フォト
2024年10月
    1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31    
無料ブログはココログ

« 不本意型非正規労働者数は400万人 | トップページ | 差別禁止法の新展開 »

2009年1月 3日 (土)

若者が希望を持てる社会の構築に向けて by 経済同友会

経済同友会の桜井代表幹事の標題のような年頭見解が出されています。

http://www.doyukai.or.jp/chairmansmsg/comment/2008/090101a.html

経済同友会本来の修正資本主義の考え方に立って、バランスのとれた発言をしており、好感が持てます。

最初に「「市場」の活用を」というところから始めているのも適切です。

>米国での金融・資本市場の混乱や日本での格差論争などにおいて、市場を中心とする資源配分の問題点が指摘されることが多くなり、時には、市場機能そのものを否定するような論調が散見される。市場は、万能ではないが、現状では唯一の効率的な資源配分の仕組みであり、市場機能の否定からは何も生まれない。

我々は、今、市場メカニズムをうまく機能させるために、市場参加者の倫理及び自己責任、市場の監視体制、市場の規律などの観点から、健全なる市場の構築を目指し、改めて市場の整備・活用を検討すべきである。「若者が希望を持てる社会」の構築は、健全なる市場を中心とした経済社会と整合的でなければならない。

以前、厚労省とJILPTによる雇用労働政策の基軸研究会に参加したとき、清家篤先生がまさにそういうことを力説しておられました。市場機能の否定からは何も生まれない。しかし、市場をうまく機能させるためには適切な規制が必要で、市場規制の否定は市場自体の否定をもたらすだけだと。

「健全なる市場を中心とした社会」は、いうまでもなく奴隷制が一番効率的だからできるだけそれに近づけようというような発想とは対極にあるものですし、日本経済を一度徹底的に破壊し尽くそうというような発想とも両立するものではありません。日本の経営者の良質的な部分が、そのような奇矯の発想と適切な距離感を保っていることは、日本の将来に希望を抱かせてくれます。

>第1は、直近の課題としても、そして構造的な課題としても重要な「雇用問題」の解決である。90年代の所謂「就職氷河期」に生じた非正規雇用問題などの構造的課題を解決するために、政治(政府・与野党)、労働界、経済界の3者による検討を早急に開始することを提案する。そこでは、(1)農林水産業の高度化やサービス産業の活性化を促す政策とともに、そのような分野への労働移動を促進する枠組みの整備、(2)非正規雇用に対するセーフティネットの構築、(3)産業構造の変化に伴う円滑な雇用調整のあり方、などについて検討すべきである

まあ、農林水産業の高度化がどの程度まで希望がもてるものか、正直言っていささか疑問なしとしませんが、具体的な政策の中身は別として、何にせよ、「政治(政府・与野党)、労働界、経済界の3者による検討を早急に開始することを提案」しようという三者構成原則の主張を明確に打ち出したことは評価すべきでしょう。

旧日経連が経団連と合併して、経営側の労使自治原則への理解がどの程度維持されていくのだろうかという危惧もないわけではないですが、90年代後半の一時期市民派的市場原理主義に走った経済同友会が、こうして労使自治、三者構成原則の意義を再確認する方向に進んでいることは、大変望ましいことです。

>これらの経営改革は中長期的志向とマルチステークホルダー重視の経営への転換につながるものでなければならない。厳しい現状にある今こそ、経営者には、企業の持続的成長と発展のために、中長期的な視野で前向きな改革への投資が期待されている。また、企業には、現在のような急激な景気後退期では、前述のように企業一人が負う課題ではないが、雇用が社会的課題であるとの認識に基づき、慎重な雇用調整への取組みが期待される。すなわち、強くて信頼される企業を目指す、新・日本流経営の実践である。

まさに「中長期的志向」と「様々な利害関係者重視の経営」が、経済同友会本来の思想であったはずで、やっぱり90年代後半の一時期は異常な突然変異期だったんでしょうね。

今後、経済同友会として、

>第1に、市場機能に対する信頼の揺らぎがある中で、日本経済が健全かつ安定的に成長するための基本的課題として、改めて、市場を中心とした経済社会のあり方について検討を行うべく、4月の新年度を待たず速やかに新委員会を設置することとしたい。

第2に、これまで構造改革の一環として、提言を重ねてきた税財政改革や社会保障制度改革につき、その後の社会環境の変化を盛り込み、改めて将来の国民の受益と負担の構造を明確化し、提案を行うこととしたい。

第3に、非正規雇用者問題の深刻化に加え、今回の不況が新たなニートやフリーター問題を生みかねないという問題意識の下に、雇用問題を構造的問題と捉え、4月の新年度を待たず、速やかに新委員会を設置して検討を開始することとしたい。

ということです。真摯な検討に期待したいと思います。

(参考)

基軸研について

http://www.mhlw.go.jp/shingi/2007/08/s0809-3.html(『雇用労働政策の基軸・方向性に関する研究会』報告書について)

三者構成原則について

http://homepage3.nifty.com/hamachan/juristtripartism.html(ジュリスト立法学特集号「労働立法と三者構成原則」)

« 不本意型非正規労働者数は400万人 | トップページ | 差別禁止法の新展開 »

コメント

> 「中長期的志向」と「様々な利害関係者重視の経営」

そのことで思うのは古典的な「所有と経営の分離」の問題です。
オーナー社長の企業だったら、客観的な数値としては現れない
その企業のことを知っている者だから見えている企業の価値を
重視した判断もできるだろうというものです。

「株主=所有者」という論理で投資を募っておいて、「利害関係者=所有者」という論理に切り替えるのも、一つの裏切り戦略である訳で
「株主=所有者」という論理は変えず、『株主の構成が変わる』という方向の方が穏当だ、と思わざるを得ません

株価下がってるんだから、これを機にマネジメント・バイアウトとかエンプロイー・バイアウトが進めばいいと思うんだけど。そうはなりにくいことの要因としては、『国家が発行した通貨』、というよりももっと正確に言えば『税の支払い手段』の保有が重要だからでしょう。これは短期的には「財務省と中銀」の問題というリフレ話になるけど、長期的には他にも検討すべきことはあるように思います

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 若者が希望を持てる社会の構築に向けて by 経済同友会:

» 経済同友会の年頭見解が若年雇用に言及 [雑種路線でいこう]
EU労働法政策雑記帳で知ったのだが、経済同友会が「若者が希望を持てる社会の構築に向けて」と題してロスジェネ対策や財政改革について提言している。全体として未来志向でバランス良くまとまっているのだが「農林水産業の高度化やサービス産業の活性化」って、就職し損なっ... [続きを読む]

« 不本意型非正規労働者数は400万人 | トップページ | 差別禁止法の新展開 »