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2009年1月 5日 (月)

人権は国家に先在するわけではない

小倉秀夫氏が、例の3法則の池田信夫氏の議論に触れて、こういうことを語っています。

http://benli.cocolog-nifty.com/la_causette/2009/01/post-19a8.html(人権は政府から与えられるものではない)

>社会契約論的な理解でいうならば、「政府が人々に人権を与える」のではなく、「主権者たる我々は、我々の基本的人権を不当に侵害するような態様で『権力』を行使する権限までをも政府に与えたわけではない」ということになります。そこでは、一方当事者の基本的人権を不当に損なうような契約条項の履行を「権力」が強制すべきではないし、契約条項の如何に関わらず、基本的人権を不当に害しようとする者の排除を「権力」に対して求めることができますし、実際に基本的人権を不当に害した者に対して制裁を加えるように「権力」に対して求めることができます。ですから、例えば、再び新卒の就職状況が買い手市場に転じたのに乗じて、雇用契約において、性交渉の相手方を指定する権利を会社側に付与する条項を盛り込んだところで、その条項の履行を国家権力が強制することは許されないし、女性従業員がその会社の経営者に強姦されようとしているところに遭遇した警察官は、雇用契約においてその従業員の性交渉の相手方を指定する権利が会社側に付与されており、会社の意思決定としてその従業員の性交渉の相手方としてその経営者を指定したのだとの説明を受けても、その説明を一笑に付して、その女性従業員の身を守ることができます。

歴史的に労働法の展開を見てきた私たちからすると、そういう市民社会的社会契約論による説明は空疎に思われます。現実には、今日的な労働法制ができる以前には、現代であれば基本的人権に反するとされるような条項を雇用契約に盛り込んで、その条項の履行を国家権力が強制するというような事態がごく普通にあったわけで、それが基本的人権に反するからとして、国家権力が履行を強制するどころか、逆にそのような経営者を規制するようになったのは、国家がそのような法規制を有し、実施するようになってからの話です。

実際、かつては、ストライキをやる労働者の方を国家権力が弾圧していたのに、今は不当労働行為制度によって労働者側を守っています。労働者も経営者も含まれる「主権者たる我々」から出発してこれを説明するのは困難でしょう。

労働者のストライキ権は国家以後の人権であるが、雇用機会提供と交換の性交権(の禁止)は国家以前の人権であるという説明も、気分的にはそうだそうだといいたくなるかもしれませんが、歴史的にはそうとはいえないでしょう。

もちろん、小倉氏の議論の中心は、

>人が遺伝的に持って生まれているか否かを問題とするのであれば、「私有財産」自体、人が遺伝的に持って生まれているものではありません。「所有権」という有体物に対する観念的な支配関係が「権力」により守られることを前提とする「私有財産」自体、「法」があって初めて存在するものです。同様に、「契約」もまた、他人との関係性が「権力」により守られることを前提としており、「法」があって初めて存在します。したがって、少なくとも近代以降の経済学は、「法」の存在を前提としています。そういう意味で、「基本的人権」についてのみ、事実として人が遺伝的に持って生まれてこないことをことさらクローズアップするのはいかがものかと思います。

と言う点にあり、この点はまさにその通りですので、私有財産も契約も基本的人権も、権力によって守られるものであり、法を前提とするものであるということを確認すればよかったのではないかと思います。

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コメント

あの・・・・

国家からの自由と国家による自由といった超古典的な基本的論点を全然把握されていないようなのでびっくりしました。

それにそもそも権力と正統性とは別のものですから、分けて考えるようにしないと。

なお、別エントリーについての拙コメントの掲載とそれへのコメントを頂戴していたのに、おそまきながらさきほど気付いたので、機会があればお返事いたしたいとは思っています。

投稿: tari-G | 2009年1月 8日 (木) 01時49分

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