フォト
2024年9月
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30          
無料ブログはココログ

« 2009年1月 | トップページ | 2009年3月 »

2009年2月

2009年2月28日 (土)

個性主義教育の出発点

> 21世紀が始まった頃、個性がやたらと礼賛された時期があった。 

 『ゆとり教育』。

 『ナンバーワンよりオンリーワン』。

 『自分らしさ』。

 『世界にひとつだけの花』。 

 【個性的であること=かけがえのないこと】という夢いっぱいの観念を、老若男女を問わず、誰もが礼賛するような空気が、日本じゅうに蔓延していた時期を、あなたも覚えている筈だ。 

個性を礼賛した結果がこれだよ!
 

 その結果、何が起こったのか? 

 個性を礼賛し、個性を追求し、“自分らしさ”へと突き進んだ青少年の大半は、個性を賞賛されることもないまま、自分は個性的だという不良債権と化した自意識を胸に、平凡な日常をのたうち回っている。

http://d.hatena.ne.jp/p_shirokuma/20090226/p1

別に中身に反論するつもりはありませんが、「21世紀が始まった頃」という歴史認識にはいささか問題があるような。むしろ個性礼賛が打ち出されたのは80年代半ばであり、、花開いたのは90年代初頭であり、それが90年代以来の構造改革イデオロギーの原動力になってきたというのが適切でしょう。

そして、教育という分野について言えば、「個性主義」というこなれない言葉を持ち出してその後の教育政策に一定の影響を与えたのが、中曽根内閣時代の臨教審(臨時教育審議会)であったことも、一定年齢以上の人々にとっては記憶に残っている事態であるはずだと思います。

個性を殺す学校、学校は生き地獄、学校ぐるみの人権侵害、画一主義が生んだ病理、画一主義と教育荒廃・・・といったこの個性主義教育観がその後の20年以上にわたって、日本のリベサヨな人々の意識を一定の方向に向け続けてきたわけです。

(追記)

念のため。生物学的な用語法で言えば、遺伝子の多様性が望ましいという意見は正しいのです。様々な環境(ニッチ)に適応できる多様な性質を成員がそれぞれに有していることは、種が生き残るために有用であることは間違いないわけで、遺伝子が画一的だと絶滅しやすい。

それを、突然変異はそれ自体が望ましい、たとえ環境に適応できようができまいが・・・みたいな考え方で打ち出したから、話がおかしな方向に逝ってしまったのではないかと思います。

この辺、梅沢正さんの「やりたい仕事ではなく社会が必要としている仕事」という発想が求められるところなんでしょう

今度の選挙では極右が勝つぞ

今年の6月に予定されている欧州議会の選挙について、イギリス労働党のフォード議員が「極右が勝つぞ」と警告しています。

http://www.theparliament.com/latestnews/news-article/newsarticle/mep-warns-of-far-right-gains-in-eu-elections/

>Socialist MEP Glyn Ford has warned that the British National Party could win up to seven seats in this year's European elections.

Ford was speaking ahead of a meeting of European parliamentarians in Bristol on Friday looking at fighting extremism.

Senior British politicians are concerned that the far right party could exploit the recession to make gains in the June poll.

"Unfortunately the evidence suggests that at the moment the extreme right is likely to do well in the European elections," Ford told TheParliament.com.

"The problem is that the recession has indicated that neo-liberal capitalism doesn't work.

"There was a view that people could turn to the left but the far right are saying that they provide an alternative as well.
"

「不幸にも、今度の欧州議会選挙では極右がかなりの議席をとりそうだ。

問題は、この不況がネオリベ資本主義はうまくいかないということを示してしまったということだ。

人々が左翼に向かうという意見もあるが、極右は彼らがもう一つの選択肢を提示すると言っている」

不況が弱い立場の人々の中に労働市場ナショナリズムを掻き立てるとき、左派がその受け皿になりそこねると、極右が伸張するというのは洋の東西を問わぬ現象ですが、ヨーロッパ諸国も難しいところに来ているようです。

(参考)

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2008/11/post-1ae6.html(EUで右翼拡大の兆し)

2009年2月27日 (金)

今後の労働関係法制度をめぐる教育の在り方に関する研究会報告書

本日、標記報告書が公表されました。

http://www.mhlw.go.jp/houdou/2009/02/h0227-8.html

http://www.mhlw.go.jp/houdou/2009/02/dl/h0227-8a.pdf

はじめに問題意識として、

>戦後我が国においては、憲法によって労働三権が保障され、労働組合法や労働基準法の制定をはじめとして労働法制が拡充するなど、労働者は様々な権利を享受してきた1。政府としては従前から、労使を中心として法制度を周知・徹底することを通じて労働者の権利を確保するための取組を行ってきた。
近年、非正規労働者の趨勢的な増加2、就業形態の多様化、労働組合の推定組織率の低下3、労働契約法等の新たな労働法制の創設・施行等、労働者の職業生活に影響を及ぼす環境が大きく変化している。こうした状況の中、個別労働紛争や不利益な取扱に関する労働相談が増加の一途を辿っている4とともに、各種調査において労働関係法制度をめぐる知識、特に労働者の権利の認知度が全般的に低い状況が見られる。特に、現在相対的に低い労働条件で働いていたり、将来的に相対的に低い労働条件になる可能性の高い人ほど、労働者の権利を理解していない可能性が高いとの指摘がなされている。
労働者自身が労働関係法制度の基礎的な知識を理解していない場合、労働者としての権利を行使することが困難であり、そもそも権利が守られているか否かの判断すらできない。
こうした状況を踏まえ、労働者自身が労働関係法制度を正確に理解し自分自身で自己の労働者としての権利を守る必要があるとの認識が高まっており、労働関係法制度をめぐる知識、特に労働者の権利に関する知識が十分に行き渡っていない状況の改善を目的とした教育の重要性が各方面から指摘されている5。
今後の労働関係法制度をめぐる教育の在り方に関する研究会(以下、「研究会」という。)においては、先行研究や各種提言等を踏まえつつ、NPO法人や学校関係者等からの意見聴取や知識の理解状況に関する実態把握のための調査を実施すること等を通し、労働をめぐる権利・義務に関する教育の意義や課題、より実効的な教育の在り方について総合的な検討を行った。今般、その検討結果を報告書として取りまとめたところであり、今後、本報告書を受けて関係者により適切な対応・措置が講じられるよう期待するものである。

基本的な考え方として、

>労働関係法制度が適切に周知され遵守されることの究極的な目標は、労働関係の紛争や不利益な取扱いを円満に解決もしくは未然に防止し、適切な労使関係を構築することにある。すなわち、労働関係法制度を知ることは、労働者にとっては自らの生活を守るために、使用者にとっては円滑な企業経営を確保するために重要な要素であり、労働者・使用者双方にとって必要不可欠である。特に、雇用者の割合が8割を超える我が国においては、適切な勤労観、職業観を醸成し、あらゆる層の労働者が必要な知識を習得できる機会を設けることこそが、働く上で必要不可欠な要素である。
研究会におけるヒアリングや実態調査においても、労働者の権利が侵害されやすいような労働環境や不安定な働き方で働く労働者が必要な知識を理解していない可能性が高いという指摘や、基礎的な知識不足から生じる問題を解決できないまま放置している例、問題が起きても何も変わらないからと諦める例が多数見られた。また、労働関係法制度を理解している者ほど有給休暇を取得する割合が高いなど、権利を行使している可能性が高い状況にあると考えられる。そもそも権利を認知していなければ現在の労働条件が適切か否かの判断すらできないことから、遭遇した事態を不当であると認識し、何らかの形で解決策を見いだすためには、労働関係法制度に関する最低限の知識が必要である。
そもそも法的な「権利」とは、本来、法律や契約で定められた要件を満たす限り全ての者が行使でき、かつ最終的には裁判制度を通して国家権力により履行を強制できるものである。また、労働者と使用者の間では一般に対等な立場で合意することが難しいことから、労働者の権利を保護するために労働契約法や労働基準法などの労働関係法令が制定されているところであり、これらに基づき裁判のほかにも行政機関による指導・勧告などの方法で、労働者に対して様々な法的な「権利」が保障されている。したがって、労働者は、法律や契約で定められた要件を満たす限り、その権利を行使することは妨げられない。
しかし、労働関係において、労働者は法的な権利のみ享受しているわけではない。労働者と使用者は、「契約(労働契約)」に基づいて、お互いに法的な「権利」と「義務」を負っている。使用者が義務に違反した場合、労働者はその履行を求めることができるが、その一方で、労働者が契約上の義務(たとえば、契約に基づいて労務を提供する義務、就業時間中は職務に専念する義務、企業秩序を遵守する義務など)に違反した場合には、使用者は当該労働者に対して、懲戒、解雇、損害賠償請求などをなしうる場合がある(ただし、使用者による懲戒、解雇、損害賠償請求などは法令や判例法理で定められた要件を満たすことが必要であり、そうでない場合には裁判で違法とされる)。すなわち、労働関係は、「契約」に基づく、相互関係の下に成り立っているものであり、使用者が法令や契約を遵守しなければならない一方で、労働者にも自らが負っている法的義務を果たすことが求められている。
既に述べたように、労働者は、法律や契約で保障された権利を行使することができる。しかし実際に、職場において使用者から不利益な取扱い(法的権利を侵害するような取扱い)を受けることを未然に防ぎ不利益な取扱いを受けた場合のトラブルを円滑に解決できる職場環境を実現するためには、事業主側が労働関係法制度についての知識を習得し遵守することは当然のことながら、労働者が、自らの権利や義務についての知識等を単に「知っている」だけでは不十分であり、問題が生じた場合の相談窓口などの幅広い知識もあわせて習得するとともに、知識等を実際に活かして適切な行動をとる能力を身に付けておくことも必要不可欠である。すなわち、労働者が自ら職場における紛争の防止に対処する方法を意識し、実際に行動を起こすための原動力となる「問題解決能力」や、社会生活のルール及び基本的生活態度を身に付け、他者との良好な人間関係を構築するための「社会性・コミュニケーション能力」を高めることが、実際の職場における紛争の防止や解決に資するものと考えられる25。そのため、あらゆる機会を通じ、知識の付与だけに留まらないバランスの取れた教育が推進されることが重要であり、この点に十分留意しなければならない。
研究会としては、個々人の置かれた状況に応じ各段階において継続的かつ効果的な教育が行われるためには、学校、職場、地域、家庭、産業界、労働界、NPO法人等の民間団体、行政の連携強化を図ることが重要であるとの認識の下、以上の基本的な考え方を踏まえ、労働関係法制度に関する基本的な知識をどのように付与するかなど、今後の労働関係法制度をめぐる教育の在り方について、以下提言する

具体的な教育のあり方として、まずは学校教育の場における労働教育です。

>労働関係法制度に関する知識が広く認知されるためには、学校教育の場で提供されることが有効と考えられるが、各学校において、その実情に応じ、公民等の教科のほか、キャリア教育・進路指導のなかで提供されることが効果的と考えられる。そのため、例えば厚生労働省が文部科学省と連携し教材を作成するなど、環境の整備を進め、有効に活用されるようにすることが重要である。

>また、高校生や大学生等の段階では、働くことに関する興味・関心や現実感が湧き問題意識を持つ時期、職業の選択や就職活動をする時期、アルバイトを経験する時期など、基礎的な知識が提供される必要性が高くなっている時期であることに加え、そういった知識を的確に理解できる時期であるという観点から、労働関係法制度に関する基礎的な知識を付与する主な対象については、高校生や大学生等とすることが適当ではないかと考えられる。その際、進路選択や就職に向けたガイダンスをはじめ、就職内定者向けのセミナー等の場において、基礎的な知識が提供されることが効果的であると考えられる。
ただし、高校や大学の段階において、労働関係法制度に関する知識を網羅的に付与することは現実的とは言えない。むしろ、労働関係法制度の詳細な知識よりも、まずは労働法の基本的な構造や考え方、すなわち、①労働関係は労働者と使用者の合意に基づき成立する私法上の「契約」であり、「契約」の内容についても合意により決定されることが基本であるということ、②労働者と使用者の間では一般に対等な立場で合意することが難しいことから、労働者の権利を保護するために労働契約法や労働基準法などの労働関係法令が設けられていること、③労働組合を通して労使が対等な立場で交渉し労働条件を決定できるように、憲法や労働組合法により労働三権が保障されていること等を分かりやすく教えることが有効である。また、例えば給与・賞与・退職金などの具体的な労働契約の内容については、法令に反しない限りにおいて労働者と使用者の合意に委ねられているため、採用時(労働契約締結時)に交付される書面や就業規則によって労働契約の内容を確認することが重要であること、さらに、時間的余裕があれば、必要に応じて、採用/解雇、労働条件、内定等の「契約」にまつわる基本的な知識を付与することも効果的であると考えられる。なお、労働関係法制度に関する知識だけではなく、職業選択や就職活動に必要な事項として、社会情勢の変化等も踏まえた多様な雇用形態(派遣、契約、請負、アルバイト等)による処遇の違い、仕事の探し方、求人票の見方、ハローワーク等の就職支援機関の利用方法等に関する知識を付与することも重要である。
就業直前には、就職する生徒等を対象として、労働法に基づく権利及び義務に関する基本的な知識26を付与することが、生徒等の社会人・職業人としての自立を促進するために効果的と考えられる。特に、実際にトラブルが発生した際の労働相談の窓口とその機能に関する知識を付与することが有効である。また、例えば給与の仕組みについて教えることは、企業側にも負担があるということを知ることになり、自分と会社との関係について知るために有効と考えられる

その他、企業における教育、家庭や地域社会における教育などにも触れた上で、最後の環境の整備というところで、情報提供機能や相談体制機能を述べたあとで、こういう一節も書かれています。

>また、教育の成果で知識等を理解していても、働く現場でそれが保障されていない現実を目の当たりにすると、権利主張をしない場合が増えるとの指摘もある。悪しき労働関係が根付かせないためにも、企業において労働関係法令の遵守を徹底することはもちろんのこと、労働行政においても、労働関係法令の遵守に向けて監督指導を徹底することも有効である

なお、併せて、「労働関係法制度の知識の理解状況に関する調査報告書」も公開されています。

http://www.mhlw.go.jp/houdou/2009/02/h0227-7.html

経済同友会の公務員制度改革意見書

経済同友会が、「真の議院内閣制確立のために~「国家公務員制度改革」に対する意見~」と題する意見書を公表しています。

http://www.doyukai.or.jp/policyproposals/articles/2008/pdf/090226a.pdf

まずもって、週刊誌レベルの知識で人事院総裁を罵倒するしか脳のない一知半解氏とは異なり、さすがに経済同友会は公務員制度問題の構造をきちんと理解した上で、適切な指摘をしていることがわかります。

>(3)幹部職員の人事制度について
国家公務員制度改革基本法には、「幹部職員を対象とした新たな制度を設ける」と記載されているが、『公務員制度改革に係わる「工程表」』および『国家公務員法等の一部改正の基本方向』には、その具体的内容が記されていない。
新たな幹部職員の在り方について規定がないまま、幹部職員の一元管理を導入しても実効性に欠ける。
民間企業においては、一般社員と管理職および経営者とで別の人事制度が存在する。国家公務員においても幹部職員については別制度を構築するべきである。
幹部職員については、労働基本権の対象外とすること、年俸制など年度毎の目標と実績に連動した給与にすること、民間人を積極的に登用することなど、大胆な人事制度の構築を早急に進めなければならない。

>(2)労働基本権問題(労働協約締結権付与の拡大)について
まず、先述のように幹部職員を対象とした新たな制度を早急に確立し、幹部職員は労働基本権の対象外とすべきである。
その上で、管理職員とそれ以下の職員に関しては、労働基本権問題の決着が必要不可欠である。現内閣が強い政治的指導力を発揮し可及的速やかに労働基本権の結論を出すことを望みたい。なお、『行政改革推進本部専門調査会』並びに、『公務員制度の総合的な改革に関する懇談会』では、「労働協約締結権を新たに付与する」という一定の結論が既に提示されている。
専門調査会ならびに懇談会の報告を尊重した、速やかなる結論を求めたい。

経済同友会は、労働基本権問題を先送りにしたままでほかの改革をしようとしても立法構造上無理であるということをよくわかっているので、幹部職員を除く管理職員と一般職員には労働協約締結権を付与するという結論をさっさと出して、事態を進めろ、と主張しているわけです。

2009年2月26日 (木)

キリスト教民主主義と日本型システム

タイミングを合わせたわけではないのですが、平家さんのエントリに反応したとたんに、関連する記事を見つけました。

本日送られてきた『生活経済政策』3月号に、篠原一先生の「小さなユートピアを」の最終回「3つの政治潮流とその行方」が載っています。その中で、

>さて、20世、特にヨーロッパの政治には大きくいって3つの流れがあった。第一に自由主義、第二に社会民主主義、第三がキリスト教民主主義である。・・・この3つの流れの中でキリスト教民主主義は現実の力としては大きかったが、理論的には十分明らかにされてこなかった。これは近代の歴史をあまりにも近代化の直線的展開という一点から見過ぎたためであろう。この流れは、ヨーロッパの伝統社会が民主化する過程で、伝統との厳しい闘いの中から生まれた、いわば土着型のものであり、特に第二次世界大戦後、つまり20世紀の後半になって初めて民主主義にコミットするようになった。キリスト教民主主義は古くて新しい現象である。・・・

>例えば、朝日・東大共同調査では、日本の戦後政治を分析する枠組みとして、終身雇用や財政出動などを好む日本型システムが「構造改革」との対比で論ぜられているが、この日本型システムなるものの世界史的位置づけがはっきりしない。しかし日本型をキリスト教と置き換えてみると、比較的わかりやすい。戦後日本の民主主義は日本の伝統社会を民主化する過程で、その融合として生まれた土着型のものであり、その意味で独自性を持っている。これを日本的社会民主主義などということは妥当ではないだろう。このように日本にも伝統社会に基づいた民主主義と弱小な社会民主主義があり、それらが新自由主義をバネとする自由主義に攻撃されたのである。なお、アメリカには伝統社会もなく、社会民主主義の経験もないので、新自由主義とグローバリズムという新型ヴィールスの強烈な自由主義が成長し、挫折した。・・・

と、ほとんど昨日のエントリの趣旨そのままのことを書かれています。

7andy_32200707 これは別に偶然ではなく、篠原先生の文章でも紹介されているように、最近、田口・土倉編『キリスト教民主主義と西ヨーロッパ政治』(木鐸社)という好著が出されたからなんですね。

2009年2月25日 (水)

ワークシェアリングとはそもそも何をすることか?

