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2009年2月15日 (日)

利益政治の正当性

on the groundのきはむさんが、岸博幸という脱藩官僚氏の悪質な言説を的確に批判しています。

まず、その脱藩官僚氏のダイヤモンドオンラインにおけるものいいですが、

http://diamond.jp/series/kishi/10026/(「かんぽの宿」への政治対応はモラルハザードの塊)

>第二の問題は、オリックスの宮内会長が規制改革会議の議長だったことを以てオリックスの入札を否定するならば、政府のすべての審議会について同様の見地からメスを入れるべきではないか、ということです。

 そもそも規制改革会議は郵政民営化について検討していません。従って、その議長だった人間の会社が入札すべきでないというのは、ひどい言いがかりです。ただ、規制改革と郵政民営化のベクトルの方向性が同じなのは否定できませんので、規制改革会議が郵政民営化に関係したと見るかどうかは、価値判断の問題になると思います。そして、関係すると今の政権が判断するなら、同様の基準から政府のすべての審議会のメンバー構成などを洗い直し、問題を徹底的に排除すべきではないでしょうか。

 例えば、厚生労働省の審議会である中医協(中央社会保険医療協議会)は、診療報酬の改訂や薬価の算定方式などを決めていますが、そのメンバーには日本医師会や日本歯科医師会など直接の利害関係者がたくさん入っています。他にもこうしたひどい事例は山ほどあります。

 従って、オリックスと規制改革会議の関係を問題視するならば、政権全体として政府の審議会のメンバーの粛正を始めるべきです。それなしにオリックスの宮内会長だけを狙い撃ちするというのは、不公平ではないでしょうか。ほとんど魔女狩りのように見えます。こうしたやり口を見ていたら、良識ある財界人は政府の審議会の委員を受けなくなるでしょう。

一読唖然という感じですが、これに対してきはむ氏は次のように理路整然と批判します。

http://d.hatena.ne.jp/kihamu/20090207(政策決定過程を「漂白」化しようとする欲望)

>ここでは、問題の酷いすり替えが行われている。宮内云々についての問題視は、規制改革会議議長としての立場に伴う隠然とした影響力を行使して不正な(インフォーマルな)利益取得行為を働いたのではないか、という疑念に基づいているはずである。これに対して、例に挙げられている中医協は、正統と認められた公的な政策決定過程の一環として利害関係団体からメンバーを構成しているのであって、問題の次元が全く異なる。

仮に、社会全体の適正な利益分配の観点からして中医協を経た政策決定の帰結に多くの問題があると判断する――私はその判断能力を十分に持たない――にしても、それは利害の伝達・集約回路が適切に設計されていない(ないし機能していない)ことの問題であって、政策決定過程に利害関係者が携わることの問題ではない。不正な利益誘導への糾弾に乗じて、正統な――正当かどうかは問題が異なる――利益誘導まで排撃しようとするのは不当な所業であり、止めるべきである

90年代半ば以降の日本では、長く続いた自民党政権における利益誘導政治への反発から、とにかく利害関係者を弾き出すことこそが望ましい政策決定過程の在り方であるかのような錯覚が蔓延するようになった。小泉政権期に経済財政諮問会議その他の諮問機関が従来にない権能を手にできたのは、そうした社会の支持が後ろ盾になったからである。しかし、その方が迅速かつ効率的であるとの「経営感覚」や、その方が民主的であるとの単なる錯覚などに基づき、公的政策決定過程から利害関係者を排除することは、インフォーマルなプロセスによる利害伝達や利益誘導を促進するだけである

人々が利益誘導政治に反発するのは、誰かが利益を手にすること自体が理由ではなく、自分が利益を手にできないことが理由であったはずだろう。ならば、改めるべきは政策決定過程への利害関係者の参加そのものではなく、参加すべき利害関係者の範囲や選出過程、および参加後に行使可能な権能の程度など、広範にわたる利害伝達・集約過程の設計と機能にほかならない。公開の場で行われる限り、制度上、利益誘導を問題視すべき理由は無い。撤廃すべきは密室談合政治であって、談合政治そのものではない。攻撃すべきは不適切な利益政治であって、利益政治そのものではないのである

ほとんど言うべきことを言い尽くしていると思われます。

同じ規制改革会議の福井秀夫氏(こちらも脱藩官僚に名を連ねている一人ですが)が、労働政策審議会の三者構成原則を非難して、政策形成は(俺たちのような)公正な有識者に任せろという言い方をしているのと、まさしく同じ穴の狢の現象といえましょう。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2007/05/post_a044.html(三者構成原則について三者構成原則について)

>第三に、労働政策の立案の在り方について検討を開始すべきである。現在の労働政策審議会は、政策決定の要の審議会であるにもかかわらず意見分布の固定化という弊害を持っている。労使代表は、決定権限を持たずに、その背後にある組織のメッセンジャーであることもないわけではなく、その場合には、同審議会の機能は、団体交渉にも及ばない。しかも、主として正社員を中心に組織化された労働組合の意見が、必ずしも、フリーター、派遣労働者等非正規労働者の再チャレンジの観点に立っている訳ではない。特定の利害関係は特定の行動をもたらすことに照らすと、使用者側委員、労働側委員といった利害団体の代表が調整を行う現行の政策決定の在り方を改め、利害当事者から広く、意見を聞きつつも、フェアな政策決定機関にその政策決定を委ねるべきである

もちろん、福井氏が指摘するように、現在の労使代表なかんずく労働側の代表には、非正規労働者をどこまで代表し得ているのかといった大きな問題を孕んでいます。しかし、「利害の伝達・集約回路が適切に設計されていない(ないし機能していない)」ことをとらえて、「政策決定過程に利害関係者が携わる」ことを排撃しようという所業には、最大限の警戒感をもってあたるべきでしょう。

ちなみに、中医協について言えば、医療従事者における医師の過大代表、医師における開業医の過大代表というつとに指摘されている問題が依然として最大の課題なのだと思われます。

(参考)

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2008/12/post-d00b.html(ひどいのはお前だ!)

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