57分