労働政策研究・研修機構の月刊誌『ビジネス・レーバー・トレンド』3月号に、標記のような文章を寄せました。

http://homepage3.nifty.com/hamachan/bltworkshare.html

今年の初めから新聞やテレビ局など膨大な数のマスコミの皆さんに語ってきていることを要約すると、まあこういうことになります。

このうち仲間がどこまでかで分類したところは、実は今から7年前に社会民主主義研究会というところに行って喋ったこととほとんど変わりません。

http://homepage3.nifty.com/hamachan/shaminken.html

自由民主党は社会民主主義政党か?

「労働・社会問題」の平家さんが、標記のようなエントリを書かれています。

http://takamasa.at.webry.info/200902/article_5.html

これは、雪斎氏のブログ(与謝野経済財政財務金融大臣に関するエントリ)に触発されて書かれたものですが

内政を、セーフティネットと所得の再分配という二つの軸により、

>一つは、「機会均等を前提とした自己責任」+「小さな財政」であり、「新自由主義」路線である。もう一つは、「社会的な連帯」+「大きな財政」であり、「ヨーロッパ大陸型社会民主主義」路線である。アメリカの共和党、民主党を強いて分類すれば、共和党は「新自由主義」的であり、民主党は「ヨーロッパ大陸型社会民主主義」的です。

という風に分類し、

>小渕総理のころまでの自民党を振り返ってみると、どちらの路線を取ってきたかは明白です。いまも「『強者が栄え、弱者は滅びる』という感じは自民党内にはあまりない」ということであれば、自由民主党には、「我が党は日本の風土に根ざした保守政党であり、社会民主主義政党でもある。」と主張する資格があるのかもしれません。

と述べられています。

よく言われることではあるのですが、こういう日本とアメリカ(及びイギリス)だけを視野に入れた議論では、ヨーロッパ大陸における大事な政治勢力がすっぽりと抜け落ちてしまうように思います。それはキリスト教民主主義という勢力です。実は、ヨーロッパの保守派というのは、日本の自由民主党とよく似ていて、「強者が栄え、弱者は滅びる」というのには明確に反対で、ある意味大変「ソーシャル」なのです。

サッチャー以後のイギリス保守党のほうが、明確に新自由主義路線をとったという点で、異端児というべきでしょう。その分、ブレアの労働党というのは社会民主主義政党というよりは、大陸のキリスト教民主主義に近いあたりにシフトしたような感じです。コミュニタリアンな面が強く出ているところもそうですし。

まあ、日本の政治学者が自由民主党にあんまり関心を寄せなかったように、ヨーロッパの政治学者もあんまりキリスト教民主勢力に関心を寄せなかった面もあるのでしょうが、そこの所を抜きにすると、ヨーロッパの構図がよく見えなくなるのではないかという感じがしています。

2009年2月24日 (火)

お互い様というセーフティーネット

日経ビジネスオンラインに、内藤真弓という人の標記のような記事が載っています。

http://business.nikkeibp.co.jp/article/money/20090223/187018/?P=1

> 「人に迷惑をかけちゃいけません」

 親や先生からよく聞かされる言葉です。でも、この言葉をきまじめにとらえ過ぎると、自己責任の波にのみ込まれてしまったり、逃げ場がなくなって自分を責めるか、引きこもらざるを得なくなったりするような気がします。

そこから彼女は、自分の少女時代の思い出を語り始めます。

>私の両親は共働きで、父は理容師、母は美容師でした。

>父は25歳で店を構え、私が物心ついた頃は若いお弟子さんたちが5~6人、寝食を共にしていました。

>かつては小なりと言えども一国一城の主として、自営をしている世帯が地域にはたくさんありました。

>国の社会保障は手薄でも、地域の力や親戚、友人・知人の支え合いがセーフティーネットとして機能していた時代だったのではないでしょうか。

 親に先立たれた子供が親戚の家に世話になるとか、商売をしているお家に見習いとして住みこむとか、勉強嫌いの子や学校に行けない子が手に職をつけるために「他人の釜の飯を食う」という選択もあったでしょう。嫌なことや悔しいことはたくさんあったかもしれませんが、良くも悪くもそこには「世間」という人と人の繋がりがありました。

三丁目の夕日がほんわかと浮かんでくるような話ですが、とはいえ、時代は変わりました。変わってどうなったか・・・というところで、がくっときます。

>自営業から雇用者中心の社会に移り変わることにより、職場と住まいは分離。妻の労働力としての役割は低下し、専業主婦家庭が増えていきました。そうなると収入源が集中するリスクを回避するために、生命保険というコストをかけざるを得なくなります。

はあ?なんで生命保険が出てくるの?

普通、そこで出てくるのは国の社会保障制度だと思うんですけれど、それは内藤さんの脳裡にはないのかな?と思って、下の方のプロフィールを見ると、

>内藤 眞弓(ないとう・まゆみ)

フィナンシャルプランナー。1956年香川県に生まれ、日本女子大学英文科卒。13年間、生命保険会社での営業を経験した後、独立系のフィナンシャルプランナー集団「生活設計塾クルー」(毎月マネーセミナーを開催)のメンバーに。

なるほど、そういうお商売でしたか。とはいえ、

>また、ほとんどが雇われて生きているため、他人を支える余力はなくなり、ひとかどの人物になるための気概、見栄はさほどの価値を持たなくなりました。こうなると不幸なアクシデントは個々の家庭で解決しなくてはなりません。

 また、自営という生き方がリスクの割に見合わなくなり、子供は雇用者になるための教育を受けざるを得ず、親の肩には教育費負担がのしかかります。これらも親に万一のことがあった時の生命保険コストを引き上げる要因です。

と、三丁目の夕日がだめになったら、社会全体で連帯して助け合うなどという発想はまるでなくて、個々の家庭の自己責任しか眼中にないということでは、まさに逃げ場がなくなるだけだと思いますが。

いや、そのために私の売り込む生命保険があるのよ、と言いたいのでしょうが、市場で売られる保険商品を購入できるだけの経済力は自己責任であるわけで。

そして、まさに病気というリスクを市場で売られる保険商品に委ねているのが自己責任をもっとも強調するアメリカであるわけですが。

>私たちは自己責任という呪縛からもっと自由になってもいいのではないでしょうか。周囲の人への上手な甘え方、迷惑のかけ方を身につけ、「お互い様」と言える人間関係、地域社会があれば、多少の鬱陶しさはありながらもギスギスせずに心穏やかに暮らせます。

それはまったくもってその通りだと思いますが、

>ただ、そのためには発想の転換が必要かもしれません。雇用者としてではなく、自営業者としてほどほどの暮らし方をするといったオルタナティブな生き方も選択肢の1つです。

というのはむしろ逆だと思いますよ。自営業者こそ自己責任の最たるものでしょう。

なんでこういうひっくり返った発想になっているのか、やはり少女時代の三丁目の夕日の思い出が強かったのでしょうね。

2009年2月23日 (月)

これがノルウェーの解雇規制法です

厳密に言えばノルウェーはEU加盟国ではないのですが、まあ「EUの労働法政策」というカテゴリーに入れておきます。

ノルウェー政府によるノルウェーの労働者保護及び労働環境法の英訳がここにあります。

http://www.ub.uio.no/ujur/ulovdata/lov-19770204-004-eng.pdf

結構膨大ですが、そのうち不公正解雇に関わるところを引用しておきますと、

>Section 60. Protection against unfair dismissal.

1. Employees may not be dismissed unless this is objectively justified on the basis of matters connected with the establishment, the employer or the employee.

2. Dismissal due to curtailed operations or rationalization measures is not objectively justified if the employer has other suitable work to offer the employee in the establishment. When deciding whether a dismissal is objectively justified by curtailed operations or rationalization measures, the needs of the establishment shall be weighed against the disadvantage caused by the dismissal for the individual employee.
Dismissal owing to an employer’s actual or planned contracting out of the establishment’s ordinary operations to a third party is not objectively justified unless it is absolutely essential in order to maintain the continued operations of the establishment.

3. Dismissal before an employee reaches 70 years of age due solely to the fact that the employee has reached retirement age pursuant to the National Insurance Act shall not be deemed to be objectively justified. After the employee reaches 66 years of age, but not later than six months before he reaches retirement age, the employer may inquire in writing whether the employee wishes to retire from his post upon reaching retirement age. A reply to this inquiry must be returned in writing not less than three months before the employee reaches retirement age.
Provided that this is expressly stated in the inquiry, protection against dismissal under the preceding paragraph lapses if no reply is received within the time limit stated.

Section 61. Disputes relating to unfair dismissals, etc.

1. In legal proceedings concerning whether an employment relationship exists or compensation in connection with termination of an employment relationship, Act No. 5 of 13 August 1915 relating to the Courts of Justice and Act No. 6 of 13 August 1915 relating to Judicial Procedure in Civil Cases shall apply,but in accordance with the special rules laid down in this section and sections 61A, 61B and 61C. Claims in connection with or in the place of claims that may be submitted pursuant to the first sentence may be included.

2. Employees who wish to claim that an employment relationship has not been legally terminated or who wish to claim compensation owing to termination of an employment relationship may demand negotiations with the employer.
In that event the employee shall notify the employer of this in writing not later than two weeks after receiving notice. The employer shall arrange a meeting for negotiations at the earliest opportunity and not later than within two weeks of receiving the request.
If the employee institutes legal proceedings or notifies the employer that proceedings will be instituted without negotiations having been conducted, the employer may demand negotiations with the employee. A demand for negotiations shall be submitted in writing as soon as possible and not later than two weeks after the employer has been notified that legal proceedings have been or will be instituted. The employer shall arrange a meeting for negotiations in accordance with the rules of the preceding paragraph and, if legal proceedings have been instituted, shall notify the court in writing that negotiations will be conducted. The employee is obliged to attend the negotiations.
The employee is entitled to engage the assistance of an elected union representative or other adviser during the negotiations. Similarly the employer may engage the assistance of an adviser.
The negotiations must be completed not later than two weeks from the day the first negotiating meeting was held, unless the parties agree to continue negotiations.
Minutes shall be kept of the negotiations and shall be signed by the parties and their advisers.

3. If the dispute is not settled by negotiation or if negotiations are not conducted, the employee may, within eight weeks of the conclusion of negotiations or of the date that notice of dismissal was given, open legal proceedings pursuant to the rules laid down in this Act, nevertheless cf. section 57, subsection 2, third paragraph, of this Act. If the employee claims compensation only, the time limit for legal proceedings is 6 months from the date notice of dismissal was given. The parties may agree upon a longer time limit for legal proceedings in each individual case.
If negotiations have been conducted, a certified copy of the minutes shall be forwarded with the summons.

4. As long as the dispute is the subject of negotiations in accordance with the rules of subsection 2, the employee may remain in his post.
If legal proceedings have been instituted in accordance with subsection 3 within eight weeks of the time negotiations were concluded or notice was received, and before expiry of the period of notice, the employee may remain in his post until a legally enforceable judgement is delivered. The same applies if, before the period of notice expires, the employee notifies the employer in writing that legal proceedings will be instituted within the eight-week time limit. Nevertheless, when so requested by the employer, the court may order that the employee shall leave his post while the case is in progress, provided that the court finds it unreasonable that employment should continue while the case is in progress. At the same time the court shall stipulate the time limit within which the employee is to leave.
The court may decide that an employee who has been unlawfully locked out of his place of work after the time limit for notice has expired is entitled to resume his post, if the employee so requests within four weeks of such a lockout.
The right to remain in the post does not apply to participants in labour market schemes under the direction of or in collaboration with the Labour Market Administration who are dismissed because they are offered ordinary employment or transferred to another scheme or because the scheme is terminated.

第60条第1項にあるように、ノルウェーでも解雇には客観的な理由が必要です。整理解雇の場合、事業所内で配転の余地があれば合理的な理由とは認められないとありますが、逆に言えば、遠距離配転しないと仕事がないというのは客観的な理由になるのでしょう。その次の外部委託を理由にした解雇はそれが「絶対的に不可欠」でなければだめだというのも興味深いです。

まあ、こういうところが「北欧の解雇規制」です。以上、ミニ講座終わり。

2009年2月22日 (日)

「雇い止め」制限検討、有期労働対象のルール作りへ 厚労省

日経新聞に、標記のような記事が出ています。

http://www.nikkei.co.jp/news/keizai/20090222AT3S2002I21022009.html

>厚生労働省は期間を定めて働く有期労働者の雇用ルール作りに乗り出す。大学教授で構成する同省の「有期労働契約研究会」を通じて、繰り返し更新していた有期契約を止める「雇い止め」の制限や、最長3年間の契約期間の見直しなどを検討する。足元の景気悪化を背景に有期労働者の失業が増えていることを視野に入れ、雇用不安を和らげる方策を探る。

 研究会は23日に初会合を開く。2010年夏までに報告書をとりまとめ、法改正など必要な対応をとる方針だ。

有期労働契約については、労働契約法の議論の際にある程度議論がされながら、結局最終的にはかなりしょぼい結果になった経緯があります。

今回、どこまでつっこんだ議論になっていくのか、注目されるところです。

なお、だいぶ昔に書いたものですが、日本の有期労働法制の歴史については、

http://homepage3.nifty.com/hamachan/yatoidome.html有期労働契約と雇止めの金銭補償

EUの有期労働指令等については、ごく最近書いたもので

http://homepage3.nifty.com/hamachan/roujunfixed.htmlEU有期労働指令の各国における施行状況と欧州司法裁判所の判例

がありますので、ご関心のある向きはお読みください。

デンマークの解雇規制はこうなっています

誹謗中傷の後始末もしないまま、平然とフレクシキュリティとか知ったかぶったかしているようですが、念のためデンマークの解雇規制についてもEUの資料を引用しておきます。

何回も書いてきたことですが、デンマークという国は労働組合の力が大変強く、全国労使協約でもって、他国であれば労働法で規定するようなことも規定してしまうので、六法全書に労働法がほとんどないという変わった国ですが、そこの所を念頭に置いた上で、読んでください。欧州委員会が2006年にまとめた加盟各国の解雇規制の報告書です。これくらいざっと目を通した上で何事か語るのが最低限の学問的良心だと、わたくしは思うのですがね。

In Denmark there is no general statutory prohibition against unfair dismissal. In principle, the employer is free to dismiss an employee.There is protection in the main agreement (“Hovedaftalen”) between the Danish Confederation of Trade Unions (“Landsorganisationen i Danmark”, LO) and the Danish Employers’ Confederation (“Dansk Arbejdsgiverforening”. DA): Dismissal must be fair and notice must be given. In a case of serious misconduct the employer can dismiss without notice. The employer is obliged to justify the dismissal before the employee. However, this is not a condition for the validity of the dismissal. The main remedy against a dismissal is the conciliation procedure. An employee covered by a collective agreement may afterwards apply to the Board of Dismissal (“Afskedigelsesnævnet”). The Board may declare the dismissal unlawful and order the reinstatement of the employee. This applies if the employer is covered by the agreement, irrespective of whether or not the employees are actually members of the union.

デンマークには不公正解雇に対する一般的な法的な禁止はない。原則として使用者は被用者を自由に解雇できる。デンマーク労働組合総連合会とデンマーク経営者連盟の間の主要協約に、保護がある。解雇は公正で予告が必要である。重大な非行の場合、使用者は予告なしに解雇できる。使用者は被用者の前で解雇を正当化するよう義務づけられる。しかしながら、これは解雇の効力の条件ではない。解雇に対する主たる治癒は斡旋手続きである。労働協約の適用を受ける被用者は解雇委員会に申し立てることができる。同委員会は当該解雇を違法と宣言し、被用者の復職を命じることができる。これは、被用者が組合員であるか否かを問わず、使用者が協約の適用を受ける限り適用される。

The dismissal terminates the employment relationship. However, a Board of Dismissal or Industrial Court may rule that the employee has to be reinstated provided that he or she has lodged a formal request. Otherwise, dismissal will result in financial compensation fixed by the Board or Court.

