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2009年2月17日 (火)

麻生首相のまっとうな教育論

政局派の人からみれば、支持率一桁に落ち込んだ首相をほめるようなまねをするのは何か魂胆があってのことか、と勘ぐられるかも知れませんが、いや、まっとうなことはまっとうなこととしてほめるのに何の遠慮が要りましょうか。

少なくとも、ここ十年、いや数十年の「教育改革」と称するわけのわからん観念論のオンパレードに比べれば、はるかに地に足のついたまっとうな教育論だと思いますよ。

麻生首相のメルマガで、「国づくりの基本は人づくり」

http://www.mmz.kantei.go.jp/jp/m-magazine/backnumber/2009/0212tp/0212souri.html

>「邑(むら)に不学の戸なく、家に不学の人なからしめん事を期す。」
(明治五年 太政官布告第二百十四号 抜粋)

 この一文に、すべての国民に教育の機会を保障しようという明治政府の強い意志がこめられています。先人たちは、人づくりに日本の将来を託しました。

 維新から間もない明治4年、政府は廃藩置県の4日後の7月18日には、文部省を設置しました。翌5年には、欧米の近代教育をわが国に定着させるべく、この太政官布告、いわゆる「学制序文」を発出しました。

 国民皆学の精神。これが、わが国の近代化を進め、今日の日本の基礎を築いてきたことは、国民共通の認識ではないかと存じます。

 今国会の施政方針演説で、「国づくりの基本は人づくり」と申しあげました。今週月曜日の「教育再生懇談会」では、有識者の方々に、私が、今、重要だと考えている3点の検討をお願いしました。

教育の機会均等が教育論の出発点になっているという一点だけで、まずそのまっとうさがわかりますが。

>第1に、国際的に通用する人材の育成についてです。わが国の学校教育を終えた人たちが、国際社会で通用するようにせねばなりません。

 「読み・書き・算盤(計算)・英会話」といった基礎学力の向上もその1つ。ただし、言葉の問題だけでなく、日本人として、「何を話せる人」なのかが、国際社会では問われることとなります。使う言語ではなく、中身が重要です。

おそらく新聞の政治部記者だったら、これをネタに山のような皮肉を繰り出すところでしょうが、私は素直にまったくその通りだと思います。

次が最も重要。

>第2は、教育に対する安心です。経済状況の厳しい中でも、不安なく、教育を受けられることこそ大切。公立学校の質の問題もあります。信頼される学校について、教育委員会のあり方もおおいに議論されるべきです。そして、学校を出たら、すぐに雇用に結びつく教育であることが求められます。

これこそが現下の状況における教育論の中核でなければならないはずだと思うのですが、とかく教育通の方ほど、こういう社会的問題には関心がないようなのですね。

>第3は、科学とスポーツです。先般、4人の方がノーベル賞を受賞されましたが、そのような人材を輩出する土壌を、日ごろから涵養(かんよう)しておくことが必要です。そのためには、科学技術立国を支える理数系教育の充実と理数系の人材の登用が重要です。

まあ、いきなりノーベル賞とか言う前に、まさに地道に科学技術を支える人材をきちんと処遇していくことが必要なのでしょう。

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コメント

昨日(2009.2.17)の朝日新聞の記事で「日本の教師、長~い勤務、持てない自信 比較調査」というタイトルのものがありました。記事は以下。

「日本の教師は労働時間が長く、休暇は短く、自信がない――。日本教職員組合(日教組)が委託した四つの国や地域対象の比較調査で16日、そんな結果が出た。生徒や保護者とのやりとりで疲れ、職場の人間関係に悩む傾向も表れていた。

 イングランド、スコットランド、フィンランドと日本の小中学校の先生に昨年1~5月にアンケートし、現地調査もした。平均年齢は40歳前後。委託を受けた国民教育文化総合研究所が、日本は岩手、茨城など6県教組の約430人、他は約290~410人のデータを分析した。

 1日の労働時間は、日本が11時間6分、イングランド8時間30分、スコットランド7時間36分、フィンランド6時間16分で、最長の日本は最短のフィンランドより5時間近く長かった。休憩時間は最短の日本が約20分、最長のスコットランドが約50分。睡眠時間は日本が6時間23分、他は1時間20分以上長かった。

 忙しさや仕事の自信、職場の不満などを聞いたところ、日本は「生徒や保護者とのやりとりで疲れる」が3.7%、「これまでの知識では対応できない」が3.3%でいずれも他国の1.6~1.7倍、「働き続けるには仕事量が多すぎる」は約2倍の4%だった。

