民営職業紹介事業には2種類ある
ぶらり庵さんが、以前のエントリへのコメントで
http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2008/12/post-19e8.html#comment-54362561
民営事業の実績に触れていますが、この厚労省発表のデータは、読み方に注意が必要です。
http://www.mhlw.go.jp/houdou/2008/12/h1226-1.html
>事業者の手数料収入はぐんぐん伸びているのに、常用就職件数はそれに比例した伸びにはなっていない、ちょぼちょぼの伸びでしかないのです。
実は、民営職業紹介事業は、常用就職中心のハロワ型事業と、臨時日雇い中心の実質派遣事業型とがあって、両者を一緒に議論することはかなりミスリーディングです。
下の方の職業別の数字を見ていくとわかるように、家政婦、マネキン、配膳人といったところは求職者数は割と少ないのに、臨時日雇い求人と臨時日雇い就職件数がいずれも数百万件で、要するに、紹介所に登録されている「求職者」が、注文(求人)のあるたびに派遣(紹介)されて、仕事が終わるとまた戻るというのを繰り返しているわけで、そもそも常用就職が伸びるはずもないし、その必要もない分野です。
この分野をハロワと比較してみても何の意味もないし、比較するならむしろ派遣事業でしょう。
ハロワと比べるべきはそれ以外の分野ですが、例えば、彼らが「我々としては得意分野でやらせていただきたい」と言っている専門・技術、管理、事務のいわゆるホワイトカラー3職業でみると、新規求職150万件弱、新規求人160万件弱で、常用就職19万件です。
一方ハロワは最新のが11月の数字ですが、新規の月ベースで、
http://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/koyou/ippan/2008/11/sankou8.html
これら3職業の新規求職17万件、新規求人は19万件で、就職4.5万ですから、年ベースにすると12倍で、それぞれ200万、230万、54万くらいになり、客観的に見てどっちが効率的に紹介しているかよくわかります。
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ハローワーク職員です。記事の本旨からずれますが、現場の職員が感じてる職業紹介の効率性に係る違和感についてコメントさせていただきます。昨今のキャリアカウンセリングブームの影響もあってか、労働行政の第一線で働く職員にもキャリアカウンセリングの学習や資格の取得が相当浸透しております(私も有資格者です)。ただ、それらカウンセリングの知識やスキルが、ハローワークの窓口でどれだけ生かせるかといえば、相当難しい面があると言わざるをえない。世にある誤解が「ハローワークで求職者に対するきめ細かいカウンセリングができないから、マッチングの効率が悪い。」というものだと思います。実は「きめ細かいカウンセリング」が、職業紹介の効率性と即座に結びつくわけではないのです。きめ細かいカウンセリングが職業紹介の効率性と結びつくのは、「その求職者の市場価値が労働市場において高いとき」だけです。人間は商品ではありませんが、労働力が商品であると仮定すれば、商品価値の低い商品をいくら顧客に宣伝しても売れないのと同じことです。最新のパソコンの広告宣伝に力を注いでも10年前のスペックのパソコンの宣伝に力を入れる企業はないでしょう(もちろん求職者の方の熱意や潜在的な能力について、求人側にアピールすることがハローワークの仕事ですが)。民間職業紹介会社の社長が、「得意分野でやらせてほしい」というのはあたりまえ、つまり、労働市場における価値があまり高くないと思われる労働者については、きめ細かいカウンセリングを実施すればするほど、効率性は悪くなる。時間や費用が無駄になる。就職先が無いのが明らかであるならば、むしろそのような求職者に時間をかけずに、ある程度就職が容易であると思われる求職者に時間を割くのが、最も効率的なのです。(キャリア理論の多くが、上級ホワイトカラーを想定している印象もいなめません。そのような求職者はそもそもハローワークに訪れない。)労働市場における市場価値が低い労働者をおおざっぱに「就職困難者」と定義したとすれば、労働行政に対して、就職困難者の就職促進と職業紹介の効率性を求めることは矛盾しています(もともと両者は相容れないものですから)。ハローワークの窓口における職業紹介は、その労働者のキャリアの、ある一時点を切り取ったものにすぎません。労働者のスキルは、時間的つながりのなかで形成されてきたものであり、結果として個別の市場価値をもった求職者として、ある日、ハローワークの窓口に訪れるのです。その一時点をもって「ミスマッチはハロワの紹介の非効率が原因だ。」というのはあまりに暴論だし、世の中のためにもなりません。むしろ、注目すべきは、公的な、私的な、勤務外の、勤務内の、職業訓練のあり方と、ハローワークの職業紹介窓口の連携のあり方ではないでしょうか。職業紹介のマッチングの精度を高めて、日本人全体の労働生産性の底上げを目標とするならば、本当の意味の「効率性」について考えたい。
投稿: 職業紹介の効率性? | 2009年2月17日 (火) 19時03分