解雇により雇用関係は終了する。しかしながら、解雇委員会または産業裁判所は、彼・彼女が公式の訴えを提起したことを条件として被用者が復職されるべしと判決することができる。さもなければ、解雇は当該委員会または裁判所の定める額の補償金に帰結する。

朝日の耕論 ワーシェア何めざす

本日の朝日新聞の7面の「耕論」で、笹森全連合会長、中野麻美氏とともに、わたくしもワークシェアリングについて語っております。

笹森氏:「合意」に戻り議論深めよ

中野氏:「日本型雇用」に終止符を

濱口:正社員の意識変える契機に

というタイトルですが、微妙にずれていますね。

(追記)

私の発言をまとめた部分を以下にアップしておきます。

> 日本でのワークシェアリングをめぐる議論には、奇妙な特徴がある。世界的にワークシェアリングの標準とされているのは雇用創出型だ。ところが、02年に日本でワークシェアリングの導入が検討された時、緊急避難型と多様就業型のみが具体的な政策課題とされ、雇用創出型は、労使双方の発想になかった。
 企業単位の緊急避難型ワークシェアリングは、日本では以前から行われていた。70年代の石油ショックの際には、正社員の雇用を守るために、操業時間の短縮や子会社への出向が行われた。その意味では、別に新しいものではない。緊急避難型は日本で定着しなかったのではなく、もともと定着していたものが、景気が良くなったために必要がなくなったにすぎない。
 多様就業型については、オランダがモデルだと言いながら、それはうわべだけで、実はパートタイマーを増やして、労働力を安上がりにしようという側面もあったのではないか。その結果、皮肉なことに、派遣やフルタイムの有期雇用がどんどん増え、今回の派遣切りや雇い止めにつながった。
 今回のワークシェアリングの議論でも、やはり緊急避難型と多様就業型が中心であることに変わりはない。ただ、緊急避難型については、02年とは状況が大きく変わった。非正規労働者が大幅に増えた結果、緊急避難型ワークシェアリングの対象が正社員だけでいいのか、非正規も含めるべきではないかという議論が提起されざるをえないし、実際に提起されている。
 もちろん、ワークシェアリングで非正規を全部守るのは、現実には難しい。だが、企業の労使も、従来の考え方にとらわれず、非正規も含めてどこまでワークシェアリングが可能かということを議論してはどうか。非正規にも、家計補助的な働き方の人もいれば、それで生計を立てている人もいる。そこまで細かく見て、切られたら困る人たちについては、対象に入れることを検討していいと思う。
 多様就業型については、雇用形態の多様化そのものを後戻りさせることはできない。ただ、経済社会がそういう働き方を求め、それを認めざるをえないのであれば、セーフティーネットをきちんと張り巡らしておくべきだ。雇用が不安定である上に、賃金が安く、労働条件が悪いというのは明らかにおかしい。非正規の人たちが、社会的に不利益を被らない仕組みを作る必要がある。02年に鳴り物入りで打ち出されながら、尻すぼみに終わってしまった多様就業型ワークシェアリングにあらためて魂を入れるには、待遇の改善とセーフティーネットが2本の柱になる。
 非正規を含めたワークシェアリングを、日本ですぐに実現するのは難しいかもしれない。だが、いま日本の労働者や社会は、連帯や仲間意識といったものを再定義する必要があるのではないか。同じ職場で働く非正規労働者も仲間だという意識を正社員の側が持ち、待遇改善に取り組んでいく。そのための第一歩として、ワークシェアリングの議論は意味があると思う。

(聞き手・尾沢智史)

グローバル化の中の福祉社会

053186 先にご案内した講座福祉社会の第12巻目として、下平好博・三重野卓編著『グローバル化の中の福祉社会』が出版されております。

ミネルヴァ書房のHPから:

http://www.minervashobo.co.jp/find/details.php?isbn=05318-6&PHPSESSID=dfb4e1eed19459842a27a7fb4cd5e3b4

>グローバル資本主義をいかに制御できるか
福祉国家の運営や福祉政策のあり方に今後いかなる影響を及ぼすか。
理論的・実証的にその可能性を提示する。

本書第I部ではグローバル化の理論とその展開、そして第II部はグローバル化の影響の地域的差異について検討し、さらに第III部ではグローバル・ガバナンスのゆくえについて論じる。

>はじめに
序 グローバリゼーション論争と福祉国家・福祉社会………下平好博

 I グローバル化の理論とその展開
1 グローバル化とソーシャルダンピング…………………… 粟沢尚志
2 経済のグローバル化、人口高齢化と年金制度改革……… 鎮目真人
3 公的社会支出の国際比較と社会・経済・政治的要因…… 三重野卓

 II グローバル化の影響の地域的差異
4 日本における経済のグローバル化と
   ソーシャル・セーフティネットの崩壊…………………下平好博
5 社会保障制度の構築と日中〈伝統文化〉のゆくえ……… 鍾 家新
6 アメリカン・リベラリズム………………………………… 後藤玲子
7 グローバル化と福祉国家の再編…………………………… 廣瀬真理子
8 アジアにおけるグローバル化と社会福祉………………… 萩原康生

 III グローバル・ガバナンス
9 市民組織とガバナンス……………………………………… 恩田守雄
10 グローバル化と国際労働基準……………………………… 中野育男
11 グローバル化とEUの新・社会保護戦略…………………… 濱口桂一郎
終 グローバル化・共生・福祉社会…………………………… 三重野卓

ということで、わたくしは第11章を担当しております。

2009年2月21日 (土)

これがスウェーデンの解雇規制法です

純然たる事実問題について、その主張の誤りを指摘されても、事実問題には一切口をつぐんだまま、誹謗と中傷を投げ散らかして唯我独尊に酔いしれるという御仁に何を言っても詮無いことですが、事実問題に何らかの関心をお持ちであろう読者の皆様のために、スウェーデンの解雇規制法のスウェーデン政府による英訳を引用しておきます。

http://www.regeringen.se/content/1/c6/07/65/36/9b9ee182.pdf(Employment Protection Act (1982:80))

重要なのは第34条と第35条です。第34条は解雇予告による解雇、第35条は即時解雇ですが、いずれも客観的な根拠がなければ無効となります。

Section 34 Where notice of termination is given without objective grounds, the notice shall be declared invalid upon the application of the employee. However, the above-mentioned provision shall not apply where the notice of termination is challenged solely on the grounds that it is in breach of the rules regarding priority.
If a dispute arises concerning the validity of a notice of termination, the employment shall not terminate as a consequence of the notice prior to the final adjudication of the dispute. Nor may the employee be suspended from work as a consequence of the circumstances that caused the notice to be given, in the absence of special reasons for such. The employee shall be entitled to pay and other benefits under Sections 12 - 14 for the duration of the employment.
Pending final adjudication of the dispute, a court may rule that employment will terminate at the expiration of the period of notice, or at a later time determined by the court, or that a current suspension shall be discontinued
.

Section 35 Where an employee has been summarily dismissed under circumstances that would not constitute grounds for a valid notice of termination, the summary dismissal shall be declared invalid upon the application of the employee.
Where such an application is brought, a court may order that the employment shall continue, notwithstanding the summary dismissal, pending final adjudication of the dispute.
Where a court has issued an order under the second paragraph the employee may not be suspended from work by the employer as a consequence of the circumstances that caused the summary dismissal. The employee shall be entitled to pay and other benefits under Sections 12 - 14 for the duration of the employment
.

そうすると、雇用契約は終了せずに継続しますから、使用者はその間の賃金を支払わねばなりません。

Section 37 Where a court has issued a final order that a notice of termination or a summary dismissal is invalid, the employer may not suspend the employee from work as a consequence of the circumstances that caused the notice of termination or summary dismissal.

ただ、日本と違うのは破綻主義による雇用終了とそれに対する損害賠償を法律上明記していることです。

Section 39 Where an employer refuses to comply with a court order that notice of termination or a summary dismissal is invalid, or that a fixed-term employment shall be valid for an indefinite term, the employment relationship shall be deemed to have been dissolved. As a consequence of the employer's refusal to comply with the court order, the employer shall pay damages to the employee under the following provisions.
Damages are to be determined according to the employee's total period of employment with the employer at the time of dissolution of the employment relationship, and shall correspond to the following amounts:
16 months' pay for less than five years of employment;
24 months' pay for at least five years but less than ten years of employment;
32 months' pay for ten or more years of employment;

解雇無効だといわれたって、こんな奴雇い続けるのはいやだ、と使用者が言えば、雇用契約は切れます。ただし、手切れ金はそう安くはありません。勤続5年未満は16ヶ月分、勤続5年から10年で24ヶ月分、金属10年以降で32ヶ月分です。いうまでもなくこれは解雇予告手当とは別です。

私はこっちの方が合理的だと思います。

金属労協の雇用危機を打開し、勤労者生活の底支えを図る緊急的な雇用対策の実行に関する要請

2月19日付の金属労協(IMF-JC)の政策レポートに、標記要請文が掲載されています。非常に詳細にわたり、現時点で求められる雇用対策を広範に示したものとして、熟読に値しますので、かなり長めに引用しますね。

http://www.imf-jc.or.jp/public/report/report30.pdf

>金属労協では、産別・企連・単組を通じ、労使協議の中で非正規労働者を含めた雇用維持に向け最大限取り組んでおります。この未曾有の雇用危機を打開するため、従来の発想にとらわれず、勤労者の実情に即した大胆な雇用対策を果断に実現されますよう、ここに要請いたします。

以下、各論です。まず労働行政の強化。

>①雇用保険の財源確保

雇用保険料率の引き下げはとりやめ、雇用保険料率を原則1.95%まで引き上げておくこと。
雇用保険の国庫負担を大幅に増額すること

>経済情勢に改善の兆しがなく、今後、失業者の増大がきわめて憂慮されます。雇用保険の支払いの急増に対処できるようにしておくため、2009年度政府予算案に盛り込まれている雇用保険料率の引き下げはとりやめるべきです。むしろ早めの対応として、料率を原則どおりに戻しておくことが重要です。
雇用保険における国庫負担の削減、廃止の議論がありましたが、雇用保険は国が行うべき事業の中で最も根幹のものであり、現下の経済情勢において十分な給付を確保できるよう、国庫負担は大幅に増額すべきです。

これはまあ、本音ではまったくその通りと思いながら、政府が決定してしまったのでそうせざるを得なかったところでして、その経緯はこのリンク先の産経の記事に詳しいですが、

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2009/01/post-fe7d.html(経済同友会代表幹事の正論と財務省の陰謀)

労政審雇用保険部会のやりとりも、清家先生の苦渋がにじみ出るような答弁になっていますし。

http://www.mhlw.go.jp/shingi/2008/12/txt/s1217-4.txt(08/12/17 第41回労働政策審議会職業安定分科会雇用保険部会議事録)

○清家部会長 ほかに、この保険料率の問題についてご意見はありますか。

○岩村委員 やはり、一言だけ申し上げておいたほうがいいと思います。保険料については、今回の平成21年度に限ってということでありますけれども、保険料を下げるというのは、やはり本来の雇用保険の制度のあり方ということから言うと説明がつかないことだと思っています。とりわけ、いちばん問題だと思うのは、もちろん今後雇用情勢が回復すればいいのですが、回復しなかったときには雇用保険財政が一気に悪化していく。
結局、1年間の特例措置が終わったあと、また保険料を引き上げてもっと上げなければいけないということにもなりかねないわけです。それはおそらく、最悪の状態になるだろうという気がします。
 もう1つ問題だと思うのは、1年間に限っての特例措置で下げるという話なのですが、そうすると平成22年度にはまた上がるという話になる。本当にそれでいいのかというのも、やはり私は非常に疑問を持っています。ですので、今日のこの素案の中にありますように、本来これを行うべきではないというのが適切な考え方であろうと思っています。
○清家部会長 この部分については、先ほど案田委員、あるいは岩村委員も言われたように、例えばこの部会で合理的な理由が見つけられないために引き上げるべきではないというような報告書を書くこともできるかとは思います。ただ、これはそういう部分と、もう一方で保険料率等について労使と公益委員からなる三者構成の審議会でこれを決めているという仕組みがもう一方にある。もし、例えば政府全体として、保険料率を下げるという意思決定をしている中で、この部会で「それは合理性がない」という結論を出した場合、その部会とは関係なく保険料率を決めるという形になるのかどうかわかりません。そういうような形に持っていくのも望ましくないということもあるかと思います。
私は部会長として、個人的な意見は申しませんが、皆さんいろいろな意見はあるかと思います。やはり、保険料率の問題はできれば、合理的な理由を付すかどうかは別として、この部会において政府全体の審議と整合的な形で何とかまとめることができたほうがいいのではないかと思います。取って付けたような理屈を付けたくないということは、私もとても理解できるところです。だからといってこの部会で、政府のほうでご自由におまとめくださいというわけにもちょっといかないと思っています。

○岩村委員 いまの部会長のお考え、私自身も最終的にはそれでやむを得ないと思っています。ただ、若干気になるのは、「本来これを行うべきではなく」のあとに「慎重に対処する必要があるが」ということが書いてあります。希望としては、もうちょっとネガティブに書いてもらえないかというのが1つです。
 もう1つは、「平成21年度に限っての特例措置とするならば」ということで書いてあるのでいいとは思うのですが、平成21年度に限っての特例措置だというところのニュアンスがもう少し強く出るといいかなという気もします。これは意見ですが、ご検討いただければと思います

まあ、あとは国会審議で、ということで・・・。

次から本来の中身の話ですが、

②雇用保険適用対象者の拡大

雇用保険法第6条では、適用除外の者が列記されているが、現実には、短時間労働者で雇用期間の見込みが短い場合には、本来、適用除外でない場合でも、運用上、適用されない取り扱いとされている。第4条・第6条の規定どおり、雇用見込みの如何を問わず、非正規労働者も幅広く雇用保険の適用対象とすること。
なお、公務員については、第6条において、取り扱いが厚生労働省令に委ねられているが、雇用保険の適用対象としていくこと。

これは、改正案では1年を6ヶ月にするとしているところですが、わたしは全面適用にすべきだと思っています。給付と違って、こちらはモラルハザードにはならず、逆に保険料の払い損の可能性が高まるわけですが、そもそも雇用保険というのは必ず戻ってくるたぐいの貯蓄型保険ではなく、万一の事故に備えるための掛け捨て保険なのですから、そこを強調するのはおかしいと思います。

③ハローワークにおける対応強化

ハローワークの夜間利用時間の大幅延長、窓口の増強など、失業者ならびに企業に対する相談・支援体制を一層強化すること。
とりわけハローワーク職員に対する指導・教育を徹底し、統一的な対応が行われるようにすること。
雇用調整助成金、中小企業緊急雇用安定助成金についても、ハローワークで一括して相談・手続きが行えるようにすること

これは是非やるべきでしょう。こういう時期にハロワ職員の労働強化は当然です。いうまでもなく時間外手当はきちんと払って。

④雇用調整助成金、中小企業緊急雇用安定助成金の利便性の向上

支給申請に伴う作成書類など、支給手続きの一層の簡素化を図ること。
ハローワークにおいて、中小企業における教育訓練実施について、具体的なアドバイスができるよう、関係機関と連携を強化すること。
ものづくり産業の技術者・技能者を公共職業能力開発施設等の指導員として、活用すること。
雇用調整助成金、中小企業緊急雇用安定助成金の支給される教育訓練については、「所定労働日の全一日にわたるもの」でなくとも、例えば半日稼動・半日教育訓練などの場合にも、適切な金額を支給できるようにすること。
雇用調整助成金、中小企業緊急雇用安定助成金の支給される教育訓練の要件をより柔軟なものとし、従業員の技能向上、現場の生産性向上のための教育訓練に適用できるようにすること。

この辺から、いかにも金属労協らしい産業政策的な要求がにじみ出てきますね。

2.失業者に一時的な雇用の場と教育訓練を提供し、正社員としての就職を斡旋する「雇用確保・能力開発システム」の導入

雇用保険が受給できない失業者を対象に、一時的な雇用の場と、あわせて教育訓練を提供し、一般企業などに正社員としての就職を斡旋する「雇用確保・能力開発システム」を導入すること。
国・地方公共団体から、地域の生活環境の改善に資する分野で、公共サービスが手薄となっている部分を中心に、仕事の委託を受けられる仕組みを導入し、対象者が一時的にこの仕事に従事するようにすること。
全国の大学、短大、工業高校、専門学校などと連携し、対象者に仕事と並行して、キャリア・コンサルティング、教育訓練、職業紹介を一体的に提供すること。

本来、離職者の生活を支えるものは雇用保険ですが、非正規労働者は未加入の者も多く、加入していても受給資格を満たしていない場合があります。不況が長引けば、再就職する前に給付日数は終了してしまいます。雇用保険が受給できない場合、次のセーフティーネットは生活保護ということになりますが、健康で働く意欲にあふれた若者を生活保護の対象とするのは、現実的ではないし、国民経済としても損失です。
本人の生涯生活設計にとっても、建設的ではありません。
失業保険と生活保護の間を補完するシステムとしては、イギリスでは所得調査制求職者給付、ドイツでは失業給付Ⅱ、フランスでは連帯失業手当、スウェーデンでは基礎保険と呼ばれる補足的な失業扶助制度がありますが、わが国では、雇用情勢の急激な悪化の下で、そうした労働力を地域の生活環境の改善に当てれば、失業者だけでなく、国民全体の福祉の向上にもつながります。
一方、地方公共団体などで一時的な雇用を提供する動きがありますが、将来の生活設計が描けないことから、応募者は少ない状況となっています。本来は、ジョブ・カード制度(雇用型訓練)のような、教育訓練と雇用が一体化した制度の利用が望ましいのですが、不況下では受け入れ企業の数が限られ、多くの人に提供することが難しいことは否定できません。
こうしたことから、一時的な雇用の場と教育訓練とを併せて提供し、正社員としての就職を斡旋するシステムを用意すべきであると考えます。

ここは、雇用保険と生活保護の間のセーフティネットという昨日の朝日の記事の問題意識と、教育訓練とをつなげたかたちの構想で、まさに労働組合からの提起にふさわしい内容となっています。本日のNHKニュース7の地方自治体の臨時職員に応募が少ないという話とも関わります。

具体的な仕事としてこんなのが上がっています。

*市街地や社会資本の清掃・美化・補修
*校庭の緑化、校舎への「緑のカーテン」の設置、それらの管理
*治安パトロール、消防活動の補助、不法駐輪取り締まり
*不法投棄の処理・防止
*登山道、海岸など、観光資源の整備・清掃・美化
*豪雪地帯における雪下ろし、除雪作業
*大都市近郊のスギ林の伐採
*管理が放棄された民有林の管理
*棚田の維持
*災害復旧活動
*外国人に対する日本語教育
*公共交通機関の運行が困難な地域におけるミニバスの運行
*高齢者、障害者、病人の介護・看護の補助、病院・施設への送迎サービス、家事援助
*その他、地域の実情に応じて必要な仕事

次の

Ⅱ.内需喚起を通じた雇用の維持・創出

は、まさに金属労協ならではの産業政策的な雇用対策です。

①新車購入促進のための緊急税制優遇・助成措置の実施

産業の裾野がきわめて広く、経済波及効果や雇用への影響が強い自動車の買い替え・新規購入を促進して内需を喚起するとともに、地球温暖化防止に向け、次の施策を早急に実施すること。
*自動車関係諸税を軽減・簡素化する抜本的な見直しを行う。その第一歩として、2009年度の税制改正では、暫定税率の廃止を最優先にして対応する。
*自動車重量税・自動車取得税のグリーン化について、政府案をより拡充するとともに、自動車の買い替えを促進する優遇税制を導入する。
*地方公共団体独自で実施している買い替え促進措置については、全国の都道府県で効果的に展開できるよう、必要な支援を行う。

自動車総連の個別利益じゃないの、という向きもあるかもしれませんが、まあそもそもフォーディズムとは普通の労働者が自動車を買えるような社会ということだったわけで、マクロ経済的に大きな意味があるのでしょう。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2008/02/post_e1ba.html(逆フォーディズム)

>②太陽光発電、風力発電、燃料電池発電システムの飛躍的普及に向けた助成措置の強化

一般家庭や企業における太陽光発電、風力発電、燃料電池発電システムの設置の飛躍的普及に向け、現行の助成措置を一層強化すること。
また、役所や学校をはじめとするすべての公共施設で、これらの再生可能エネルギーシステムを早急に導入すること。

③国・地方公共団体における省エネ製品の率先導入

国・地方公共団体の事務・事業に関する温室効果ガス排出抑制目標を前倒しで達成するよう、公用車の環境対応車両への切り替えや、省エネ型事務機器・設備の導入を率先して実施すること。
また、国道、県道、市道における道路灯については、早急にLED化を推進すること。

④省エネ製品への買い替え促進のための運動展開

省エネ製品の購入を通じた内需喚起を促すべく、「バイ・エコプロダクト!」運動を展開すること。

⑤「低炭素社会づくり行動計画」の早期実施

「低炭素社会づくり行動計画」の中で、雇用創出に関連のある中長期的な対策・施策については、目標の前倒し達成をめざすべく、当初3年間の計画目標を明らかにし、早急に実施すること。