 夏の連続休暇の平均は、日本が約6日、イングランド30日、スコットランド36日。夏休みが2カ月半あるフィンランドは63日で、有料のセミナーや語学学校、レジャーや旅行に使うという。また、学校での授業以外の活動で、日本は他国に比べて「授業準備」が少なく、報告書などの「関連文書作成」が多かった。」

この中でぶらり庵が注目したのは、「これまでの知識では対応できない」です。今、大学では普及してきている教員のサバティカル、実は、変化・進化する環境の中で働いているさまざまな人に「継続教育・職業訓練」として「サバティカル」や研修が必要なのではないかと思っています。「職業訓練」というとき、日本では、それは何か失業者のためのものと思われているように思いますが、現在働いている人のためにも必要なものだと思います。

で、これが麻生さんの教育論と何の関係が、ですが、ヨーロッパでは、「教育」は、就学前教育(=保育)、大学卒業後のこうした継続教育、更にはリタイア後の高齢期の自立した生活までふくめ、一生のものとして考えられるようになってきている、と思います。変化・進化する生活環境の中で、一生自分で学んで自分の暮らしを考えてゆけるシステム、それが教育である、と。日本では、「教育」というと、いまだに「小学校から大学まで」の問題としてしかとらえられていないように思います。
で、麻生さんの教育論、ごくまともなことを言っておられる、と思いますが、やはり「小学校から大学まで」の問題としてしか見ておられない点が、ぶらり庵には残念です。教育については、ぶらり庵は岡本薫先生をご信頼申し上げていますが、岡本先生の書かれるものでさえ、教育を文科省管轄の教育システムの枠内で考えておられる感じがします。

失礼ながら、大学院を出ていないHamachan、それこそ、入省後の労働省の現場、そして、ヨーロッパでの労働政策論議の現場で、「教育」され、「勉強」なさってきたと思いますが。

で、ついでながら、学校教育段階においても、学校で学ぶことが生活と結びつき、生活の中で考える訓練がされているのが、北欧型の教育の特徴のような気がします。これは、オランダの大学で教えている友人(オランダ人)に勧められて読んでいるリヒテルズ直子さんの本を読んでの印象です。

いつも興味深く読ませていただいています。特に、労働教育の必要性に関する記事は、高校現場で働く身からすると参考になることが多く、授業などでも活用しています。

今回の記事についてですが、公教育の存在意義は、「教育の機会均等」の理念の実現にあることはその通りであり、字面だけを見れば首相の主張は仰るとおりといったところです。

しかし、近年の公教育の状況はぶらり庵さんのご指摘の通り、惨憺たる状況で、「教育再生」の名の下に行われたことは、教職員をしばきあげて、無理やりオーバーアチーブを引き出そうとする無茶苦茶なもので、教育の質の向上どころか、疲弊感・徒労感が蔓延しています。

ご存知の通り、元来教育現場は労務管理・時間管理という発想が薄く、時間外労働が恒常化しています。授業準備や教材作成、生徒指導といった中心的な業務以外で、各種報告書作成などの事務量の増大や保護者対応(雇用の不安定さを主因とする家庭環境の悪化・家庭の教育環境の劣悪さが大きな割合を占めています)が負担の大きな原因となっています。

recurrent educationの必要性は、現場の教職員が日々感じていることですが、日常の雑事に追われてなかなか十分にできていません。自主的に研修に励もうと思っても、その時間を捻出することができません。法定研修を中心とする教職員研修の枠組みも、recurrentとは程遠いものです。

何でもそうでしょうが、人と金を十分に投入せずに、現場の努力と気合によって状況を改善するのには限界があり、長続きしません。 広く社会的合意が形成されて、教育の現場に十分な人と予算がまわってこなくては、根本的な解決にならないと思います。

教育現場、って、残業、雑務、リカレント休暇の代替、そして、学級生徒数の削減、と、一番「ワークシェアリング」に向いているように思えますけれどね。

ぶらり庵がデンマークの事情を調べているときに、大規模な食品会社、デニッシュ・クラウンがリストラしたときの地域の対応の話が興味深かったのですが、こういうものです。

http://www.eurofound.europa.eu/eiro/2007/03/articles/dk0703039i.htm

「ワークバスター」作戦とかいうので、地域の労使一体となって転職先を探すのですが、その探し方は、" to detect vacant jobs, overtime, extra work, work bottlenecks, cancelled vacations and workplaces experiencing growth."、という、つまり、空きポストはないか、残業しているところはないか、余分な仕事はないか、行き詰っている仕事はないか、休暇を取りやめた労働者はいないか、で、もちろん、景気のいい職場はないか、という、そういう探し方をして、オーデンセの解雇者800人近くは10ヵ月後には98%再就職したんですね。

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