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2009年2月13日 (金)

NHK視点・論点のスクリプト

2月3日にNHKの視点・論点で喋った内容が、NHKの解説委員室ブログにアップされています。「シリーズ雇用(2) 働くことが得になる社会へ」というタイトルです。

http://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/400/15991.html

>昨年来の金融危機の中で、派遣労働者をはじめとする多くの非正規労働者が解雇されたり雇い止めされたりして、路頭に迷うという事態が起こっています。年末年始に日比谷公園で実行された派遣村は、多くの国民の注目を浴びました。その中で、労働者派遣事業を諸悪の根源と考え、これを禁止することによって事態を改善できるかのような考え方も強まっています。しかしながら、派遣を禁止しても企業は直接の臨時雇用に移行するだけでしょうから、賃金が低く雇用が不安定という問題の本質が改善されるわけではありません。

 2つの方向から解決への道を探るべきでしょう。一つは非正規労働者の賃金・労働条件など待遇改善です。貯金もできないような低い賃金であったために、解雇されるとその日の宿泊代もなく路頭に迷うという事態をもたらしたのですから、これは喫緊の課題です。日本ではこれまで主としてパート労働者とフルタイム労働者の均等待遇という観点から、この問題が議論されてきました。しかし、長年の議論の割に事態はあまり進展していません。2007年の改正パート法でごく一部のパート労働者に均等待遇が規定されたにとどまります。これは、パート労働者は家庭の主婦が家計補助的に就労する者だという社会的前提があったため、その低い賃金が社会的問題と意識されなかったことが大きいと思われます。ところが、1990年代後半以降、就職氷河期のために常用就職できなかった若者が大量に非正規労働者の中に流れ込んできました。彼らの多くはフルタイムの臨時雇用や派遣労働ですから、パート法の規定は及びません。しかし、主婦パートと異なり、自らの生計を自らの稼ぎで立てなければならない彼らの方が、はるかに均等待遇の必要性が高いはずです。このねじれを解きほぐし、フルタイムの臨時・派遣労働者にも正規労働者並みの「貯金ができる賃金」を払っていくようにすることが重要です。

 もう一つは雇用がなくなったときのセーフティネットです。本来、非正規労働者は正規労働者より雇用が不安定なのですから、より手厚いセーフティネットが用意されていてもいいくらいですが、現実には1年以上の雇用見込みがないと雇用保険に入れないなど、かえって排除されているのです。この理由も、かつての非正規労働者は主婦パートや学生アルバイトのような扶養家族の小遣い稼ぎであって、雇用が切れても夫や親が生活の面倒を見てくれるのが当然だと思われていたことにあります。失業者にならない人に雇用保険を渡してもしかたがない、家計を支えて頑張っている人に渡すべきだという発想でした。しかし、今や非正規労働者のかなりの部分はその乏しい賃金で生計を支えています。かれらを排除することは、制度の最も重要な目的を捨てることにもなりかねません。雇用保険をすべての非正規労働者に拡大していくことが求められます。

 この二つが政策の大きな柱となりますが、すでに職を失ってしまった人々にはもちろん緊急の生活保障対策が必要です。昨年末に政府が打ち出した「生活防衛のための緊急対策」の中には、「就職安定資金融資」という興味深い制度が盛り込まれています。これは、雇用保険でカバーされなかった失業者に対して、生活・就職活動費として月15万円を6ヶ月間、計90万円、家賃補助費として月6万円を6ヶ月間、計36万円を貸し付け、6か月以内に就職すれば返済免除になるという仕組みです。これは大変よくできた制度だと思います。現在雇用保険をもらえない失業者には生活保護しかありません。しかし、生活保護には大きな問題があります。それは、資産があったり援助してくれる家族がいればそちらが優先することとされているため、ほかにどうしようもない人しか入れてこなかったことです。そのため、いったん生活保護にはいるとなかなかそこから脱却できないという悪循環に陥ってきました。最近ようやく「入りやすく出やすい制度」というスローガンのもとに、自立支援、就労支援という政策方向が示されてきたところですが、なお就職に向けたインセンティブに乏しいという大きな欠点は否めません。その意味で、昨年末から実施されている就職安定資金融資は、就職しなければ借金を返さなければならないのに、就職すればそれがお祝い金になるわけですから、きわめて効果的な就職促進策になっています。現在は緊急対策という位置づけですが、恒常的な制度にすることを考えてもいいのではないかと思います。

 ここで、この融資制度に生活・就職活動費とは別に家賃補助費が含まれていることに注目したいと思います。いうまでもなく、失業した非正規労働者の多くが派遣会社の寮などに入っていたため、失業とともに住宅をも失うことになったことに対応しようとするものです。いかなる人も住居なしに生きていくことはできないことを考えれば当然ともいえますが、今まで雇用労働政策において家賃補助が問題になったことはありませんでした。この背景には、正規労働者であれば普通の賃貸住宅に入居できるだけの家賃は賃金として得ていたことがあります。正確に言えば、正規労働者の年功的な賃金体系のもとでは、若い頃は自分一人が住める程度の住宅の家賃が、結婚して子供ができてくれば、家族と一緒に住むことができるような広さの住宅の家賃が払えるだけの賃金が支払われるようになっていたのです。そういう労働者が失業したときの雇用保険も前職賃金に比例しますから、雇用保険にも家賃補助はありませんでした。一方、厳しい資産テストをくぐり抜けて生活保護を受給すると、生活扶助に加えて住宅扶助も受給できます。こちらには家賃補助が登場するのです。