こういったエコでグリーンな雇用創出というのはいま世界的にはやりですから、まあそういうことなんだろうな、と思いますが、個人的には次の、

2.社会資本の老朽化をくい止め、耐震化を促進

道路、橋梁、河川管理施設、上下水道などの社会資本について、金属労協の提案する「雇用確保・能力開発システム」などを活用しつつ、補強、長寿命化対策、ストック活用型更新などを含めた適切な維持管理を進め、老朽化をくい止めること。
また、学校、公立病院など公共施設の耐震化を促進すること。

これこそ国が政府紙幣でも何でも財源調達してやるべきことではなかろうかと感じています。

3.農業などグリーン分野における雇用創出

わが国の農業経営を強化し、意欲と能力のある担い手の育成と雇用の創出を実現するため、*農業経営については、農業生産法人化・株式会社化を積極的に推進し、農業生産法人・株式会社を前提とした農政に転換する。
*株式会社に対して農地取得を解禁し、一般企業の農業参入を促進する。
を行っていくこと。

最近、農業で雇用をという声が高いのですが、現状の農家を前提にするととても無理ですから、本気でやろうとすると、ここに書いてあるような、農業経営のあり方のラディカルな大変革が必要になるはずです。農水省にその覚悟があるのかどうかがよく見えないところです。

4.雇用維持の観点に立った金融政策運営

金融当局は、雇用維持の観点に立った金融政策運営を行っていくこと。
大胆な買い切りオペレーションの実施により、市中に効果的な資金供給を行うとともに、中小企業の資金繰りの確保を図り、貸し渋り、貸し剥しを防止するための有効な施策を講ずること

もちろん、組合の立場からの金融政策はそうでなければなりません。

②円高の是正

国際協調体制を一層強化し、必要に応じて効果的な協調介入を実施し、円高の是正を図ること。

もちろん、組合の立場からは円高は是正すべきものです。

最後にくるのが

Ⅲ.非正規労働の離職者対策の一層の拡充

で、特に

1.「雇止め・解雇された労働者の住宅・生活対策」の拡充

です。

①民間遊休アパートの借り上げ・転貸制度

雇止め・解雇された労働者に対する住宅支援については、住宅入居初期費用の資金貸付や、雇用促進住宅1万3千戸への入居を促すだけでなく、民間遊休アパートを借り上げ、迅速に、安価で提供できる仕組みを創設すること。
なお、雇止め・解雇された労働者が、比較的求人の多い地域に移動する場合には、移動を援助する仕組みを設けること

いわば私有公営住宅ということですか。

②「解雇等による住居喪失者に対する就職安定資金融資」の対象拡大

「解雇等による住居喪失者に対する就職安定資金融資」については、貸付対象者を拡大し、雇止め・解雇された者だけでなく、高い就労意欲を持ち、安定した職に就くことを強く希望している住居喪失者全体に適用できるようにすること。

③外国人労働者への支援強化

雇止め・解雇された外国人労働者については、住宅・生活支援、再就職支援に関し、さらに丁寧な対応を行っていくこと

外国人労働者については、わたくしも若干関わることになりました。

2.若年者トライアル雇用、ジョブ・カード制度の活用促進

若年者トライアル雇用、ジョブ・カード制度の活用促進に向けて、あらゆる手段を総動員すること。
企業や労働組合が、非正規労働者に対してジョブ・カード作成を呼びかけるよう、広報活動を進めていくこと。
ジョブ・カード制度の委託型訓練受講者に対する「技能者育成資金制度」については、
*予算を大幅に増額し、多くの者が利用できるようにすること。
*世帯収入要件は、申し込み時点での実際の収入に基づく基準に変更すること。
従って、書類による事実確認は返還開始、もしくは返還免除決定の際に行うようにすること。
*連帯保証人を不要とすること。
*訓練に入る前でも、受講を前提に前倒しで貸付できるようにすること。
*返還の場合でも、無利子とすること。

3.非正規労働における「二重の不安定」の解消

日雇派遣はもちろん、有期雇用契約であり、かつ間接雇用という「二重の不安定」の状態は、勤労者生活の安心・安定を著しく損ない、生活設計を困難にするとともに、社会的なコストをも増大させることになることから、業務処理請負会社または派遣会社(派遣元)に雇用され、発注会社または派遣先で労働する者の雇用形態は、正社員を原則としていくこと。

この辺については、登録型派遣の是非論として議論されているところです。私の見解は『世界』誌に書いたとおりです。

最後に、

Ⅳ.財源確保と財政再建に関する考え方

①仕分けの実施による行政改革の徹底と財源の捻出

国債の発行については、国民が将来の増税を予測し、消費・投資の冷え込みを激化させる可能性があること、円高を招きやすく、わが国の経済を支える輸出産業の収益に打撃を与えることなどから、その増発は可能な限り抑制していくことを基本姿勢とすべきである。現在の経済情勢において、雇用創出をはじめとする国民生活の底支えのために必要な財源を捻出していくため、特別会計も含め、国の実施している事務・事業全般について「仕分け」作業を行い、国が行う必要のない事務・事業を抽出していくこと。
「仕分け」結果については、直ちに予算に反映させるよう、補正予算を適宜、策定していくこと。

②財政再建の考え方

「基礎的財政収支の黒字化」については、内閣府による景気回復の確認後、速やかに達成すること。
基礎的財政収支の黒字化は、財政再建の入口に過ぎないことから、その後、遅滞なく政府債務残高の圧縮を図ること。

労働組合の立場として、こういうことまで言う必要があるのかなとは思いますが。少なくとも、「緊急的な雇用対策」ではないでしょう。

スウェーデンの労働法制は全部ここで読めます

さて、某一知半解無知蒙昧氏の「北欧は解雇自由」とかいう馬鹿げた虚言はともかく、解雇規制に限らず北欧の労働法制はどうなっているのか興味を持たれた方もいるかもしれません。

このうち、スウェーデンの労働法制については、スウェーデン政府のサイトに英訳がすべて掲載されています。

http://www.regeringen.se/sb/d/3288/a/19565;jsessionid=aciED2DivRM5

>Translations (Swedish Code of Statutes)
2005:426 The Working Time, etc. of Mobile Workers in Civil Aviation Act
SFS 2005:426 Lag om arbetstid m.m. för flygpersonal inom civilflyget

2005:395 The Working Hours for Certain Road Transport Work Act
SFS 2005:395 Lag om arbetstid vid visst vägtransportarbete

2002:293 Prohibition of Discrimination of Employees Working Part Time and Employees with Fixed-term Employment Act
SFS 2002:293 Lag om förbud mot diskriminering av deltidsarbetande arbetstagare och arbetstagare med tidsbegränsad anställning

1999:678 Foreign Posting of Employees Act
SFS 1999:678 Lag om utstationering av arbetstagare

1997:1293 Right to Leave to Conduct a Business Operation Act
SFS 1997:1293 Lag om rätt till ledighet för att bedriva näringsverksamhet

1997:239 Unemployment Funds Act
SFS 1997:239 Lag om arbetslöshetskassor
Utg. tillsammans med SFS 1997:238 Unemployment Insurance Act. S. 24-32

1997:238 Unemployment Insurance Act
SFS 1997:238 Lag om arbetslöshetsförsäkring
Utg. tillsammans med SFS 1997:239 Unemployment Funds Act. S. 1-23

1995:584 Parental Leave Act
SFS 1995:584 Föräldraledighetslag

1994:373 Employment Ordinance
SFS 1994:373 Anställningsförordning

1994:260 Public Employment Act
SFS 1994:260 Lag om offentlig anställning

1993:440 The Private Employment Agencies and Temporary Labour Act
SFS 1993:440 Lag om privat arbetsförmedling och uthyrning av arbetskraft

1992:497 Wage Guarantee Act
SFS 1992:497 Lönegarantilag

1987:1245 Board Representation (Private Sector Employees) Act
SFS 1987:1245 Lag om styrelserepresentation för de privatanställda

1982:673 Working Hours Act
SFS 1982:673 Arbetstidslag

1982:80 Employment Protection Act
SFS 1982:80 Lag om anställningsskydd

1977:1166 Work Environment Ordinance (external link)
SFS 1977:1166 Arbetsmiljöförordning
Work Environment Ordinance on the website of the Swedish Work Environment Authority

1977:1160 Work Environment Act
SFS 1977:1160 Arbetsmiljölag

See also:

The Work Environment Act with commentary (external link)
The Work Environment Act with commentary as worded on 1st July 2005 on the website of The Swedish Work Environment Authority

1977:480 Annual Leave Act
SFS 1977:480 Semesterlag

1976:580 Employment (Co-Determination in the Workplace) Act
SFS 1976:580 Lag om medbestämmande i arbetslivet

SFS 1974:981 Employee's Right to Educational Leave Act
SFS 1974:981 Studieledighetslagen

1974:371 The Labour Disputes (Judicial Procedure) Act
SFS 1974:371 Lag om rättegången i arbetstvister

1974:358 Trade Union Representatives (Status at the Workplace) Act
SFS 1974:358 Lag om facklig förtroendemans ställning på arbetsplatsen

ご覧の通り、差別禁止から経営参加に至るまで、さまざまな労働法制が確立されています。少なくとも、この中身にざっと目を通した上でなければ、北欧の労働法制にあれこれ口を挟む資格はないのではないか、などと自省の念を求めるのは、もちろん無駄なことでしょうが・・・。

ちなみに、このうち労働者参加に関する法制については、かつて某研究会の資料用に概要を和訳したことがありますので、参考までにアップしておきます。

スウェーデンの労使関係法制

1 労働組合代表(職場における地位)法(SFS 1974:358)

 労働組合代表は、特定の職場において、使用者との関係その他の事項に関して被用者を代表する者として、被用者組織によって指名される。被用者組織は、これら被用者に関係する労働協約によって結成された組織をいい、使用者に当該指名を通知することで本法が適用される(第1条)。
 使用者は労働組合代表がその任務を遂行することを妨げてはならない。労働組合代表自身の職場でなくても、任務の遂行に必要な限りでその活動を認めなければならないが、本来の業務遂行を著しく阻害することになってはならない。また任務遂行に必要な限りで職場の施設や空間を利用できる(第3条)。
 労働組合代表は指名の結果として不利益を受けることはなく、任務終了後は雇用・労働条件に関し同一又は同等の地位に復帰する(第4条)。
 労働組合代表の雇用・労働条件の変更の際は、原則として2週間前までに本人及び地域被用者組織に通知する(第5条)。
 労働組合代表は、職場の状況を考慮して合理的な範囲で、任務遂行に必要なタイムオフの権利を有する。タイムオフの期間は使用者と被用者組織が協議して決める(第6条)。
 労働組合代表がタイムオフをとっている期間についても雇用上の便益は維持される。組合活動が通常の労働時間外に行われた場合は使用者から補償を受ける。追加費用も使用者が負担する。総労働時間に基づき雇用上の便益が支払われる場合は、上記時間は労働時間と見なす(第7条)。
 整理解雇の通知の際、雇用保護法第22条にかかわらず、当該職場の組合活動に特に重要である場合、労働組合代表は継続雇用の優先権が与えられる。これに反する解雇は無効である(第8条)。
 上記規定又はこれに基づく労働協約の解釈につき紛争が生じたときは、最終決定までは地域被用者組織の意見が適用される。ただし、使用者は、職場の安全や公共的機能を買いするようなタイムオフを拒否することができる(第9条)。
 労働組合代表に職場へのアクセスを認める義務を負う使用者は、当該代表に与えられる情報の秘密保持義務につき当該被用者組織と交渉する権利を有する。この場合、雇用(職場の共同決定)法第21条が適用される。これにより保秘義務を負って労働組合代表が得た情報は、保秘義務にかかわらず、被用者組織の役員に開示することができる。この場合、被用者組織の役員も保秘義務を負う(第9a条)。
 本法又はこれに基づく労働協約に違反した使用者は、賃金、雇用上の便益に加え、損害賠償の責めを負う。労働組合代表の不法行為につき、被用者組織は損害賠償の責めを負う(第10条)。労働組合代表又は被用者組織の役員が第9a条の保秘義務に違反し、又は不当に利用した場合は、被用者組織はすべての損害賠償の責めを負う(第10a条)。

2 雇用(職場の共同決定)法(SFS 1976:580) 

(1) 団結権
 団結権は侵害しえない。団結権の侵害とは、使用者、被用者又はその代表が他方に対して、団結権行使の結果として又は団結権を行使しないことを目的として有害な行為をとることである(第8条)。

(2) 交渉権
 被用者組織は、使用者と当該使用者に雇用されている被用者組織の成員の間の関係に関するいかなる事項についても、当該使用者又は当該使用者の加盟する組織と交渉する権利を有する(第10条)。
 使用者は、その活動又は被用者の労働・雇用条件における顕著な変化に関するいかなる決定をする前にも、その発意により、労働協約により交渉が義務づけられている被用者組織と交渉に入る(第11条)。
 被用者組織が求めた場合、使用者は当該被用者組織の成員に関する決定をする前に交渉をする(第12条)。
 使用者が労働協約により交渉が義務づけられていない被用者組織に属する被用者の雇用・労働条件に特にかかわる事項についても、当該組織と交渉しなければならない。使用者が労働協約に加入していない場合でも、整理解雇又は営業譲渡に関するすべての事項については交渉する(第13条)。
 交渉の義務を負う者は、自ら又は代表を通じ、交渉会合に出席し、交渉事項について理由を付した提案を行う。整理解雇に関する交渉においては、適時に以下の事項を書面で通知する。①解雇の理由、②解雇者の数及び種類、③常時雇用する者の数及び種類、④解雇を予定する期間、⑤法又は労働協約所定以外に支払われる補償金の計算方法(第15条)。
 交渉を求める者は、相手方が求めれば、書面で交渉したい事項を提示する。第11-13条以外の場合、要求から2週間以内に交渉会合を開く。交渉は迅速に行い、求めがあれば双方の承認により記録をとる(第16条)。
 交渉における代表として指名された被用者は、当該交渉を行うための合理的な休業を拒否されない(第17条)。

(3) 情報開示請求権
 交渉中いかなる書類を援用する者も、相手方が求めれば当該書類を開示する(第18条)。
 使用者は定期的に、労働協約により義務づけられた被用者組織に対して、生産・財務の状況及び人事政策に関して通知する義務を負う。また、その成員の利益を守るために要求された限度で、会計書類その他の文書を検討する機会を与える。費用が不合理でなければ、文書の写しを提供する(第19条)。
 情報提供義務を負う者は、情報の秘密保持義務につき相手方と交渉する権利を有する。この交渉が合意に達しない場合、当事者は裁判手続を開始することができる。裁判所は保秘義務の限度について命令を発する(第21条)。
 保秘義務に従う情報を受けた者は、保秘義務にかかわらず当該組織の役員に情報を開示することができる。この場合、被用者組織の役員も保秘義務を負う(第22条)。

(4) 労働協約
 使用者組織又は被用者組織の締結した労働協約はその組織成員に対して拘束力を有する。これは当該成員の加入が協約締結の前か後かを問わないが、既に他の協約に拘束されている限りで拘束されない。組織を脱退しても協約の拘束力は続く(第26条)。
 労働協約に拘束される使用者と被用者は、これに反する契約を締結できない(第27条)。
 企業や事業の譲渡の場合、旧使用者が拘束される労働協約は新使用者に適用される。ただし新使用者が既に他の協約に拘束されている場合は適用されない(第28条)。

(5) 労働協約に関する共同決定権
 賃金、労働条件について労働協約関係に入った当事者は、被用者側の求めにより、雇用契約の締結と終了、作業管理と配分及び運営一般に関する共同決定について労働協約関係に入る。共同決定に関する労働協約当事者は、使用者が行う決定が被用者代表又はこの目的のために設置された合同機関によって行使される旨合意することができる(第32条)。

(6) 協約解釈に関する紛争の決定権
 労働協約が被用者の共同決定権について規定している場合、紛争が生じたときは最終判断がされるまでは被用者側の解釈が適用される(第33条)。

2009年2月20日 (金)

明日のニュース7

明日のNHKのニュース7に顔を出すかもしれません。一応本日収録しました。

話題は、地方自治体が派遣切りされた人のために臨時職員の募集をしているのに、あんまり応募がないのはなぜか?という話。それに対する私の答えに対して、では地方自治体としてやるべきことは何ですか?

