連合の「企業」観、「資本」観
連合の中央執行委員会が22日に決定した「企業法制および投資ファンド規制に対する連合の考え方」がアップされています。
http://www.jtuc-rengo.or.jp/kurashi/kinyuu/data/20090122citycode.pdf
一見地味に見える標題ですが、本エントリのタイトルにあるように、連合の「企業」観、「資本」観が明確に打ち出されており、大変興味深いものです。
問題意識は、
>会社を売買の対象物としか捉えていない一部の投資ファンドが、莫大な資金を背景に、株主至上主義を振りかざし、労働者をはじめとした会社を取り巻く様々なステークホルダーの利益を顧みることのない企業買収やリストラを繰り返し、雇用・労働問題にまで発展する事例や本来であれば労働者に分配されるはずの利益が外部に流出する事例も出ている。
というところから出発していますが、そもそも「会社」とはというところに踏み込もうとしています。
>①企業統治のあり方の見直し
会社法の中に労働者の概念を組み込むとともに、株主利益のみを重視することなく、多様な利害関係者の利益への配慮も含む企業統治を実現するための会社法制を整備する。また、非上場企業における情報開示の運用ルールを整備する。
○株主至上主義的な会社観を転換し、会社の持続的成長を確保するための取締役の義務として、株主のみならず労働者を含んだ多様な利害関係者の利益に配慮することを会社法に明記する。
○その上で、従業員については「株主から経営を委託された経営者と雇用契約を結んだ者」と位置付けるのではなく、会社の事業活動を推進するための重要な構成員と位置付け、より適切な企業統治を実現する。
実際、ヨーロッパの多くの諸国では、まさに会社法の中に労働者代表が監督役会や取締役会に席を占めるべきことが規定されているのですから、実は別段不思議なことを主張しているわけではないのですが、日本では商法学者がかつて商法学会でもあった議論を忘れてしまっているため、突飛な議論のように見えてしまうのでしょう。
もう一点、ここでいう「労働者」が「正社員」に限るなどという話はどこにもないし、そもそも法制的な話であればそんなことはあり得ないのに、あたかもここでいう「労働者」は「正社員」に限るに決まっていると決め込んで、これを正社員主権論であるかのように批判する議論があり得ます。そういう議論を許すのは、現実の日本の労働組合の行動がそういうものだからでしょうが、組合側に問われる点であることは確かでしょう。
本ブログで何回か批判してきた年金の運用の問題についても、
>社会的責任投資に対する考え方
公的年金および企業年金の運用主体は、企業の社会的責任を促進し、企業買収における被買収企業の労働者を保護するため、国連「責任投資原則」(PRI)を踏まえ、運用方針に「環境、社会(労働)、コーポレートガバナンス」(ESG)を盛り込む。
○公的年金および企業年金の運用主体は、機関投資家等に社会的に責任のある投資を求める国連「責任投資原則」(PRI)(注3)に署名し、次の事項を運用方針に盛り込む。
- 株主議決権行使、株式の売買等については、投資先企業の中核的労働基準(結社の自由と団体交渉の保障、強制労働の廃止、児童労働の撲滅、職場における差別の撤廃)の遵守状況を考慮する。
- 運用受託者(機関)等に対して、企業の買収の際には、被買収企業の労働者を保護し、既存の労働条件等が不利益に変更されないことを徹底する。
○社会的責任投資が受託者責任の観点から問題ないことを担保するため、イギリス年金法(注4)を参考に、年金運用を包括的に規定する「年金基本法」を制定する。
○公的年金等の運用機関の運営組織および運用方針を決定する委員会を、被保険者の意見が直接的に代表される構成に改める。
○企業年金基金へは、労働側理事への投資教育を徹底させる。連合は、企業年金労働側理事に対して「社会的年金積立金運用ガイドライン(仮称)」を示す。
まあ、少なくとも労働者の労働に対する報酬が資本の論理で運用されることによって、お金の出所のもとの労働者の首を絞めるということにならないような仕組みをきちんと作ろうというのは当然のことでしょう。
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