 このように見てくると、正規労働者は年功賃金の中に家賃補助が含まれ、生活保護受給者は制度上家賃補助が存在するのに、その間の非正規労働者には家賃補助がないことがわかります。その理由も今まで何回も見てきたように、かつて非正規労働者の大部分を占めていた主婦パートや学生アルバイトのような扶養家族は、夫や親と同居していたりその負担で別居していたりするのが当たり前で、わざわざ家賃補助などする必要はなかったからです。しかし、今や非正規労働者の多くは自分で住居費用を賄わなければなりません。そのため、派遣会社の寮に入る人が多く、またそこから追い出されたら行くあてがなくなるという事態も生じてきたのでしょう。これを裏から見ると、生活保護を受給している間は住宅扶助ももらえていたのに、せっかく努力して就職しても非正規労働だとかえって収入が低下するということでもあります。賃金自体の引き上げは今後取り組んでいく必要があるとしても、非正規労働者にも家賃相当分を賃金として支払えとまで企業に要求するのは難しいでしょう。しかしそのままでは、働く方が損になる社会になってしまいます。現実に多くの家計を支える人々が非正規労働者として働いている以上、ここには何らかの公的な支えが必要なのではないでしょうか。具体的には、一定以下の所得の労働者と失業者を対象にした社会手当としての住宅手当の創設です。これと同じことは子供がいる場合の教育費にもいえるでしょう。

 最近、失業した非正規労働者が生活保護を受給するケースが増えています。一時的なセーフティネットとしては大いに活用されてしかるべきですが、それが長期にならないよう、彼らを再就職させていくことも必要です。その際、働くことが損になるようでは働くインセンティブが高まりません。近年ヨーロッパ諸国では「Make Work Pay」、働くことが得になるようにしようというのが労働社会政策のキーワードになってきています。日本でその鍵になるのは、非正規労働者の待遇の改善と公的な住宅手当の創設ではないかと思われます。

ちなみに、この「シリーズ雇用」の第1回目の樋口美雄先生のスクリプトもアップされています。「二極化への対応」というタイトルです。

http://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/400/15990.html

>2. 非正規労働者問題への対応

●規制緩和と均等待遇の強化
日本でも、近年、労働者派遣法や有期契約に関する規制が緩和され、景気回復期には雇用が拡大されるようになった反面、後退期には短期間のうちに雇用調整がなされ、不安定労働者が増えました。しかし仮に派遣や有期雇用がすべて禁止され、正社員しか雇えなくなりますと、不安定労働者の問題は目の前からは消えるかもしれませんが、しかしそうなると、新たな雇用は創出されなくなり、間接的に失業者が増える可能性があります。いま問われているのは、雇用の量の拡大と質の向上を同時に達成することであり、対症療法よりも労働市場の二極化を解消するための抜本的対策である正規と非正規の均等待遇の強化こそが求められています。
派遣についても同じことが言えます。一般労働者と派遣労働者の賃金が等しければ、受け入れ企業は派遣会社に手数料を払う分だけ、派遣労働は割高な存在になり、その本来の目的である緊急性や専門性が求められない場合、直接雇用に切り替えられ、派遣期間は短縮されるはずです。

●セーフティネットの強化
均等処遇の強化とともに求められますのが、非正規労働者に対するセーフティネットの拡充です。非正規労働者が家計の補助的存在であるならば、その人たちは職を失っても経済的痛手は小さいと判断され、一定基準以下の年収や労働時間、雇用期間の労働者は雇用保険の適用から外されても仕方がないかもしれません。しかし非正規雇用が増え、その賃金で生計を立てる人が多くなりますと、適用基準を緩和していく必要があります。すでに年収要件は撤廃され、週当たりの労働時間要件も20時間以上に緩和されました。今回、1年以上の雇用見通しといった適用要件も、半年以上に緩和される方向にありますが、さらにセーフティネットを強化する必要はないのでしょうか。

●失業扶助制度
ヨーロッパでは失業給付の対象にならない人でも、一定の条件さえ満たせば、一般財源から給付を受けられる「失業扶助制度」がありますが、わが国でもモラルハザードを起こさない工夫を凝らしたうえで、こうした制度の導入を検討してもよいのではないでしょうか。

なんだか、とても同じことを喋っているような感じがします。

第3回目は政策研究大学院大学の八田達夫学長で「脱終身雇用時代の社会インフラ」というタイトルですが、こちらは状況認識や政策課題について共通するところと相違するところがかなりくっきり現れているようですね。

http://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/400/15992.html

派遣の期間制限を廃止しろというような労働法制の問題以上に、

>第2のインフラ整備は、セーフティネットを充実させることです。特に生活保護を充実させることです。解雇されて財産のない人に対しては、生活保護制度で保護すべきです。

というような生活保護中心主義に私の立場からすると違和感を感じます。

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