まあ、皆様の予想通りの回答をしております。

(追記)

ということで、先ほどニュース7に顔を出しました。出たのは後半の部分だけで、前半の「そんなの当たり前でしょう、低賃金で先の見えない仕事に喜んで飛びつきませんよ。昨年末の緊急対策によるセーフティネットがそれなりに役に立っているということです。」という回答は出ませんでした。

2009年2月19日 (木)

新たな雇用安全網、国会で論議へ

本日の朝日新聞に、標記の記事が載っています。

http://www.asahi.com/politics/update/0218/TKY200902180266.html

>雇用保険と生活保護のすき間を埋める雇用の新たなセーフティーネット(安全網)を求める声が強まっている。働く人の3分の1を非正社員が占め、雇用保険の網からこぼれ落ちる人が増えているためだ。政府・与党の対策に民主党も独自案を準備し、雇用をめぐる国会論戦の大きなテーマに浮上してきた。

 政府は昨年11月、雇用保険の受給資格がない年収200万円以下の非正社員らに、月10万円を上限に職業訓練中の生活費を貸与する制度を創設。1月からは上限額を月12万円に増やした。

 一方、民主党は雇用保険の失業手当の受給期間が終わっても再就職できない失業者らが、教育訓練を受けた際に生活費を支給する求職者支援法案を検討中だ。教育訓練を受ければ、月10万~12万円を上限に支援する。

 両者の大きな違いは、政府は雇用保険の受給資格がない人だけを支援するのに対し、民主案は雇用保険の受給者にも、受給終了後の生活費を最長3年間支援する点だ。

 また、政府は生活費を貸し付けたうえで、訓練を修了して安定就職すれば返済を免除するのに対し、民主案は生活費を全額給付する。

 そのほか政府は、今回の経済危機で急速に進んだ「派遣切り」で、失職とともに社員寮を追い出されて住居も失う人への緊急対策として、昨年末から住宅入居費や生活費を最高186万円低利融資する制度を創設。民主党も同様の制度を盛り込んだ雇用保険法改正案を、今国会へ提出することを目指している。

 こうした議論が盛んになった背景には、雇用危機が深まるなかで、労働市場の規制緩和に雇用の安全網の整備が追いついていないことがある。非正社員の数は07年には1732万人と雇用者の3分の1を超えたが、このうち1006万人は雇用保険に加入していない。

低賃金で短期雇用を繰り返し、雇用保険の受給資格を得られなければ、職業訓練で技能を身につけて好条件の仕事に就きたくても、その間の生活資金がなく訓練を受けづらい。失職して社員寮を追い出され、路上生活を余儀なくされるケースもある。生活保護制度はあるが、働ける人が保護を受けるのは困難だ。

 欧州では、雇用保険と生活保護の間に「失業扶助」という制度がある国が多い。雇用保険の未加入者や、失業手当の受給中に仕事を見つけられなかった人に、生活費を支給しながら職業訓練などを受けさせることで、早期の再就労につなげる仕組みだ。

 労働政策研究・研修機構の濱口桂一郎統括研究員は「欧州では就職せずに手当を受給し続けるモラルハザードも起きている。失業扶助の制度は必要だが、職業指導を徹底し、できるだけ早期に就労させる仕組みに重点を置くべきだ」と話す。(生田大介、林恒樹)

ということです。やや就労促進にウェイトのかかりすぎたコメントになっていると感じられるかも知れませんが、こういうときだからこそ、この点はきちんと言っておく必要はあろうと。一つには、生活保護の入り口を緩和するという福祉サイドの方向からこの問題を考えるのか、労働市場のセーフティネットを穴のないようにするという労働サイドの方向からこの問題を考えるのか、という哲学的な問題が底にあるわけで。

2009年2月18日 (水)

北欧諸国は解雇自由ではない

一知半解氏が北欧は解雇自由だなどとまたぞろ虚偽を唱えているらしいので、拙稿より北欧諸国の解雇規制の記述を引いておきます。

http://homepage3.nifty.com/hamachan/roubenflexicurity.html『季刊労働者の権利』2007年夏号原稿 「解雇規制とフレクシキュリティ」

(4) デンマーク
 法律上原則として使用者は労働者を自由に解雇できる。ただし中央労使協約により、解雇は公平で予告が必要である(勤続に応じて3ヶ月~6ヶ月)。著しい非行の場合は即時解雇が可能である。使用者は解雇の正当理由を示さなければならず、これに不服な労働者は解雇委員会に申し立てることができる。解雇委員会は、労使間の協調が不可能ではないと認めるときは復職を命じることができる。

(7) フィンランド
 解雇予告期間は勤続に応じて14日~6ヶ月。普通解雇にも労働者個人又は企業の経済状況に基づく正当理由が必要である。もっとも、正当な理由なき解雇の場合でも使用者の同意なしに復職はできない。すべては補償によってカバーされる。雇用契約上の義務違反等雇用を継続しがたい重大な理由があれば即時解雇できる。
 整理解雇に際しては、適切な訓練や経験によって労働者を他の部署に配転する余地があればそうする義務がある。

(14) スウェーデン
 労働者が雇用契約上の義務に著しく違反した場合は予告なしに即時解雇できる。それ以外の客観的な理由のある場合は解雇予告(勤続に応じて1ヶ月~6ヶ月)が必要である。いずれの場合も、労働者が訴えて客観的な理由がないとされれば解雇は無効となり、雇用は維持される。ただし、裁判所は使用者の申し出により雇用が終了するとの命令を発することができ、労働者は補償を受ける。
 整理解雇に際しては、配転により雇用継続が可能であれば客観的な理由は認められない。また解雇順位は法定されていて、厳格な年功制、すなわち最後に就職した者から最初に解雇される。もっともこれに反しても解雇は無効にはならず補償の対象となる。

法学上、「解雇自由」というのは、正当な理由があろうがなかろうが、そんなことには何の関係もなく解雇は自由に行えることを指します。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2009/01/post-ba7f.html(労働者を気分次第で簡単に解雇するような経営者はいる)

>>カレンは・・・D社のスーパーマーケットに勤務する、勤続26年のアシスタントマネジャーである。彼女の夫は地元の警察の巡査部長であるが、1997年の6月上旬、飲酒運転の取り締まりの際に、ある女性ドライバーの呼気検査を行った。検査の結果、基準を超えるアルコールが検出され、女性は逮捕された。その女性は、D社のオーナーの妻であった。8月末、カレンは解雇された。

もちろん、この解雇は正当です。正当な理由があろうがなかろうが、道徳的に間違った理由であっても、解雇は正当です。解雇自由とはそういうことです。アメリカ並みになるというのは、そういうのを当然のこととして受け入れるということです。もちろん。

そういう法制をとっているのはアメリカだけです。北欧諸国はそういう「解雇自由」の国ではありません(デンマークは労働法がそもそもほとんどなく、他国が労働法で規制しているようなことをほとんど中央労働協約でやっている国ですから、やや特殊ですが)。

北欧諸国は、解雇自由なのではなく、解雇規制はあるけれども労働者が自由に労働市場を異動できるように整備されているということです。

(追記)

労働関係ブログをやっていると、他の労働関係ブログと同じネタがかぶることがあって、「あ、同じものに食いついてる」とニヤリとすることがありますが、今回も同じことがありました。

労働弁護士の水口洋介氏の「夜明け前の独り言」です。

http://analyticalsociaboy.txt-nifty.com/yoakemaeka/2009/02/post-1479.html(スウェーデンが「解雇自由」だって?)

中身はリンク先をお読みください。ただ、一言だけ、

>経済学者によると、北欧は「解雇自由の国」だそうです

>なお、著名な経済学者が「北欧は・・・解雇自由」って書かれています。

これは、まっとうな労働経済学者であれば「一緒くたにするな!」と怒ると思いますよ。IT専門のメディア博士を「著名な経済学者」と呼んだりすると・・・。

雑感

昨日、都内某所で某出版企画の打ち合わせ。それはそれとして・・・

某大学における「放し飼い」状況と、別の某大学における「因循姑息」な拘束状況の対比が大変面白かったです(謎)。

2009年2月17日 (火)

麻生首相のまっとうな教育論

政局派の人からみれば、支持率一桁に落ち込んだ首相をほめるようなまねをするのは何か魂胆があってのことか、と勘ぐられるかも知れませんが、いや、まっとうなことはまっとうなこととしてほめるのに何の遠慮が要りましょうか。

少なくとも、ここ十年、いや数十年の「教育改革」と称するわけのわからん観念論のオンパレードに比べれば、はるかに地に足のついたまっとうな教育論だと思いますよ。

麻生首相のメルマガで、「国づくりの基本は人づくり」

http://www.mmz.kantei.go.jp/jp/m-magazine/backnumber/2009/0212tp/0212souri.html

>「邑(むら)に不学の戸なく、家に不学の人なからしめん事を期す。」
(明治五年 太政官布告第二百十四号 抜粋)

 この一文に、すべての国民に教育の機会を保障しようという明治政府の強い意志がこめられています。先人たちは、人づくりに日本の将来を託しました。

 維新から間もない明治4年、政府は廃藩置県の4日後の7月18日には、文部省を設置しました。翌5年には、欧米の近代教育をわが国に定着させるべく、この太政官布告、いわゆる「学制序文」を発出しました。

 国民皆学の精神。これが、わが国の近代化を進め、今日の日本の基礎を築いてきたことは、国民共通の認識ではないかと存じます。

 今国会の施政方針演説で、「国づくりの基本は人づくり」と申しあげました。今週月曜日の「教育再生懇談会」では、有識者の方々に、私が、今、重要だと考えている3点の検討をお願いしました。

教育の機会均等が教育論の出発点になっているという一点だけで、まずそのまっとうさがわかりますが。

>第1に、国際的に通用する人材の育成についてです。わが国の学校教育を終えた人たちが、国際社会で通用するようにせねばなりません。

 「読み・書き・算盤(計算)・英会話」といった基礎学力の向上もその1つ。ただし、言葉の問題だけでなく、日本人として、「何を話せる人」なのかが、国際社会では問われることとなります。使う言語ではなく、中身が重要です。

おそらく新聞の政治部記者だったら、これをネタに山のような皮肉を繰り出すところでしょうが、私は素直にまったくその通りだと思います。

次が最も重要。

>第2は、教育に対する安心です。経済状況の厳しい中でも、不安なく、教育を受けられることこそ大切。公立学校の質の問題もあります。信頼される学校について、教育委員会のあり方もおおいに議論されるべきです。そして、学校を出たら、すぐに雇用に結びつく教育であることが求められます。

これこそが現下の状況における教育論の中核でなければならないはずだと思うのですが、とかく教育通の方ほど、こういう社会的問題には関心がないようなのですね。

>第3は、科学とスポーツです。先般、4人の方がノーベル賞を受賞されましたが、そのような人材を輩出する土壌を、日ごろから涵養(かんよう)しておくことが必要です。そのためには、科学技術立国を支える理数系教育の充実と理数系の人材の登用が重要です。

まあ、いきなりノーベル賞とか言う前に、まさに地道に科学技術を支える人材をきちんと処遇していくことが必要なのでしょう。

2009年2月15日 (日)

利益政治の正当性

on the groundのきはむさんが、岸博幸という脱藩官僚氏の悪質な言説を的確に批判しています。

まず、その脱藩官僚氏のダイヤモンドオンラインにおけるものいいですが、

http://diamond.jp/series/kishi/10026/(「かんぽの宿」への政治対応はモラルハザードの塊)

>第二の問題は、オリックスの宮内会長が規制改革会議の議長だったことを以てオリックスの入札を否定するならば、政府のすべての審議会について同様の見地からメスを入れるべきではないか、ということです。

 そもそも規制改革会議は郵政民営化について検討していません。従って、その議長だった人間の会社が入札すべきでないというのは、ひどい言いがかりです。ただ、規制改革と郵政民営化のベクトルの方向性が同じなのは否定できませんので、規制改革会議が郵政民営化に関係したと見るかどうかは、価値判断の問題になると思います。そして、関係すると今の政権が判断するなら、同様の基準から政府のすべての審議会のメンバー構成などを洗い直し、問題を徹底的に排除すべきではないでしょうか。

 例えば、厚生労働省の審議会である中医協(中央社会保険医療協議会)は、診療報酬の改訂や薬価の算定方式などを決めていますが、そのメンバーには日本医師会や日本歯科医師会など直接の利害関係者がたくさん入っています。他にもこうしたひどい事例は山ほどあります。

 従って、オリックスと規制改革会議の関係を問題視するならば、政権全体として政府の審議会のメンバーの粛正を始めるべきです。それなしにオリックスの宮内会長だけを狙い撃ちするというのは、不公平ではないでしょうか。ほとんど魔女狩りのように見えます。こうしたやり口を見ていたら、良識ある財界人は政府の審議会の委員を受けなくなるでしょう。

一読唖然という感じですが、これに対してきはむ氏は次のように理路整然と批判します。

http://d.hatena.ne.jp/kihamu/20090207(政策決定過程を「漂白」化しようとする欲望)

>ここでは、問題の酷いすり替えが行われている。宮内云々についての問題視は、規制改革会議議長としての立場に伴う隠然とした影響力を行使して不正な(インフォーマルな)利益取得行為を働いたのではないか、という疑念に基づいているはずである。これに対して、例に挙げられている中医協は、正統と認められた公的な政策決定過程の一環として利害関係団体からメンバーを構成しているのであって、問題の次元が全く異なる。

仮に、社会全体の適正な利益分配の観点からして中医協を経た政策決定の帰結に多くの問題があると判断する――私はその判断能力を十分に持たない――にしても、それは利害の伝達・集約回路が適切に設計されていない(ないし機能していない)ことの問題であって、政策決定過程に利害関係者が携わることの問題ではない。不正な利益誘導への糾弾に乗じて、正統な――正当かどうかは問題が異なる――利益誘導まで排撃しようとするのは不当な所業であり、止めるべきである

90年代半ば以降の日本では、長く続いた自民党政権における利益誘導政治への反発から、とにかく利害関係者を弾き出すことこそが望ましい政策決定過程の在り方であるかのような錯覚が蔓延するようになった。小泉政権期に経済財政諮問会議その他の諮問機関が従来にない権能を手にできたのは、そうした社会の支持が後ろ盾になったからである。しかし、その方が迅速かつ効率的であるとの「経営感覚」や、その方が民主的であるとの単なる錯覚などに基づき、公的政策決定過程から利害関係者を排除することは、インフォーマルなプロセスによる利害伝達や利益誘導を促進するだけである

人々が利益誘導政治に反発するのは、誰かが利益を手にすること自体が理由ではなく、自分が利益を手にできないことが理由であったはずだろう。ならば、改めるべきは政策決定過程への利害関係者の参加そのものではなく、参加すべき利害関係者の範囲や選出過程、および参加後に行使可能な権能の程度など、広範にわたる利害伝達・集約過程の設計と機能にほかならない。公開の場で行われる限り、制度上、利益誘導を問題視すべき理由は無い。撤廃すべきは密室談合政治であって、談合政治そのものではない。攻撃すべきは不適切な利益政治であって、利益政治そのものではないのである

ほとんど言うべきことを言い尽くしていると思われます。

同じ規制改革会議の福井秀夫氏(こちらも脱藩官僚に名を連ねている一人ですが)が、労働政策審議会の三者構成原則を非難して、政策形成は(俺たちのような)公正な有識者に任せろという言い方をしているのと、まさしく同じ穴の狢の現象といえましょう。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2007/05/post_a044.html(三者構成原則について三者構成原則について)

>第三に、労働政策の立案の在り方について検討を開始すべきである。現在の労働政策審議会は、政策決定の要の審議会であるにもかかわらず意見分布の固定化という弊害を持っている。労使代表は、決定権限を持たずに、その背後にある組織のメッセンジャーであることもないわけではなく、その場合には、同審議会の機能は、団体交渉にも及ばない。しかも、主として正社員を中心に組織化された労働組合の意見が、必ずしも、フリーター、派遣労働者等非正規労働者の再チャレンジの観点に立っている訳ではない。特定の利害関係は特定の行動をもたらすことに照らすと、使用者側委員、労働側委員といった利害団体の代表が調整を行う現行の政策決定の在り方を改め、利害当事者から広く、意見を聞きつつも、フェアな政策決定機関にその政策決定を委ねるべきである

もちろん、福井氏が指摘するように、現在の労使代表なかんずく労働側の代表には、非正規労働者をどこまで代表し得ているのかといった大きな問題を孕んでいます。しかし、「利害の伝達・集約回路が適切に設計されていない(ないし機能していない)」ことをとらえて、「政策決定過程に利害関係者が携わる」ことを排撃しようという所業には、最大限の警戒感をもってあたるべきでしょう。

ちなみに、中医協について言えば、医療従事者における医師の過大代表、医師における開業医の過大代表というつとに指摘されている問題が依然として最大の課題なのだと思われます。

(参考)

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2008/12/post-d00b.html(ひどいのはお前だ!)

2009年2月13日 (金)

NHK視点・論点のスクリプト

2月3日にNHKの視点・論点で喋った内容が、NHKの解説委員室ブログにアップされています。「シリーズ雇用(2) 働くことが得になる社会へ」というタイトルです。

http://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/400/15991.html

>昨年来の金融危機の中で、派遣労働者をはじめとする多くの非正規労働者が解雇されたり雇い止めされたりして、路頭に迷うという事態が起こっています。年末年始に日比谷公園で実行された派遣村は、多くの国民の注目を浴びました。その中で、労働者派遣事業を諸悪の根源と考え、これを禁止することによって事態を改善できるかのような考え方も強まっています。しかしながら、派遣を禁止しても企業は直接の臨時雇用に移行するだけでしょうから、賃金が低く雇用が不安定という問題の本質が改善されるわけではありません。

 2つの方向から解決への道を探るべきでしょう。一つは非正規労働者の賃金・労働条件など待遇改善です。貯金もできないような低い賃金であったために、解雇されるとその日の宿泊代もなく路頭に迷うという事態をもたらしたのですから、これは喫緊の課題です。日本ではこれまで主としてパート労働者とフルタイム労働者の均等待遇という観点から、この問題が議論されてきました。しかし、長年の議論の割に事態はあまり進展していません。2007年の改正パート法でごく一部のパート労働者に均等待遇が規定されたにとどまります。これは、パート労働者は家庭の主婦が家計補助的に就労する者だという社会的前提があったため、その低い賃金が社会的問題と意識されなかったことが大きいと思われます。ところが、1990年代後半以降、就職氷河期のために常用就職できなかった若者が大量に非正規労働者の中に流れ込んできました。彼らの多くはフルタイムの臨時雇用や派遣労働ですから、パート法の規定は及びません。しかし、主婦パートと異なり、自らの生計を自らの稼ぎで立てなければならない彼らの方が、はるかに均等待遇の必要性が高いはずです。このねじれを解きほぐし、フルタイムの臨時・派遣労働者にも正規労働者並みの「貯金ができる賃金」を払っていくようにすることが重要です。

 もう一つは雇用がなくなったときのセーフティネットです。本来、非正規労働者は正規労働者より雇用が不安定なのですから、より手厚いセーフティネットが用意されていてもいいくらいですが、現実には1年以上の雇用見込みがないと雇用保険に入れないなど、かえって排除されているのです。この理由も、かつての非正規労働者は主婦パートや学生アルバイトのような扶養家族の小遣い稼ぎであって、雇用が切れても夫や親が生活の面倒を見てくれるのが当然だと思われていたことにあります。失業者にならない人に雇用保険を渡してもしかたがない、家計を支えて頑張っている人に渡すべきだという発想でした。しかし、今や非正規労働者のかなりの部分はその乏しい賃金で生計を支えています。かれらを排除することは、制度の最も重要な目的を捨てることにもなりかねません。雇用保険をすべての非正規労働者に拡大していくことが求められます。

 この二つが政策の大きな柱となりますが、すでに職を失ってしまった人々にはもちろん緊急の生活保障対策が必要です。昨年末に政府が打ち出した「生活防衛のための緊急対策」の中には、「就職安定資金融資」という興味深い制度が盛り込まれています。これは、雇用保険でカバーされなかった失業者に対して、生活・就職活動費として月15万円を6ヶ月間、計90万円、家賃補助費として月6万円を6ヶ月間、計36万円を貸し付け、6か月以内に就職すれば返済免除になるという仕組みです。これは大変よくできた制度だと思います。現在雇用保険をもらえない失業者には生活保護しかありません。しかし、生活保護には大きな問題があります。それは、資産があったり援助してくれる家族がいればそちらが優先することとされているため、ほかにどうしようもない人しか入れてこなかったことです。そのため、いったん生活保護にはいるとなかなかそこから脱却できないという悪循環に陥ってきました。最近ようやく「入りやすく出やすい制度」というスローガンのもとに、自立支援、就労支援という政策方向が示されてきたところですが、なお就職に向けたインセンティブに乏しいという大きな欠点は否めません。その意味で、昨年末から実施されている就職安定資金融資は、就職しなければ借金を返さなければならないのに、就職すればそれがお祝い金になるわけですから、きわめて効果的な就職促進策になっています。現在は緊急対策という位置づけですが、恒常的な制度にすることを考えてもいいのではないかと思います。

 ここで、この融資制度に生活・就職活動費とは別に家賃補助費が含まれていることに注目したいと思います。いうまでもなく、失業した非正規労働者の多くが派遣会社の寮などに入っていたため、失業とともに住宅をも失うことになったことに対応しようとするものです。いかなる人も住居なしに生きていくことはできないことを考えれば当然ともいえますが、今まで雇用労働政策において家賃補助が問題になったことはありませんでした。この背景には、正規労働者であれば普通の賃貸住宅に入居できるだけの家賃は賃金として得ていたことがあります。正確に言えば、正規労働者の年功的な賃金体系のもとでは、若い頃は自分一人が住める程度の住宅の家賃が、結婚して子供ができてくれば、家族と一緒に住むことができるような広さの住宅の家賃が払えるだけの賃金が支払われるようになっていたのです。そういう労働者が失業したときの雇用保険も前職賃金に比例しますから、雇用保険にも家賃補助はありませんでした。一方、厳しい資産テストをくぐり抜けて生活保護を受給すると、生活扶助に加えて住宅扶助も受給できます。こちらには家賃補助が登場するのです。

 このように見てくると、正規労働者は年功賃金の中に家賃補助が含まれ、生活保護受給者は制度上家賃補助が存在するのに、その間の非正規労働者には家賃補助がないことがわかります。その理由も今まで何回も見てきたように、かつて非正規労働者の大部分を占めていた主婦パートや学生アルバイトのような扶養家族は、夫や親と同居していたりその負担で別居していたりするのが当たり前で、わざわざ家賃補助などする必要はなかったからです。しかし、今や非正規労働者の多くは自分で住居費用を賄わなければなりません。そのため、派遣会社の寮に入る人が多く、またそこから追い出されたら行くあてがなくなるという事態も生じてきたのでしょう。これを裏から見ると、生活保護を受給している間は住宅扶助ももらえていたのに、せっかく努力して就職しても非正規労働だとかえって収入が低下するということでもあります。賃金自体の引き上げは今後取り組んでいく必要があるとしても、非正規労働者にも家賃相当分を賃金として支払えとまで企業に要求するのは難しいでしょう。しかしそのままでは、働く方が損になる社会になってしまいます。現実に多くの家計を支える人々が非正規労働者として働いている以上、ここには何らかの公的な支えが必要なのではないでしょうか。具体的には、一定以下の所得の労働者と失業者を対象にした社会手当としての住宅手当の創設です。これと同じことは子供がいる場合の教育費にもいえるでしょう。

 最近、失業した非正規労働者が生活保護を受給するケースが増えています。一時的なセーフティネットとしては大いに活用されてしかるべきですが、それが長期にならないよう、彼らを再就職させていくことも必要です。その際、働くことが損になるようでは働くインセンティブが高まりません。近年ヨーロッパ諸国では「Make Work Pay」、働くことが得になるようにしようというのが労働社会政策のキーワードになってきています。日本でその鍵になるのは、非正規労働者の待遇の改善と公的な住宅手当の創設ではないかと思われます。

ちなみに、この「シリーズ雇用」の第1回目の樋口美雄先生のスクリプトもアップされています。「二極化への対応」というタイトルです。

http://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/400/15990.html

>2. 非正規労働者問題への対応

●規制緩和と均等待遇の強化
日本でも、近年、労働者派遣法や有期契約に関する規制が緩和され、景気回復期には雇用が拡大されるようになった反面、後退期には短期間のうちに雇用調整がなされ、不安定労働者が増えました。しかし仮に派遣や有期雇用がすべて禁止され、正社員しか雇えなくなりますと、不安定労働者の問題は目の前からは消えるかもしれませんが、しかしそうなると、新たな雇用は創出されなくなり、間接的に失業者が増える可能性があります。いま問われているのは、雇用の量の拡大と質の向上を同時に達成することであり、対症療法よりも労働市場の二極化を解消するための抜本的対策である正規と非正規の均等待遇の強化こそが求められています。
派遣についても同じことが言えます。一般労働者と派遣労働者の賃金が等しければ、受け入れ企業は派遣会社に手数料を払う分だけ、派遣労働は割高な存在になり、その本来の目的である緊急性や専門性が求められない場合、直接雇用に切り替えられ、派遣期間は短縮されるはずです。

●セーフティネットの強化
均等処遇の強化とともに求められますのが、非正規労働者に対するセーフティネットの拡充です。非正規労働者が家計の補助的存在であるならば、その人たちは職を失っても経済的痛手は小さいと判断され、一定基準以下の年収や労働時間、雇用期間の労働者は雇用保険の適用から外されても仕方がないかもしれません。しかし非正規雇用が増え、その賃金で生計を立てる人が多くなりますと、適用基準を緩和していく必要があります。すでに年収要件は撤廃され、週当たりの労働時間要件も20時間以上に緩和されました。今回、1年以上の雇用見通しといった適用要件も、半年以上に緩和される方向にありますが、さらにセーフティネットを強化する必要はないのでしょうか。

●失業扶助制度
ヨーロッパでは失業給付の対象にならない人でも、一定の条件さえ満たせば、一般財源から給付を受けられる「失業扶助制度」がありますが、わが国でもモラルハザードを起こさない工夫を凝らしたうえで、こうした制度の導入を検討してもよいのではないでしょうか。

なんだか、とても同じことを喋っているような感じがします。

第3回目は政策研究大学院大学の八田達夫学長で「脱終身雇用時代の社会インフラ」というタイトルですが、こちらは状況認識や政策課題について共通するところと相違するところがかなりくっきり現れているようですね。

http://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/400/15992.html

派遣の期間制限を廃止しろというような労働法制の問題以上に、

>第2のインフラ整備は、セーフティネットを充実させることです。特に生活保護を充実させることです。解雇されて財産のない人に対しては、生活保護制度で保護すべきです。

というような生活保護中心主義に私の立場からすると違和感を感じます。

本日の東京新聞「核心」

本日の東京新聞第3面に、かなり大きく「派遣労働 欧州にヒントあり」「正社員並み 待遇 安全網 手厚く」「家族手当も公的助成」という見出しの記事が載っています。記者は砂本紅年(あかね)さん。

語り手は、EU編が私、ドイツ編が大橋範雄先生、フランス編が島田陽一先生という具合です。

2009年2月12日 (木)

金融的インクルージョンの協議文書

2月6日付で、欧州委員会から「金融的インクルージョン:基礎的銀行口座へのアクセスの確保」という協議文書が公開されています。

金融的インクルージョンという言い方は日本ではなじみがないですが、多重債務問題をEUでは「金融的エクスクルージョン」と呼んでいて、その対概念だと考えれば、何となくわかるような。EUでは、雇用をはじめとする社会生活の諸側面における貧困や剥奪に関わる概念を「社会的エクスクルージョン」と呼び、これに対する政策課題として「社会的インクルージョン」が中核概念になっていますので、その金融版ということなのでしょう。

http://ec.europa.eu/internal_market/consultations/docs/2009/fin_inclusion/consultation_en.pdf

日本では貧困と金融の問題といえば、サラ金の金利問題がもっぱら中心になってきて、こういう方面からの問題意識というのはほとんど見あたらないようですが(私が知らないだけかも知れませんが)、EUの社会政策の一つの動向として、興味深いものがあると思います。

2009年2月11日 (水)

第117回日本労働法学会大会

来る5月17日(日)に、神戸大学で標記学会が開かれます。

http://wwwsoc.nii.ac.jp/jlla/contents-taikai/117taikai.html

個別報告(9:20~11:25)
第一会場
9:30~10:30
テーマ:ニュージーランドに置ける解雇法制の展開
報告者:田中 達也(岩手女子高校)
司会 :未定
10:40~11:40
テーマ:アメリカにおける精神障害者の雇用保障
報告者:所 浩代(北海道大学院)
司会 :道幸 哲也(北海道大学)

第二会場
9:30~10:30
テーマ:国家規制と労使自治の相克-労働条件規制の『柔軟化』をめぐる比較法的考察
報告者:桑村 裕美子(東北大学)
司会 :荒木 尚志(東京大学)
10:40~11:40
テーマ:有利原則の可能性とその限界-ドイツ法を素材に-
報告者:丸山 亜子(宮崎大学)
司会 :西谷 敏(近畿大学)

第三会場
9:30~10:30
なし
10:40~11:40
テーマ:同一労働同一賃金原則と私的自治-イタリア法の検討から
報告者:大木 正俊(早稲田大学院)
司会 :石田 眞(早稲田大学)
 総会(11:50~12:00)
理事・監事選挙結果の報告後一時中断

休憩(12:00~13:00)

総会(13:00~13:30)

ミニシンポジウム(13:30~17:00)
第一会場
テーマ:高年齢者雇用安定法をめぐる法的問題

報告者:
山川 和義(三重短期大学)「高年法9条1項の法的意義(仮)」
山下 昇(九州大学)「継続雇用制度とその対象となる高年齢者に係る基準をめぐる法的問題(仮)」

司会 :根本 到(大阪市立大学)

第二会場
テーマ:不当労働行為の当事者(仮)

報告者:
矢野 昌浩(琉球大学)「集団的労使関係と使用者概念(仮)」
古川 陽一(大東文化大学)「不当労働行為救済における申立人適格(仮)」

司会 :盛 誠吾(一橋大学)

第三会場
テーマ:偽装請負・違法派遣と労働者供給

報告者:
萬井隆令(龍谷大学)「(未定)」
濱口 桂一郎(労働政策研究・研修機構)「(未定)」
司会 :野川 忍(東京学芸大学

ということで、わたくしもミニシンポで報告をいたします。さてはてどうなりますやら・・・。

Europe should grow out of debt

欧州労連(ETUC)が、経済財政相理事会の財政赤字脱却路線を批判しています。

>ETUC says Europe should grow out of debt

http://www.etuc.org/a/5821

>The Economic and Financial Affairs (ECOFIN) Council meeting today is discussing the ‘exit’ strategy from rising public deficits and public debts. While sharing the concern for the sustainability of public finances, the European Trade Union Confederation (ETUC) urges finance ministers and the Commission to grasp the fact that the model of financial capitalism has failed and that private spending is incapable of driving growth and demand for several years to come.

民間支出だけでは成長を支えられない、と。

>Europe therefore needs fiscal policy to support growth in the real economy while also ensuring that sustainability over the medium term is secured.

To maintain economic stimulus and fiscal sustainability at the same time, policymakers should:

cut interest rates to near zero and switch to a quantitative easing of monetary policy, so that government investments can be financed at a low cost of interest;

enlarge public investment spending since this has a bigger and certain impact on the economy than simply cutting taxes;

create a European Debt Agency to suuport individual member states that are confronted with high interest rate spreads, brought about by misguided ratings agencies and unfounded financial market panic behaviour;

address the problems of harmful tax competition, in particular those of tax havens and taxation on capital income such that, when recovery kicks in, governments have tax revenue at their disposal to pay off the public debt.

最後にモンクス事務局長の、

>Says John Monks, ETUC General Secretary: ‘There are those who think that policy needs to choose between saving the real economy and saving public finances. This approach is doomed to fail. Instead, we need a fiscal policy strategy to allow the economy to grow out of debt’.

実体経済と財政の両方を救いたいという考え方は失敗するに決まってる。経済が赤字の中から成長するような財政政策が必要なのだ、という台詞が出てきます。

労働政策審議会意見「地方分権改革に関する意見」

2月5日付で、労働政策審議会が「地方分権改革に関する意見」(「異見」?)を公表しています。

http://www.mhlw.go.jp/shingi/2009/02/dl/s0205-6a.pdf

>昨年12月8日、地方分権改革推進委員会は「第二次勧告」を公表し、将来的なハローワークの漸次縮小及び全面地方移管、都道府県労働局のブロック機関化及び地方厚生局との統合を行うべき旨を示した。
また、同月16日、地方分権改革推進委員会は決議を行い、ハローワークの全職員の地方移管について政府に具体化に向けた措置を求めることを明らかにした。
以上の点について、関係分科会における審議を踏まえた当審議会の意見は以下のとおりである。

まず、ハローワークの縮小についてですが、

>ハローワークは、憲法第27条に基づく勤労権を保障するため、ナショナルミニマムとしての職業紹介、雇用保険、雇用対策を全国ネットワークにより一体的に実施しており、障害者、母子家庭の母、年長フリーター、中高年齢者などの就職困難な人に対する雇用の最後のセーフティネットである。ハローワークの業務は、以下のような理由から、都道府県に移管することは適当でなく、国が責任をもって直接実施する必要があり、これは先進諸国における国際標準である。

① 都道府県域を超えた労働者の就職への対応や、都道府県域に限定されない企業の人材確保ニーズへの対応を効果的・効率的に実施する必要があること。

② 雇用状況の悪化や大型倒産に対し、迅速・機動的な対応を行い、離職者の再就職を進め、失業率の急激な悪化を防ぐ必要があること。

③ 雇用保険については、雇用失業情勢が時期や地域等により大きく異なるため、保険集団を可能な限り大きくしてリスク分散を図らないと、保険制度として成り立たないこと。

④ 地方移管は我が国の批准するILO第88号条約に明白に違反すること。

したがって、国の様々な雇用対策の基盤であるハローワークは地方移管すべきでなく、引き続き、国による全国ネットワークのサービス推進体制を堅持すべきである。

なお、急速に悪化を続ける雇用情勢の下で、今まさに全国ネットワークのハローワークによる機動的かつ広域的な業務運営を通じた失業者の再就職の実現が強く求められているところであり、ハローワークの縮小や全面的な地方移管を論ずることは極めて不適切である。

まさにここにあるとおりなのですが、その次の記述については、いささか付け加えるべきことがあります。

>一方、地方自治体が独自に地域の実情に応じた雇用対策をこれまで以上に積極的に進めることは望ましいことであり、国と地方自治体が一体となって、その地域における雇用対策を一層強化する必要がある。また、我が国のハローワークは主要先進国と比べても少ない組織・人員により効率的に運営しているところであるが、さらに、ハローワーク自身も雇用状況の変化に応じて、業務内容を適切に見直し、機能の強化や効率的な運営を心がけるべきである。

本ブログでも何回か書いてきたことですが、2000年に地方事務官制が廃止されて労働局になるまでは、都道府県知事の指揮監督下で国費による運営がなされていたのです。そのため、基本的には国費により国の定めた制度運営でやりながら、都道府県費で追加的な雇用対策を国費による業務と組織的に一体的に実施するという芸当がやれていたのですが、それが組織的に分離されてしまったために、口では「国と地方自治体が一体となって」といいながら、それが困難になってしまったという実情にあるように思います。地域の実情に即した雇用対策が必要なのは確かだし、それが孤立した形ではなくハローワークのネットワークと一体的に実施した方がいいことも確かなのです。それがなかなか難しい。

この原因も、本ブログで何回も触れてきたように、「都道府県知事は国の下請けなんかじゃない!」という「地方分権改革の本旨」にあるわけですが、その帰結が望ましいものではないのだとしたら、その「本旨」の正当性自体を改めて考え直してみるいい機会なのではないかと思うのですが。

この点については私は「昔の方が良かった」論者なのです。

(参考)

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2007/11/post_39f9.html(地方分権を疑え)

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2008/02/post_942b.html(分権真理教?)

次は都道府県労働局のブロック機関化について、

>都道府県労働局では、雇用均等業務、個別労使紛争の調整、労働者派遣事業等への指導監督、助成金の審査、労働保険の適用・徴収、雇用対策に関する都道府県との調整、最低賃金の決定等の業務を自ら行っている。

雇用均等業務や個別労使紛争の調整、労働者派遣事業等の指導監督、助成金の審査、労働保険の適用・徴収等の業務においては、個々の労働者や事業主が直接労働局に相談に訪れたり、労働局から事業所を訪問して必要な調査や指導監督を行っており、労働局がブロック機関化されれば、労働者や事業主の利便性が大きく損なわれる、労働者の権利救済に甚大な影響を及ぼす、事業所の実態を踏まえた機動的な指導監督ができなくなる、行政運営が著しく非効率化するなどのおそれがある。

また、雇用対策の推進や最低賃金の決定等に当たっては、都道府県や都道府県単位で組織される労使団体と緊密な連携を図っているところ、労働局がブロック機関化されれば都道府県や労使団体との関係が疎遠になり、地域の実情を踏まえた実効ある雇用対策の推進や地域別最低賃金額の決定が困難になるおそれがある。

さらに、これらの業務を労働基準監督署又はハローワークに行わせることは、業務の性格の相違、司法警察権限の行使との関係、求人確保に与える影響、都道府県等との連携・協力を効果的に行う機能等を考えれば、なじまないと考える。

都道府県労働局のブロック機関化については、以上の問題点を十分踏まえ、労働者や事業主の利便性、労働者保護の実効性、機動的かつ効率的な行政運営を損なうことのないよう、慎重に検討すべきである。

雇用均等部門については、すでに分科会の意見が出されています。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2009/01/post-3314.html(地方分権改革推進委員会第2次勧告に関する見解)

私が気になっているのは、とくに「個別労使紛争の調整、労働者派遣事業等の指導監督」といったあたりです。チホー分権の真理の前には、こういう各論的問題は吹き飛ばされがちですが、そういう各論の欠如した総論絶対主義の帰結が今の日本の惨状の一つの原因であるという冷静な認識もそろそろ必要な時期だと思うのですが。

2009年2月10日 (火)

日本経団連の意見書「日本版ニューディールの推進を求める」

昨日付で、日本経団連が標記の意見書を公表しています。

http://www.keidanren.or.jp/japanese/policy/2009/009.html

内容的には、後半の「国家的プロジェクトの推進」が中心なんでしょうが、

>新しい雇用の創出と中長期的な成長力の強化に向けて、(1)産業競争力の強化、(2)国民生活の向上、(3)地域の活性化、(4)低炭素・循環型社会の実現を重点分野として、省庁横断的に取り組むとともに、官民の有する人材、資源、資金等を集中的に投入し、早期に国家プロジェクトを実施すべきである

本ブログ的にはその前の「雇用の維持・安定の取組みとセーフティネットの拡充」が興味深いところです。

>過去に類を見ないほどの厳しい経営環境の中、企業は雇用の維持に向け、最大限の努力をしなければならない。すでに個別企業においては、労使の話し合いを踏まえた配置転換、休業、時間外労働の削減や時短、さらには副業の容認など、ワークシェアリングをはじめさまざまな形により雇用の維持・確保の取組みが進みつつある。雇用の安定は企業の社会的責任であることを十分認識し、今後も、企業はこうした取組みを継続的かつ積極的に推し進めることを通じて、社会の不安を払しょくしていかなければならない。

緊急避難的には、企業としても離職者等に対する住居提供などの生活支援に最大限の努力をしていく必要もある。

まずは企業の責任を述べた上で、

>同時に、雇用のセーフティネット強化を官民一体となって実現することが求められる。例えば、「ふるさと雇用再生特別交付金」により各都道府県に基金が創設され、地域ブランド商品の開発など地域の実情や創意工夫に基づき、地域求職者などを雇い入れる事業を支援する施策が展開される予定である。その基金に企業が拠出を行う仕組みを設けるとともに、個々の事業支援に向けてアイデアや人材、施設等を提供していく方策などについても検討していくべきである。

また、政府は、企業の雇用維持努力を補完するべく、雇用保険制度の適用拡大や給付拡充を行う改正法案を国会に提出したほか、雇用調整助成金制度の要件緩和等を進めているが、今後の雇用失業情勢を見極めつつ、雇用調整助成金制度のさらなる拡充などを行うべきである

雇用調整金の具体的な拡充策については、別添資料に詳しく書かれています。

http://www.keidanren.or.jp/japanese/policy/2009/009shiryo1.pdf

>なお、雇用失業情勢が悪化していることから、セーフティネットからもれる離職者が増加している。そのため、まず、従業員の社会・労働保険の加入などの徹底を図るべきである。また、派遣先のコンプライアンスは当然のこと、派遣元等の取引先にもコンプライアンスの徹底を求めていくことが不可欠である。さらに、職業訓練の受講を条件に、一般財源を活用して生活保障のために暫定的に給付を行う仕組みを速やかに検討すべきである。

中長期的には、雇用の多様化に対応した雇用保険制度の見直しについて議論を行うべきである

前半は派遣元・先のコンプライアンスですが、後半のところがさりげなさげで重大なことを言っています。「職業訓練の受講を条件に、一般財源を活用して生活保障のために暫定的に給付を行う仕組み」って、連合が主張している「就労・生活支援給付」と似た発想に見えます。

連合の主張は、

http://www.jtuc-rengo.or.jp/kurashi/saftynet/page1-3.html

>第2層ネットの「就労・生活支援給付」制度は、EU諸国の若者に対する就労支援や失業給付(社会手当)などを参考に、雇用保険と生活保護制度との中間に位置するものとして、以下のような内容としています。
①対象者は、一定の所得・資産を下回る者(フリーター、日雇い派遣等の不安定雇用者、長期失業者、母子世帯、廃業者等)
②「就労・生活支援給付」は、現金給付と職業・教育訓練、生活支援(現物給付)
③「就労・生活支援給付」を受給するためには、各人の年齢、能力、経験、健康状態等に則して適切に策定した「就労・自立支援プログラム」への参加を要件とする
④現金給付の水準は、雇用保険の失業給付と生活保護基準(生活扶助)を勘案して定め、賃金等の収入に伴う穏やかな給付減額を行う(就労インセンティブ措置)
⑤給付期間は、最長5年とし、1年ごとに申請する

というものですが、労使双方がこういう中間的セーフティネットを主張してくると、実現の可能性が高まってくるかもしれません。

楠正憲氏の「派遣切り・ロスジェネを見捨てるツケ」

gooニュース×Voice連携企画 話題のテーマに賛否両論!という企画で、「雑種路線で行こう」で有名な楠正憲氏(国際大学GLOCOM客員研究員)が標題のような文章を書かれています。

http://news.goo.ne.jp/article/gooeditor/life/gooeditor-20090206-01.html

内容は、楠氏が今まで何回も書かれてきたことの総まとめみたいなものですが、特に最後のこのあたりは迫力があります。

>これまで日本は福祉や職業教育を家庭や会社に依存して、先進諸国と比べて低い行政コストを維持してきた。しかし高度成長で核家族化が進み、若者から故郷は 失われた。非正規雇用の拡大で、会社を中心とした社会保障の枠組みから滑り落ちる層が生じるなか、行政はセーフティネットの綻びと格差の固定化から目を背 け、社会保障費の伸びを抑えることに躍起となっている。

このツケは、出生率低下を通じた高齢化の加速や生活保護世帯の増加、治安悪化への行政コストの増大による国民負担率の増加を通じて、若年層や子孫が支払う ことになる。セーフティネット再構築で重要な論点は、同時代の所得再配分ではなく、世代間再生産のためにどう投資するかだ。

雇用の流動化を通じて企業に対して従業員の雇用を守る義務、職業訓練の義務、社会福祉を提供する義務を緩和するのであれば、代わりに誰かが国民の雇用を守 り、職業訓練を施し、社会福祉を提供しなければならない。誰もが安心して結婚し、家庭をもち、子育てできる環境を用意しなければならない。これらは大きな 財政支出を伴うが、自己責任をスローガンに現実を直視せず、足元の人材を見捨てつづけるならば、そのツケはかえって高くつくだろう。

国情を無視して米国の制度をつまみ食いし、未来への投資を怠って先食いした利益を、規制緩和の配当と勘違いしてこなかっただろうか。誰もが希望をもって学 び、働けるよう、まずはフェアな雇用慣行の確立や、福祉の充実に対する財政支出の拡大を通じて、世代間で改革の痛みを分け合うべきではないか。

このあとに読み進んでギャイーーーン。なんと、

>楠氏への対論、人材派遣会社ザ・アール社長の奥谷禮子氏の『「社会が悪い」は本末転倒』は、明日(10日)発売の「Voice」3月号に掲載されています。「格差論は甘え」などの発言で注目を集める奥谷氏が、「ロスジェネとは単なる言葉遊びでしかない」「今回のような危機が発生したとき、派遣社員の調整によって人件費を削減しようとするのは当然」など、雇用を取り巻く企業の本音を語っています。

だそうであります。本日発売だそうです。これは読まねば。

奥谷禮子氏に関しては、本ブログでも(池田信夫氏と並んで)未だに読者の絶えない有名エントリの主でありますが、

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2006/11/post_bcac.html(奥谷禮子氏の愉快な発言)

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2007/01/post_1a6b.html(奥谷禮子氏の愉快な発言実録版)

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2007/05/post_e152.html(雇用融解または奥谷禮子氏インタビュー完全再現版)

2009年2月 9日 (月)

NHKラジオ夕方ニュース「ここに注目!」

明後日の夕方6時半頃から、NHKラジオの「ここに注目!」に出ます。聞き手は飯野奈津子解説委員。

2月6日(金)の西日本新聞

2月6日(金)の西日本新聞の第7面に、でかでかと大きな写真入りで載っていますな。

でかすぎ・・・。

2009年2月 8日 (日)

松下禅尼と青砥藤綱

同じ連合総研の『DIO』2月号のコラムで、松下禅尼と青砥藤綱の話が出てきています。なかなか面白いので引用しておきます。

http://rengo-soken.or.jp/dio/pdf/dio235.pdf

>昔々、鎌倉時代の中期に、松下禅尼と呼ばれる良妻賢母の鏡のような女性がいた。日常、質素倹約に努め、無駄な金は一切使わない。執権北条時頼を甘縄第に迎えるに際し、みずから障子を補修したという逸話を残している。質素倹約は美徳ではある。けれども、度が過ぎると問題だ。日本国中松下禅尼の真似をしたら、有効需要は激減する。鎌倉時代の市場経済規模では恐慌は起きなかっただろうが、さぞかし建具職人は困ったことだろう。

 一方、これと対照的な逸話を残しているのが、同時代の名判官青砥藤綱だ。鎌倉の滑川に銭10文を落とし、50文のたいまつを求めてこれを探させた。もっとも、藤綱も質素廉直を旨とした人であって、この逸話も金の大切さを教えるためであったと解説されている。とはいえ、松下禅尼の行動に比べれば有効需要を喚起したことは確かだろう。日本列島における市場社会の展開は長い歴史をもっている。そして、考えようによっては、常にわれわれが悩んできた内需喚起の方策をめぐる議論もまた、今に始まったことでもないらしい。

 ところで、ふりかえってみると、1990年代の「失われた10年」の間も、そして21世紀に入ってからの回復過程でも、世間で幅をきかせたのは、どちらかといえば松下禅尼型の発想であった。政府も、企業も、ひたすら節倹に努めた。それを正当化する錦の御旗には、日本経済の構造改革、国際競争力強化、グローバル化への対応等々、将来のことを考えると誰も否定できないような文言が並んでいた。

 バブル崩壊以降の景気回復のプロセスでも、企業は常にリストラを推進して収益の回復をはかった。一方、政府もまた、公共政策の後退と政府のリストラ、すなわち世界一極小の安上がりな政府構築路線をますます強化した。結局、調整の末の最後のしわは、雇用と家計に寄せられた。2002年に始まった戦後最長の景気拡大局面でも、雇用と家計はついに浮かぶ瀬に乗ることはなかった。国内需要、とりわけ個人消費を基盤にする地方と中小企業が景気拡大から置き去りにされたのは必然の成り行きであったともいえる。

そして、「投資をしない企業には、何の価値もない」という橘川武郎氏の言葉を引きつつ、

>無駄な投資は価値がない。けれども、無投資はむしろ害悪だ。未曾有の世界経済危機の中で、政府と企業に今求められていることは、未来を見据え、グローバルな視野に立つ投資戦略に衆知を集め、「内需」の深化・拡充に総力をあげることだといえよう

我先に出口に殺到するな 賃上げで景気底割れ防止を

連合総研の『DIO』2月号に、脇田成氏の標記文章が掲載されています。

http://rengo-soken.or.jp/dio/pdf/dio235.pdf

政治的観点からは、春闘のこの時期に賃上げの意義を説得する文章ということになるのでしょうが、マクロ経済的に内需拡大の意義を説いた文章としてとても明晰で、引用する価値があると思いますので。

>今年も春闘の時期になりました。未曾有の金融危機のもとで、賃上げどころではない、との声も多くあります。しかし筆者は、景気の底割れを防ぐためにも、適切な賃金確保が重要な意義を持つと考えています。実際、ここで賃金・雇用が減少すれば、今時の不況はスパイラル的に悪化することは必然です。

 現在、世界中の政府が金融危機というショック状況に、財政というカンフル剤を処方しています。個別の企業が自己防衛に走って、賃金を切り下げてしまえば、カンフル剤の効果さえもなくなってしまうのです。

 たしかに、しばらくの間苦しい状況が続くかもしれません。しかし我先に出口に殺到すれば、より大きな悲劇を招いてしまうことになりかねません。実は日本経済には2つのバッファーが存在しているのですから、現在はそれをまず使うべき時でしょう。

一つめのバッファーは内部留保だと言います。

>ただ大切なことは、企業部門には平均的には巨額の内部留保が積み上がっていることです。景況感はGDP比1 〜2%(約10兆円程度)に左右されることから思えば、十分な量があるはずです。まずこのバッファーをまず使うべきでしょう。

 ケインズ的な政府の財政政策は各部門が自己防衛のため貯蓄に走る状況で、全体としての貯蓄過剰、つまり合成の誤謬を打破するために行われます。このロジックから言えば、貯蓄過剰で内需不振をもたらした部門の第一は企業部門であり、その貯蓄を使うべきです。

もう一つは「雇用保険のいわゆる埋蔵金」だといいます。この「埋蔵金」という言い方は、例の脱藩官僚の高橋洋一氏ら一派のものの言い方を想起せしめるので余り愉快ではありませんが(そういう「埋蔵金」などという卑俗低劣な発想が、この期に及んで雇用保険料引き下げなどという愚劣な政策のもとになるわけですからね。)、それはそれとして非正規対策には雇用保険のカネを使えという内容自体はもっともだと思います。

>それでは二つめのバッファーは何でしょうか。それは雇用保険のいわゆる埋蔵金です。現在、困窮した非正規労働者の中途解雇や雇い止めの問題が盛んに報道されており、心が痛みます。たしかにこの状況で、正規社員のみが高賃金を要求して良いのか、という問題は深刻です。

 しかし筆者はまず政府にできることがあり、財源もとりあえずはあると考えます。現在、政府・与野党から提案されている非正規雇用対策は、雇用保険のいわゆる埋蔵金を使ったものが中心となっています。この埋蔵金は、あれほど格差社会と言われながらも、正規雇用者の保険料が中心に4兆円もの巨額に積み上がっているのです。

 現在、最も状況の深刻な製造業派遣労働者は50万人程度ではないかと思われますが、一人100万円使っても、5000億円程度にしかなりません。(ただ派遣労働者はアルバイト・パートより時給が高いため、モラルハザードを防ぐ現物支給にならざろうえないでしょう。)

 また約1700万人以上の非正規雇用全体から考えると、製造業派遣は言わば例外的少数であり、大多数はサービス業など内需に依存しているのです。つまり内需喚起は非正規雇用労働者にメリットが大きく、逆に賃下げなどで内需が冷えれば、より影響を受けるのは非正規労働者であると予測されます。

最後に、こう述べて、今の事態を皮肉っています。

>皮肉な見方かもしれませんが、現在、非正規雇用問題の犯人と対策の押し付け合いが政府・経営者・正規労働者の三者で行われていると考えることができるでしょう。リーマンショックよりわずか数ヶ月で、経営者は赤字を喧伝しています。いずれも危機打開を計ることなく、我先に出口に殺到しているのです。そしていずれは企業収益V字回復とやらが喧伝されるのでしょう。その騒ぎのなかで今後、正規労働者の条件切り下げや制度いじりが、声高に叫ばれるでしょうが、それは「奥の手」と言うべきでしょう。まず短期的にはバッファーを使い、中期的には産業構造の転換を図る、そのために賃上げの役割は大きいのです。

2009年2月 7日 (土)

EU労働時間指令およびEU労働者派遣指令に関する論文

最近、『大原社会問題研究所雑誌』2月号に「EU労働者派遣指令と日本の労働者派遣法」を、『労働法律旬報』1月合併号に「EU労働時間指令改正の動向」を執筆しましたので、この分野に関心のある方にとっては何かの参考になるのではないかと思われます。

http://homepage3.nifty.com/hamachan/junpojikan.html

http://homepage3.nifty.com/hamachan/ooharahaken.html

できれば世間の議論も、これくらいのことは常識としてわきまえた上でなされるといいんですけどねえ。

なお、これまで書かれたものも含めて、以下のディレクトリから読めますので、ご参考までに。

http://homepage3.nifty.com/hamachan/items.html

イギリスでもラヴァル状況

近年のEU労使関係の最大の論点になってきているEU内の他の加盟国から派遣されてきた労働者の労働条件問題、スウェーデンのラヴァル事件以来の問題が、ついにイギリスでも勃発したようです。

http://euobserver.com/851/27541

>A series of strikes in Britain revolving around a key EU internal market law have taken on a European dimension as a group of leftist MEPs take up the protesters' cause.

>Their move comes as Britain has been struck by a series of strikes after Total, in charge of the Lindsey refinery in north-east England, hired an Italian company to carry out a temporary project.

The Italian firm plans to use Italian and Portuguese workers for the job, something it is entitled to do under the EU's posted workers directive, which allows foreign companies to use its workers so long as they are hired under the same conditions as local workers.

However, left-wing politicians and trade unions say the law is open to abuse as companies, while obliged to pay the minimum wage, do not have to abide by local collective agreements.

北欧やドイツと違って、イギリスには最低賃金法があります。ですから、彼ら他の加盟国からの派遣労働者にもイギリスの最低賃金が適用されます、当然。でも、それでは低すぎる、イギリスの現地で適用されている労働協約が適用されるべきだ、と組合側はいうわけです。指令上は、一般的拘束力のある労働協約であれば適用されることになっていますが、イギリスにはそういう大陸的な仕組みは存在しないので、結局最低賃金に落ち着いてしまうわけです。

それで、イタリアやポルトガルの安い労働者に仕事をとられてたまるか、と石油精製工場の労働者たちがストライキに入ったと。

イギリスのブラウン首相はこのストライキを批判しています。

http://www.euractiv.com/en/socialeurope/brussels-condemns-uk-strikes-eu-workers/article-179075

>British Prime Minister Gordon Brown on Sunday condemned the nationwide strikes. "That's not the right thing to do," Brown told BBC television. "It's not defensible." The UK government has asked an independent mediator to look into whether skilled British workers were unfairly debarred from contract work at a refinery in eastern England owned by France's Total.

欧州委員会も批判しています。

>The European Commission yesterday (2 February) "strongly backed" UK Prime Minister Gordon Brown in condemning a wave of strikes in Britain over the use of foreign workers, staged across a dozen oil refineries, gas terminals and power stations.

しかし、欧州社会党は、労働者の自由移動を支持しながらも、それが労働条件の低下をもたらしている現状を非難し、指令の改正を要求しています。

http://www.pes.org/content/view/1481/72

>PES President Poul Nyrup Rasmussen today warned that workers would turn against the European Union unless it shows that it is on the side of jobs and workers rights.

Poul Nyrup Rasmussen said “The strikes in the UK are just the latest example of growing frustration and fear among workers. Workers are beginning to question the freedom of movement because the European Commission has allowed it to be used to undermine wages and working conditions. The European Commission has done nothing to stop freedom of movement of workers from being exploited to drive down wages, despite repeated warnings. Now they are seeing the results.”

“The freedom of movement of workers – which ought to benefit workers – and indeed does benefit workers in many cases – is becoming unpopular because of the laissez-faire attitude of this right-wing European Commission. The only people who are happy about this situation are the euro-skeptics.”

“There is an easy solution - workers should be employed at the agreed wage levels negotiated between trade unions and employers in the country of work. It’s a simple, effective and everyday practice. It was a huge mistake to let anyone undermine this fundamental principle. It was asking for trouble and is now causing trouble.”

“I strongly support freedom of movement of workers because it has always been considered something that benefits workers and employers alike. We must make sure that this is the case in practice.”

現地の労働組合が締結した労働協約の賃金水準で雇われるべきだ、というわけです。

いろんな意味で、興味深い状況が続きます。

2009年2月 6日 (金)

『世界』3月号

788 明日発売の雑誌『世界』3月号の案内が岩波書店のHPにアップされているので紹介しておきます。

http://www.iwanami.co.jp/sekai/2009/03/directory.html

特集は「雇用の底が抜ける――〈派遣切り〉と〈政治の貧困〉」ということで、こういう中身になっています。

【インタビュー】
派遣村は何を問いかけているのか
  湯浅 誠 (NPO法人 自立生活サポートセンターもやい)
【貧困の克服】
反貧困運動の前進――これからの課題は何か
  宇都宮健児 (弁護士)【執筆者からのメッセージ】

【労働法政策】
派遣法をどう改正すべきか――本丸は均等待遇
  濱口桂一郎 (労働政策研究・研修機構)

【「派遣切り」から見えたもの】
なぜ派遣労働者は「寮」にいるのか――雇用に縛られる日本の「住」
  岩田正美 (日本女子大学)

【政治への問い】
麻生首相に貧困は見えるか――「平等社会日本」の崩壊という政治課題
  柿﨑明二 (共同通信)

【政治の役割】
<政治の時代>における<政治の貧困>
  宇野重規 (東京大学)

【政治の論じ方】
道徳的非難の政治を超えて――「ネオリベ」排除は自明か?
  杉田 敦 (法政大学)

【ルポルタージュ】
危機の中の在日ブラジル人コミュニティ
  西中誠一郎 (フリージャーナリスト)

私の文章の説明は:

>派遣労働をめぐって、現在、製造業の派遣を禁止すべきだとの議論が高まっている。しかし、それでは非製造業の派遣労働者の労働条件は改善されないことになるし、問題の本質的解決をもたらすものとは言いがたい。EUでは昨年11月に派遣労働者と派遣先労働者との均等待遇を保障する労働者派遣指令が制定された。この指令の内容を紹介しつつ、日本における派遣労働規制はどうあるべきかについて考察する。

ということですが、後半はセーフティネットの問題を取り上げており、とりわけNHKの「視点・論点」でも強調した非正規労働者の住宅問題について、公的な住宅手当制度という方向を提起しています。

と思ったら、なんと同じ号で岩田正美先生が

>昨年末の「派遣切り」やその受け皿となった「年越し派遣村」で明らかとなったのは、非正規労働者が解雇されるとすぐ住居を失うという構図だった。企業が福利厚生として労働者に住宅を供給する仕組みは、労働者側にもメリットはあるものの、「住」が雇用に縛られてしまうというリスクを伴う。それは特に派遣労働者など非正規労働者において顕著だ。これらの構造的問題を、データで分析し、そして問題解決への提言を行う。

と、やはり住宅問題を取り上げておられたんですね。岩田先生がこの問題をどういう風に書かれているのか興味があります。まあ、最近ワーキングプアとともにハウジングプア問題が提起されてきているので、不思議ではありませんが。

その他私もまだ読んでいないのですが、杉田敦氏の論文は面白そうですね。

>世界的な経済危機が強まる中、この10年以上にわたって、言論の世界を支配してきた市場主義的な言説が影をひそめ、社会的な連帯について盛んに語られるようになってきている。つい最近まで市場主義の旗をふっていた論客が懺悔してみせるなか、いまや「ネオリベ」という言葉はすっかり悪の代名詞となった感すらある。しかし、善悪対立の単純な図式で政治が語ることが繰り返されることには別の落とし穴が潜んでいないか。現在、自明とされているかに見える議論の前提を問い直しながら、政治の領分で追求されるべき問題は何かについて考える

中谷巌氏がどうとかこうとかいう話ばっかりやってるとまずいんでしょうなあ。

グローバル化の中の福祉社会

ミネルヴァ書房から、「講座・福祉社会」の第12巻として、標記が出版されました。

まだ出版元のHPに掲載されていないのでリンクは張れませんが、下平好博・三重野卓両氏の編著で、腰巻きの宣伝文句は「グローバル資本主義をいかに制御できるか。福祉国家の運営や福祉政策のあり方に今後いかなる影響を及ぼすか。理論的・実証的にその可能性を提示する」です。

このうち、第11章の「グローバル化とEUの新・社会保護戦略-公開調整手法による政策協調」を、わたくしが執筆しております。本屋さんでちらりと眺めていただければ、と。

2009年2月 5日 (木)

稲葉振一郎先生の「労使関係論」論始まる

私が新聞記者の方との会話から飛び出した素朴な思いを書き殴った

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2009/01/post-2ae9.html(どぶ板の学問としての労使関係論)

に対して、稲葉振一郎先生が真剣な検討を加えられようとし始めています。

http://d.hatena.ne.jp/shinichiroinaba/20090205/p2(労使関係論とは何だったか)

私の上記エントリを読まれて、「非常に腹ふくるるものがあり」、佐口和郎先生の「制度派労働研究の現代的価値― 社会政策研究との関連で」(『社会政策』創刊号)を引きながら、

http://www.e.u-tokyo.ac.jp/cirje/research/dp/2008/2008cj192ab.html

・なぜ制度派労働研究は、大企業正規従業員、ブルーカラーの雇用と処遇をめぐる労使関係を焦点とし続け、かつ研究法においてはインテンシブな事例研究を基本としたのか? 

・労使関係論と労務管理論との違いは、いったいどこにあるのか? そもそもそんな違いはあるのか?

という疑問を提起し、さらに興味深い議論に進んでいます。この部分は「願わくば続く」ということなので、まさに議論を敷衍していただくことを強くこいねがいたいと思います。

>私見では佐口氏の言う「制度派労働研究」の中核にあったのは、氏原正治郎の指導・薫陶を受けた、東京大学経済学部ならびに社会科学研究所周辺の研究者たちの仕事

>このいわば「東大学派」――というより「氏原山脈」の研究潮流は米国の労働研究からそれほど大きな影響を受けていないし、また研究対象としても米国はほとんど重視されていない。

>むしろ影響力があったのはウェッブ以来の流れをくむ英国の労働組合・労使関係研究であり、(急激にその影響は薄れてきたとはいえ)戦前来のドイツ社会政策学であり、何よりマルクス経済学――なかんずく宇野弘蔵の学統の段階論である。

>端的にいえば小池和男こそが、もっとはっきりとした宇野段階論の労働問題研究における継承者なのである。

小池理論の位置づけについての認識は、アカデミックな観点からはまったくその通りでしょう。それを労使関係の現場のどぶ板的観点からいうと、高木督夫や小島健司といった人々に代表される「中高年の賃金引き下げにつながる職務給はけしからん」という理論なき総評の職務給批判に、最先端のマルクス主義的装いをもって社会科学的正当化を付与したものだと、(それこそ「機能主義的観点」からは)評価されるのではないかと思います。

やがて、アメリカのドリンジャー・ピオリらの内部労働市場論が(野村正實先生にいわせればゆがめられた形で)輸入されるとともに、小池理論はその原点にあった宇野理論の形跡を徐々に消去し、より普遍的「っぽい」根拠付けに移行していきますが、それはまた別の話。

いずれにしても、「願わくば」ではなく「続」けてください。

不法移民と重層下請

不法移民に関する指令が欧州議会で採択されたことについての、欧州労連の声明が出されています。

Sanctions against employers of irregular migrants: ETUC deplores a toothless and counterproductive instrument.

http://www.etuc.org/a/5801

>Today, Members of the European Parliament (MEPs) have adopted a compromise with the Council on a new legislation that aims at punishing employers who employ undocumented migrant workers. The European Trade Union Confederation (ETUC) criticises the vote, as the MEPs failed to achieve a fair balance between adequate and dissuasive sanctions on the one hand and necessary protection of workers’ rights on the other.

ETUC welcomes the general principle of back payment of wages to migrant workers and the introduction of administrative and criminal sanctions against employers. These measures could play a dissuasive role on rogue businesses. But the directive will be difficult to enforce in practice because the agreed text fails to properly extend the liability to pay such sanctions to the whole subcontracting chain.

The text foresees that where the subcontractor employs irregular migrants, the main contractor can also be held liable to pay the sanctions. If, however, the subcontractor acts as an intermediary and subcontracts the work further down the chain, the main contractor will escape liability by arguing he did not know about the employment of irregular migrants. Even if the main contractor probably was very well aware of the use of irregular workers, having regard for instance to abnormally low prices, he cannot be sued.

As a result, the text is not only ineffective but also dangerous, since it will act as a further incentive for employers to use complex subcontracting chains and ’letter box’ companies in order to evade their obligations and criminal sanctions.

つまり、下請企業が不法移民を使った場合、発注元企業が賃金の支払いと刑事罰の対象となるのだが、下請がさらに孫請け、曾孫請けと使った場合には、発注元企業は(異常な低価格から末端で不法移民を使っていることを知っていても)責任を回避できるではないか、という批判です。むしろ、責任を免れるために重層下請や「私書箱」会社を使おうとする危険性があるというわけです。

>Said ETUC Confederal Secretary Catelene Passchier: ’I am very disappointed that the big political groups in Parliament chose to rush into an unsatisfactory first reading deal with the Council instead of taking the time to assess the global merits and shortcomings of the proposal. The European institutions are sending yet another signal that the EU prioritises a repressive migration policy over clear policies against labour exploitation. Irregular workers are mostly employed by intermediaries and subcontractors; big employers don’t burn their fingers by directly employing them. We are very concerned that the text will only make already nice employers nicer, and reluctant to employ migrant workers, and nasty employers even nastier. It will drive vulnerable migrant workers further underground and not provide them with legal bridges out of illegality. This ill-advised compromise must not prevent further debate at the European level on how to properly deal with the increasing use of undeclared work and irregular migrants in subcontracting chains’.

ヨーロッパでも、大企業は自分で不法移民を雇うなどという危ないことはせず(burn one's fingers っていうんですね)、下請にやらせるわけですな。

2009年2月 3日 (火)

公務員制度改革に係る「工程表」

本日、いわゆる「工程表」が決定したようですが、労働基本権問題については、要するに何も決まっていないということのようです。

http://www.gyoukaku.go.jp/koumuin/dai3/kouteihyou_an.pdf

>Ⅴ 労働基本権の検討

級別定数管理に関する事務をはじめ、人事院から内閣人事・行政管理局(仮称)に事務の移管を行うことを踏まえ、また、国家公務員の使用者たる政府が、主体的かつ柔軟に勤務条件に関する企画立案を行い、コストパフォーマンスの高い行政を実現していく観点からも、自律的労使関係制度への改革は重要かつ必要不可欠な課題である。
国民に開かれた自律的労使関係制度の措置へ向け、協約締結権を付与する職員の範囲の拡大等に関する具体的制度設計について、平成21年中に国家公務員制度改革推進本部労使関係制度検討委員会の結論を得る。その上で、平成22年中に所要の法律案を国会に提出し、準備期間を経て平成24年までに施行する。

法律案をいつまでに出すとか、法律をいつまでに施行するとか「皮」だけは決まっているようですが、具体的にどの範囲の公務員にどういう労働基本権を認めるのか認めないのかといった「あんこ」の部分は、ことごとく先送りということですね。

「検討」の結果、やっぱり労働協約締結権なんて公務員にやったらとんでもないことになりそうだからやめておこうよ、という「結論」を得ることも十分あり得るわけで、その意味では「労働基本権の検討」というタイトルはまさに正しいわけです。

実のところ、人事院は本心では、まさに労働協約締結権なんてやめておきましょうよ、といいたいわけです。そんなことをされては自分たちの組織の存在理由が失われてしまう。もともと、フーバーのつくった機関ですから、フーバー主導の立法がなくなれば、存在理由もなくなります。それはできる限り維持したい。

ところが、その人事院から権限を奪いたくて仕方がない人々の方も、やっぱり労働基本権なんてやりたくないなあ、と思っているものだから、話がねじれにねじれてわけわかめになるわけですね。そのへんのぐちゃぐちゃが上の「検討」という言葉に凝縮されているわけです。

さっさと労働協約締結権を付与して、人事院勧告の代わりに中労委が仲裁裁定で賃金決定するようにすれば、人事院をすぐにでも廃止できるんじゃないですか?などとあまりにも物事の本質に即したことをつぶやく人があまりいないのが玉に瑕ということでしょうか。

NHK視点・論点「働くことが得になる社会へ」

本日夜10時50分からNHK教育テレビの「視点・論点」に出ます。

今週は「シリーズ雇用」という通しテーマで5人の論者が出演するのですが、私もその一人というわけです。

2月2日(月) 樋口美雄

2月3日(火) 濱口桂一郎

2月4日(水) 八田達夫

2月5日(木) 城繁幸

2月6日(金) 山田久

なかなか興味深い人選です。

権丈先生の労働者派遣論

20090130192437 といっても、善一先生ではなく、英子先生の方ですからお間違えなく。

今週の『エコノミスト』誌(2月10日号)の「学者が斬る」は、権丈英子先生の「日本の労働者派遣には生活保障の視点がない」です。

http://www.mainichi.co.jp/syuppan/economist/news/20090130-192437.html

副題は「労働者派遣の全面否定ではなく、「均等待遇」の確保に向けて制度を整えるべきだ」と、ここ一月ほどの日本のアレレな議論の水準からするとたいへんまっとうな議論です。最近、マスコミも少しづつ落ち着いてきていますので、今週末に出る私の『世界』論文も含め、徐々にそういう方向に議論が進んでいくことが期待されます。

一方、次の一節などは、いまだにものの道理がわからない徒輩に熟読玩味させたい内容です。

>アダム・スミスが指摘したように、使用者と労働者の間には交渉上の地歩のアンバランスがある。スミスは、労使間の交渉上の地歩のアンバランスを補正して労働者が使用者と公正な競争を行うことができるように、労働者にいわばハンディキャップを与える政策を積極的に展開することを説いた。つまり、スミスは「能動的自由放任主義者」であったのであり、労使間の交渉上の地歩のアンバランスに気づいていなかったデヴィッド・リカード以降の「消極的自由放任主義者」とは180度、政策の方向性が異なっていた。

その日の生活に困っている人々は、劣悪な条件であっても自らの労働力を「窮迫販売」せざるを得ないのであるから、失業給付や生活保護を整備して、派遣労働市場を「外から」支える施策は不可欠なのである。そして、この施策の充実により、派遣労働市場に限らず労働市場全体の健全性が確保されることにもなる。

EUやオランダの派遣労働市場を概観すれば、この市場の「内側」の問題を論じる際のキーワードは「均等待遇」であることがわかる。

>個々の企業にとっては、当面の労働費用の節約を図ることが合理的な行動なのであろうが、ミクロには合理性があってもマクロには不都合が生じる合成の誤謬が政策介入の必然性の根拠となることは広く知られている。・・・安定した生活が合ってこそ、人は人らしく生きていくことができ、仕事への意欲が生まれる。-この当たり前のことを、年末年始の出来事は思い出させてくれた。

2009年2月 2日 (月)

東洋経済「雇用壊滅」

20080911000085511 融解したり、漂流したり、崩壊したり、大淘汰されたりしていた雇用くんが、遂に壊滅したようです。

いや、まあそれはともかく、43ページあたりに私がちょびっと出ています、というだけですが。

http://www.toyokeizai.net/shop/magazine/toyo/detail/BI/a061d8eb046da3c1a68fe47f4c66a428/

COVER STORY
「派遣切り」だけでは終わらない
雇用壊滅!
図解
P.36 何が「派遣切り」を生み出したのか

P.38 【PARTI】非正社員を追い込む構造矛盾

P.38 (1)派遣切りが浮き彫りにした 労働者使い捨ての企業論理

P.44 (2)状況はむしろ悪化の一途 告発者たちが直面する現実

P.46 (3)事務系派遣切りはこれから 契約終了不安で心身を病む人も

P.48 (4)職探しを阻む“言葉の壁” 放り出される外国人労働者

P.52 損する前にきちんと知ろう!
Q&A 非正社員はどれだけ法律で守られているのか

P.56 【PARTII】拡大する雇用問題の深刻度

P.56 (1)家がなければ職探しも困難 深刻化するハウジングプア

P.60 (2)「氷河期」入りの新卒採用 焦る学生は安定シフト

P.62 (3)いまどき1000人を採用! 正社員化進める企業の本音

激突インタビュー
経団連vs.連合
P.54、55 製造業派遣は是か非か
鈴木正一郎 日本経団連・雇用委員会 委員長
「派遣労働そのものが悪だというのは一方的すぎる」
高木 剛 日本労働組合総連合会 会長
「派遣先企業には生身の人間を扱う責任感がない」

自民党vs.民主党
P.70、71 雇用対策をどうするか
川崎二郎 与党新雇用対策に関するプロジェクトチーム座長
菅 直人 民主党・緊急雇用対策本部長

インタビュー
P.51 生産縮小が想像を超えて加速、派遣法改正は中止か延期を
本原仁志 日本人材派遣協会 理事長

P.72 本当に労働者の味方か 労働組合の“正念場”

【海外事情】
P.43 EU 派遣も正社員と均等待遇に

P.66 米国 労使関係もチェンジできるか

東京新聞1/30夕刊の記事

ネット上には載っていませんが、1月30日の東京新聞夕刊の社会面に「非正規労働者の味方のはずが・・・「就職資金」ハードル高く」という西田記者の記事が載っています。

その最後のところで、連合の長谷川さんと私のコメントが並んで載っています。

長谷川さんのコメントは、連合の主張する「就職・生活支援給付」の創設で、実は私はそれに反対というわけではないのですが、この就職安定資金融資制度の関係で、こういう風に喋っています。

>雇用保険とは別に欧州型の失業扶助制度を導入すべきだという議論があるが、渡しきりで何年ももらい続け、労働市場に戻らないという難点がある。期間限定で貸し、就職したら返さなくていいという就職安定資金の仕組みならモラルハザード(倫理観の欠如)を起こす可能性は低い。使い勝手をよくし、恒常的な制度にしてはどうか。

制度自体の問題であるモラルハザードにわざわざ「倫理観の欠如」という適切でない訳語を注釈するというマスコミの通例はいつものことですが、それは別にして、まあ趣旨は伝わるでしょう。

2009年2月 1日 (日)

EU労働者派遣指令と日本の労働者派遣法

『大原社会問題研究所雑誌』の2月号が、「労働者派遣の現状と改革の課題(1)」という特集をしています。

http://oohara.mt.tama.hosei.ac.jp/oz/604/index.html

【特集】労働者派遣の現状と改革の課題(1)

労働者派遣法の原点へ帰れ」髙梨 昌

派遣労働は働き方・働かせ方をどのように変えたか-間接労働の戦後史をふまえて」伍賀 一道

「EU労働者派遣指令と日本の労働者派遣法」濱口 桂一郎

派遣法の生みの親ともいうべき高梨昌氏が、専門職限定という原点に戻れと主張している第一の論文に対し、それははじめからインチキだったのではないかと疑問を呈しているのが私の三番目の論文です。そのほかにも興味深い論点がいろいろありますので、この問題に関心を持たれている方々は、目を通していただければ幸いです。

http://homepage3.nifty.com/hamachan/ooharahaken.html

なお、今週末に発売される予定の岩波の『世界』誌でも、派遣労働問題を取り上げておりますので、併せてお読みいただければと思います。

« 2009年1月 | トップページ | 2009年3月 »